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1996年4月1日号 196

シシリアン・ガンビット

新しい不整脈薬物治療剤のあり方

関連項目:受攻性因子もご覧下さい。

 

 Vaughan Williams分類は、20年間にわたって抗不整脈薬の分類法として広く臨床家に用いられてきましたが、この分類法には幾つかの問題点があることが明らかになってきました。
 この分類法が確立された頃は、現在ほど多くの薬剤がなく、電気生理学的知識も今ほど豊富ではありませんでした。その結果、その後開発された新しい抗不整脈薬が必ずしも、Vaughan Williams分類にあてはめられないものがあることが指摘されてきました。

 新分類法では、特別なグループ分けをしてあるわけでなく、経験的アプローチでは表面的には無視されてしまったり、当然のこととされていることに対して論理的に考え直そうと提案しているにすぎません。
  個々の不整脈についてVaughan Williams分類に則っていては選択からもれてしまう薬剤や、あるいは逆に禁忌とされる薬剤群の中にも使用可能な薬剤があることなども明確になり、臨床的には価値は高いと思われます。

{参考文献}Pharma Medica 1996 No.3

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 新分類表(右図:略)では、チャンネル、受容体、ポンプに対する作用、左室機能、洞調律への影響、心外性の副作用の有無、PQ、QRS、QTなどの心電図上の指標に対する効果を示す欄が設けられています。

 Naチャンネルへの結合解離動態の差から、fast,intermediate,slowに分けられています。次いでCaチャンネル、Kチャンネルへの作用へと続き、さらに洞結節でのペースメーカー電流(If)への作用を挙げているのが特徴です。


 Vaughan Williams分類で挙げられていなかったα受容体、ムスカリン、プリン受容体への作用も含まれています。又、Na/Kポンプへの作用を載せることによりジゴシンをこの表に含めることが可能になっています。この表では、日本では一般的でも海外で使用されていない薬剤は記載されていません。

 Vaughan Williams分類で挙げられていなかったα受容体、ムスカリン、プリン受容体への作用も含まれています。又、Na/Kポンプへの作用を載せることによりジゴシンをこの表に含めることが可能になっています。この表では、日本では、一般的でも海外で使用されていない薬剤は記載されていません。

シシリアン・ガンビットの名称の由来

 1990年、シシリー島で電気生理学者が一同に会し、3日間にわたって今後あるべき抗不整脈脈療法について論議したことに由来します。

 チェスで”クイーンズ・ガンビット”という言葉があり、「序盤での戦略的一手:その後のあらゆる展開を可能とする序盤の妙手」を意味します。

 

関連項目:受攻性因子Vaughan Williams分類


撃発活動(triggered activity)

出典:治療 1997.11  

不整脈の成立機序は、下記のように考えられています。

1.自動能の異常(亢進)、2.撃発活動(triggered activity)、3.リエントリー、4.その他


 そのうち、撃発活動(triggered activity)は不整脈発生機序の中では異常自動能に属します。
 膜電位レベルからは誘発をもたらす早期後脱分極(EAD)と遅延後脱分極(DAD)の2つの後電位があります。前者は活動電位の2相や3相から振動する膜電位で、心拍数が遅いときや活動電位持続時間が延長したときに認められます。

 2相EADはoverdrive pacingで活動電位持続時間が短縮してEADの大きさ減じる意味でoverdrive suppressionを受けます。3相EADの場合は逆にoverdrive enhancementを受ける傾向にあります。

 イオン機序では2相EADはL型Caチャンネルの活性化と脱活性化するK電流の存在が指摘されています。それ以外にNa電流の不活性化の遅延やCa電流の活性化曲線と不活性化曲線の公差によってもたらされるwindow電流によりEADが生じます。

 3相EADではNa電流の活性化によりますが、その際DADとは異なり、Na−Ca交換電流や細胞内Ca負荷は必要としません。これらEADに基づく誘発活動はゆっくりした心拍数の時や長い休止期後の活動期に発生しやすくなっています。その点からは徐脈依存型の頻脈性不整脈の主たる原因でQT延長症候群や抗不整脈薬などに見られる催不整脈で認められます。

 DADは再分極終了後に生じる振動電位で、その発生に関係する電流には細胞内Ca負荷で活性化される非特異的陽イオンチャンネルを通るNa、K、Li、Csですが、陰イオンは通過しません。

 その他Na−Ca交換機構による起電性内向き電流や細胞内Caにより活性化されるCl電流があります。

 いずれの電流も細胞内フリーCaは増加し、この増加にはジギタリス中毒、カテコールアミン過剰や虚血再環流が関与します。また心拍数の増加時に不整脈が誘発されることから、頻拍依存性型の頻拍性不整脈と言えます。


1996年4月1日号 196

{添付文書改訂のお知らせ}


*再審査結果後、下記の薬品で『脳動脈硬化症』の適応が削除されました

 削除理由〜CTで器質的障害のないことを確認した症例であっても、
      MRIにより確定診断を行うと、脳梗塞が多くの症例で認められることから、従来「脳動脈硬化症」と考えられていたものの多くは「脳梗塞後遺症」に含まれるものとされました。

 対象となる薬品(順不同)

 サアミオン、エレン、ペルジピン、トレンタール、ヘキストール
 アバン、カラン、ケタス、ヒデルギン、アデホス、コメリアン
 トリノシン注等
 
 また、これらの薬品の治療効果は脳血管障害そのものではなく、脳血管障害による、脳循環・代謝障害の結果生じると考えられる症状が対象となるため、「慢性脳循環障害による〜」という表現が追加記載されました。

<お知らせ>

1996年4月1日より

 8種類以上の薬品が処方されている場合、その保険点数が10%が一律にカットされます。7種類以内で処方願います。


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働き盛りの突然死

その時期と危険因子   関連項目:子供の突然死

2001年9月15日号 322

 突然死の定義は「それまで就労困難が無く、症候の発生から24時間以内の、内因性の、死または不可逆的な広範脳死が」です。

 その原因として心筋梗塞や大動脈解離が、多く見られますが、働き盛りに特徴的な病態は、くも膜下出血です。また原因疾患がはっきりしないものもあります。

{参考文献}臨床と薬物治療 1999.9

<突然死の危険因子>

 このページのデータは、すべて、愛知県下の事業所従業者20万人の7年間の突然死発症状況を調べ、合わせて検診成績に関する症例−対照研究を行ったものに基づいています。

1.血圧

 突然死の確率は血圧が高値になるほど高くなり、収縮期血圧が160mmHg以上では120mmHg未満の人に比べて、7.4倍、拡張期血圧でも100mmHgを越えると80mmHg未満に比べて5.2倍でした。

2.コレステロール

 心筋梗塞の危険因子として知られているコレステロールは、高値であること以上に低すぎることが(140mg/dl未満)がリスク(正常値の2.2倍)となっています。これはおそらく、低コレステロールで脳出血が生じやすくなっているためと思われます。HDLコレステロールは低値であればあるほどリスクは上昇(35mg/dl未満で2.3倍)し、LDLコレステロールや中性脂肪は有意な量-反応関係は見られていません。

3.血糖・肥満・尿酸

 空腹時血糖が高いほど突然死のリスクも高くなる傾向にありますが有意ではなく、それよりも肥満をあらわすBMI(26.4以上)でリスク比が2.7と高くなっています。

 尿酸は今までそれほど重視されてきませんでしたが、尿酸が上がるような食生活が内臓肥満をもたらし突然死の基礎疾患を増悪させている可能性があります。

4.肝機能

 肝機能の1つALT(GOT)は40IU/l以上でリスク比が8倍という著しい量-反応関係を示しています。 AST(GPT)のγ-GPTも程度の差こそあれ同様の傾向を示しており、これは内臓肥満が脂肪肝として現れたものと推察されています。

5.尿所見

 尿蛋白陽性(+以上)は陰性に比べて7.6倍のリスクを示したとのデータがあります。従来、腎の異常が突然死を起こしやすくなるという報告はなく、おそらく、尿蛋白をきたすほど長期間続いた高血圧や糖尿病が問題となっていると思われます。ちなみに尿糖陽性では5.3倍のリスクを示していました。

6.心電図

 心電図の異常所見は突然死した患者で多く見られており、ST−T異常のリスク比は5倍でしたが、その中で平低T波は4.2倍、陰性T波の5.3倍に近いリスク比を示しました。また異常Q波も信頼区間は広いが10倍以上のリスクとなっていました。一方、左室肥大のリスクは1.7倍で、期外収縮や心房細動などの不整脈は3.7倍のリスクを示していました。

7.喫煙、飲酒

 喫煙者は非喫煙者に比べて2.7倍のリスクとなっていますが、飲酒は時々飲む程度なら逆に0.45倍までリスクを下げます。毎日飲む人でも非飲酒者と同程度でした。飲酒量で検討しても、少量飲酒は防御因子でした。

 勤労者の突然死は4月、週末、勤務時間外に高頻度となっており、冬に多く曜日差のない高齢者の突然死とは多発時期が異なり、働き盛りでは社会環境の影響が大きいことが示唆されています。

関連項目:子供の突然死

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<医学用語辞典>    関連項目 Brugada症候群とポックリ病

Brugada症候群

 心電図上、右側胸部誘導で、特徴的なST上昇(coved型、saddle back型)を示し、心室細動の出現などによる突然死の家族歴が多いことから、近年注目されています。

本症候群の原因として、心筋Naチャンネルの変異が指摘されています。一般的には常染色体性優位の
遺伝形式を示しますが、罹患率は20〜40%の男性に多くなっています。

Brugada型心電図の特徴的なST上昇は日内変動、日差変動を示し、自律神経や薬物によって大きく変化することが指摘されています。

服用する薬剤(下記)によっては心電図変化を著明にし、危険な状態になる可能性があります。

比較的解離の遅いリスモダン、ピメノール、シベノール、タンボコール
β遮断剤、Ca拮抗剤、アデホス、アセチルコリンなど

無症候性のBrugada型心電図を示すものが健常成人の0.05〜0.6%にみられ、これらの予後予測が重要ですが、リスクを正確に予測することはできないようです。


   
出典:医薬ジャーナル 2002.5 p112


POTS
Postural orthostaic tachycardia syndrome syndrome
体位性起立頻脈症候群

 女性に多い(男女比は 1:5)

 機序は完全に明らかにされていませんが、自律神経機能の部分的な異常が考えられています。

  出典:医薬ジャーナル 2002.5 p112



            
セデスは何故中止になったか

シリーズ:アスピリン(5)

 セデスGが本年(2001年)の6月に突然発売中止となりました。その理由は、セデスGに含まれるフェナセチンの長期・大量服用により重篤な腎障害等の副作用を引き起こす可能性があるからです。
(注:セデスGは医療用薬品で、薬局薬店で販売されている「新セデス錠」、「セデス・ハイ」にはフェナセチンは含まれていませんので従来通り発売されています。)

 なぜ急に発売中止になったかといえば、昨年11月から今年の3月にかけて、大量服用による重篤な腎障害の報告が短期間に相次いだからです。

 本来頓服薬であるセデスGを、10〜20年毎日飲み続けている人がいます。そのような人に、重篤な副作用が発現するのです。

 フェナセチンには、緊張の緩和、不安除去などの中枢神経に対する作用があると考えられていて、鎮痛作用の他、こうした作用のため、頭痛薬として習慣的に長期使用してしまうのです。

 セデスGの代替え薬として挙げられているのは、アスピリンとアセトアミノフェンです。小児ではアスピリンを使うとライ症候群が発現することがあるので、アセトアミノフェンしかないのが実状です。

* フェナセチンとアセトアミノフェンの違い

 フェナセチンは体内で、鎮痛・解熱作用を持つアセトアミノフェンと重篤な副作用の原因となるp-フェネチジンに代謝されます。つまり、アセトアミノフェンは、フェナセチン構造の中で薬理作用を発現する構造部分だけからなる薬物と言えます。

* アセトアミノフェンとアスピリンの違い

 アスピリンは、末梢でアラキドン酸→プロスタグランジンに変換する際に働く酵素シクロオキシゲナーゼ(COX)活性を抑制することにより薬理作用を発現します。

 従って、COX活性を抑制することにより発現する様々な副作用も同時に発生することになります。

 一方、アセトアミノフェンは、中枢に作用し、末梢のCOXを抑制しないことから、それに起因する副作用の発生は無いとされています。

{参考文献}昭和薬品化工 資料

 

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