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NSAIDsと高血圧・心臓病患者

2000年5月1日号 290

  プロスタグランジン(以下PG)は血圧を調節するための重要な因子です。NSAIDsにより恒常化されているPGのバランスが混乱を来し、心臓や腎臓に疾患のある患者では、リスクが上昇する可能性があります。

 現在、心疾患や高血圧症などの患者に対して、どのNSAIDsがより安全で有効であるかの統一した見解はありません。

{参考文献}ファルマシア 2000.4

 
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 PG類はホメオスタシスによりバランスが保たれており、個々に異なった作用を示します。

 PGE2やPGI2は炎症反応の際に毛細血管透過性を亢進させることが知られていますが、この作用により降圧効果を発揮します。

 PGE1・E2やPGF2αは利尿作用を有し、特にPGE2は腎のヘンレ上行脚でナトリウムイオンの再吸収を阻害します。

 一方、PGE1は抗利尿ホルモンであるバソプレッシンと拮抗します。また、PGD2は血管抵抗性を減少させ、腎血流量を増大させます。更に、PGはレニン−アンジオテンシンバソプレッシン系に働き、レニンの合成を促進することも確認されています。

 降圧剤を服用している患者がNSAIDsを併用する場合、降圧剤の種類によってNSAIDsの影響も異なってきます。

 インドメタシン、ナイキサンで血圧を3.5〜4.0mmHg程度上昇させますが、アスピリンなどでは減少するかほとんど上昇させません。フェルデン坐薬についてはほとんど上昇させないという報告と、最も上昇させたとの報告に分かれています。

 また、NSAIDsはPG合成阻害によりヘンレ上行脚でナトリウムの再吸収を増加させ、利尿剤の降圧効果を鈍らせます。

 降圧剤のうちβブロッカーは、レニンの合成を減少させる作用がありますが、NSAIDsはこれを増加させるため、NSAIDsにより最も作用を減弱させます。NSAIDsを併用した場合はプラセボ併用に比べ、平均血圧を6.2mmHgも上昇させたと報告されています。

 ACE阻害剤は昇圧性物質であるアンジオテンシンUを減少させることと、PGの合成を刺激するブラジキニンを増加させることで降圧効果を示しますが、NSAIDsの併用により後者の作用が抑制され、減弱するものと考えられます。

 Ca拮抗剤やアンジオテンシンU阻害剤はその作用機序がPGの合成に関わらないため、影響を受けにくいと考えられます。

 心不全患者に対するNSAIDsの使用は特に利尿剤を服用している高齢の患者で注意が必要となります。これはNSAIDsが腎で分泌されるPGE2などの利尿作用を有するPGの合成を阻害するためで、利尿剤により心不全の治療を行っている患者のリスクが上昇します。

 大規模な調査でも、利尿剤を服用している患者にNSAIDsを併用することにより、うっ血性心不全(CHF)の発生率が2倍程度に上昇するとの結果が報告されています。

 高齢でCHFの既往がある例では、特に発生率が高くなりますので、患者状態を十分観察しながら行う必要があると考えられます。

 COX−2選択的阻害剤の場合では、高血圧症患者への使用は非選択的COX阻害剤に比べ、腎のCOX−1を阻害しないためPGのホメオスタシスに影響は少ないものと思われます。

 また、腎性高血圧モデルラットへのCOX−2選択的阻害剤によってMAP(平均動脈圧)が減少したとの報告もあり、心不全や高血圧症などの患者に対して比較的安全ではないかと思われます。しかし、COX−2も腎臓から分泌されることが知られていますので、使用にあたっては十分注意する必要があります。


スターリングの仮説(1)

輸液を勉強する(5)

 人間の身体は金魚鉢のように水だけが入っているわけではありません。人体の中では、水分および構成成分はその組成から3つの分画に分類され、細胞内液、組織間液、循環血漿(脈管液)と呼ばれます。また、組織間液と循環血漿をあわせた成分は細胞外液と呼ばれています。

 体内の水分はこの3分画が互いに連絡しあい、その液量は一定の比率で平衡を保っています。静水圧(末梢毛細血管を流れるときの血圧)と膠質浸透圧(蛋白による浸透圧)の制御を受けながら、細胞膜を通して絶えず行き来しているのです。

 前回、膠質浸透圧のことをスポンジと考えると分かり易いと述べました。繰り返しますと膠質浸透圧は、アルブミンやデキストランなどの高分子物質による浸透圧です。これらは分子量が大きく毛細血管を介して組織間へ移行しないので循環血漿に留まることになります。その結果、組織間の水分を引き戻し、循環血漿中の水分を保持する働きをします。これはスポンジが水分を引き寄せるのと同じです。

 血管壁から電解質や水分は漏れ出しますが血球、蛋白などの大分子は漏れることがありません。したがって、動脈、静脈に関わりなく水分を引き戻す力となる膠質浸透圧が存在します。

 毛細血管の動脈側では液体は濾過される(血管外に排出する)のに、静脈側では吸収が起きます。したがって毛細血管全体では血漿の浸透圧による吸収力が組織液生成に働く濾過圧に比例するため,両者間は平衡に達します。いい換えれば毛細血管で毛細血管圧が高くなると液体は濾過され血管内の血液が濃縮されますが、一方、組織液の方が希釈されるので,その結果浸透圧差が増し,血管内への液体の吸収が起こって平衡に達します。

 逆に毛細管圧が低下すると、組織から液体が浸透圧差により吸収され、組織の蛋白質量が大となり、そのため組織の膠質浸透圧と血漿の浸透圧との差が減少するので毛細管圧に等しくなるまで水の再吸収が行われるのです。以上をスターリングの仮説と言います。(次号に続く)


{添付文書改定のお知らせ}

◎ 静注用人免疫グロブリン製剤の重大な副作用

    該当薬品:献血ベニロンI、献血グロベニンI等

 肺水腫:厚生省医薬品安全局安全対策課長通知:2000.3.29

 これまで、静注用人免疫グロブリン製剤より、「肺水腫」を来したとする症例が8例報告されています。年齢的には小児から高齢者までみられ、また使用目的、与薬量との一定の関係は認められていません。

 発現機序は明らかにはされていませんが、以下のような機序が考えられます。

<考えられる機序>

1.補体の異常活性化や何らかの抗原抗体反応によるアナフィラキシー反応によって、肺の微小血管内皮細胞の障害を起こし、血管透過性が亢進して肺水腫となる。

2.原疾患に肺毛細血管の透過性亢進の病態を持つ患者にIVIGのような蛋白製剤を使用した場合に、肺毛細血管圧が上昇して肺水腫となる場合

3.腎機能不全等の循環不全を起こしている患者に使用した場合に毛細血管圧の上昇が起こり肺水腫となる場合

 いずれも静注用人免疫グロブリン製剤との関連が否定できず、静注用製剤の投与が直接的あるいは間接的原因になっている可能性があることから、重大な副作用の項に追記


  <最新用語辞典>

 リビングウイル:living will

 人生最後のときに備え、患者自らが、急変時の処置についてあらかじめ自分の希望を文書にしたもの。

 advance direciveとも呼ばれる。


ナースプラクティショナー


 医師の指示を受けずに診療行為を行うことができる専門性の高い看護師のこと。アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア等で導入されています。

 日本では、看護師は医師の指示を受けずに診療行為を行ってはならないとされており、ナースプラクティショナーは導入されていません。

なお、厚生労働省が検討している「特定看護師(仮称)」は、医師の指示の元、特定の医療行為(検査、処置、処方)をおこなうというもので、ナースプラクティショナーとは異なります。

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