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1999年5月15日号268

ステロイド剤の新しい事実

    <<記事の要旨>>

 ステロイド剤は、体内に貯留しやすく、また、過剰となった変成コレステロールは動脈硬化、加齢促進、発癌などをもたらす危険性がある。

 ステロイド剤を長期間使用していると減量する困難さにまず出会います。また、使用を続けていると反って悪化する症例もあります。これらのメカニズムに関する新しい事実と概念が提唱されています。

{参考文献}治療 1999.4  新潟大学医学部教授 安保 徹

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 ステロイドホルモンは、抗炎症作用を示しますが、徐々に体内に停滞して酸化コレステロールに変成しさらに酸化物質として交感神経を刺激し血流障害と顆粒球増多を起こし、組織を障害<起炎作用>するという経路が発見されました。

 ステロイドホルモン剤によって、骨髄で産生が増加した顆粒球は数だけでなく機能的にも活性化します。顆粒球は、骨髄→末梢血→粘膜という経過を約2日かけてたどり寿命を終えます。

 生体の粘膜には常在菌がいて、この菌の刺激によって活性酸素が放出されます。適度の顆粒球の死滅は適度な粘膜上皮の再生を促すものと思われます。しかし、過剰な顆粒球の死滅は、その放出する活性酸素によって潰瘍形成を引き起こします。いわゆるステロイド潰瘍です。また慢性的な顆粒球の死滅の促進は、粘膜上皮再生を刺激し続け、ついには発癌をもたらします。

 生理的な副腎皮質から分泌されるステロイドは早朝の覚醒前に大きなうねりとなって分泌されています。この刺激によって生体は覚醒され、交感神経優位の体調になり日中の活動が保証されています。また、緊急のストレスに対してもステロイドホルモンが分泌されます。この他には、妊娠時の胎児の胎盤からエストロゲンとともにステロイドホルモンが分泌され、母子をストレスから守ってくれています。

 ステロイドには、極めて強い免疫抑制作用があります。しかし、これは2大白血球のうちリンパ球に対する抑制作用であり、顆粒球の方は数、機能とも活性化されています。とくに連続使用したときにこの傾向は著しくなっています。(注射、内服、外用でもこれらは変わりません)

 与薬されたステロイドホルモン剤の一部は生理的に分泌されたものと同様に尿から排泄されますがこの排泄には限界があります。ほとんどの与薬されたステロイドホルモン剤は体内に停滞し、酸化コレステロールへと変成して行くものと考えられます。

 この酸化コレステロールは酸化剤として生体局所および生体すべてを交感神経緊張状態にします。そして、血流障害と顆粒球増多を招きステロイド潰瘍などの組織破壊を引き起こします。

  酸化コレステロールは他のコレステロール代謝産物と同じように胆汁酸として肝から排泄されます。しかし、これにも生理的濃度を超えた量では排泄に限界があり、胆汁は胆汁酸とビリルビンからなりますがこれには大きな意味があります。胆汁酸の強い酸化作用(酸化コレステロール)をビリルビンの還元作用(酸素を奪うヘモグロビン以来の作用)で中和しているからです。

 黄疸になって胆汁酸がビリルビンから分離すると生体に激しい酸化作用を発揮します。そして、交感神経を刺激し頻脈や血流障害、顆粒球増多による組織破壊が来ます。これが黄疸の本体です。

 一方、胆汁酸として体外に排泄することに失敗した、つまり生体に残った酸化コレステロールは組織に沈着し、動脈硬化の形成、加齢促進、発癌などの原因となり得ます。

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<一口メモ>

 ステロイド離脱症状

 ステロイドの急な中止や漸減中に惹起され、その主な症状は、食欲不振、眠気、悪心、嘔吐、体重減少、表皮剥離、頭痛、発熱、関節痛、筋肉痛など。

 通常は放置しますが、症状が強い場合には再与薬によって症状の改善をはかります。


交互作用

バイアス(4)  

前号では、交絡を取り上げました。復習しますと第3の因子が、2つの因子の両方に関連して、見かけ上の関連を生じさせる現象のことです。前回の場合では両方の群で年齢を合わせた上でデータを比較しなおせば良いのです。これを調整解析といいます。

 交絡と混同しやすい概念に交互作用(interaction)があります。薬の相互作用とよく似た概念です。相互作用とはAという薬剤の効果が、Bという薬剤を飲んでいるか否かによって異なる場合を言います。交互作用とはもう少し広い概念で、層ごとに薬剤の効果が異なる現象をいいます。

 例えば、ノルバデックス錠ですが、この薬剤の効果は癌細胞がエストロジェン・レセプターを持っているかどうかによって異なり、持っていなければ効果は期待できません。このようなときエストロジェン・レセプターとノルバデックス錠には交互作用があるといいます。

  交絡について解析する意義は、比較の妥当性、すなわちinternal validityを評価することにありました。これに対し、交互作用について解析する意義は、一般化可能性、すなわちexternal validityを検討することにあります。

 新薬を開発する場合、なるべく広い患者集団に有効な薬剤が望ましいわけですが、実際には薬剤の効果は、患者背景によって異なり一様ではないかもしれません。

 交互作用が存在して、一部の患者集団にしか薬剤が効かないのであれば、残念ながら適応を限定しなくてはなりません。逆に交互作用について検討して、無いと分かれば、薬剤の効果はどの患者集団でも一様であり、この薬剤が広い集団に対して効果がある、すなわち一般化可能性を示唆することになります。

{参考文献}月刊薬事 1998.2


骨頭無菌性壊死

原因薬剤:ステロイド剤

<症状>

 大腿骨壊死の場合、初期症状の大半は歩行時や起立時の股関節付近の疼痛ですが、必ずしも股関節が初発というわけでなく、腰痛、膝痛、臀部痛、大腿部前面部痛などを初期症状とすることも多く、腰椎椎間板ヘルニア等の腰椎に関連する疾患と誤診されることも少なくないと報告されています。

 大腿骨以外の部位に骨壊死の合併症をみる例が10〜20%あり、その部位は、大腿骨遠位端、上腕骨頭、脛骨近位端、手舟状骨、上腕骨小頭、距骨などがあります。

患者用:歩くときや立ち上がる時の股関節付近の痛み、腰の痛み、膝の痛み、臀部の痛み、太もも前面の痛み

<発現頻度>

原疾患 SLE:5〜6%
腎移植:20%前後〜他の疾患に比較して最も高頻度
ネフローゼ症候群:1.8%〜7.3%

<機序>

 本症の発症機序は未だに十分に解明されていません。特発性では荷重との関連も考えられていますが、ステロイド性では多発性であり、骨髄内栄養血管の終末部位に一致する傾向があることから、むしろ脈管系の障害が考えられています。

 大腿骨頭部は栄養血管に乏しく、なんらかの血行障害により容易に血流が低下します。成因として骨髄内の脂肪細胞増加、脂肪栓塞による循環障害や骨髄内圧上昇など、ステロイド剤による脂肪代謝障害の関与が考えられてきましたが、明確でないと報告されていまする。

<好発時期>

 骨壊死出現例では、ステロイド開始後3ヶ月ですでに骨壊死所見が出現しますが、6ヶ月以内に出現しない症例ではその後の新たな出現がありません。

 年齢別発生頻度は、20〜40歳代に集中し、40歳代に発生ピークがある特発性骨壊死群に比べ、より若年層に発生します。

 用いられる糖質のステロイドの種類とは特に関係がなく、むしろ用量(特に初回量;プレドニン60mg/日異常)と密接に関係しているという報告があります。一方、大量かつ長期間服用しても全くその傾向を認めない例もあり、なんらかの固体差が関与しているとの指摘もあります。

<治療法>

 壊死域が小範囲な場合には運動を禁止し、日常生活動作では、中腰で物を持つなどの動作を避けるように指示します。

 保存的治療として、免荷を主体とし、NSAIDsを用いる、理想的には6ヶ月にわたる安静、臥床が必要とされます。しかし、安静、臥床を保っていた患者でも、大腿骨頭の破壊が進行することがあり、保存的治療のみで十分な効果が得られない症例も少なくありません。

 外科的治療は、初期に骨髄に穴をあける減圧術、骨きり術、人工骨頭置換術、人工関節置換術などが行われています。

 股関節の運動障害は初期には内旋と外転のみですが、やがてあらゆる方向への運動が制限され、歩行困難となります。ここまで進行すると人工骨頭への置換手術以外に方法はありません、初期であれば人工骨頭以外の治療法の選択や、病態の進行を阻止する手段を考慮できるので、早期診断が重要です。

 また原因薬剤となる副腎皮質ステロイド剤を自己判断で突然休薬することの危険性についても併せて説明し、必ず主治医の指示に従うよう指導します。

<予防>

 本症発症のおそれのある症例には1〜2ヶ月間隔でX線撮影を行い、必要に応じて骨シンチグラムやMRI検査、骨生検で追跡調査をする必要があります。

出典:重大な副作用回避のための服薬指導情報集(1)薬事時報社


骨粗鬆症      関連項目 大豆イソフラボンと骨粗鬆症

 ステロイド骨粗鬆症は、グルココルチコイド作用の長期にわたる過剰により骨吸収の亢進と骨形成の低下を生じ、著明な骨量減少を来たす。二次性骨粗鬆症の中では最も多く、また骨量減少も高度です。長期服用により7.5〜10mgのプレドニンでも骨量の減少が認められます。

 40歳を過ぎた女性では骨吸収量の方が常に骨形成量よりも多くなります。特に閉経後の女性ではエストロゲンの欠乏より骨吸収が亢進し、高代謝回転型骨粗鬆症を呈し、骨密度は急速に減少します。

 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)では骨吸収も骨形成も亢進し、1回の骨のリモデリングに要する時間も100日ほどに短縮しています。しかも骨吸収が起こった分だけの骨形成は起こらず、骨密度は急速に減少していきます。

 甲状腺機能低下症では、1回の骨のリモデリングに要する時間が600日ほどに延長しており、骨吸収される量よりも骨形成される量の方が大きいので、骨密度は一過性に増加します。しかし、骨のリモデリングは定常状態に入るので、骨密度は正常人とほぼ等しくなっています。
 
 70歳以上の高齢男女にみられる老人性骨粗鬆症は、主に加齢に伴う骨形成の低下を反映し、一般に低代謝回転型の骨減少を呈します。

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骨リモデリング(骨代謝)

 骨は硬い物質に見えますが、皮膚と同じように絶えず壊されては作られ、常に新陳代謝を繰り返しています。古くなった骨は「破骨細胞」によって溶解され(骨吸収)、「骨芽細胞」によって新しく作られます。(骨形成)。骨吸収、骨形成による骨の新陳代謝を骨代謝→骨リモデリングといいます。


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GIO:glucocorticoid-induced osteoporosis
ステロイド骨粗鬆症

2004年11月15日号 No.395

 GIOは続発性骨粗鬆症の中で最も多く、糖質コルチコイド服用中の患者の約30〜50%に合併していると推測されています。最近、原病はコントロールできたにもかかわらず、骨粗鬆症と骨折を惹起し、社会復帰ができないケースが憂慮されています。

 これまでGIOに対する関心は極めて薄かったのですが、近年のビスフォスフェート製剤の臨床応用に伴い、GIOを予防・治療することがある程度可能となってきたことから、この重篤な副作用に対する適切な理解と対応が求められます。

 GIOの大きな特徴は、骨量減少が2相性であり、治療開始直後の減少が著明である点と、同じ骨密度でも、原発性骨粗鬆症と比較すると、GIOの方がはるかに骨折率が高く、高い骨塩量でも骨折を起こしやすい点です。

 骨量の減少はステロイド剤(以下GC)治療開始6ヶ月後に著明に進み、以後徐々に進行する2相性のパターンを示します。

 GCの骨への影響はGC総使用量と使用期間の療法に依存するため、1日平均量が骨量定価の目安となります。

 これまでプレドニゾロン換算で、1日あたり7.5〜10mgのGCを3〜6ヶ月使用した場合、GIO発症の危険性が高まるとされていましたが、生理量と思われる1日5mgの長期使用でも骨折の危険が増すことが示されており、早期にGIOの予防あるいは治療を開始することが勧められています。

 閉経後のGIO患者では、骨密度が低下が1SD未満でも、椎体骨折の危険率は3.2〜12.3倍程度に高まると報告されています。これは原発性骨粗鬆症では比較的保たれている縦の骨梁が、GIOでは脆弱化し、重量に抗する力が弱くなるためと考えられています。

 GIOでは、服用開始直後十数パーセントという急激な骨密度減少が起こり得ることと、同じ骨密度でも閉経後骨粗鬆症と比べると、はるかに骨折が起こりやすいことを考慮して、欧米ではGIOに関し、厳しい基準が設けられています。

 米国リウマチ学会はGIOと骨折を積極的に予防するために1996年にGIO治療ガイドラインを発表しています。それによりますと、プレドニゾロン(5mg以上)を3ヶ月以上服用する見込みのすべての患者を対象として、骨量減少と骨折を予防するために、Ca、ビタミンD3、性腺ホルモンの欠乏があればその補充を行い、骨密度が低下している患者では、加えて、ビスフォスフェート(BP)製剤、BP製剤が使用できないときは、カルシトニン(日本では未認可)が勧められています。

 日本でも骨代謝学会にステロイド骨粗鬆症診断基準検討小委員会が組織され、日本でのGIO診断と治療に関する基準の作成にあたっています。

 BP製剤は、ダイドロネル錠(第1世代)、フォサマック錠(第2世代)等のことで、骨吸収抑制作用を持ちます。原発性骨粗鬆症だけでなく、GIOの予防と治療に効果が示されています。

 また、今後、骨代謝への影響の少ないステロイドの開発とともに、選択的エストロゲン受容体調節薬(SERMs)が閉経後骨粗鬆症に使用可能となっており、GIOでの検討が待たれています。

 GIOの発症機序として、ステロイド剤の骨粗鬆症指揮に対する直接的な作用と、ステロイド使用に伴う二次性副甲状腺機能亢進症や、下垂体からのホルモン分泌を抑制することを介した間接的な作用が考えられていますが、副甲状腺ホルモン作用では説明できない点も多く、最近では、骨形成に関する直接作用が最も重要であろうと認識されています。

          {参考文献}日本病院薬剤師会雑誌 2004.11


医学・薬学用語解説(Q) QOLの測定法はこちらです。


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2006年3月15日号  No.425

ステロイド性骨粗鬆症の予防と治療

   ====管理と治療のガイドライン====

 これまでステロイドによる骨量減少とそれに続く骨粗鬆症や骨折などについては十分な対処が出来ていないのが現実でした。これは骨量減少が起こっても骨折を起こさない限り「痛み」などの自覚症状がないため、患者自身が気がつきにくく訴えに成りにくいこと、対処の必要があっても骨量を十分に増加できる有効な治療薬が無かったことなどが理由にあげられます。

 近年、骨粗鬆症治療薬も骨量を十分増加させる薬剤が開発され、これらの薬剤のステロイド性骨粗鬆症への治療も試みられ、日本でもガイドラインが策定されつつあります。

{参考文献}日本病院薬剤師会雑誌 2006.3
      藤田保健衛生大学医学部臨床検査部 田中 郁子

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 ステロイドの副作用頻度と言う観点から見ると骨粗鬆症が最も多いことが報告されています。
 多くの疾患にステロイドが用いられていることから考えると、ステロイドによって原疾患が良くなったとしても、骨粗鬆症・骨折の為にQOLが著しく低下するようなことの無いように、ステロイド骨粗鬆症を念頭に置き、対処すべきと思われます

<ステロイドの使用量と期間>

 *経口ステロイドを3ヶ月以上使用する場合にはその量に関わらず注意が必要です。

 日本人対象の研究で、プレドニゾロン換算
4mg/日以下のでもその後2年間の骨折発症率は10%を超えることが示されています。

 使用期間では、骨折リスクがステロイド使用後3〜6ヶ月に最大になるとのエビデンスがあります。

<骨塩量>

 骨折を起こしやすくなる骨塩量域値は原発性骨粗鬆症と同等ではないことが示されました。
 ステロイド性骨粗鬆症では原発性骨粗鬆症に比べて高い骨塩量でも骨折を惹起し、その骨塩量はYAM80%程度であると考えられています。

 ステロイド性骨粗鬆症では、高い骨塩量でも骨折を起こすということは、骨強度が骨塩量だけで規定されるものではなく、骨質も重要であることを意味します。現在はこの「骨質」を測定するツールが無いため、その評価を行うことは出来ません。

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ステロイド性骨粗鬆症管理と治療のガイドライン

経口ステロイドを3ヶ月以上使用中(使用予定)
      ↓
既存脆弱性骨折あるいは治療中新規骨折
      ↓       ↓
      なし    | あり→治療
      ↓     |   
  骨密度YAM≧80%   | 80%以下→治療
    ↓       |
 プレドニゾロン換算<5mg/日| ≧5mg/日→治療
    ↓       |
  経過観察

<治療>

・第1選択薬〜ビスフォスフォネート製剤
  (アクトネル錠、フォサマック錠、ダイドロネル錠)

・第2選択薬(妊婦等)〜グラケー


<NST関連用語解説>  SGA:subjective global assessment(2)はこちらです。


ステロイドを考えるシリーズ

このシリーズは、新潟大学医学部医動物学の安保徹教授が「治療」に1999年から2000年にかけてに連載されておられたものを再構成したものです。

霜焼けは冷やせば治るか?  
難治化の原因はステロイド  
顆粒球と炎症の関係  
膠原病とステロイド  
RAとステロイド  
なぜアトピーが子供に多く起こるのか?  
時代と病気  
GIO:ステロイド骨粗鬆症  
ステロイド性骨粗鬆症の予防と治療
(管理と治療のガイドライン)
 

 

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