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抗不整脈剤:クラスT

1991年2月1日号 No.80

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  抗不整脈剤は、その活動電位に対する作用から4群に分類されています。
このうちクラスTの薬剤は、通常、第一選択薬として頻用されており、Naチャンネルブロッカーともいわれています。

 クラスTの薬剤はさらに
心筋活動電位持続時間(APD)に対する作用により3つのサブクラス
(Ta,Tb,Tc)に分類されます。〜Vaughan Williams分類

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’

*クラスTa: Naチャンネル抑制作用(
膜安定化作用)とともに活動電位持続時間を延長させる。

・キニジン、アミサリン、リスモダン

適応〜上室性不整脈:心房性期外収縮、心房細動・粗動や発作性上室頻拍の停止や予防
心室性不整脈:心室性期外収縮、心室頻拍(ただし第一選択はクラスTb)

重大な副作用として心室頻拍(torsades de pointesを含む)あり

*クラスTb:活動電位持続時間(APD)を短縮させる。

・キシロカイン(静注)、メキシチール〜もっぱら心室生不整脈に用いる。(心房にはあまり効果がない)
・アスペノン〜上室性、心室性不整脈ともに有効

*クラスTc

・プロノン錠

 APDに影響を与えない。多剤が無効な場合でも良好な効果が得られる可能性がある。
 
 膜安定化作用とともにβ遮断剤としての作用も持ち合わせ、かつ高濃度ではカルシウム拮抗剤としても作用するため、うっ血性心不全や洞機能不全の患者への与薬には注意が必要。

 プロノン錠によって、ジゴシンやワーファリン錠の血中濃度が上昇するため、併用には注意

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1群〜心筋Naチャンネルを遮断(Na電流を抑制)〜局所麻酔薬と作用機序は同じ

                       Naチャンネルに結合する速度

1a〜活動電位の持続時間(APD)を延長        中間 上室性、心室性

キニジン、アミサリン、リスモダンR

1b〜APDを短縮                   ファースト 心室性

メキシチール、リドカイン、トカイニド、エスモジン、フェニトイン

1c〜APDに影響を及ぼさない。             スロー 上室性、心室性

フレカイニド、エンカイニド、プロパフェノン

Ca拮抗剤  上室性、心室性

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<その他>

クラスU〜β遮断剤

異常自動能の亢進や伝導不均一性の拡大を抑える。虚血性心疾患などで良く用いられる。

クラスV〜アミオダロン

APDの延長

クラスW〜カルシウム拮抗剤

ワソランやヘルベッサーRはCa電流が脱分極の主体となる洞結節や房室結節での伝導抑制が強く、これらの部分が関与した頻脈性不整脈に効果がある。

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<当院採用の抗不整脈剤>

*アスペノン(塩酸アプリンジン)

 頻脈性不整脈(他の抗不整脈薬が使用できないか、無効の場合)

 クラスTa及びTbの両特性を有する。心機能抑制作用は弱く、抗コリン作用、β遮断作用は認められていない。消化管からの吸収もよく生体内利用率が高く経口に適した薬剤。心室性、上室性の頻脈性不整脈に高い有効性

*アミサリン錠(塩酸プロカインアミド)

 期外収縮(上室性、心室性)、発作性頻脈(上室性、心室性)の治療及び予防
 新鮮心房細動、陳旧性心房細動、発作性心房細動の予防
 急性心筋梗塞における心室性不整脈の予防、手術及び麻酔に伴う不整脈の予防、電気ショック療法との併用及びその後の洞調律の維持

 心筋の異所性自動能や刺激伝導能を抑制し、被刺激性を低下させて、刺激生成異常による各種不整脈に対して抑制作用を示す。

*キシロカイン静注(リドカイン)

 期外収縮(心室性、上室性)、発作性頻脈(心室性、上室性)、急性心筋梗塞時・手術に伴う心室精不整脈の予防

*シベノール錠(コハク酸シベンゾリン)

 頻脈性不整脈(他の抗不整脈薬が使用できないか、無効の場合)

 クラスI型。心室性及上室性(上室性期外収縮、発作性上室性頻拍、発作性心房細動、発作性心房粗動) 心臓抑制作用は弱く、心筋虚血時の心筋代謝異常、電気生理学的変化に改善効果。頻脈性(心室性)に安定した抑制効果が得られ、不整脈出現様式が連発、R on Tに対しても良好な改善効果。抗コリン作用はリスモダンに比べて弱い。

*タンボコール錠(酢酸フレカイニド)

 他の抗不整脈薬が使用できないか、無効の場合の頻脈性不整脈(心室性)
 クラスTc、心房内伝導、ヒス-プルキンエ伝導ならびに心室内伝導を抑制する。消化管からの吸収がよく、半減期も長い。心室性の頻脈性不整脈に有効で単発性の期外収縮から心室頻拍などの各種頻脈性不整脈に有効

*ピメノール(塩酸ピルメノール)

 頻脈性不整脈

 クラスIa群に属す。持続性不整脈治療剤。ジソピラミドに比べNaチャンネル抑制作用は3倍強く、又、抗コリン作用は1/4と弱いため口渇や排尿障害等の副作用が少ない。食事による影響も少なく1日2回の投与でよい。

*プロノン錠(塩酸プロパフェノン)

 頻脈性不整脈(他の抗不整脈薬が使用できないか、無効の場合)

 クラスI型。活動電位の0相の立ち上がり速度を抑制しNaチャンネル遮断作用により抗不整脈効果を示す。弱いβ遮断作用、Ca拮抗作も有する。頻脈性に有効で、長期投与でも高い安全性。更に心抑制が弱く、抗コリン作用、中枢作用を持たない。


*メキシチール(塩酸メキシレチン)

頻脈性不整脈(心室性) クラスIb型

 最大脱極速度を減少させ、活動電位時間を短縮させる。緩除拡張期脱分極相勾配を抑制し、自動能を抑制する。
 陰性変力作用や血圧低下作用が少ない。期外収縮をはじめ頻脈性(心室性)不整脈の第一選択、心筋抑制変化は少なく比較的使いやすい。消化管からの吸収も良く、肝初回通過効果をほとんど受けない。

*ワソラン錠(塩酸ベラパミル)

*狭心症、心筋梗塞(急性期を除く)、その他の虚血性心疾患

 抹消血管抵抗を下げ、心仕事量を軽減、Ca流入を抑え、心筋障害や不整脈発生を防止、心筋保護作用
 古いCa拮抗剤、降圧作用はアダラートに比し弱く、心筋収縮、心臓刺激伝達系作用はより強い。抗不整脈剤として使用されることが多い。(外国では降圧剤としても使用)初回通過で多くが代謝されるため、肝臓の働きにより個体差が大きくでる可能性がある。
 Ca拮抗剤中で房室伝導抑制があるのは、本剤とヘルベッサーで本剤がやや強い。W群の抗不整脈の中には効果が不安定なわりに副作用が強いため継続しにくい、W群の本剤は副作用は少なく上室性頻拍症に著効の例が多い。ジギタリス製剤が使用しにくい心房細動症例に対して心拍数抑制の目的にも使いやすい。発作性心房粗動、発作性上室性頻拍の治療や予防として使用頻度が高い。リスモダンや塩酸ピルジカイニドのほうが切れ味はよいが、副作用の出現頻度(特に高齢者)を加味すると本剤は安全で使いやすい。

*キニジン錠(硫酸キニジン)

 期外収縮(上室性、心室性)、発作性頻拍(上室性、心室性)
 新鮮心房細動、発作性心房細動の予防、陳旧性心房細動、心房粗動、電気ショック療法との併用及びその後の洞調律の維持 急性心筋梗塞時における心室性不整脈の予防 心筋細胞膜への直接、間接作用(抗ムスカリン作用)により抗不整脈作用をあらわす。

*リスモダンR錠(リン酸ジソピラミド)

頻脈性不整脈(他の抗不整脈薬が使用できないか、無効の場合)

 徐放剤、心筋細胞に直接作用してその電気生理学的特性に変化を与える膜安定化作用により、上室性及び心室性の頻脈性不整脈に有効
 期外収縮の抑制、発作性頻拍症の治療、予防、心房粗動・細動の除去およびその後の再発予防。副作用はあるが、信頼性が高い。
 心房、心室どちらにも使える危険の少ない薬剤。主として心房性不整脈の第一選択薬
その作用は比較的キニジンに類似しており、安全性が高い。

*リスモダンP注(リン酸ジソピラミド)

 緊急治療を要する不整脈〜期外収縮(上室性、心室性)、発作性頻拍(上室性、心室性)、発作性心房細動・粗動
 静注により速効的効果、24時間以内にほとんど尿中より排泄

*アミサリン注(塩酸プロカインアミド)
 期外収縮(上室性、心室性)、発作性頻脈(上室性、心室性)の治療及び予防
 新鮮心房細動、陳旧性心房細動、発作性心房細動の予防
 急性心筋梗塞における心室性不整脈の予防、手術及び麻酔に伴う不整脈の予防、電気ショック療法との併用及びその後の洞調律の維持


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電気生理学的にみた抗不整脈薬

 薬理学的に不応期を延長させることによって心房細動の予防、停止が可能となります。不応期を延長させる方法としてはNa+チャネルを遮断する方法と
K+チャンネル を遮断する方法がありますが、心房細動によく用いられるIa群、Ic群抗不整脈薬はこの両方の作用が組み合わさってその有効性を示します。

 Ia群、Ic群抗不整脈薬はopen channel blocker としてNa+チャネルを遮断するものが多く、活動電位0相でNa+チャネルが開口したときに薬物が結合し遮断効果をあらわします。

 また、Ia群、Ic群抗不整脈薬はslow,intermediate kinetic drugが多く、Na+チャネルへの結合、解離が遅いため、その抑制作用を強く発現します。従って活動電位幅の比較的短い心房筋細胞でもNa+チャネル遮断作用を強力に発揮します。また、Ia群、Ic群抗不整脈薬はそれぞれ活動電位幅を延長あるいは変えない薬物ですが、これらの薬物の多くはいくつかのK+電流を抑制します。例えばIa群抗不整脈薬ジソピラミドはIKr、
Itoを抑制し、シベンゾリンはIKr、IKs、IK1を抑制します。

 古くから使われているキニジンはIKr、IKs、Ito、IK1を抑制します。Ic群抗不整脈薬に分類されるフレカイニドはIKr、Ito、プロパフェノンはIKr、IKs、Itoを抑制します。Ic群抗不整脈薬のピルジカイニドはあまりK+電流を抑制する作用は強くないのですが、全く抑制しないわけではありません。

 心室筋細胞において活動電位幅を短縮させるIb群抗不整脈薬は、主にinactivated channel blocker としてNa+チャネルを遮断する薬物です。すなわち活動電位プラトー部分で不活化したNa+チャネルに結合し遮断作用を示します。しかもIb群抗不整脈薬のリドカイン、メキシレチンは fast kinetic drug に分類され、Na+チャネルからの解離が非常に速い薬物です。

 これらの薬物は活動電位幅の短い心房筋細胞においては弱いNa+チャネル抑制作用しか発現しません。同じIb群抗不整脈薬でinactivated channel blockerであるアプリンジンはNa+チャネルからの解離が比較的遅く、IKrも抑制するため、心房性不整脈に対しても有効性を示します。

 一般的に心房細動の停止にはNa+チャネル抑制作用の強いピルジカイニドなどが用いられ、予防にはK+チャネル抑制作用を持つ薬物が用いられることが多いのですが絶対的なものではありません。

 このように多くのI群抗不整脈薬はNa+チャネルとK+チャネルを抑制し、心房細動の予防、停止に有効性を示しますが、IKrなどのK+電流を抑制するため、心室筋組織でも活動電位を延長し、それが高度になるとQT延長、Tdp誘発につながる可能性もあります。また、過度のNa+チャネル抑制はインセサント型心室頻拍の誘発という催不整脈作用として現れることもあります。加えてNa+チャネル抑制は細胞内Ca++濃度の現象につながり、心機能を低下させ、心不全を悪化させる可能性もあるので注意を要します。


 

APD

活動電位持続時間

出典:治療 1997.11

 心筋細胞での活動でにの立ち上がり部分(脱分極相)から再分極終了までの時間。通常は活動電位が80〜90%再分極した時点で測定します。
 
 APDは刺激頻度によっても異なり、心室筋やプルキンエ線維では刺激頻度が増すと短縮します。

 虚血や低酸素下ではAPDは短縮します。

 薬物の作用などでAPDが著しく延長すると、活動電位の再分極途中から膜電位が振動性の変化を示すようになり(早期後脱分極)、撃発活動(triggered activity)による不整脈が発生することが知られています。

心房内あるいは心室内でAPDが極端に長い部位ができると、興奮のリエントリーが発生し易くなります。


抗不整脈治療剤による排尿障害


出典:「この薬のこの副作用」 メディカルライフ社

当該薬品(採用薬のみ):アスペノン、シベノール錠、タンボコール錠、ピメノール、リスモダンR錠

 抗不整脈剤と使用される薬剤は、抗コリン作動性作用を有するために排尿障害(排尿困難、尿閉)を来すことが良く知られています。

 排尿障害は、排尿筋の弛緩と括約筋の収縮によって起こります。膀胱の平滑筋には交感神経β受容体が多く、コリン受容体(副交感神経)も多くなっています。膀胱頸部(内括約筋)は平滑筋で、括約作用を融資、α受容体が多く、β受容体は少なくなっています。外括約筋は尿道を締め付ける横紋筋です。

 神経的には、副交感神経は排尿に、交感神経は尿の保持に、その他随意的に作用する体性神経があります。抗コリン剤(副交感神経遮断剤)はコリン受容体を介し、膀胱利尿筋に弛緩的に働いて膀胱内圧を低下させ排尿困難を引き起こすことになります。

*発現頻度は、6%前後で、尿閉出現までの日数は、服用翌日から7日以内がほとんどです。しかし数ヶ月後に発症した例もあり注意が必要です。また女性にも出現する可能性もあることを念頭に置く必要があります。

*年齢や服用量に依存する傾向にあり、特に60歳以上では要注意です。服用間隔すなわち血中濃度との関係も指摘されていて、食後に服用すると朝と昼の間隔が短くなり、副作用を引き起こすことが考えられます。このため8時間毎の服用や徐放剤が副作用を軽減すると思われます。


<その他の薬品での排尿障害>

 多くは、抗コリン作用によるものですが、交感神経α賦活剤により膀胱頸部の緊張を高め排尿障害を来す薬剤もあり、またその機序が不明のものもあります。

 精神神経系用剤として、フェノチアジン系に多く見られ、ブチロフェノン系、ベンゾジアゼピン系、三環系抗うつ剤でも認められます。自律神経系、鎮痙剤、抗ヒスタミン剤、血圧降下剤、消化性潰瘍用剤でも多く、排尿障害がみられ、抗パーキンソン剤の一部、総合感冒剤、抗悪性腫瘍剤、麻薬などでも発症する可能性があります。


カテーテルアブレーション

出典:治療 1997.11

 カテーテルアブレーションはカテーテルを用いて不整脈の原因となる心筋組織を破壊し不整脈を治療する方法で、難治性不整脈の治療に用いられます。

 1990年代より、先端電極の長い“large tip”カテーテルを用いた高周波通電カテーテルアブレーションが臨床使用されるようになり、成績と安全性が著しく向上し、最近ではもっぱらこの方法が用いられています。

 高周波通電カテーテルアブレーションでは、手術時に用いられる電気メス装置に似たカテーテルアブレーション用の高周波通電装置を用いて電極カテーテルの先端温度を60〜70℃前後に上昇させて組織を破壊します。

 高周波カテーテルアブレーションは、副伝導路(WPW)症候群・房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)・心房頻拍・心房粗動・心室頻拍(VT)などの根治療法として広く応用され、特に上室性不整脈と明らかな基礎心疾患のない特発性VTに対する高周波通電カテーテルアブレーションの有用性はほぼ確立されています。

 一般に、基礎心疾患のない頻拍症例での薬物療法はカテーテルアブレーションに比べて侵襲は少ない利点がありますが、基礎心疾患がある症例や心機能低下症例に対する1群抗不整脈薬は、陰性変力作用や催不整脈作用の問題があり、かえって予後を悪化させることも指摘されています。また長期コンプライアンスの問題や催奇性の問題、薬剤抵抗性の問題もあります。

 カテーテルアブレーションは手術療法に比較して、開胸、全身麻酔、体外循環、輸血を必要とせず手術と同等の効果が期待できる侵襲性の低い画期的な根治療法です。しかし、心タンポナーデ、血栓症、完全房室ブロック、大動脈弁・僧房弁損傷、心筋梗塞などの重篤な合併症や血管創傷、出血、気胸などの合併症も見られ、慎重な適応決定が必要です。また、この方法が比較的新しい治療法であることから長期の予測し得ない副作用についても念頭に置き、その適応決定を行う必要があります。

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