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1996年7月1日号 202

E.coli O157:H7

食中毒菌の治療法  

   

 岡山県の学校給食などで発生したE.coli O(オー)157:H7による食中毒が全国的にも広がる気配をみせており、問題になっています。最近、当市でも発症しています。

 毒素型食中毒は、食品内で産生された毒素の摂取によるもので、原因菌自体は死滅しても毒素が残ることがあり感染症ではなく中毒です。

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 大腸菌は元々ヒトまたは動物の常在菌の一つですが、1945年ごろから乳幼児の下痢症に際して特殊の大腸菌見い出される例がたびたび報告されてきました。その後、乳幼児だけではなく、成人にも下痢や胃腸炎を起こすことや食中毒の原因にもなることが明かになりました。

 大腸菌による食中毒は、全細菌性食中毒のうち約10%を占め、食中毒を起こす大腸菌を病原大腸菌(腸病原性大腸菌: enteropathogenic E.coli )と呼び、その性質によって下記のように区別できます。

 1.細胞侵入性大腸菌、2.毒素原性大腸菌、3.腸管出血性大腸菌(vero毒素産生大腸菌)、4.腸管付着性大腸菌

 大腸菌はさらに血清型別試験(O:H抗原)によって分類されます。
 
 今回のE.coli O157:H7は腸管出血性大腸菌に分類され、それが産生するvero毒素(アフリカミドリザルの腎由来細胞であるvero細胞に対して細胞毒性を示す蛋白毒素)が病原性に密接に関与することが確認されています。

【臨床症状】

 典型的な症例では水様便、血便、強い腹痛を訴えますが、明らかな発熱を伴わない場合が多く、又、多くは出血性大腸炎に続発して溶血性尿毒症候群(HUS)や血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の腸管外の疾患を併発します。
 
【治療及び問題点】

関連項目:O−157のシーズン再びHUS:溶血性尿毒症症候群

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追記:朝日、1997年2月7日夕刊より

<ホスミシン>

 大阪微生物病研究所の余明順助手らは、まずO157の菌を液体培養し、増殖を抑える最低濃度の3倍の量のFOMを培養から5時間後に加えて、毒素量の変化を見た。

 その結果、菌数は減少したが、菌から放出されるVT1(注下記)は添加4時間後(培養9時間後)に無添加の培養液の48倍になった。

 VT1は菌の細胞壁と細胞膜の間にためられるので、細胞壁が壊れて、中から一気に放出されたらしい。菌内部の毒素量も増えており、FOMが細胞壁を壊すだけでなく、VT1の産出を促している可能性も示した。

 同様に細胞壁を壊すABPCやCEZを菌の培地に加えて16時間培養したところ、VT1は無添加のものより若干だが増えた。

 一方、FOMを添加した培地の菌をミドリザルの腎臓細胞に加えて細胞が死ぬかどうかを見たところ、無添加のものとほぼ同じ程度の毒性しかなかった。毒素の数は増やすが、それに見合った毒性の増加は見られなかった。

 順天堂大医学部の伊藤輝代講師(細菌学)らの調査では、VT2も無添加培地の最大8倍の量が菌外に出ていた。ただ、毒素の強さと生体への影響ははっきりしていない。

<ニューキノロン>

 大阪市立総合医療センターでは、小児患者15人のノフロとスパラの経口投与したが、HUSになった児童は一人もいなかった。同じように患者が運ばれた大阪府内の病院では、FOMを点滴した15人のうち3人がHUSを発症している。

 順天堂大医学部の伊藤輝代講師らの調査では、ノフロを加えた培地で無添加培地の16倍ものVT2を検出するなど、ニューキノロン系では多量の毒素を検出した。DNAの合成を阻害すると同時に毒素の産出を誘導する可能性がある。


<アミノG系>

 カナマイシンなどのアミノG系では、同大の平松啓一教授は、今のところ、このタイプを使った培地では、いずれの毒素も検出していない。有効な治療薬と考えられる。

(注) 腸管出血性大腸菌は、A群赤痢(血清型1)が産生する志賀毒素と同一の1型ベロ毒素(VT1;Stx1)あるいはこれと約60%の相同性のあるVT2(Stx2)にいずれか一方または両方を産生します。

こちらの記事(腸管出血性大腸菌による食中毒)も参考にして下さい。

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>>O157:H7と合併症<<

 神経症状〜痙攣と意識障害
      小脳性運動失調
 
 眼振、振戦、膀胱障害
 横隔膜神経麻痺

 洞性徐脈、膵炎、胆嚢炎、
 腸重積、無顆粒球症

 


アニサキス症

出典:東邦医薬ニュース 1999 Vol.8 No.8

 アニサキス症は、寄生虫の1種でその幼虫は海産物魚介類を宿主としています。

 アニサキス幼虫は、魚介類の腹腔や筋肉に寄生しているためこれらの魚介類を生のまま食べるとアニサキス幼虫が人体に侵入し、腹痛などを症状とするアニサキス症を引き起こします。

 アニサキス症は、サバ、イワシ、アジ、イカなどの中間宿主を経て、成虫は海産哺乳類(イルカ、クジラ等)を終宿主とする、亜科線虫の総称です。アニサキス属とテラノバ属が医学的に重要です。

 アニサキス シンプレックス:最も症例が多く、主としてサバに寄生
 アニサキス フィセテリス :症例はすくない。主にイワシ、スルメイカに寄生

 シュードテラノバ デシピエンス:主にタラ、オヒョウ、ホッケに寄生

 その他、アニサキス症の原因となる魚介類
スケソウダラ、サクラマス、マダラ、ニシン、アジ、マンボウ、カツオなど。

 魚介類を生のまま食べる習慣のある本邦では、アニサキス症が年間約2000〜3000例報告されています。

 アニサキス幼虫は、強酸性のヒトの胃液という環境に一定環境に生存できる特性を持っています。これについての明確な理由は不明ですが、終宿主の胃内に寄生することを考えると、ヒトの体内に侵入した幼虫は宿主の胃内を定住の場所として選択する形質を遺伝的に具備していると考えられています。

 アニサキス幼虫は、胃又は腸に穿入するため、アニサキス症には胃アニサキスと腸アニサキスがあります。日本での症例報告数は、胃アニサキスが9割で、腸アニサキスは1割程度です。

胃アニサキス
・胃痛、嘔気、嘔吐などの症状を呈し、胃内視鏡でアニサキス幼虫が胃壁に穿入しつつある像が見られます。
・急性胃症状以外に経過が緩慢で上腹部鈍痛、不快感などを訴える場合があります。
・急性型では、胃潰瘍・胆石に類似した症状が現れます。

 潜伏期:生食後 2〜8時間


腸アニサキス
・激しい急性症状を呈し、嘔気、嘔吐、腹痛、腹部膨満、便通異常、白血球増加などが見られます、痛みの部分が不安定で、左痛範囲が広く、発熱はありません。
・腹水貯留
・イレウス、腹膜炎、虫垂炎に類似した症状が現れます。

 潜伏期:生食後 数〜10時間


 また、アニサキス症の発症にはアレルギー反応が関与しています。発感染の場合は軽くてすみますが、過去にアニサキス症幼虫感染を受けた場合には、再感染により即時アレルギー反応を起こし劇症型となります。

発感染:消化管に好酸球性の肉芽腫を形成しますが異物反応にとどまるので軽症に経過することが多く見られます。(緩和型)

 罹患歴のある場合:アニサキス幼虫には侵襲を受け感作されている人は、再感染により強い即時型過敏症を局所に起こし、消化管の激しい痙攣、粘膜の浮腫を起こします。(劇症型)

 アニサキス幼虫はヒトには寄生しないため、体内で成虫になることはなく、産卵により増加することもありません。ヒトの胃壁や腸管壁に穿入した幼虫は、ヒトの体内で長期間存在することは不可能で、数日で死んでしまうか、ほとんどがそのまま排泄されます。このため、保存的療法で数日胃内に自然緩解する場合がほとんどです。

 胃アニサキス〜虫体は内視鏡下で生検鉗子により摘出します。その後は患部組織の炎症の鎮静と細菌による2次感染の防止を行います。

 腸アニサキス〜アニサキス症に適応のある駆虫剤はありませんが、輸液、抗生物質、鎮痛剤、消炎剤などの保存療法が行われます。
 穿孔例では外科的処置(開腹腸管部分切除)を行いますが、多くの場合は保存的療法で数日以内に自然治癒します。

<予防>
魚介類の生で食べることを避け、熱処理するかあるいは−20℃で24時間以上冷凍後でアニサキスは死滅します。


{添付文書改訂のお知らせ}

○ バルプロ酸Na(抗てんかん剤:デパケン、バレリン)

   外国で脳の萎縮や痴呆があらわれたとの報告がある。
  
  1.臨床症状:自発性の低下、周囲への興味の消失、認識力の低下、退行現象などの痴呆様症状がみられ、またMRIにより脳の萎縮が認められている。
  2.発症機序は不明で、また、血中濃度や与薬量、与薬期間との関連はみられていない。
  3.処置、転帰:与薬中止により、痴呆症状は2〜3週間で消失、またMRI上でも脳萎縮が正常化しており、これらの症状は可逆的である。
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*患者がPTPシートをそのまま飲み込み、緊急処置を有する誤飲事故が増加していることから、すべてのPTP包装の医薬品に「PTPシートから取り出して服用するよう指導すること」と記載されるようになりました。

 PTPシートの誤飲により、固い鋭角部が食道粘膜へ刺入し、更に穿孔を起こして縦隔洞炎等の重篤な合併症を併発することが報告されています。

  

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