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血液製剤の使用基準が見直し!

アルブミン製剤の適正使用

1999年8月1日号 273

 

「血液製剤の使用指針及び輸血療法の実施に関する指針」の新たに見直しが行われました。

 その概要について、数回に分けて検討してみます。今回はアルブミン製剤の適正使用についてです。

[使用目的]

 血漿膠質浸透圧を維持することにより循環血漿量を確保、および体腔内液や組織間液を血管内に移行させることによって治療抵抗性の重度の浮腫を治療する。

[使用指針(抜粋)]当院では、低張製剤は採用していませんので、その項目については記載していません。

 急性の低蛋白血症に基づく病態、また他の治療法では管理が困難な慢性低蛋白血症による病態に対して一時的な病態の改善を図る

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*難治性の浮腫、肺水腫を伴うネフローゼ症候群

 ネフローゼ症候群などの慢性の病態は、通常アルブミン製剤の適応とはならない。むしろ、アルブミンを使用することによってステロイドなどの治療に抵抗性となることが知られている。ただし急性かつ重症の末梢性浮腫あるいは肺水腫に対しては、利尿薬に加えて短期的に高張アルブミン製剤の使用を必要とする場合がある。

*血行動態が不安定な血液透析時

 血圧の安定が悪い血液透析例では、特に糖尿病を合併している場合や術後などで低アルブミン血症のある患者の場合には、透析に際し低血圧やショックを起こすことがあるため、循環血漿量を増加させる目的で予防的与薬を行うことがある。

*低蛋白血症に起因する肺水腫あるいは著明な浮腫が認められる場合

 術前、術後あるいは経口摂取不能な重症の下痢などによる低蛋白血症が存在し、治療抵抗性の肺水腫あるいは著明な浮腫が認められる場合には、利尿薬とともに高張アルブミン製剤の使用を考慮する。

*難治性腹水を伴う肝硬変あるいは大量の腹水穿刺時

 肝硬変などの慢性の病態による低アルブミン血症は、アルブミン製剤の適応とはならない。肝硬変ではアルブミンの生成が低下しているものの、生体内半減期は代償的に延長している。たとえアルブミンを使用しても血管内に留まらず、血管外に漏出するために血清アルブミン濃度は期待したほどは上昇せず、かえってアルブミンの分解が促進される。ただし、治療抵抗性の腹水に対し、利尿のきっかけを作るために短期的に、あるいは大量(4L以上)の腹水穿刺時に循環血漿量を維持するため、高張アルブミン製剤の投与を必要とする場合がある。

*人工心肺を使用する心臓手術

 人工心肺実施中の血液希釈で起こった高度の低アルブミン血症は、血清アルブミンの喪失によるものではないことから、利尿をはかることにより術後数時間で回復するため補正の必要はない。

[アルブミン製剤の不適切な使用]

*蛋白質源としての栄養補給〜栄養学的な意義はほとんどない。

*脳虚血〜医学的根拠はない。

*単なる血清アルブミン濃度の維持〜検査値の是正のみを目的とした使用は行うべきではない。

*末期患者〜延命効果は明らかにされていない。

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アルブミンの使用は危険?

緊急連載:血液製剤の適正使用 こちらにも関連記事(スターリングの法則)があります。

 1998年7月に英国コクラン研究所から重篤な患者でのアルブミンの投与に関する過去の無作為コントロール試験32報を分析した結果、アルブミンを使用した患者の死亡率の方がアルブミンを使用しなかった患者の死亡率よりも高かったと報告されています。

 本来アルブミンを使用するのは血中のコロイド浸透圧を高め、組織中の体液を血管へ吸引し、循環血漿量の維持や浮腫の改善のためです。

 例えば熱傷のように組織が損傷されている時には直接的な細胞損傷並びに炎症メディエータが原因となり毛細血管の透過性が非常に高くなり、蛋白質や体液が細胞間隙に漏出し循環体液量が減少し浮腫が起こります。

 このような時にアルブミンを使用しますが、重傷の場合には熱傷部分の血管透過性だけではなく全身の血管透過性も高まっているのでアルブミンも漏出してしまい、アルブミンを与薬することは意味をなさなくなります。

{参考文献}ファルマシア 1999.7

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<アルブミン製剤使用上の注意点>

*肺水腫、心不全〜急激に循環血漿量が増加するので、輸注速度を調節し、肺水腫、心不全などの発生に注意する。20%アルブミン製剤50mL(10g)は約200mLの循環血漿量の増加に相当します。

*利尿〜利尿を目的とするときには、利尿薬を併用

*アルブミン合成能の低下〜慢性の病態に対する使用では、特に血清アルブミン濃度が4g/dL以上では合成能が抑制されます。

 

 アルブミン使用量が突出して多い日本は海外から強い批判を浴びたため、1986年に厚生省によって血液製剤の「使用適正化基準」が作られ、一時的に使用量が減りましたがその後また増加傾向にあります。

 現在我が国でのアルブミン使用量は欧米諸国に比べて依然として多く、その原料血漿も国内の献血だけでは間に合わず約75%を輸入に頼っているのが現状です。国際的な原則となっている国内自給の達成のためにも使用適正化の推進が不可欠となっています。

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アルブミン製剤の性状

 アルブミン製剤は、多人数分の血漿をプールして、冷エタノール法により分画された蛋白成分です。

 正常血漿と等張の5%溶液と高張の20%、25%溶液があります。他に含有総蛋白質の80%以上がアルブミンである製剤を加熱人血漿蛋白(PPF)があります。当院で採用しているのは、25%(50ml)製剤のみです。

 これらの製剤はいずれも60℃10時間以上の加熱処理がなされており、肝炎ウイルス(HBV、HCVなど)やHIVなど既知のウイルス性疾患の伝播の危険はほとんどありません。しかし、A型肝炎ウイルス(HAV)、パルボウイルスB19などの不活化は不十分であり、また最近、プリオンの感染の可能性等も検討されるようになってきました。

 アルブミンには膠質浸透圧の調節機能があり、正常血漿の膠質浸透圧のうち80%がアルブミンによって維持されています。また、アルブミン1gは約20mlの水分を保持します。

 アルブミンの生体内貯蔵量は成人男子で約300g(4.6g/kg)で、全体の約40%は血管内に、残りの60%は血管外に分布し、相互に交換しながら平衡状態をたもっています。

 生成は主に肝(0.2g/kg/日)で行われ、この生成はエネルギー摂取量、血中アミノ酸量、ホルモンなどにより調節され、これに血管外アルブミン量、血漿膠質浸透圧などが関与します。

 アルブミンの生成は血管外アルブミン量の低下で亢進し、増加で抑制され、また膠質浸透圧の上昇で生成は抑制されます。その分解は筋肉、皮膚、肝、腎などで行われ、1日の分解率は生体内貯蔵量のほぼ4%です。また生体内でのアルブミンの半減期は約17日です。


アルブミン(エビデンスに基づいた使用)  CLSベーリング社資料 2011.7


非代償性肝硬変での有用性

肝硬変患者ではアルブミンの半減期は延長し、異化率も低下していますが、過剰なアルブミンの使用はイソロイシン欠乏状態を引き起こし、蛋白合成障害やアルブミンの分解が亢進します。また血漿浸透圧の上昇や血清アルブミン濃度が4g/dL以上では、かえってアルブミンの合成が低下します。

さらに適正使用の観点からもアルブミンを漫然と使用すべきではないとされてきました。しかし、欧米では非代償性肝硬変の病態に応じて、日本での保険適応をはるかに超える大量のアルブミン使用が推奨されています。

a,難治性腹水に対する使用

呼吸困難や強い腹部膨満感を訴えるような難治性腹水では腹水穿刺廃液が適応となります。

大量(4L以上)の腹水穿刺時には、循環血漿量の減少による腎障害、低ナトリウム血症などの副作用が約30%に認められます。

この腹水全量廃液時の循環不全(OICD:paracentesisi-induced circulatory)は死亡に関連する合併症で、防止が重要です。4L未満の腹水廃液では生理食塩水静注でこれを回避できますが、それより大量の廃液には1Lあたり8〜10gのアルブミンが有用であると報告されています。

また血漿増量剤との比較ではデキストラン70、polygelineを使用した場合のPICDの発生率は34.4%、37.8%で、アルブミン使用時の18.5%より有意に高率でした。

腹水全量廃液後のアルブミン使用群で腎障害や低ナトリウム血症の発症が少ない傾向にあり、100日間の肝関連合併症の発現が低率で30日間の平均入院医療費も小額であったと報告されています。さらに腹水を伴う肝硬変患者に対する長期間のアルブミン使用が生存率を改善させる報告もあります。

b.肝腎症候群

肝腎症候群(hepatorenal syndrome)は肝硬変の末期、あるいは劇症肝炎などの肝不全状態に発症する急性腎不全をいいますが、機能的な腎前性腎不全で腎臓の組織には器質的、病理学的な変化は見られません。

急激に腎不全症状が進行するT型は不可逆的に進行し、死亡率90%以上で、肝硬変の末期の死因の1つです。強心剤とアルブミンが推奨されています。

ミトドリンとオクテオチドを併用し10〜20g/日のアルブミンを20日間使用した群では、ドーパミンとアルブミンにより優れた治療効果があり、ノルアドレナリンとアルブミンの併用では83%の患者で腎障害の改善がみられています。

T型肝腎症候群でterlipressinとアルブミンの併用群とプラセボとアルブミン使用した臨床試験では、terlipressinとアルブミンの併用群はプラセボ群より有意に血清クレアチニンを低下させ、治療反応群は生存率の改善がみられました。

血液透析やTIPSと同様に対照的な治療ですが、肝移植を待つ患者には有用と思われます。

c.特発製細菌性腹膜炎

非代償性肝硬変に合併する特発製細菌性腹膜炎(spontaneous bacterial peritonitis)も予後が不良な病態です。起因菌は好気性グラム陰性菌が大部分で治療には第3世代セフェムまたはペニシリンです。セフォタキシム単独とセフォタキシムとアルブミンを比較した臨床試験では、アルブミンの併用により肝腎症候群の発症と死亡率低下させることが示されました。この試験では診断後6時間以内に1.5g/kgのアルブミンが使用されました。この使用は米国肝臓学会の腹水治療のガイドラインでも推奨されています。

まとめ

近年のアルブミン治療の臨床研究は、エビデンスから、ICU患者への容量置換にアルブミンは必要ではなく、特に外傷性の脳損傷をもつ患者では使用は避けるべきです。また肝硬変の難治性腹水に対する大量の穿刺廃液にはアルブミン使用が推奨され、肝腎症候群や特発製細菌性腹膜炎では、アルブミンの大量使用の効果が示されています。

急性の重症患者に対するこれまでの臨床研究では、膠質液と比較してアルブミンの優位性を示すものは少ないのですが、アルブミンは回復期にでの肺水腫・浮腫のある高度の低蛋白血症や重症敗血症で有効であることを示す報告もあり、カテゴリーを限定して、アルブミンの有用性を示すことを目的としたトライアルが各国で進行中です。

またアルブミンの各種病態でのレドックス動態が明らかにされてきています。腎不全、糖尿病、外科手術、肝疾患では還元型アルブミンが酸化型アルブミンに変化し、薬物や整理活性体物質との結合能の変化、異化の亢進、ラジカル消去能の低下が生じることが報告されており、大量使用時にはその特性を考慮する必要があると考えられます。

これらのエビデンスを活用し、アルブミン使用の適応となる病体について考慮し、適正使用を推進することが必要です。

 

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