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  HS病院薬剤部発行     

薬剤ニ ュ ー ス

  1994年

8月15日号

NO.158

 

                                                

   癌化学療法の現状と副作用対策

  ===医薬品副作用情報 No.127===

  直接の細胞毒性により抗癌作用を示す抗癌剤は、癌細胞以外のすべての細胞にも程度の差はあれ毒性を示します。したがって、その適応の選択や使用の際は、他の医薬品に比べ一層の注意が必要となります。

 安全性については、抗癌剤の至適用量と毒性に対する最大用量(MTD)が極めて近いことから、ほとんどすべての症例で骨髄抑制や消化器官障害などが問題となります。これらの副作用は重篤な場合には死亡に至ることもあるため、定期的な臨床検査や経過観察が極めて重要です。

 抗癌剤では、副作用が発現することは、薬効を期待する以上やむを得ない側面があり、最も影響を及ぼす副作用が用量規制因子(DLF)として示されます。

 DLFは細胞分裂を行なっている器官に対する毒性から現われることが多く、骨髄抑制や消化器障害などがあります。

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DLF:Dose Limited Factor:用量規制因子

MTDとDLT

MTD:maximum tolerance dose:最大耐用量

DLT:dose limiting toxicty:容量制限毒性

 抗悪性腫瘍剤にはdose-respones relationshipがあるとされ、使用可能な最大量で最大効果が期待されます。

 そのため、第I相臨床試験でヒトが耐用可能な最大耐用量(MTD)を決定し、多くの場合その1段階下の使用量を第II相臨床試験の推奨量とします。

 最大耐用量は副作用の頻度と種類、程度により決定しますが、通常は容量設定試験の増量段階でグレード3以上の容量制限毒性(DLT)がある一定数以上出現する用量を最大耐用量とします。

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 癌は予後不良の疾患であり、しかも一部の癌種を除いては化学療法の力量はいまだ十分満足できるものではありません。一方で癌は年間死亡者が20万人を越えるなど社会的にも重大な疾患となっていることから、より優れた抗癌剤の速やかな臨床使用が望まれています。これらの背景から抗癌剤の承認審査は他の医薬品と異なり、いわゆる臨床第U相試験までのデ−タで行なわれ、検証レベルの試験は市販 後に行なわれる状況となっています。このため、抗 癌剤の使用を考慮する場合(特に新医薬品)は、次の事項に配慮する必要があります。

1)有効性の評価は、腫瘍の縮小効果によりなされたものであり、化学療法による延命効果は確認されていないことが多い。

2)有効性の評価は単独で行なわれていることが多いが、一方医療の場では、他の抗癌剤等との併用がほとんどである。それら併用療法の有効性や安全性の評価は市販後の調査を待って得られるものである。

[抗癌剤の適応]

 造血器腫瘍や小児癌では化学療法による治療成績がよく、完治例も少なくありません。しかし、固形癌の場合は、抗癌剤の腫瘍縮小効果から評価した奏効率は、癌種によって異なりますが、単剤ではおおむね20〜30%です。また術後の補助化学療法は有効であるとする評価が確認されていない場合がほとんどです。

 癌に対する治療は、化学療法のほか、外科的なもの、放射線によるものなどがあります。これらの中で固形癌については外科的な治療が適応である場合その治療成績の現状から、奏効率の低い化学療法を選択することは倫理的にも問題が残ります。

 抗癌剤の適応を考える場合には、化学療法の特色や限界、副作用の状況や程度、患者のQOLなどを十分に勘案し、慎重な決定がなされる必要があります。


白金製剤

シスプラチン:CDDP

出典:日本薬剤師会雑誌1998.1

 日本での癌の治癒率は約50%前後といわれていますが、その治癒は一般的には外科療法や放射線療法など局所療法によりもたらされる場合が多く、特に、固形癌の治療法を癌の治癒という観点から評価すれば、全身療法である化学療法が単独で治癒に貢献する割合は、極めて少ないのが現状です。その意味では化学療法は未だに不十分な治療法であり、研究段階の治療法とも位置づけられます。

 しかし癌治療の現状として、外科療法は全ての臓器癌の手術が可能となり、治療法的には既に完成の域に達していると考えられ、放射線療法も感受性のある臓器癌の治療成績がほぼプラトーに達していると推察できます。

 従って、これらの治療法により今後の癌治癒率の大幅な向上は期待しがたいため、癌の治癒率が現状の50%から次第に増加し、癌制圧に達するには全身療法である化学療法への期待は大です。

 シスプラチン(CDDP)は進行性固形癌化学療法の治療成績に大きな改善をもたらし、睾丸腫瘍を含む胚細胞腫瘍では進行症例が90%の確立で治癒が期待できるようになり、その他多くの固形癌の化学療法もシスプラチンを中心に展開しています。このようにシスプラチンは固形癌の癌化学療法においては不可欠な存在となっています。

 
<シスプラチンの発見は偶然性から?!>

 大腸菌に対する電流の影響を調べる実験中、白金電極をを通じて流した交流が培地中の大腸菌の分裂を停止し、糸状に変化させることを認めました。これは電極の一部から溶解した白金が殺細胞的に作用したためと考えられ、これが白金化合物の抗腫瘍性が発見される端緒となりました。

 シスプラチンは細胞外のClイオン濃度が高い環境下では中性の形で存在しますが、Clイオン濃度の低い細胞内ではCl基が代謝され、H2O+基、またはOH基へと変化することが明らかになっています。

 このため、H2O+基を有するCDDPは、(+)に荷電されて、DNA塩基(主としてグアニン、アデニン)との共有結合の結果、DNA複製、または細胞分裂の制御に関与するクロマチン部位にintrastrand adductまたはintrastrand crosslinkが形成され、DNA合成阻害を呈するとされています。

 これがCDDPの作用機序と考えられ、CDDPが細胞内で代謝を受けて抗腫瘍活性を示すことを意味します。CDDPの代謝が細胞外で起きると細胞外で荷電した形となり、細胞外で二量体、三量体の複合体を形成し、臓器毒性を惹起するといわれています。

 <臨床で案外忘れられている原則>

 CDDPは生食内では24時間以上安定ですが、Clイオンを含まない溶液内では1時間に10%の割合で代謝されます。CDDP使用時にはClイオン濃度の高い溶液が必要であり、CDDPを160mEq/L以上の溶液内に入れるべきです。

 CDDPは静脈内で速やかに血漿蛋白と結合し、その比率は与薬2時間以内に90%に達します。さらに、速やかに組織に移行して組織蛋白やDNAとも結合します。

 高張食塩水や利尿剤はCDDPの代謝に直接的な影響はありませんが、体液の濃縮により薬剤の分布に影響がある可能性があります。1日尿中排泄は16〜35%といわれています。


癌細胞を兵糧責め

血管新生抑制療法

              出典:ファルマシア 1998.2 

 血管内皮細胞の増殖は、月経や傷が治る過程以外では通常起こらず、その場合でも1〜2週間で消失します。しかし癌細胞は、自ら血管新生を誘導し、栄養物や増殖因子等の供給を受けて発育します。

 そのため、血管新生を抑制し、癌細胞への血液供給を遮断する兵糧責め療法が考案されています。

抗生物質フマギリンは抗ファージ活性、抗アメーバ活性を有することが知られていた化合物でしたが、最近、血管新生阻害活性が偶然見いだされ新しい抗癌剤として期待されています。

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<<医学用語辞典>>


吉田肉腫

 病理学者の吉田富三が1943年に作った日本で最初のラットの腹水腫瘍(肉腫)。
腫瘍細胞が腹腔液中で個々に遊離した状態で増殖することが特徴。
極めて移植性の高い腫瘍で簡単な手術で移植でき、任意のときに腫瘍腹水を採取して容易に細胞を検することが出来るので、悪性腫瘍の各方面の研究に広く用いられています。
特に癌の化学療法の研究では利用価値があります。

Sarcoma 180

 1914年、C系マウスに発見された自然発生の多形細胞肉腫で、原発部は腋窩部
可移植性の結節性の結節型腫瘍ですが、1952年に腹水腫瘍に転換され、広く使用されるようになりました。移植に用いる動物は雑婚のマウスでよく、移植率は90〜100%、宿主動物の寿命は14〜28日


Ehrlich腹水癌

 マウスの腹水腫瘍で、宿主マウスの系統に関係なく高率に移植が成功し、腹水型の実験腫瘍として最もよく普及しています。

 上皮性の正確はほとんど見られず、腹腔液内で細胞は1個1個遊離した状態で増殖します。組織内浸潤は軽度で宿主の生存日数にはかなりに幅が認められます。

添付文書の用語と解説 1995 (薬事時報社)   

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EPR効果

EPR:enhanced permeability and retention

1986年に提唱された腫瘍の脈管系の特性

一般的に腫瘍では、新生血管が盛んに増殖されますが、それに見合う回収系の増殖はありません。また、血管透過性の顕著な亢進も見出されています。これにより、正常血管からは漏出しにくい高分子化合物も腫瘍血管からは漏出しやすく、またいったん漏出すると癌局所に滞留しやすくなっています。この特性を利用すれば、高分子抗癌剤を癌局所へ送達させるpossive targetingが可能になります。


癌 休眠療法

    出典:治療 2001.8  金沢大学 癌研究所腫瘍外科 高橋 豊

 癌の休眠療法とは、癌の治療戦略を感染症のように細菌(癌)を完全消滅を目指すのではなく、糖尿病、高血圧症、喘息などの治癒不可能な慢性疾患の治療戦略に変更することです。

 これらの慢性疾患では、現状維持や悪化を起こらせることが治療戦略とされています。その理由は、現状維持が可能であり、また現状維持によって長期間生存が得られるためです。

もし癌治療でも、そういうことが可能であれば、このような戦略が受け入れられるものと思われます。

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 20世紀はが遺伝子の病気であることが解明された世紀でした。人体の正常細胞は精子と卵子が受精した後、何回も分裂を繰り返し60兆個に達した時期に一部の細胞を除き増殖が止まります。すなわち“眠っている”状態になります。この増殖を調節しているのがシグナル伝達系、
アポトーシステロメアなどです。

 結局癌とは、数回の遺伝子異常により、こういった機構に破綻を来たし、再び増殖を開始した、いわば“目を覚ました”状態と言えます。さらに血管新生能や浸潤能を獲得し、より悪性度が高くなって致死的な転移を伴って行き、“暴れている”いるのです。

 これが癌の本質なら、本質的な治療とは、“目を覚まして暴れている”細胞を殺すことではなく、“眠らせ”たり、“大人しい細胞に戻す”ことであるはずです。実際、最近数多くの薬が開発され臨床応用されようとしているシグナル伝達系阻害剤や
血管新生阻害剤は、そう言った作用を持ち、縮小よりも長期間の増殖抑制が主目的とされています。

 実際、こういった薬剤では、縮小だけではなくtime to progression(TTP)が評価項目として用いられ、重要視されるようになってきました。

 また、縮小を目指す治療をしても、結局は縮小よりも「休眠期間」が延命期間に大きく影響していることが判明してきています。そして今注目されているのが低用量頻回与薬法です。つまり、与薬スケジュールを変更するだけで、血管新生抑制効果、免疫能賦活、悪疫質改善効果などが得られることが数多く報告されています。    

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ゲルソン療法

 ドイツ人医師マックス・ゲルソンによって始められ、欧米に普及している癌の食事療法。
基本的にベジタリアン食で低脂肪、無塩、大量(1日3L)の野菜ジュースを摂るというもの。

 医学的な有効性は確認されていませんが。QOLの改善、延命、手術後の再発防止、移転防止などの効果があるとの報告があります。          

 出典:治療2003.11  

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外来化学療法

Low-dose FP療法〜食道癌では、本療法が第一選択となります。

 5Fu(フルオロウラシル)とCDDP(シスプラチン)をいずれも低用量で併用する療法。

 5Fu(160mg/m2)を24時間持続静注(day 1〜28/35日間)、CDDP(6mg/m2)は30分点滴静注(day 1,4,8,11,15,18,22,15/35日間)。

※ 対象疾患〜進行及び再発食道癌、胃癌(保険適応あり)、膵臓癌、胆嚢癌、胆管癌、肝細胞癌、大腸癌

<ポイント>
・外来治療では、治療開始に先立ち中心静脈リザーバーの留置が望ましい。5Fuの持続点滴に際し、末梢血管からの持続静注の場合、静脈炎が高頻度に出現するため中心静脈の確保が必要。

・5Fuは、携帯型ディスポーザブルポンプに充填して持続注入を行います。CDDPは生食100mlに溶解し、30〜60分で点滴します。点滴中は、CDDPの活性を低下させないため、5Fuの注入を休止します。

・悪心、嘔吐の発現率は約2割ですが、発現した場合には次回までに、経口5HT3受容体拮抗剤を前与薬します。また、血液毒性の発現率は1割以下ですが、(特に長期間継続時に)白血球減少、血小板減少などを引き起こす症例があるため、その際にはまずCDDPの減量(約20%)を行い、次に5Fuの減量(約20%)を行います。

・口内炎は長期継続時に認められ、状況によっては経口摂取不良などのため患者の状況に強く影響を与える恐れがあります。口腔内清掃やエレースアイスボールなどの対策を早めに行うことが必要です。

<その他の消化器癌の外来化学療法>

 胃癌に対しては、TS1,大腸癌の対してはTS1または経口LV(ロイコボリン)+UFT療法がなどが簡便でなおかつ有用です。

 膵臓癌には塩酸ゲムシタビン(ジェムザール注)が第一選択となります。

 肝臓癌、胆管癌、胆嚢癌については、Low-dose FP療法や塩酸ゲムシタビンなどが試みられています。

    出典:臨床と薬物治療 2004.3                    


<医学辞典>

ハイパーサーミア
温熱療法


 ハイパーサーミアとは、腫瘍を細胞が障害される温度にまで加温し、致死効果を得る治療法です。温度が高いほど、また組織のpHが低いほど、細胞周期がS期(DNA合成期)にあるほど温熱効果は高くなります。放射線治療、温熱で作用が増感される抗癌剤併用でその効果は増強されます。

 日本語では、温熱療法、加温療法と訳され、腫瘍を必要な時間加熱します。実際は、浸潤性の腫瘍では周辺の健常組織も含めて加温することになるので、直ちに組織壊死を来たすような高温にすることは出来ません。そこで、腫瘍と健常組織の熱に対する感受性の違いを利用したり、放射線治療や化学療法を併用しながら、41〜44℃と比較的低温で治療を行い、安全に腫瘍の制御が行われてきました。

 近年、実質臓器や肺などで、電磁波を使って蛋白熱凝固による急激な組織壊死を来たすような高温で腫瘍焼灼が行われるようになりましたが、これらを含めて高温度療法ということもあります。

 加温範囲によって、全身加温、領域加温、局部加温と分類され、また加温法によって、マイクロ波加温、RF波誘電加温、RF波誘導加温、超音波加温、腔内温水灌流、血液加温臓器灌流などがあります。

 サイズが大きく、血流の少ない腫瘍は加温されやすく、また嫌気的解糖を行うことで組織内pHは低くなるので温熱感受性が高くなります。

 放射線治療は、細胞周期がS期にある細胞、および酸素分圧の低い細胞では感受性が低いのですが、ハイパーサーミアは細胞周期がS期にある細胞、および血流が少なく酸素分圧の低い細胞で感受性が高いことから、両者の併用による相補的効果が得られます。


 最近、加温によって細胞内に産生される、ヒートショックプロテイン(HSP)が免疫機構に関与していることが分かってきました。生体は、加温により免疫能が高まり、ナチュラルキラー細胞の活性も高めます。さらにHSPが抗原提示を増強することも発見されました。
加えて、免疫的寛容えお得てきた癌細胞熱障害を受けることで抗原提示度が高まれば、生体内の免疫機構は癌細胞を異物として認識しやすくなり、温熱により障害された癌細胞に対してこれまで以上に攻撃を行うことが可能になります。

 温熱療法によってもたらされるHSPは、癌療法の新たな可能性を示すものとして期待されています。
 

<温熱増感作作用を持つ抗癌剤>

 43℃で得られるのと同等の抗腫瘍効果は、シスプラチンを併用することで41.5℃で得られることが分かっています。

・アルキル化剤:シクロフォスファミド、メルファラン、チオテパ、塩酸ニムスチン
・白金製剤:シスプラチン
・抗生物質:ブレオマイシン、マイトマイシンC、アドリアマイシン、アクチノマイシインD
・代謝拮抗剤:5-Fu、塩酸ゲムシタビン
・アルカロイド:パクリタクセル、ドセタキセル

  出典:医薬品ジャーナル2007.9


MAHA
Microangiopathc hemolytic anemia

微小病変性溶血性貧血

 出典:医薬ジャーナル 1999.2

 
HUS(溶血性尿毒素症候群)TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)に類似した病態が、抗癌剤使用後に発症することが知られています。

 薬剤によるMAHAの大部分はマイトマイシンCで発症しますが、ドキソルビシン、5Fu、タモキシフェン、シスプラチン、カルボプラチンでも少数ながら報告例があります。

 また骨髄移植、臓器移植の際に免疫抑制剤として使用されるシクロスポリンAやタムロリムスもMAHAをきたす代表的な薬剤です。

 薬剤による直接的な内皮障害や内皮細胞からのプロスタサイクリンの生成低下が原因として考えられています。

 抗癌剤によるMAHAはHUSの臨床像を示すことが多く、TTPは比較的少ないとされています。

 症状は破砕赤血球の出現を伴う血管内溶血、血小板減少症、腎機能障害です
抗癌剤の使用後1〜2ヶ月後にすることが多く見られます。

 治療は、原因薬剤の中止と血漿交換や抗血小板剤で行います。

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出典:医薬ジャーナル 2003.6

 細血管障害性溶血性貧血は細血管内に微小血栓が形成され、赤血球粉砕が起こる病態です。

 DIC(播種性血管内凝固症候群)、
TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)HUS(溶血性尿毒素症候群)などがこれに該当します。

 最近、血漿von Willebrand因子(vWF)を特異的に切断する酵素(ADAMTS 13)が発見され、これによりTTPとHUSの病態はことなることが示されました。

 TTP/HUSでは、DICと異なり、治療開始直後の血小板輸血は禁忌です。

 TTP:成人に多く神経症状が強い。心、脳をはじめとする全身臓器の細小動脈多発する血栓が認められ、血栓の形成にはvWFが深く関与している。

 HUS:主として小児に多く腎不全が強い。糸球体と腎の細小血管の病変が主体。
vWFは関与していない。

 DIC、TTP、HUSでは、様々な原因により凝固亢進状態が惹起され、広範な微小血管内血栓形成のため、臓器の循環障害を来たし、極めて類似した臨床症状を呈します。近年、TTPでのvWF−CPase活性の低下とこれに対するIgG型インヒビターが成因として重要であることが明らかにされました。

 HUS発症では
O157の臨床的意義が解明され、これらの病態での相違が次第に明らかになってきています。


腫瘍融解症候群
腫瘍溶解症候群
TLS:Tumor Lysis Syndorome

癌化学療法による腎毒性

 白血球、リンパ腫などの血液癌や進行が急速な腫瘍に化学療法を行ったとき、腫瘍細胞が大量に壊死し、細胞成分による尿酸性腎症や電解質異常などが引き起こされます。

 化学療法に伴い、腫瘍組織が崩壊することによって、尿酸性腎症、キサンチン腎症、急性腎石灰化を来すことを総称して腫瘍融解症候群といい、高カリウム血症、高リン血症、低カルシウム血症を来します。

 尿酸性腎症は急性リンパ性白血病をはじめ、抗癌剤に感受性の強い腫瘍で発生頻度が高く、血清尿酸値が20mg/dL以上になると急性腎不全は必発です。その予防のために、化学療法開始後、アロプリノールを用いることが必要です。更に必要に応じて輸液や利尿剤を使用します。

 腫瘍融解により生じた物質の除去には連日の血液透析を必要とすることもあります。

  出典:月刊薬事 2002.9等


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腫瘍崩壊症侯群について

2012年3月1日号 No.562

 腫瘍崩壊症侯群(tumor lysis syndrome;TLS)は、腫瘍細胞が自然に、又は化学療法や放射線照射によって崩壊することで生じます。
しばしば生命を脅かす深刻な臨床経過をたどる症侯群で、増殖速度が速く、抗がん剤治療の効果が高い腫瘍において発現リスクが高いことが知られています。

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 壊死した腫瘍細胞の崩壊によって、細胞内に多いカリウムや細胞内酵素は循環血中に放出されます。カリウム、リン酸などの電解質の急激なリリースは高カリウム血症、高リン酸血症を引き起こし、それに伴う低カルシウム血症によって致死的な不整脈をきたす恐れがあります。

 一方、腫瘍細胞の崩壊により放出される大量の核酸は、代謝されて尿酸となり、高尿酸血症をきたします。急激な血清尿酸値の上昇は腎尿細管において尿酸結石の生成を招き、腎機能障害が出現する可能性があります。また、過剰なリン酸が血中のカルシウムと反応して生成するリン酸カルシウムも尿細管に沈着すると考えられ、やはり腎機能低下を惹起する危険性があります。

 乳酸アシドーシスもTLSに伴って発現することがあり、その出現と程度はTLSの重症度に相関するとされています。乳酸アシドーシスが起こる機序は明らかにされていませんが、大量の腫瘍細胞がアポトーシスを起こす時に、一過性の乳酸産生が亢進する可能性が示唆されています。  一般にTLSは抗がん剤治療後12〜72時間以内に発症することが多いとされ、大量の腫瘍崩壊が起これば直ちに上記のリスクにさらされることになります。抗がん剤に感受性の高い造血器腫瘍では特に発現リスクが大きいことが分かっています。

 報告頻度の高い医薬品は、レナリドミド、フルダラビン、サリドマイドといった、元来TLSの発現リスクが大きい白血病や悪性リンパ腫に用いられる薬剤だけではなく、グリベック錠、ニロチニブなど近年次々と臨床応用がなされている分子標的薬剤での報告頻度が増えています。


 これには分子標的薬剤の高い抗腫瘍活性が関係していると推測され、これまでTLSのリスクは低いと思われてきた固形癌でも、分子標的薬剤を用いた化学療法の場合は特に警戒が必要になってきています。

 TLSを発現するリスク分類に応じて、薬物治療及び予防対策が取られます。(下記参照)高リスクと評価されれば積極的な予防策の適応となり、低リスクであれば経過観察にとどめます。
 中等度リスクと評価されると、個々の症例の経過を吟味しながら対応することになります。
 まず脱水、尿量減少、濃縮尿はTLS発現に関わる重要な因子であるので、治療前に補正しておく必要があります。尿酸とリン酸カルシウム塩の尿細管内析出を防ぐため、化学療法開始の少なくとも24〜48時間前から補液を始め、十分な尿量を確保します。又、尿酸の溶解度はアルカリ性下で高まることから、重曹による尿のアルカリ化が尿酸結晶の予防に有効と考えられてきました。しかしこれは明確なエビデンスがなく、むしろ血中リンが高値である場合は、アルカリ尿によってリン酸カルシウムの尿細管沈着が促される恐れがあるため米国のガイドラインで現在推奨されていません。

 キサンチンから尿酸への変換反応を阻害するアロプリノールも、予防的によく用いられます。しかし、キサンチンは尿酸以上に水溶性に乏しく結晶化しやすいため、高キサンチン血症から急性腎不全を発症することもあります。

 TLSは抗腫瘍効果と表裏一体の有害事象といえます。化学療法を継続できるように、血液像や利尿をモニタして、TLSの発症を防ぐことが重要です。化学療法が奉功して腫瘍の縮小がみられれば、以後のTLS発症のリスクは小さくなりますが、化学療法に伴う腎機能障害が起きている場合などでは、リスクが高い状態と考えて注意深く予防策を講じるべきです。

  <腫瘍崩壊症侯群のリスク分類>

  癌腫       
            
非ホジキンリンパ腫、白血病
 高リスク〜Burkittリンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫、Burkitt急性リンパ球性
 中等度リスク〜びまん性大B細胞性リンパ腫
 低リスク〜緩徐進行性非ホジキンリンパ腫

急性リンパ球性白血病
 高リスク〜白血球10万/μL以上  
 中等度リスク〜白血球5万〜10万/μL以下
 低リスク〜白血球5万/μL以下        

急性骨髄性白血病    
 高リスク〜白血球5万/μL以上単芽球 
 中等度リスク〜白血球1万〜5万/μL
 低リスク〜白血球1万/μl以下         

慢性リンパ急性白血病            
 中等度リスク〜白血球1万〜10万/μl
 低リスク〜  白血球1万/μl以下

その他の造血器腫瘍(慢性骨髄性白血病多発性骨髄腫)及び固形癌
 中等度リスク〜増殖が速く、治療に対し高感受性であると期待される場合


 ※ 薬剤師の留意事項

 TLSに特異的な自覚症状は少ないのですが、 近年は内服剤の分子標的薬剤が増えており、新たに開始された患者さんへの注意喚起は重要な意義をもちます。
 カリウムの上昇は治療開始6時間以内に出現することが多く、リン、カルシウム、尿酸の変動はそれよりやや遅れて、24〜48時間後に顕在化するといわれています。
 したがって、投与数日以内に筋力低下、知覚異常、嘔気、嘔吐などの高カリウム血症に伴う症状がみられたら、直ちに医療機関へ受診させるべきです。また尿細管閉塞による尿量の低下も、患者さんが自覚しうる症状といえます。
 この時点で既に尿酸結石もしくはキサンチンの結晶化が進行していることを意味しているので、尿量が減ったことに気づいたら、ただちに医師・薬剤師等に相談するよう指導する必要があります。

   {参考文献}日薬医薬品 Vol.15 No.2 (2012.2)



手足症候群
Hand-foot syndrome

 本症は、フルオロウラシル持続静注、ドキソルビシン、シタラビンの注射などで発現する副作用として報告されています。

 主な症状は、手、足、爪の四肢末端部を後発部位として軽度のものでは紅斑、色素沈着に終わります。
高度なものでは疼痛性に発赤腫脹し、水疱、びらんを形成します。手掌足底は、角化、落屑が著明になり亀裂を生じるようになり知覚過敏、歩行困難、物がつかめないなどの機能障害を伴った症状が見られます。

 発現の機序は不明ですが、表皮の基底細胞の増殖能阻害されること、またはエクリン汗腺からの薬剤の分泌などが原因として考えられています。

 現在のところ治療法は確立していませんが、局所の治療では、保湿クリーム、ステロイド外用剤などの対症療法が一般的です。国内第II相試験では、ステロイド外用剤、尿素軟膏、ビタミンA剤が単独又は併用で使用されています。また、明確な効果は確認されていませんが、フルオロウラシルの持続静注でビタミンB6で症状が軽減したとの海外報告があります。


タキソール注(パクリタキセル)による筋肉痛、関節痛にL-グルタミン

 癌化学療法で、パクリタキセルの副作用として筋肉痛等があり、こららに対して芍薬甘草湯が使用されていましたが、あまり効果はありませんでした。

 筋肉内に多く含まれるL-グルタミンは筋肉の蛋白合成に強く関与しており、パクリタキセル使用時に筋肉内のL-グルタミンの消費が亢進し相対的に不足するとされています。

広島県中国労災病院では、パクリタキセルとカルボプラチンの併用療法(M-TJ)時にL-グルタミンをパクリタキセルの翌日夕より内服開始し、1回量4g、1日5回で良好な結果が得られたとのことですが、用法用量についても再検討の余地があるそうです。


      出典:日本病院薬剤師会雑誌 2007.5



ニッチ
癌幹細胞ニッチ

 従来、癌組織に存在するすべての癌細胞に無限の自己複製能と未分化能があり、癌を形成できると考えられていました。これに対し、最近、癌は不均一な細胞集団で、そのなかにごくわずかの癌幹細胞が存在していて、この細胞だけが自己複製能や未分化能を持ち、癌を形成することができるとする「癌幹細胞仮説」が提唱されています。

 幹細胞はニッチと呼ばれる最適な微小環境に存在し、ニッチとの相互作用により幹細胞性の維持や機能の制御が成されています。

この主要微小環境は免疫細胞、炎症細胞、間質細胞、細胞外マトリックス、血管やリンパ管などから構成されます。

ニッチは、静止期と分化増殖の2方向のシグナルバランスで幹細胞を制御し、また転移や浸潤にも関与していると考えられています。


  出典:ファルマシア 2009.4


カーボンナノホーン
carbon nanohorn:CNH

カーボンナノホーンは、毛髪の太さの1万分の1の微小炭疽集合体で牛の角に似た形をしており。グラフェン(グラファイトシート)を円錐形に丸めた構造をしています。

また、質量当たりの表面積が非常に高いため、吸着剤、触媒支持体として高い有効性を持っています。

このカーボンナノホーンに抗癌剤のシスプラチンを内包する技術が開発され、細胞段階のの実験では、シスプラチンを内包したカーボンナノホーンを癌細胞培養液中に入れると、シスプラチンがカーボンナノホーンから徐々に放出され、癌細胞が死滅することが確認されました。このことから、DDS(ドラックデリバリーシステム)として、抗癌剤のキャリアーとしてカーボンナノホーンが期待されています。

さらにカーボンナノホーンに癌の光線力学療法の治療薬を内包させ、腫瘍患部に注射し、レーザー光を照射することで、腫瘍を消失することができたとの報告もあります(マウス)。

 ただ、臨床の場に登場するにはまだまだ時間がかかりそうだということです。

     出典:日本病院薬剤師会雑誌 2009.4
 

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