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1997年4月15日号  220

O-157感染症のシーズン再び

腸管出血性大腸菌による食中毒

  昨年5月下旬に岡山県の小学校で食中毒が発生し、2人の犠牲者が出て以来、日本全国で腸管出血性大腸菌O−157食中毒が多発しました。

 今年に入っても、まだ感染者が発見されており、暖かくなるに連れて、O-157感染の可能性も増加されると予想されます。食中毒シーズンに向けて、もう一度、この菌について考えてみる必要があります。

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 O-157は、腸管出血性大腸菌(EHEC,VTEV,あるいはSTECと略される)の一種で一定の潜伏期の後、下痢、嘔気、嘔吐、腹痛など一般の食中毒と区別がつかないような症状で始まる例が多くみられます。10%程度の例では、悪寒、発熱、さらに上気道感染症状を伴うなど、風邪と間違えるような症状で始まることもあります 典型的な例では、やがて血便が出だし、さらに鮮血様の血便となります。数日から2週間以内にHUS(溶血性尿毒症症候群)やTTP(血栓性血小板減少性紫斑病)、さらに痙攣や意識障害など脳症を呈する例もあります。

 腸管出血性大腸菌は、A群赤痢(血清型1)が産生する志賀毒素と同一の1型ベロ毒素(VT1;Stx1)あるいはこれと約60%の相同性のあるVT2(Stx2)にいずれか一方または両方を産生します。

 VTが細胞に作用すると、60−S rRNAの特定のアデニンが切り出されるため、蛋白合成ができなくなり、細胞は死滅していきます。これが腸管上皮細胞で起こると血便につながり、血中に入ると腎血管内皮細胞や尿細管細胞に作用してHUSなどの重篤な合併症を引き起こすと考えられています。

 一般の大腸菌は健康な人の大腸内に生息し、特に病気を起こすことはありません。しかし一部の大腸菌は下痢を引き起こすことがあります。これらの姿形は一般の大腸菌と区別できませんが、下痢性大腸菌あるいは広義の病原性大腸菌と総称されます。

(O157は、1982年に米国でハンバーガーが原因となった食中毒が契機となって発見された菌で比較的新しい食中毒菌と言えます。)

<HUSの診断治療ガイドライン>

A.支持療法

1:体液管理(1)輸液、(2)透析
2:高血圧に対する治療
    ラシックス、カルシウム拮抗剤
3:輸液 (1)赤血球、(2)血小板
4:脳症に対する治療
    痙攣:ジアゼパム等
    脳浮腫:除水、グリセオール
5:DICに対する治療
     フサン、FOY、レミナロン
     ミラクリッド、アンチトロンビン3
6:中心静脈栄養〜1週間以上の絶食例には考慮

B.特異的治療法

1.血漿交換療法
2.γ-グロブリン製剤
3.抗生剤〜HUSを発症している時期では一般的に使用しない。
4.ハプトグロビン
5.抗血小板剤、血漿輸血、ビタミンE
    プロスタグランジンI2(PGI2)

{日本小児腎臓病学会、抜粋}

[O-157感染治療マニュアル]

1、下痢〜安静、水分補給、輸液〜*止痢剤は使用しない。
*腹痛には、ペンタジンなどを慎重に使用し、スコポラミン系(ブスコパン等)は避ける

2.抗菌剤は原則的に使用可能*できるだけ経口で与薬  3〜5日間。乳酸菌製剤 併用も考える。


添付文書を甘く見るな!
シリーズ:情報を考える

 1994年12月26日に福岡地方裁判所で出された判決は、医師の研鑽(けんさん)義務と注意義務を問うものでした。

 当時60歳だったAさんが、虫歯の治療にさる歯科医院を訪れました。その医院に備え付けの予診録には次の様に記入しました。「特異体質 喘息」、既往歴にも「喘息」と記入し、歯科医にもそう告げました。

 その頃(1990年)の歯科医は、アスピリン喘息の概念、NSAIDs:消炎鎮痛剤がアスピリン喘息を引き起こすこと、アスピリン喘息患者またはその既往歴のある患者には禁忌であることを知りませんでした。

 そのため歯科医は、抜糸した後Aさんに化膿止めとしてケフレックスと麻酔が切れた時の鎮痛剤としてロキソニンを処方しました。Aさんは、帰宅後喘息発作を起こしました。

 駆けつけた内科の医師が着いたときには、すでにAさんの心臓は停止していました。死因は、喘息発作による窒息死でした。で、この歯科医は訴えられ有罪となりました。

 判決では、この歯科医はアスピリン喘息に関する知識の修得という研鑽義務を怠り、患者にアスピリン喘息であるかどうかの問診することを怠り更には、患者の喘息がアスピリン喘息ではないと確定的に診断できない以上‘ロキソニンを与薬してはならない(禁忌)’という注意義務を怠って漫然とロキソニンを与薬したのであるから、注意義務違反の有無は判断するまでもないとされ、遺族らに対し、賠償義務を負うとされたのです。

 当時、アスピリン喘息に関する知識が福岡市内の開業歯科医の間で一般的に定着するに至ってないとの事実が認められたとしても、医師の研鑽義務を軽減するものではないと判断でした。

 今回は、筆者のコメントは省き判決文を掲載するに留めます。
「業務の特殊性から、医師には薬に関する知識を薬の説明書だけでなく、医学文献などあらゆる手段を使って身につける義務や患者への問診義務があり、薬が患者にとって厳禁でないことが確定できない以上、その薬剤を投与してはならない」とし、「当時、ロキソニンの添付文書にはアスピリン喘息についての記載があり、歯科医でもこの病気を知ることは容易であった」と指摘しています 。


<用語辞典>

コーピングスキル

 困難なことをどうにか処理する能力。
 ストレスを過少にも過剰にもなく適切に認知し、完璧でなくても事無きを得る程度の対処法を考えて実行する能力。

 これは特別な能力ではなく、私達は、日々、コーピングスキルを駆使して生活しています。


<医薬トピックス>

友人がいれば、血圧は下がる。

 米国(シカゴ大学)での報告によりますと、高齢者にとって人付き合いを活発にして友人を作ることは、血圧を下げる点で減量(食事療法)や、運動と同様に重要であるとのことです。

 その中で、「孤独」と判定された被験者はその他の背景因子が類似した孤独でない被験者に比べ、血圧値が30ポイント以上も高いと報告されています。この30ポイントの差は重要で、収縮期血圧が120mmHgなら健常ですが、150mmHgになるとステージ1の高血圧に分類され、心筋梗塞と脳卒中リスクが有意に高まります。

 孤独に関連する血圧上昇は、高血圧患者が減量や定期的な運動により得られる降圧と同じくらいの幅で、社会的につながる改善は、ライフスタイルの改善に匹敵する臨床的利益があるとされています。

 高齢者は親友の死、病気あるいは身体不自由などにより交流が断たれることが大多く、孤独を癒し、血圧を下げるために交友関係と社会的につながりの質の改善に何が出来るかを考えていく必要があります。

  出典:メディカル・トリビューン 日付不明


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