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SSRIの問題点

  2000年5月15日号 291

   SSRI:selective serotonin reuptake inhibitorとは選択的セロトニン再取り込み阻害薬のことで当院でもデプロメール錠が仮採用薬品として設置されています。

 これまでの抗うつ薬の主流であったのは、三環系抗うつ剤および四環系抗うつ剤です。これらのほとんどは、セロトニンとノルアドレナリンの両者の再取り込み阻害作用を有しており、非選択制です。抗コリン作用である口渇、便秘、排尿障害、かすみ目と抗ヒスタミン作用による眠気、そして抗アドレナリンα1作用による起立性低血圧、心伝導障害等はQOLを損ないますが、SSRIではこれらの副作用はほとんど生じません。

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 「SSRIは副作用が少ない」という意味は、「患者にとって耐え難い副作用が非常に少ない」という意です。副作用は全く無いわけではなく、最も多いのが、嘔気・悪心で11.8%、食欲低下も目立ちます。

 これらは開始1週間以内、特に1日目に多く、通常では継続投与で自然軽快します。重度の時は胃腸機能調整薬の併用で改善されますが、アセナリン錠との併用は、QT延長,心室性不整脈(torsades de pointesを含む)等の心血管系の副作用が発現するおそれがあるため禁忌となっています。

 中枢神経系の副作用では振戦が2.2%に出現しています。これは用量依存性で、β遮断剤で改善します。

 不眠の増悪、不安・焦燥感もときにみられることがあり、治療阻害要素となるので気をつけておく必要があります。精神療法やマイナートランキライザーで対応します。また、性欲の低下、射精遅延、薬剤によってはオルガスム欠如が出現することもあります。

 抗うつ薬の欠点の一つに発現効果の遅さがあり通常、開始から2週間程度からでないと効果が現れません。この点に関してはSSRIも同様で改善していません。

 SSRIはメランコリー型重症うつ病(注)では三環系抗うつ剤に比べて劣るという報告があります(注:内因性うつ病像を示すので、活動での興味や喜びの喪失、良いことが起こっても気分が改善しない、明らかな日内変動、早朝覚醒、精神運動抑制、食欲不振、体重減少を示します。)

<<SSRIの特徴>>

*利点

抗コリン作用、抗ヒスタミン作用などによる副作用がないため、過剰服用した場合でも比較的安全(心循環系への作用が少ないため)
 うつ病再発予防効果に優れる。高齢者、軽症例に使いやすい。

 うつ病以外に強迫性障害(保険適応)、神経性過食症、パニック障害にも有効
 その他:慢性疼痛、過敏性大腸症候群、境界性人格障害、薬物依存などにも有効である可能性

*注意点

 抗うつ効果は、三環系抗うつ剤とほぼ同等で効果発現も三環系抗うつ剤と比べて早くはありません。

 米国で「性格改造剤」、ハッピードラッグとして乱用されましたが、少なくともデプロメール錠ではそのような作用は認められていません。患者に対して正確な啓蒙が必要です。

 まれに、重篤な副作用としてセロトニン症候群があります。SSRI単独ではまれで、MAO阻害剤との併用で生じやすいので併用禁忌となっています。

 鑑別が問題になるのは悪性症候群ですが、原因薬剤と神経・筋症状の相違が鑑別点となります。報告例はまだ少しですが、今後、使用頻度の増加に伴い発現頻度の増加が予想されます。(上記にセロトニン症候群の定義を記述しています。)

<セロトニン症候群>

1.精神神経系状態の変化、2.焦燥感、3.ミオクローヌス、4.反射の亢進、5.過剰発汗、6.悪寒、7.振戦、8.下痢、9.強調運動障害、10.発熱のうち3項目以上の存在で定義されます。

くわしくはこちらをご覧下さい。


 <<SNRIとは>>

 SNRIとは、セロトニン、ノルアドレナリン再取り込み阻害剤のことで、セロトニン(5-HT)だけではなく、ノルアドレナリン(NA)の再取り込みも阻害し、両モノアミン濃度をバランス良く増加させ、この点でSSRIと異なっています。

くわしくは
こちらをご覧下さい。

<<NaSSA>>

  NaSSA:noradorenargic and specific serotonergic antidepressant
   ;ノルアドレナリン作働性・特異的セロトニン作働性抗うつ薬

   〜ノルアドレナリンの遊離促進とセロトニン遊離促進の2つの神経伝達促進により抗うつ作用があらわれる。

  リフレックス錠(ミルタザピン) 2009年9月発売 本剤は特に傾眠の副作用が強く認められていることから、日常生活での注意が特に必要

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 SSRIによる中断症候群

 SSRIの中止に関する試験で、最も高頻度不明に報告された症状はめまいです。
頭部や眼球を動かすと悪化することが多く、重症例も報告されています。

 次に多いのは、知覚異常で、通常、上半身か下肢の近位部にあらわれ、灼熱感、刺痛感、しびれ感、電撃感といったように表現されます。

 その他、消化器症状では特に嘔気が現れます。疲労感、頭痛、発汗、筋肉痛、神経過敏などの精神症状、不眠や鮮明な夢などの睡眠障害がみられます。

 また、運動異常としてアカシジア(正座不能)、不安定歩行、口及び舌の運動異常
精神症状として、抑うつ気分、突然の泣き、易興奮性、情緒不安定がよくみられる症状ですが、これらは原疾患であるうつ病の再発としっかり区別する必要があります。

 SSRIの中断症状の大半は、中止ないし減量の1〜3日以内に発現し、中止後一週間以上経過してから発現することはめったにありません。

 症状は通常軽度で一過性のものです。

 実際にこのような中断症状が起こってしまった場合には、今のところ再投与以外によい方法はありません。

 そのため、適切な指導が不可欠です。

 パキシルが一番多い(477件中430件)

 セロトニン受容体のダウンレギュレーションが生じている状況下で、脳内のセロトニンが相対的に欠乏状態になるためと考えられています。

     出典:明治製菓資料


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SSRI/SNRIと他害行為について

2009年11月15日号 No.510

 選択セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)及びセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(
SNRI)を服用後、敵意、攻撃性等、またそられに伴う他害行為に関する副作用につきましては、平成21年5月より、興奮、攻撃性、易刺激性等に対する注意喚起が添付文書に記載されています。

 今般、222症例を対象としたこの副作用に関する解析結果が出ましたのでその概要を紹介します。

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 他害行為のレベルを以下の通り定義し集計に用いられました。

レベル0:他害行為なし
     他害行為に関する具体的な情報は記載されていないものの、報告された副作用が対象副作用に合致した症例

レベル1:他害行為あり
     殺意等の傷害につながる可能性のある症例で、例えば、暴言を吐く、カッとやすくなるといった経過情報が記載された症例

レベル2:他害行為有り
     殺人等の傷害の症例で、例えば、刃物で切る、家族・他患者に対する暴力行為といった経過情報が記載された症例



<性別>
 他害行為レベル別では、女性ではレベル0の割合が男性より高く、男性ではレベル2の割合が女性より高い。

        レベル0 レベル1 レベル2
女性(111例)  79   25   7  
男子(110例)  51   26   23

<年齢>
 中央値41歳、最小値、12歳、最大値91歳
他害行為レベル別では、レベルが高いほど年齢の中央値が低かった。

    レベル0  レベル1 レベル2  
最小値 12歳 14歳  13歳
中央値 45歳 40歳  31歳
最大値 91歳 85歳  70歳

<主病名>

 「大うつ病またはうつ病」の診断が最も多く、74症例、ついで「うつ状態」が36症例でした。

 他害行為レベル別に見ると、「大うつ病またはうつ病」の診断のある症例では、それ以外の主病名比べてレベル0の割合が比較的高く、レベル2の割合が比較的低かったのに対し、「うつ状態」「不安障害」「強迫性障害」「双極性障害」ではレベル0の割合が比較的低く、とくに「うつ状態」「不安障害」でレベル2の割合が比較的高かったと報告されています。

<併存障害>

 併存障害が「有」が110症例、「無」が47症例、「不明」が65症例でした。「有」の症例では、パーソナリティー障害が13例と最も多く、他害行為レベル別に見ると、「有」の症例では「無」のよりもレベル2の割合が高くなっていました。

<考察>

 今回の調査では、自発報告をもとにしたデータであるため、バイアスによる影響を大きく受けることから、薬剤の種類の違いによる検討はなされていません。

・年齢:SSRIによる自殺関連行為については、すでに24歳以下での自殺のリスクが注意喚起されていますが、今回の調査でも、他害行為レベルが高いほど年齢が下がる傾向が見られました。
・過去の衝動行為:SSRIによる自殺については過去歴はリスクファクターで、今回の調査でも過去の衝動的行為があった症例では、他害行為レベルが高い傾向が見られました。

   {参考文献}日薬医薬品情報 Vol.12 No.11 (2009.11)


<医薬品トピックス>       ニッチ(がん幹細胞ニッチ)はこちらです。


スターリングの仮説(2)

      アルブミンの使用は危険(2) アルブミンの適正使用についてはこちらにも関連記事があります。

輸液を勉強する(6)

 スターリングの仮説は毛細血管壁を介する血漿と間質液間の液体移動に関する仮説です。あくまでも仮説で完全に証明されたものではありません。しかし臨床での様々な病態を説明するのに都合がよく、輸液療法を学ぶ上での基礎知識となっています。

 これを要約すると「血管内外の膠質浸透圧差および静水圧差により,水分の一部が動脈側毛細血管から間質液側に移動し,再び静脈側毛細血管に戻る。」ということです。

 動脈側の静脈圧は毛細血管で約35mmHg(水分を外に出そうとする力)で、アルブミン等蛋白による膠質浸透圧(血管内に水分を引き込もうとする力)は約25mmHg(組織内圧5mmHgを含む)ですから、この圧差10mmHgのより水分は組織間へ移行します。(血管外へ漏れ出します。)

 一方静脈サイドでは、静水圧が約15mmHgに下がっていますが、膠質浸透圧は変化しないため、逆に10mmHgの圧差により血管内に水分を引き戻すことになります。

 これらの保持量を超えた水分はリンパ流に流れ込むことで制御されています。低蛋白血症(低アルブミン血症)による浮腫は、静脈側の膠質浸透圧が低くなるために、静水圧との差が小さくなり組織間から水分を引きもどせなくなることにより生ずるものです。

 また心不全による浮腫は、心拍出量が保てない等の原因により静脈側の血液が処理できなくなり動脈サイドと静脈サイドの静水圧が相対的に小さくなった状態と考えれば説明がつきます。つまり、静脈側の静水圧が高くなったために膠質浸透圧との差が小さくなり組織間から水分が戻れなくなった状態です。

 したがって、重症感染症などの侵襲時には血管壁の透過性自体に異常を来していることから、リンパ流で処理しきれないほどの水分が組織間へ移行していることを示唆しています。このような病態ではアルブミン製剤等のコロイド物質はかえって死亡のリスクをあげてしまうとの報告もあります。

 本来アルブミンを使用するのは血中のコロイド浸透圧を高め、組織中の体液を血管へ吸引し、循環血液量の維持や浮腫の改善のためです。例えば熱傷のように組織が損傷されている時には直接的な細胞損傷並びに炎症メディエータが原因となり毛細血管の透過性が非常に高くなり、蛋白質や体液が細胞間隙に漏出し循環体液量が減少し浮腫が起こります。

 このような時にアルブミンを使用していましたが、重傷の場合には熱傷部分の血管透過性だけではなく全身の血管透過性も高まっているのでアルブミンも漏出してしまい、アルブミンを使用することは意味をなさなくなっています。


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