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転倒を起こしやすい薬剤

1993年5月15日号 No.129

   高齢化社会に入り、老人の転倒とそれに伴う骨折などは重要な社会問題として取り上げら
れています。高齢者では運動機能・感覚機能の衰退、視力・聴力などの感覚や認知機能の
低下があり、若年者に比較して転倒しやすく、1年間に1回以上の転倒経験を持つ人は
70歳以上で30〜40%(骨折は4〜6%)というのが現状です。

 この転倒の1つの危険因子として薬剤によっても引き起こされることが知られています。

{参考文献} 治療 1993 4

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*薬剤性転倒の原因は精神機能障害と運動機能障害によるものです。

  精神機能障害:眠気、ふらつき、注意力低下、失神、めまい、せん妄状態

  運動機能障害:失調、脱力、筋緊張低下、パーキンソン症候群

*薬物による転倒の発生機序と薬物群(下記参照)

  鎮静・催眠薬、向精神薬、抗うつ薬、血圧降下剤、利尿剤などは要注意です。

*危険因子には薬物(鎮静薬など)、認識障害、下肢廃疾、脚障害、手掌オトガイ反射
 平衡歩行異常などがあります。

 処方薬剤数の増加に伴い転倒の危険性が増大します。患者の症状により別の薬剤を追加
するときには既に処方されているものの中から1剤でも減らすことを考えるべきです。

 薬物の与薬量を増加すれば転倒に伴う股関節骨折の危険率が高まることがあります。
薬物の与薬量は必要最小限にとどめて転倒防止を心がける必要があります。

*危険因子の1つである起立性低血圧を通院毎に評価すること。

 薬物与薬前の起立性低血圧の程度から薬物による転倒の危険性の増大を予測できます。


薬物による転倒の発生機構と薬物群

・眠気、ふらつき、注意力低下

 ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安剤、バルビツール酸・ 向精神薬:フェノチアジン系、ブチロフェノン系、ベンザミド系

・失神、めまい
 
 糖尿病薬(インスリン、経口血糖降下剤)
 降圧薬(カルシウム拮抗剤、β遮断剤)、利尿剤

・失調〜抗痙攣剤

・低血圧〜抗うつ剤

・脱力、筋緊張低下〜筋弛緩剤、抗不安剤

・せん妄状態〜H2遮断剤、β遮断剤、パーキンソン治療剤

・パーキンソン症候群
  
 向精神薬、整腸剤(ベンザミド系)、レセルピン


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転倒・転落防止と医薬品

 2012年2月1日号 No.561
 
  多くの薬剤が転倒転落リスクや内在する要因となり得ます。国内での調査によりますと排泄に係わる薬剤(利尿剤・下剤)が最も多く、次いで睡眠薬、降圧薬、麻薬となっていました。
 
  一般に、中枢神経を抑制する薬剤で転倒につながりやすいことは知られています。
 
  利尿剤・下剤はトイレへの移動回数を増加させます。転倒をおこした多くの患者が多剤を併用しており、鎮静剤と下剤・利尿剤を併用している患者では十分な注意が求められます。  中枢神経を抑制する薬剤は、患者の運動神経を鈍らせ転倒事故を引き起こします。
 
  睡眠薬はその作用時間と 特長によって使い分けます。また作用する受容体によっても考慮する必要があります。
 
  ベンゾジアゼピン系(BZ)非BZ系薬剤はGABA受容体のBZ結合部位(ω受容体)を介して効果を発言します。ω1受容体は睡眠に、ω2受容体は筋弛緩・抗不安に関与しています。
 
  ω1受容体に選択的な薬剤(マイスリー錠等)を選ぶことでふらつきなどの副作用を軽減でき、転倒の危険を低下させることができます。
  不眠のタイプ、作用時間、受容体の選択性を考慮に入れた処方がなされているか、薬学的にアセスメントを行っていくことが病棟薬剤師に求められています。
  また、夜に自然に寝つけてている患者に対して機械的に睡眠薬を処方しないことが必要です。
 
  抗精神病薬が原因の転倒転落には、錐体外路症状とふらつきが主に関連していると考えられています。また抗精神病薬によるふらつきの原因は、アドレナリンα1受容体の遮断による起立性低血圧、H1受容体の遮断による過鎮静がふらつきを誘発します。
 どちらも開始初期にふらつきの副作用が起こりやすいと考えられていますが、薬剤の増量時や併用薬の追加の際には開始初期と同様に注意が必要です。
 
 癌患者にも注意が必要です。悪性腫瘍はその症状から中枢神経、末梢神経障害が起こります。さらに治療のための抗癌剤には末梢神経、自律神経の障害を来たすものがあり、病状とあわせて注意が必要です。アルカロイド系(エクザール、オンコビン)や代謝拮抗剤(テガフール等)は歩行障害、歩行困難の副作用が添付文書に明記されています。神経鞘上などの副作用に対する明確な予防法や治療法は確立されていないため、早期発見による対処が求められています。

*転倒を大きな問題に発展させる薬剤

・出血傾向を強める薬(抗血栓薬)〜軽度の打撲でも出血の危険性あります。
・抗癌剤、インターフェロンなどは造血因子に影響を及ぼし、抗血栓薬と同様に出血傾向が強くなることがあります。
・骨折を起こしやすくする薬〜骨密度に影響を及ぼす薬剤として副腎皮質ステロイド剤があり、様々な疾患に使われるため使用頻度が増加しています。抗精神病薬も副作用としてプロラクチン上昇による骨密度が減少し骨折の原因になります。

*リスク因子〜1.転倒歴、2.せん妄症状、3.抗精神病薬

<転倒・転落の原因となる作用・副作用をもつ薬物>

・眠気、ふらつき、注意力低下〜睡眠薬、抗不安薬、バルビツール酸系抗精神病薬、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、麻薬性鎮痛剤、NSAIDs(消炎鎮痛剤)
・低血糖〜糖尿病薬(インスリン、経口血糖降下剤)、ニューキノロン系抗菌薬、抗不整脈(リスモダンR錠、シベノール錠)、β遮断剤等
・起立性低血圧〜三環系(四環系)抗うつ剤、フェノチアジン系薬剤、降圧剤(ACE阻害剤、α遮断薬、β遮断剤、利尿剤)、排尿障害治療剤、硝酸剤等
・パーキンソン症候群〜抗精神病薬、抗うつ薬、制吐剤、胃腸機能調節剤 等
・めまい(内耳障害)〜アミノG系抗生物質、ミノサイクリン、点耳抗菌薬
・ふらつき(運動失調)〜抗てんかん剤、抗癌剤等
・視力障害〜抗コリン作用のある薬剤、エタンブトール、リファンピシン、抗癌剤、シクロスポリン、クロラムフェニコール、アミオダロン
・筋弛緩作用、脱力〜筋弛緩薬、ベンゾジアゼピン系、抗不安剤
・頻尿、下剤〜利尿剤、便秘薬、浣腸、抗癌剤(イリノテカン、フルオロウラシル等)

<睡眠薬の選び方>
                         入眠障害                中途覚醒、早期覚醒
                               (超短時間型、短時間型)         (中時間型、長時間型)
神経症的傾向が弱い場合        マイスリー錠(ω1)               ドラール錠(ω1)
脱力、ふらつきが出やすい場合     アモバン錠

神経症的傾向が強い場合        トリアゾラム錠                      サイレース錠
肩こりなどを伴う場合               レンドルミンD錠                    ベンザリン錠
抗不安、筋弛緩作用)                                                 (ユーロジン錠)                               
腎機能障害、肝機能障害            (ロラメット)                       ワイパックス錠
がある場合
(代謝産物が活性を持たない薬剤)

  {参考文献}薬事 2009.11 等


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金属が関与する疾患

2007年4月1日号 No.449

 金属と疾患との関連性はアレルギー、非アレルギーなど種々の機序の下に重要な場合が少なくありません。例えば金属アレルギーは、金属そのものの皮膚への直接的な接触によって生じるアレルギー性接触皮膚炎ほかに、体内に存在する金属(歯科金属や骨接合用金属など)に対するアレルギー反応の結果として、異汗性湿疹や掌蹠膿疱症、扁平苔癬、偽アトピー性皮膚炎のような皮膚・粘膜疾患にかかわりを持っています。

<アトピー性皮膚炎>

 アトピー性皮膚炎と金属の関係はしばしば論議されてきています。アトピー性皮膚炎に金属が関与する状況では、その増悪因子となる場合が多くみられています。

 経皮的に感作された金属による皮膚炎はアトピー性皮膚炎を悪化させ得ますが、この金属によるアレルギー性接触皮膚炎はアトピー性皮膚炎に合併したものと考えられます。

 しかし、経皮だけでなく経口・その他の経路で感作された金属で、食物・歯科治療などで経口的に誘発された場合に漸進的にアトピー性皮膚炎の悪化が生じます。これは全身性接触皮膚(SCD:下記参照)状態です。

<特徴>
 発汗による増悪
 皮疹が多汗、間擦部位に偏位
 歯科治療で増悪
 金属パッチテストで陽性部が長期残存
 IgEが比較的低い

<扁平苔癬や掌蹠膿疱症>

 扁平苔癬や掌蹠膿疱症は、以前から薬剤や金属アレルギーによって生じ得るといわれています。
歯科で使われる金属のうちで、特にニッケル、コバルト、クロム、金、パラジウム、水銀、白金、亜鉛、銅などにパッチテスト陽性となる場合がしばしばあります。

<特徴>
 歯科の治療で皮膚病変が悪化
 歯科金属を除去すると軽快

 口腔内に使用された金属がごく微量溶出して、口腔、消化管から吸収され、皮膚・粘膜に病変を生じさせます。特に多種の金属が使用されている場合は金属管に微量電流が生じ、金属のイオン化・溶出が増強されます。

<接触性皮膚症候群と全身性接触皮膚炎>

 ・接触皮膚炎症候群
    CDS:contact dermatitis syndrome

 接触感作が成立した後、同一抗原が経皮的に繰り返し侵入することによって、強いかゆみを伴う皮膚病変が全身に出現。接触皮膚炎に続発した自家感作性皮膚炎や多形滲出性紅斑はその典型例です。

 ・全身性接触性皮膚炎 
  SCD:systemic contact dermatitis

 接触感作成立後に同一抗原が非経皮的なルート(経口、経静脈、経気道など)で生体に侵入することによって全身に皮膚炎が生じる。 食品中の金属や歯科金属などから体内に吸収された金属によって皮疹を生じた場合がこれに当てはまります。

 しかし、金属内服テストが陽性でも金属パッチテストが陰性の場合があるため、厳密な意味では全身性接触皮膚炎と言い難く、このような場合は全身型金属アレルギーと呼ばれ、臨床症状としては、貨幣状湿疹、慢性痒疹、異汗性湿疹、扁平苔癬、蹠膿疱症、偽アトピー性皮膚炎などを生じさせるとされています。

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<医学トピックス>  金属の話題:食品とピアス

<食品に含まれる金属>

 ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)などはチョコレート、ココア、紅茶、豆類、香辛料、木の実などに多く含まれています。これらの食品をさけること(金属制限食)で、既存の皮膚病変が軽快することがあります。
しかし、食品には金属以外に多くの物質が含まれているため、金属アレルギーと断定するには困難が伴います。

 金属キレート剤としてテトラサイクリン系抗生物質を用いたり、消化管からの金属アレルゲンの吸収を阻害する目的でインタールが用いられることもありますが、これらの治療法は、必須微量元素の不足を生じる可能性もあるため、むやみに長期継続しないよう注意が必要です。

<ニッケル皮膚炎>

 アレルギー性金属皮膚炎の中では、ニッケルを原因とするものの頻度が最も高く、これはニッケルを含有する金属製品との接触機会が多いためです。

 更に近年、ピアスの流行やニッケルメッキのネックレス、イヤリング、ブレスレットなど安価な装身具によりニッケル皮膚炎が増加してきています。

 ニッケルがアレルゲンとなるにはイオン化する必要があり、それには汗に含まれる塩素イオンが関係するため、ニッケル皮膚炎は夏季に発症、悪化します。
 

{参考文献}日本病院薬剤師会雑誌 2007.3


<<用語辞典>>

Reiter症候群
ライター症候群

日本BCG製造株式会社 資料 2000.4

イムノブラダーの副作用

 1916年、Hans Reiterによって、関節炎・結膜炎・尿道炎の3主徴を備えた疾患として定義されました。現在では、腸管・尿路などの微生物感染が引き金となって誘起される反応性関節炎に、同様の機序で発生した結膜炎を伴う症候群と考えられています。

 引き金となる微生物は、特定の病原体によるものではなく、スピロヘータ、クラミジア、サルモネラ。シゲラ(赤痢菌など)、エルシニア、ミコバクテリア(結核菌、BCGなど)、マイコプラズマなど多様な微生物の感染が契機となり得ます。

 関節や結膜自体の感染症ではなく、腸管や尿路系の感染が引き金となって起こる自己免疫的な病理発生機序が考えられています。

 自己免疫学的な病理を誘起する抗原としては、上述のような広範な微生物種に保有されていて、ヒト組織の抗原ととも共通性を示すものとして、熱ショック蛋白(HSP:heat shock protein)が有力な候補抗原と考えられています。

 BCGを含めてミコバクテリアは、ヒト抗原とホモロジー(共通性)の高いHSPを持っていて、また、実験動物にアジュバンド関節炎として知られている反応性の関節炎を誘起するMDP:muramyl dipeptideを細胞壁成分として含有しています。さらに、ミコバクテリアの豊富な脂質がアジュバンドとして作用する可能性もあり、膀胱内に注入されたBCGによって起こされた感染が引き金となって、Reiter症候群が誘発される危険性があります。

 ヒト側の危険要因としては、主要組織適合性抗原(MHC)でHLA-B27陽性のヒトで発生率が高いとされています。

<治療>

 関節や結膜は直接感染を受けているのではないため、抗菌剤、抗生物質、抗結核剤などは、関節炎・結膜炎の病状に対しては直接的には無効です。ただし、腸管や尿路系などの原疾患の適切な抗菌剤治療は、原因となっている抗原負荷を減らす意味があります。

 関節炎・結膜炎は、自己免疫的な機序による病状であるため、非ステロイド系抗炎症剤、ときにステロイド剤が用いられます。


HSP

heat shock protein

熱ショック蛋白

 熱ショックによって遺伝子発現が誘導され、新しい蛋白質(熱ショック蛋白)が産出されます。

 この現象は、細菌から高等生物まで共通してみられることが知られています。

 真核生物ではこれらの遺伝子のプロモーター領域には5塩基配列‐‐NGAA‐‐の繰り返しが熱ショックエレメントheat shock element(HSE)としてTATAボックスの上流に位置し、特異的な転写〔調節〕因子が結合します。

 熱ショック蛋白は多数存在しますが、分子量の違いでHsp110(110K),Hsp90(80‐90K),Hsp70(68‐74K),Hsp60(58‐60K)およびsHsp's(15‐30K)に分類されます。

 熱ショックによって100倍ほど増量しますが、いずれも多くの調節蛋白(ステロイドレセプターやタンパクキナーゼなど)と一時的に結合して、相手側の蛋白質の構造ひいては機能や活性を制御します。

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インテリジェントマテリアル

 医療、創薬、環境問題、エネルギー問題など幅広い分野で、自己修復、自己診断、環境応答、学習機能などの賢さ(インテリジェンス)をもつ材料やシステムの開発が期待されています。

 これらは、蛋白質、核酸、細胞などの生物・生体分子を素材として、あるいは生体分子と有機・無機化合物とのハイブリッド系により、外部情報に対応して適切な機能を発現する機能を持つものです。

         出典:ファルマシア 2005.4


フリップフロップ現象

 一般に薬物を内服したときの吸収速度は消失速度よりも大きいのですが、一部の薬物や徐放剤では、吸収速度が消失速度より小さくなります。このような場合、みかけ上の血中濃度推移の消失相に吸収速度が反映され、吸収相に消失速度が反映されることになります。これをフリップフロップ現象といいます。

    出典:医薬ジャーナル 2006.3

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