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Torsadesdepointes

昭和63年2月15日号 N0.16

     torsades de pointesは、1996年に提唱された心室性頻拍の一種で、心電図上QRS軸が等電線を中心に5〜22拍毎に“Twist"することから名付けられました。

 この不整脈は、QT時間の延長や電解質異常、虚血性心疾患、心筋炎、徐脈、中枢神経疾患などに伴う病態、また、抗不整脈剤、血管拡張剤、向精神薬などの薬剤によってしば見られ、原因疾患及び治療法に特徴があることから、近年注目されています。

 その電気生理学的発生機序としては、心室内の2カ所に刺激生成のfocusが存在する説と心室内を移動するfocusが存在する説があります。

 治療法としては、原因疾患の治療及び原因薬剤の中止の他、一時ペーシングやイソプロテレノールにより心拍数を増加させる方法やQT時間に変化を与え難いリドカインの使用が有効とされています。


2000年追記

トルサド・ド・ポアン:Tdp
トルサード ド ポアント :トルサードとは英語で「トルネード:ねじれ」のこと。
                〜心電図の基線を中心にねじれた形に見える。

 不整脈は臨床的に徐脈性不整脈と頻脈性不整脈とに大別されますが、心室性頻拍は頻脈性不整脈に分類されています。Tdpは心室性頻拍の特殊型であり、心臓のポンプ機能を高度に低下させ、アダムス−ストークス発作や心室粗細動へ移行し突然死を招くことがある予後不良の不整脈です。

 原因は、先天的QT延長症候群や、T波やU波異常を伴う低カリウム血症等の電解質異常などが挙げられています。また抗不整脈薬(クラスTa)あるいはフェノチアジン系や三・四環系抗うつ薬といった向精神薬等によりQT延長を起こし、TdPに至ることもあります。

 臨床症状としては、嘔吐や胸部圧迫感、苦悶表情、失神がみられます。

 治療法は、薬剤により生じたQT延長では全薬剤を中止し、必要に応じ体外式ペースメーカーを挿入います。また、ヘルベッサーや硫酸マグネシウム等が有効であったとの報告があります。

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 TdPは英語では“Twisting around (of) the point”で、その語の示す通り、基線を中心に幅広いQRScomplexがねじれながら続いているような心電図波形です。この状態では洞調律(洞房結節のペースメーカーにより心臓が正常な調律を保っている状態)は失われるため、心拍出はほとんどなくなり、失神を起こします。TdPから自然に洞調律に戻る場合もありますが、カルディオバージョンなどによる処置が必要となる場合も多く、放置すれば死に至ることも多い致死性の不整脈です。TdPの成因についてはいまだに不明な点も多く、心筋の不均一な再分極が原因であるという説と、早期後脱分極によるという説が有力です。

 いずれにしても心筋の再分極過程が深く関係していることは間違いなく、その危険性はQT間隔の延長と密接な関係にあるといわれています。ただし、ある一定のQT間隔になればTdPが発生するという閾値のようなものがあるわけではありません。

出典:月刊薬時 3月臨時増刊号


催不整脈(抗不整脈剤による)

出典:重大な副作用回避のための服薬指導情報集:薬事時報社

「めまい、動悸、胸が痛む、胸部の不快感、脈が跳ぶような感じ」

「意識障害、失神」

心室細動(VF)、心室頻拍(VT)、torsadesdepointes(Tdp)などの重症不整脈が発生した場合は、心肺蘇生などの処置が緊急に必要となることが分かるように指導します。

出きるだけ家族、友人などに予め不整脈治療を受けていることを知らせて必要な対処処置方法を相談しておくことが重要です。

重症不整脈が発見した場合の蘇生率はきわめて低く、発現予防を第一に考える必要があります。

抗不整脈剤を使用する場合は、開始および用量変更後1〜2週間は入院して心電図モニター監視下での使用が望まれます。

特に心不全、虚血心などの基礎疾患を有する患者に抗不整脈剤を使用する場合は、厳重な注意が必要です。

また、薬物血中濃度に影響を与える諸因子(加齢、腎機能低下、肝機能低下、心機能低下、併用薬物相互作用など)にも細心の注意が必要です。

<症状>

VF、VT、Tdpなどは、めまい、意識消失、失神などを初期症状とし、数分以内に心停止をきたし死に至る場合があります。房室ブロックなどの刺激伝導障害はふらつき、失神などの症状があらわれます。

<好発時期>

特に抗不整脈剤の服用開始または用量変更の2週間以内(平均4〜5日)に起こりやすい事が知られています。しかし、危険な数日間を経過した後でも、治療期間中いつでも起こりうることもCASTで明らかにされています。

<転帰>

米国では、心臓急死の80〜90%はVFやVTの心室性頻脈不整脈と考えられています。
その蘇生可能例は20〜30%ですが、1年以内に30〜40%は再発すると報告されています。

<機序>

頻拍性不整脈の誘発は、1)リエントリー形成、2)早期後脱分極(EAD)によるtriggeredactive(TA)、3)後期後脱分極(DAD)によるTAの形成のいずれかによると思われます。

徐拍性不整脈の誘発は、Na、K、Caチャンネルの制御が過度に生じたことによる興奮の生成低下、伝導抑制と考えられます。

<治療>

1)原因薬剤の中止、2)VFおよびVTに体s手は電気的除細動と心肺蘇生、3)Tdp型VTには硫酸Mgの静注、4)リドカインやプロカインアミドの静注によるVF再発の防止、5)ジギタリス中毒による難治性VFにはフェニトインの静注、6)徐脈性不整脈には一時的ペーシングおよびアトロピン、イソプロテレノールを用います。

* 基礎心疾患(重症の心疾患)がない場合の発生頻度は、非常に少ないと考えられます。

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ジギタリス剤による不整脈

 ジギタリス剤投与中の患者に不整脈が出現した場合、用量の不足によるものか、副作用によるものか判別する必要があります。

 ジゴキシン血中濃度測定(投与6〜8時間後の測定で1.6μg/L以上では中毒0.8μg/L以下では他の原因が考えられます。

 腎機能検査(クレアチニンクレアランス低下はジゴキシンの体内蓄積増加)を参考にするとともに、自覚症状(悪心、嘔吐、下痢、霧視)もチェックして判断します。

 軽度過量時に見られる心電図変化

・P-P間隔延長(心拍数60/分以下の洞徐脈)

・高頻度に反復する巾広いP波(250〜350/分は心房粗動。心房細動といわれる350〜600/分の速いレートのPの患者の場合はQRSのレートの低下)

・P−R間隔延長(0.23秒以上はT度房室ブロック)

・普通よりも早期に見られる巾広いQRSと逆転した異形なT波(心室期外収縮)

・間欠的にP波・QRS波の脱落がある(U度房室ブロック)

有意のジギタリス過量投与時の心電図変化

・心室期外収縮の連発

・P波がQRSの前・QRSの巾の中・ST部分に現れるなどする。(房室接合部補充調律や房室接合部調律)

・P波のレートが140〜220/分でP−R間隔が絶えず変化する(ブロックを伴う発作性頻拍)

* 多剤との併用による相互作用による不整脈

ジゴキシンとアミオダロン、フレカイニド、ジルチアゼム、ベラパミル
ジギトキシンとキニジン

出典:OHPニュース  1999.2


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2001年4月1日号 311

Upstreamapproach

 不整脈薬物治療の最前線

 Upstream approach:上流にさかのぼる療法 〜病気に成る前に原因から治療する療法


 最近、心房細動を中心に研究が進んでいる電気的リモデリングの概念が注目されています。これは心房細動が数分から数時間持続すると、高頻度心房興奮に対する異常順応が心筋細胞・分子レベルで生じますが、これらの変化が機能的に心房筋の不応期の短縮、不均一性の増大をもたらし、心房細動の持続がさらに容易になると言うものです。


 不整脈の薬物治療で電気的リモデリングを抑制する標的が明らかではないため、適切な薬剤選択ができないのが現状です。そのため、実際に起こってしまった不整脈に対する抗不整脈薬治療がDownstreamapproachであるのに対して、病態に対する心臓の順応の破綻を防止して不整脈発生を予防しようとするUpstreamapproachという、不整脈を発生させる病態自体の進行を抑制する治療戦略が提案されています。

 例えば、心筋梗塞例の場合、致死的心室性不整脈予防のために、β遮断剤、ACE阻害剤、アンジオテンシン2受容体拮抗薬の与薬や、早期の血行再建術を行おうとするものです。

 このような治療戦略は、今後の不整脈治療、さらに抗不整脈薬の開発に対しても影響を与えることが予想され、重要と考えられます。

CASTの結果とシシリアン・ガンビット

 1989年の不整脈の大規模試験(
CAST)で予想に反する結果、つまりVW分類1c群薬(タンボコール錠等)が、長期の生命予後を悪化させることが示唆されたことは、不整脈の薬物療法のあり方を変えました。

 その結果の発表後の混乱期の中で、その後の不整脈薬物療法の進むべき道を探ることを目的として、第1回シシリアンガンビット会議が開催されました。その基本概念は、従来の経験的アプローチではなく、個々の不整脈の発症機序を考慮した上での理論的な薬剤選択を行うことです。

 その理論とは、1.不整脈の機序を決定、2.不整脈成立に不可欠な
受攻性因子の同定を行い、3.心筋細胞膜レベルのイオンチャンネル、イオンポンプ、受容体など抗不整脈薬治療の標的を想定、4.この標的に作用する薬物を選択という治療戦略です。

 
リエントリーを機序とする不整脈の受攻性因子は、伝導性と不応期ですが、このタイプの不整脈を停止させるためには、伝導遅延を示す異常心筋の伝導を遮断するか、不応期を延長することが必要となります。

 従って薬理学的に不応期を延長させることによって心房細動の予防、停止が可能となります。不応期を延長させる方法としてはNa+チャネルを遮断する方法とK+チャネルを遮断する方法がありますが、心房細動によく用いられるIa群、Ic群抗不整脈薬はこの両方の作用が組み合わさってその有効性を示します。

 CASTの結果はまた、従来は心筋梗塞後の致死性リエントリー性不整脈を予防するため、伝導抑制を目的として用いられてきた強力なNaチャンネル遮断薬が、催不整脈作用を生じさせる可能性を示しました。こうした結果から、シシリアンガンビット会議では、不応期をターゲットとした心筋の再分極を遅延させる
Kチャンネル遮断薬に期待が寄せられています。

{参考文献}医薬ジャーナル 2001.1 増刊号等

関連項目

CASTシシリアン・ガンビット リエントリー受攻性因子不応期の延長


顆粒球と炎症の関係

ステロイドを考える(3)

 
このシリーズは、新潟大学医学部医動物学の安保徹教授が「治療」に1999年から2000年にかけてに連載されておられたものを再構成したものです。

 よく健康診断や検査で白血球総数や血小板が高いことを知っても、医者も本人もこれらの値が「その人固有の値」と理解しています。しかしこのような理解は不十分でその本人が働き過ぎとか心の悩みがあってストレスにさらされていると理解すべきなのです。

 生活習慣病も食事や栄養のことばかり注意を向けられる可能性がありますが、本当の原因はストレスを引き起こす働き過ぎや心の悩みにあり、これらが続くと交感神経が緊張して顆粒球増、多血小板増多、そして末梢の血流障害はもたらされついにはこれが動脈硬化の促進や組織障害、臓器不全、発癌を誘発していくのです。

 顆粒球は骨髄で造られ、リンパ球は胸腺、腸管、肝、骨髄などで造られています。一方骨髄では単球、血小板、赤血球も造られています。顆粒球とリンパ球の産生が自律神経系の影響によって逆転した支配を受けていることが明らかになっています。つまり、交感神経緊張で顆粒球(主に好中球)増多を示すような体調では常に血小板増多を伴うということです。

 生体は常に合目的反応として、白血球、血小板を必要な数だけ準備しています。つまり、交感神経緊張は多細胞生物が活動を増やし、餌取り行動を行ったり、危険からのがれるための体調であるから、活動に伴って侵入してくる微生物を効率よく処理したり、傷口を速やかに防ぐ必要があります。好中球や血小板を増加させておくことは生物が生き延びるためにの必須の反応だったのでしょう。

 しかし、人間が意識的あるいは無意識的に、過重労働を行ったり深い悩みに直面し、これらが持続する時は、必要以上にあるいは必要がないのに好中球や血小板を多く準備しておくことになります。そして、身体の内部では組織障害、動脈硬化、血栓形成、加齢の促進、発癌などをもたらすことに繋がっていくのです。

 NSAIDsやステロイドホルモンは、顆粒球を活性化します。 腰痛、RA(慢性関節リウマチ)は、顆粒球を主体とした炎症なのです。細菌感染が無く、化膿性の炎症とは異なり組織破壊の炎症となります。NSAIDsやステロイドは一時期抗炎症剤として働きますが、顆粒球の炎症に対しては増悪剤として働きます。