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味覚異常と薬剤

    1992年11月15日号 No.119

   味覚異常を訴える患者が近年増加しています。味覚異常を起こす年齢層は、59歳代が一番多くなっており、年齢構成人人工比でみると高齢になるにしたがって直線的に増加しています。

 また男女差は2:3で、若い女性の患者も増えています。

 {参考文献}ファルマシア 1992.11

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<味覚異常の原因>

1.食事性亜鉛欠乏症(亜鉛欠乏+特発性) 2.薬の副作用 3.肝、腎、胃腸、甲状腺の疾患、糖尿病、動脈硬化などの全身疾患 4.仮面うつ病、ヒステリー 5.口腔疾患、唾液分泌減少 6.臭覚異常による風味障害 7.味覚神経障害

 このうち薬剤の副作用による味覚異常は全体の1/4で、そのうち血清亜鉛値の低下を示す症例はおよそ1/2です。薬剤により味覚異常を起こすまでの服用期間は長い場合が多く、かつ2つ3つの被疑薬を併用している症例が多くなっています。

 亜鉛キレート化合物は普通、5員環、6員環を作ると安定で、チオール基、カルボキシル基、アミノ基を持っていて5,6員環キレート作る構造式を持っている薬剤は、亜鉛欠乏症を起こす可能性があります。(味を感じる味蕾には亜鉛が豊富に含まれていて亜鉛酵素、すなわち味覚の受容機構に関与するとされています。)

 その他、唾液分泌を抑える薬剤も多く、味覚異常を起こす機序も亜鉛キレートのみが原因でないと推定されています。

<亜鉛欠乏による味覚異常の予防と治療>

 軽症かつ早期のものは食事指導でも回復します。亜鉛の特に多い食物は、牡蠣(100gあたり40〜70mg)ですが、その他、小魚、緑茶、ココア、ごま、アーモンド、海草、玄米、そば、黄粉、卵黄、麩、椎茸など好き嫌いの多い食物に多く含まれるため、最近の若い女性の食事内容では6mgしか摂取されていないとされています。

 また、亜鉛キレート能の強い食品添加物を使用した加工食品を多量摂取すると亜鉛欠乏症になる可能性があります。

 亜鉛内服療法としては硫酸亜鉛100mgを1日3回で有効とされています。

<味覚障害を起こす薬剤>

利尿剤:フルイトラン錠、ラシックス錠、アルダクトンA錠
カルシウム拮抗剤:アダラート、ヘルベッサーR
血管収縮剤:エホチール
鎮吐剤:プリンペラン錠
消化性潰瘍剤:ゲファニール
解熱鎮痛剤:アスピリン、ポンタール、インダシン
抗ヒスタミン剤:ポララミン、ピレチア
抗てんかん剤:アレビアチン、テグレトール錠
抗パーキンソン剤:アーテン錠、メネシット錠
抗不安剤:ジアゼパム、ベンザリン錠、レスミット錠、ハルシオン錠
肝臓疾患用剤:チオラ、タチオン
自律神経用剤:抗コリン剤、ワゴスチッグミン、インデラル
抗生物質:ビクシリン、リラシリン、ダラシンS、バクタ、リンコシン
EB、RFP、SM、PAS、IDU、ファンギゾン、フルビスタチン
フラジール、サラゾピリン
抗癌剤:アドリアシン、MTX、フトラフール、ヤマフール、UFT、ビンクリスチン
その他:メルカゾール錠、シオゾール、PTU、コルヒチン、サロベール錠

関連項目:微量元素とその欠乏症 / 微量元素欠乏症


{医学・薬学用語辞典}

不斉合成
キラル

    出典:日本病院薬剤師会雑誌 2002.8

 多くの化学物質は、同じ組成でも左右対称の立体構造を持つ分子が存在します。このような分子はキラルと呼ばれ、互いに鏡像関係のある2つの分子をそれぞれ鏡像異性体と呼びます。

 不斉合成とは、このキラルを特殊な触媒(不斉触媒)を使って、目的の化学物質だけを高い純度で効率よく作り分ける化学合成技術です。

 キラルは同一組成であっても化学的な性質が全く異なるなります。例えば、メントール(ハッカの成分)L体のみに良い香りがあり、グルタミン酸は片方に香りや旨味を持つのに対し、もう片方は香りがなく苦い味しかしません。

 人も含めて自然界の生物は体内にある酵素により鏡像体の片方だけを作るのに対し、化合物は普通の合成法では鏡像異性体が同時に合成され、必要な方だけの分離コストがかさんでいました。

 ノーベル賞を受賞した野依教授が開発した不斉合成用の触媒は分子の判別機能を有し、その形を見分けてキラルの片方だけを作るナノテクを応用したもので、化学合成のプロセスに革新をもたらしました。

光学異性体

 異性体には構造異性と立体異性があります。構造異性には鏡像異性(キラル)、位置異性、官能基などがあり、立体異性には配座異性、幾何異性、光学異性があります。

D-アミノ酸

D-アミノ酸は光学異性体の1つです。

 普通、アミノ酸というとL型のアミノ酸のことですが、アミノ酸には鏡像型のD-アミノ酸が存在することが分かったのは最近のことです。

 生体内での役割が明確になってきたD-アミノ酸の例として、D-アスパラギン酸とD-セリンがあります。D-アスパラギン酸は松果体でメラトニンの合成分泌を抑制し、精巣ではテストステロンの合成・分泌を促進しています。またD-セリンは、中枢神経系でのNMDA受容体のグリシン結合部位での内因性結合物質として神経伝達の調節が関与していることが明らかになっています。

<統合失調症D-セリンの関係>

 NMDA受容体アンタゴニストやNMDA受容体発現減少により統合失調症様症状が誘発されることから、統合失調症患者の有症期では、D-セリン濃度が減少している可能性、もしくはDAOの大脳での発現や活性が相対的に亢進している可能性が考えられます。

                             DOA:D-アミノ酸酸化酵素:D-amino acid oxidase

         出典:ファルマシア 2005.9


ethical OTC

ethical;エシカル:処方せんなしでは販売できない薬という意味。
OTC:over the counter 薬局で販売されている薬(処方箋は不要)

スイッチOTC:今まで病院で使われていた薬(処方箋必要)が処方箋不要の市販薬になったもの。

Ethicalとは、倫理の意味でethical drugsとはこのことから、専門性、職能性の高い医薬品ということになり、医師の使用する医薬品(処方箋薬)と同義です。

ethical OTCとは、専門性の高いOTCで、職能によって誠意を持って説明され提供されるものであり、社会性と倫理性が背景にある医薬品ということです。薬剤師の学識と見識によって初めて正しく提供されることができる大衆薬と定義付けされています。

ダイレクトOTC

全く新しい成分(新規成分)を含有している新一般医薬品のこと。

普通、第1に医療用医薬として、次いで一般用医薬品(OTC)としてスイッチされますが。逆に初めから一般用医薬品(OTC)向けとして申請される場合をダイレクトOTCと言います。最近ではミノキシジル(リアップ)など。


    出典:薬局 2003.8 等

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