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1997年9月1日号 229

ATP感受性Kチャンネルとは

開口の意義と抗不整脈剤

 

 ATP感受性K+チャンネル(KATPチャンネル)は細胞内ATP濃度があるレベル以下に減少すると開口する性質を持ち、心臓をはじめとする様々な組織に存在することが確認されています。
 
 最近、KATPチャンネルが虚血の時に不整脈や心筋保護に重要な役割を演じており、また抗不整脈剤の中にはKATPチャンネルの開口を遮断または促進する効果を有するものがあることが明らかになってきました

{参考文献}Pharma Medica 1997.8

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 心筋細胞は、酸素不足や代謝阻害剤の添加により活動電位持続時間が著明に短縮します。これは細胞内ATP濃度の減少によりATP感受性K+チャンネル(KATPチャンネル)が活性化されるためです。

 細胞内のATP濃度が1mM以下になるとKATPチャンネルが開口し、細胞内のK+がこのチャンネルを通って細胞外へ流出します。(外向き電流) そのため活動電位持続時間が短縮するのです。

 KATPチャンネルはほぼすべての心筋細胞に認められ、その分布密度も高くなっています。経口血糖降下剤のダオニールは、このチャンネルの遮断剤であり、細胞内ATPが減少した状態でもチャンネルを閉じて活動持続時間を延長させます。

 またシグマートは、細胞内ATP濃度が十分に高い状態でも、チャンネルのATPに対する感受性を低下させチャンネルを開口させます。

 虚血に伴う開口は、不整脈の治療にメリットとデメリットの両面を考える必要があります。

メリット:活動電位の短縮は撃発活動による不整脈に対しては抑制的に働きます。

デメリット:KATPチャンネル活性化による活動電位短縮や細胞外K+濃度増加による伝導遅延は、リエントリー型不整脈を惹起しやすい条件を作り出すことになります。

 この意味で、KATPチャンネルの開口が抗不整脈薬で遮断されると、KATPチャンネル開口によるメリットはデメリットに、デメリットはメリットに転じることになります。

 ・群抗不整脈剤の中にはKATPチャンネルを遮断するものと開口するものとがあります。(上図参照)したがって虚血時での・群抗不整脈剤の使用については、今後そのNa+チャンネルに対する抑制作用だけではなく、KATPチャンネルに対する作用も含めた検討が必要となっています。

 シグマート;現在、唯一臨床で 使用可能KATPチャンネルオープナー

 ・a群抗不整脈;シベノール、リスモダンR、アミサリン

 開口抑制;虚血による心筋障害は助長される。

 メキシチール;KATPチャンネルを開口させ、心筋保護作用が期待されます。


K+チャンネル

出典:治療 1997.11

関連項目:電気生理学的にみた抗不整脈薬

 心筋細胞には数種類のK+チャンネルの存在が知られています。その主な電流は内向き整流K+電流(I k1)、遅延整流K+電流(I k)、一過性外向き電流(I to)、ATP依存性K+電流(I KATP)、アセチルコリン活性化K+電流(I KAch)などです。

 これらの電流のもたらすK+チャンネルはそれぞれ異なる電位依存性、時間依存性の性質を持ち、またアゴニストによる活性化の機序や機能調節及び修飾機構なども異なっています。

 I k1チャンネルは深い過分極を与えると瞬時に活性化されK+を細胞外から細胞内へ通過させ時間依存性に不活性化しません。しかし脱分極側ではチャンネルの開口確率が減少し電流は小さくなり、また通常の細胞環境下ではK+を細胞内から細胞外へ通過させず外向き電流を形成しません。

I k1チャンネルは心室筋、プルキンエ線維細胞に多く存在し、また心房筋には比較的少く細胞膜の深い静止電位形成に寄与していますが、洞結節、房室結節細胞にはほとんど存在しないので静止電位が浅くなっています。

I kは脱分極により時間とともに比較的ゆっくり活性化され、しかも不活性化の性質を持たない外向き電流で細胞内のK+を細胞外へ通過させて活動電位の再分極をもたらします。

I toは脱分極により急速に活性化され、かつ直ちに不活性化される外向き電流で心房筋、プルキンエ繊維、心室筋細胞で早期の再分極相である第1相を形成しプラトー相の短縮に寄与しています。

I KATPチャンネルは上記の電位依存性チャンネルとは全く異なり、細胞内のATPが病的に減少した場合に活性化活性化されるチャンネルでI k1チャンネルと類似の性質つまり内向きに多く流れるが外向きにはほとんど流れない電気的特性を持ちます。この電流は洞結節、心房筋、房室結節細胞に多く発現していて、これらの細胞の静止電位形成に寄与します。従って、迷走神経などでI KAchチャンネルは活性化され静止膜電位を過分極させます。


<K+チャンネル オープナー>

 K+チャンネル オープナーの標的は主に細胞膜のATP感受性K+チャンネル(I K,ATP)で血管平滑筋を弛緩させます。日本では、シグマートが冠動脈拡張作用により抗狭心薬として利用されています。

 I K,ATPが開口すると活動電位持続時間(ADP)が短縮することによりK+チャンネル オープナーは抗不整脈作用が期待されます。

 臨床的には、先天性QT延長症候群の中で、7番染色体長腕のHERG遺伝子の異常で出現するK+チャンネルの異常では、K+チャンネル オープナーの有用性が報告されています。

 心筋虚血時にI K,ATPが活性化するとAPDが短縮し心筋保護作用があることは知られていますが、一方でAPDの短縮は再分極の不均一性を生ずること、また、I K,ATPの活性により細胞外K+濃度を上昇させ伝導遅延を生ずることによりリエントリー性不整脈の発生を容易にすると考えられてきました。しかし最近になり虚血心筋でI K,ATPの開口によるAPDの短縮が必ずしも細胞外K+を上昇させないこと、虚血中の活動電位持続時間の短縮を促進させることにより電気的交互脈を抑制すること、また、Na+チャンネルの不活性化を軽減しさらに細胞内Ca+増加を抑制することにより心室性不整脈の発生を抑制する可能性も報告されています。

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Kチャンネル遮断剤

出典:医薬ジャーナル 2001年増刊号

 1990年に行われたBASIS(Basal Antiarrythmic Study of Infarct Survival)試験の結果から、VW分類3群薬でKチャンネル遮断作用が主体のアミオダロンが、致死性心室不整脈に有効で、しかも生命予後を改善することが示されました。

 また、CASCADE(Cardiac Arrest in Seattle Conventional vs Amiodarone Drug Evaluation Study)試験の結果からは、心臓電気生理学検査やホルター心電図で有効とされた1群薬に比べアミオダロンの有効性が示されたことなどを背景として、従来より広く用いられてきた1群薬(Naチャンネル遮断剤)に変わり、3群薬(Kチャンネル遮断剤)への期待が高まり注目されました。

 しかし、心筋Kチャンネル電流のサブタイプの中で、遅延整流K電流の速い成分(I kr)を主として遮断するKチャンネル遮断剤では、洞調律時に著明なQT間隔の延長を生じてtorsades de pointes型心室頻拍の合併が生ずることや、逆使用頻度依存性特性といわれる頻脈時にその作用が減弱する特性のため、頻脈発作時に期待通りの停止効果が得られないことが指摘されました。

 その後、Kチャンネル遮断作用のみを持つ純粋な3群薬であるd−ソタロールが、β遮断作用を併せ持つアミオダロンやdl−ソタロールと異なり、生命予後をむしろ悪化させてしまうことを示したSWORD(Survival With Oral D-sitalol)試験の結果を契機にして、3群薬の開発は急速に中止へと追い込まれていきました。

 しかし、プラセボと比較して、アミオダロンが心事故(心室細動からの蘇生、不整脈死)の危険を有意に抑制することがCAMIAT(Canadian Amiodarone Myocardial Infarction Arrhythmia Trial)試験の結果などから改めて示されたこともあり、アミオダロンも遮断を示す遅延整流K電流の遅い成分(I ks)が、薬剤の標的として新たに注目されています。

関連項目:電気生理学的にみた抗不整脈薬


心筋活動電位(Action potential)

出典:治療 1997.11

 心筋細胞は細胞膜を隔てて異なる電解質組成の細胞外液と細胞内液とに分けられています。
これらのイオンの濃度差と細胞膜の各イオンのに対する透過性が異なるために溶液間に電位差が生じます。

 静止時の電位(静止電位)は、心臓の部位によって異なり、心房筋、心室筋、プルキンエ線維では深く(-75〜-90mV)、洞結節、房室結節では浅く-60mVです。

 心筋細胞は外から刺激を与えられると、細胞膜の各種イオンの透過性が突然変化し、Na+、Ca2+が細胞内へ流入し、膜電位は急速に+に向かい(脱分極)、その後ゆっくりと元に戻ります(再分極)。

 これら膜電位の一連の変化は、活動電位と呼ばれます。5つの時相からなり、それぞれ0,1,2,3,4相と呼ばれます。

 0相:静止電位レベルからの急速な脱分極相
第1相:0相の頂点から急速に回復してくる初期の再分極相
第2相:続いて穏やかに再分極が進行して数百msec続くプラトー相(平坦)
第3相:プラトー相末期の再び速く進行する再分極相
第4相:次の活動電位開始までの拡張期で、自動能を持つ細胞では弛緩期の緩徐脱分極相があります。

 心臓の部位によりこの波形は多少異なります。

 心筋の活動電位波形は細胞膜に存在するイオンチャンネルを介して、イオンが通過して流れる電流によりもたらされます。主な内向き電流にはNa+電流、Ca2+電流があり、主な外向き電流にはK+電流があります。

 これらのイオンを特異的に通過させるチャンネルを各々Naチャンネル、Caチャンネル、Kチャンネルと呼びます。


ATP感受性頻拍

出典:治療 1997.11

 特発性心室頻拍とは器質的心疾患に伴わない心室頻拍と定義されますが、その中で右室流出路起源のものはATPやアデノシンで停止するためATP感受性頻拍と呼ばれています。

 この頻拍は比較的若年者にみられ、症状としては失神まで至る例はまれで、多くの症状は動悸のみのことが多く、生命予後は比較的良好と考えられています。発作時の心電図は左脚ブロック、下方軸を呈し、多くは単形性で、非持続性、反復性です。

 運動あるいはカテコラミン誘発性で有効薬剤としてATP(アデホス)、アデノシン、β遮断剤、ワソランがあります。

 電気生理学的検査時の心室プログラム刺激では誘発率が低く、また頻拍時にはエントレインメント現象は認められません。

 頻拍の機序としてはtriggered activity(撃発活動)あるいはenhanced automaticity(自動能増強)と考えられています。

 薬物療法として、β遮断剤、1-a群抗不整脈薬の単独あるいは併用が有効です。


<<雑学薬理学>>

67歳以上の高血圧患者でCa拮抗剤による消化管出血

 Ca拮抗剤が高血圧症や冠動脈性心疾患に対し最もよく処方される薬剤の一つです。しかし、心血管系への作用に加え、血小板凝集を阻害し血液凝固にも影響を及ぼします。

 冠動脈性心疾患にはこの作用は有益ですが、この抗血小板作用により出血を助長する可能性があります。消化管出血の発現頻度は年齢とともに増加し、致死率は、かなり高くなっています。

 抗凝固剤や副腎皮質ホルモン剤、NSAIDsなどの薬剤により消化管出血の危険率が上昇することが知られていますが、Ca拮抗剤の危険率に関するデータは今までありませんでした。

 1985〜1992年に68歳以上の高血圧患者1636例[平均75.3歳(68〜94歳)、女性64.4%]を対象に米国で調査を行ったところ、結果は下記の通りでした。

〈消化管出血の相対危険率〉
   ACE阻害剤   772例/年  1.23%
   Ca拮抗剤    1510例   1.86%

Pahor M, et al(Catholic Univ ,Rome,ital)

 今回の調査では、すでに消化管出血を引き起こしやすいことが知られている、アスピリンやNSAIDsよりも高く、ワーファリンやステロイド剤とほぼ同様でした。また、ワソラン、ヘルベッサー、アダラートでは危険率に有意差はありませんでした。
 
 重症例(輸血を必要とした消化管出血または死亡例)に限定した場合でも結果に変わりはありませんでした。

 高齢者ではCa拮抗剤により消化管出血の危険率が上昇し、したがって他に消化管出血の危険因子を持つ高齢者にCa拮抗剤を処方する際には注意が必要です。
   
〜一口メモ-・Ca拮抗剤の主な相互作用〜

他の血圧降下剤、β遮断剤:相互に作用増強
ジゴキシンの血中濃度を上昇
タガメット:Ca拮抗剤の作用増強 
リファンピシン:Ca拮抗剤の作用減弱(有効血中濃度が得られないことがある。)  
グレープフルーツジュース:血中濃度の上昇
アセナリン:血中濃度上昇


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