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1999年7月15日号 272

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)

緊急安全性情報:パナルジン錠

 

 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は、血小板減少、溶血性貧血、精神神経症状、発熱、腎機能障害の5主徴を呈し、早期に適切な診断・治療が行われない場合には致死率の高い疾患です。

 厚生省医薬安全局安全対策課 平成11年6月30日

 TTPはまれな疾患ですが、適切な処置を執らない場合は、致死率が50%を越えると報告されています。なお塩酸チクロピジン(パナルジン錠とその同一成分薬)の推定使用患者数は年間約 100万人です。

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TTPの臨床上の特徴として、

(1)血小板減少(2)破砕赤血球を認める溶血性貧血(3)精神・神経症状〜動揺の3主徴に    (4)発熱(5)腎機能障害 をあわせて5主徴が挙げられます。

 その発現機序は現時点で不明です。

 TTPの発現が疑われた場合は、直ちに中止し、血液検査(網赤血球、破砕赤血球の同定を含む)によりTTPの確定診断がなされた場合には、早急に血漿交換の処置を行うことが重要と考えられます。

 TTPの治療では、血漿交換の施行の有無により救命率に大きな差が出ることが報告されています。

<初期症状>

・倦怠感、出血(血尿、皮下出血等) 消化器症状(食欲不振) 意識障害(傾眠、不穏)

 塩酸チクロピジンによるTTPについては、海外文献を基に平成7年6月に「海外での重大な副作用」として注意喚起を行いましたが、その後、国内においても同様の症例が報告されたため、平成8年9月に「重大な副作用」の項に記載、更に、平成10年9月に使用上の注意をより詳細に記載する措置を講じてきました。

 しかし、平成10年10月以降にTTPの症例が新たに11例(うち死亡2例)の報告があり(合計22例、うち死亡6例)、副作用報告の増加が見られました。

【警告】

(1)TTP、無顆粒球症、重篤な肝障害等の重大な副作用が主に使用開始後2ヶ月以内に発現している。

(2)使用開始後2ヶ月間は副作用の初期症状の発現に注意し、原則として2週に1回の血球算定、肝機能検査を行い、発現が認められた場合には、服薬を中止し、適切な処置を行うとともに、本剤服薬中は定期的に血液検査を行うこと。

(3)患者の状態から発現が疑われた場合には与薬を中止し、必要に応じて血液像、肝機能検査 の実施および適切な処置を行うこと。

(4)患者にあらかじめ副作用について説明し、初期症状があらわれた場合には、服用を中止し 医師等に連絡するよう患者を指導すること。

 パナルジン錠(塩酸チクロビジン)の重大な副作用

無顆粒球症 重篤な肝障害 TTP

主に開始2ヶ月以内に発現


EBMに向けて

バイアス(最終回)

  筆者がこのシリーズで言いたかったことは、「今までの治験は完璧ではなかった。間違ったデータを基に新薬の適応承認がなされていたこともあった。」ということです。このことは、例えば、慢性脳循環改善の適応症をもつ薬品が今になって適応を削除されてしまったことから明らかです。

 治験の際、効果判定する医師も人間ですから、当然、心理的なバイアスが入ります。その為の二重盲検ですが、その対象群を選ぶ際にもランダム化(無作為抽出、無作為割り付け)が出来ていないと、患者背景が偏りそれがバイアスにつながります。

 データを解析する際にも、バイアスが入っていました。メーカーは効かないとそのデータを発表しませんでしたし、治験中の患者が来なくなると治ったことにしていました。実際には死んだ人もいれば、引っ越した人もいました。それらがすべて統計を狂わせていたのです。

 抗癌剤などでは、癌細胞の縮小で効果を判定しているため、癌細胞が縮小して患者が死んでも効果ありと判定されていました。(エンドポイントの設定の誤り)

 今までのやり方は、データを持ってきて何でもいいから優位差をつけて欲しいというものでした。これは最初から優位な結果にしたいというバイアスが入っています

 統計解析の目的は有意であるかどうかを調べることで有意にするために統計解析を行うわけでありません。

 データにはありとあらゆる統計解析手法を適用して、また気にくわないデータは適当に捨てて優位に成った結果のみを採用したのでは、いくらでも自分に都合の良い結果を創ることができることは、前にも述べました。

 このようなバイアスを避けるためには、データを見る前に試験計画書に解析方法を明記しておく必要があります。今、EBM、そして大規模臨床試験が急にクローズアップされていますが、これらは、バイアスをできる限り排除された統計データをつくり、そのデータを証拠(エビデンス)として臨床に応用しようというものです。

 何をもって薬が効いたとするのか(エンドポイント)、効果判定の基準すら定まっていなかったのが日本での治験だったのです。


<ワンポイントお薬メモ>

高齢者に制限量がある薬剤

サイレース錠  1回1mgまで

          (1錠:1mg)

ソラナックス錠 1.2mgまで

          (1錠:0.4mg)

デパス錠    1.5mgまで

          (1錠:0.5mg)

ハルシオン錠 通常1錠まで

(1錠:0.125mg、最大2錠まで)

リスミー錠    2mgまで

         (1錠:2mg)


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PRO:patient-reported outcomes

〜〜不定愁訴での位置づけ〜〜

2010年3月15日号 No.517

 医療でのアウトカムとは、提供された医療が患者に対してもたらす最終的な結果のことです。急速に進む高齢化と医学の進歩により、慢性疾患の割合が増加し、患者のQOLの向上が治療の目的とされるようになりました。

 また、患者中心の医療が進み、医療の受けてである患者にQOLに対する意識が高まったことから、死亡率や検査値などの客観的指標以外に患者の視点に基づく評価指標を重視するアウトカム研究が急速な広がりを見せています。

 患者の主観的な指標がPROすなわち患者立脚型アウトカムです。

 PROは患者が報告するアウトカム全般を指し、症状・QOL・患者満足度などが含まれます。なかでもQOLはわが国でも広く活用されているPROです。

 本来、QOLの概念はあいまいで広範な領域を含んでいますが、医療の評価を目的としたとき、QOLは「身体機能」、「精神状態」、「日常役割機能の制限」など健康に由来する要素に限定した健康関連QOLとして定義づけられます。

 不定愁訴と関連が深いと思われる愁訴として、頭痛、胸痛、腰痛、下肢の痛みやしびれ、視覚症状、アレルギー症状、消化器症状、排尿関連症状、睡眠障害などが挙げられます。

<PROの活用法>

1.PROは患者の状態を評価できるだけではなく、将来の患者の値用反応性や予後の予測因子でもある。
2.不定愁訴患者をPROを用いて評価することは、診療現場において患者とのコミュニケーション向上にもつながる。
3.不定愁訴の背景には、うつなどの精神疾患が潜在していることがあり、PROはこれらの見つけにくい病態のスクリーニングツールとしても活用できる。

*近年、患者のQOLを医療提供者と患者が共有することによって、患者満足度や医療提供者への信頼度が上がり、医師と患者とのコミュニケーション・ツールとしての役割も期待できます。

 *PROを何に活かせるか

1.治療効果の評価指標として
2.疾患(症状)の患者・社会の負担を定着化
3.PROに影響する要因の同定
4.将来のアウトカムの予測因子として
5.疾患・疾病のスクリーニング・ツールとして
6.弛緩と医療者が協同して治療選択肢を決定する際の情報源として
7.診療場面での活用:PROを検査値のように活用できる可能性

<スクリーニング・ツールの活用>

 スクリーニング・ツールで評価される代表的な疾患として、「うつ」があります。近年、日本でも患者のうつ傾向を2問で評価する方法を用いて産後の抑うつ傾向の診断可能性を検討する研究も行われています。

 他の疾患のでは、睡眠時呼吸障害は、重症化すると合併症や交通事故などのリスクが上昇すると言われていますが、診断や治療されている人は、多くありません。最近、睡眠時呼吸障害を4項目で診断できるツールが開発され、活用が期待されています。

 その他にも、腰部脊椎管狭窄症を他の疾患の鑑別するツール、片頭痛の診断が可能なツールも開発されています。
 様々なツールを利用することで、患者の不定愁訴に直面したときに何をすべきかの判断が可能となり、効果的な活用が期待できます。

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MUS:medically unexplained symptoms

 MUSとは何らかの身体疾患が存在するかと思わせる症状が認められるが、適切な探索を行っても、その原因となる疾患が見出せない病像のことです。(医学的に説明困難な身体症状)

 身体症状を伴う精神疾患の見逃しを避けるために、MUSに遭遇した場合には、患者の精神心理状態の評価を行う必要があります。また、検査に異常がないというだけで「心因性」と決めつけると、隠れた身体症状を見逃す可能性が出てきます。

 身体表現性障害は、MUSスペクトラムのなかでは最重症型であり、身体症状への執着が非常に強い、医師の保証に容易に納得しないなどの難しい特性を持っています。

 MUS患者の治療で最も重要なのは、良好な医師-患者関係の構築と維持です。

 日常診療で遭遇するMUSには
1.未知の疾患による身体症状
2.未診断のまま放置されている身体症状
3.詐病および虚偽性障害
4.身体表現性障害

  など多彩な病多甥や疾患が含まれています。

<薬物治療>

 MSUに対する薬物治療は確立されていませんが、抗うつ薬により改善したとする報告が少なからずあります。

 MUSに併存する不安や抑うつの症状にも有効なため、実際の診療では少量のスルピリドやSSRIなど抗うつ剤が処方されることがあります。(保健適応外)、一方、ベンゾジアゼピン系では依存や乱用といった問題が生じるため積極的な使用は勧められません。

 {参考文献}治療 2010.2

 

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