メインページへ

カルシウム拮抗剤

1991年1月15日号 No.79

CCB:Caチャネルブロッカーと呼ぶのが正しい。 「カルシウム拮抗剤てなんなのさ」もお読みください。

   Ca拮抗剤は血管平滑筋の電位依存性CaチャンネルでのCaイオンの細胞流入を抑制し、細胞内遊離Caイオン濃度を低下させることにより血管を拡張させ、降圧作用を発揮します。

 元来、冠動脈拡張剤として開発されたものであり。後に降圧作用が注目され現在では、最も普及している降圧剤となっています。

 一般的にCa拮抗薬は強力な血管拡張薬であり、特に第1世代のものが著しいが、副作用として頭痛、頭重、顔面紅潮、熱感、頻脈、動悸(ヘルベッサーでは徐脈、下腿浮腫などがあります。

 また特殊な副作用として歯肉肥厚がみられることもあります。しかし一般的にこれらの副作用は軽微で、代謝への悪影響が無く、冠血流量増加、脳血流、腎血流も維持ないし増加が期待できるため高齢者でも好んで使用されています。

'''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''''

<第1世代>

・アダラート、ペルジピン〜降圧作用が急激、極端な血圧低下に注意。反射性頻脈を来しやすい。

・ヘルベッサー、ワソラン〜心伝導系抑制が強く、徐脈となり、A-Vブロックを起こすこともある。

<第2世代>

・バイミカード、ニバジール:比較的緩徐な降圧作用、作用時間が長い(1日1回型)
              組織親和性(血管選択性)が高い、Na利尿作用を有する。

2000年追記:それ以降に採用されたCa拮抗剤

ヘルベッサーR、バイミカード、ノルバスク(アムロジピン)、ヒポカ

いずれもよりマイルドな降圧作用、1日1〜2回となっている。

その他、コニール、カルスロットなど続々登場

{参考文献} JJSHP 1990.1


血圧降下剤の使い分け

 高血圧治療ガイドライン 2000.7より

   以下のどれを第1選択薬としても良い。

     積極的な適応           禁忌
Ca拮抗剤: 高齢者、狭心症、脳血管障害、糖尿病
脳血管疾患後、左室肥大 
:心ブロック(ヘルベッサーR)
房室ブロック(  〃  )
ACE阻害剤: 糖尿病、心不全、心筋梗塞、左室肥大、軽度の腎障害、脳血管障害、高齢者
脳血管疾患後、心筋梗塞後、腎障害
:妊娠、高K血症、両側腎動脈狭窄
A2受容体拮抗剤:
ARB
ACE阻害剤と同様。特に咳でACE阻害剤が使用できない患者 :同上
利尿薬: 高齢者、心不全
脳血管疾患後、腎不全(ループ利尿剤)          
:痛風、高尿酸血症
β遮断剤: 心筋梗塞後、狭心症、頻脈
心不全
:喘息、心ブロック、末梢循環不全
α遮断薬: 脂質代謝異常、前立腺肥大、糖尿病
高脂血症 
:起立性低血圧

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

<合併症と降圧剤の選択>

{参考文献} JJSHP 1990.1

 実際に降圧剤を選択する際に、最も影響を与えるのは合併症の有無です。特に高齢者の高血圧患者が増え、多くの患者が種々の合併症を有している場合がほとんどです。

 合併症から見ると高齢者ではサイアザイド(フルイトラン等)が使用しにくい状態にあります。

 60歳以上の約60%はサイアザイドが使用しにくく、βブロッカーは約30%が禁忌ないしそれに近い合併症を有しています。


 現在、利尿剤、β遮断(αβ遮断)、Ca拮抗剤、ACE阻害剤が第一選択として挙げられていますが、サイアザイドは小量にとどめられ、さらに合併症を考えると適応が制限される場合が多くなっています。

 Ca拮抗剤は、ACE阻害剤と並んで使いやすい降圧剤といえます。


<降圧剤を使用するときに注意すべき疾患>

・うっ血性心不全:β遮断剤、ヘルベッサーは禁忌

・腎障害:フルイトラン、アルダクトンA、ACE阻害剤は要注意

・糖尿病:フルイトラン、ラシックス、β遮断剤は使えない事が多い。

・慢性閉塞性肺疾患:禁忌〜β(αβ)遮断剤、ACE阻害剤は空咳に注意

・高脂血症:フルイトラン、β遮断剤は使えない場合が多い。


*Ca拮抗薬は、上記のいずれにも使用可能、ただし、肝障害、便秘の場合には要注意

(副作用で便秘あり)


Ca拮抗剤の組織選択性

Caチャンネルのサブタイプ

 Ca拮抗剤には多くの種類が存在し、その作用は同じCa拮抗剤でありながら薬剤毎に少しずつ異なっています。

 Ca拮抗剤とは、電位依存性Ca通路を選択的に抑制する有機化合物の総称です。
キニン、クロロプロマジンなどや2価および3価の無機物質(Ca,Mn,Laなど)もこの通路を抑制しますが、一般的にCa拮抗剤とは呼びません。

 WHOによる分類では、1)ニフェジピンに代表されるジヒドロピリジン(DHP)誘導体、2)ベラパミルに代表されるフェニルアルキルアミン(PAA)誘導体、3)ジルチアゼムなどのベンゾチアゼピン(BTZ)誘導体の3種類があります。

 カルシウムチャンネルへの選択性から分類する場合もあります。

 Caイオンは、血管平滑筋、心筋、神経、分泌など多彩な細胞で、細胞外から与えられた刺激に対する2次情報伝達物質として細胞内で重要な役割を果たしています。細胞内Caイオンが上昇すると、様々なCa依存性酵素や機構が活性化されたり、制御され、免疫応答反応が生じます。この細胞内Caイオンの主たる供給機構としては、細胞内Ca貯蔵部位以外に、細胞膜に存在するCaイオンの流入通路としてのCaチャンネルがあります。細胞内Caイオンの異常上昇は、様々な細胞で機能障害を生ずることになり、これを正常化させる薬剤は効果的な治療薬になり得ます。

 Caチャンネルは、大きく分けて電位依存性と受容体作動性のものとの2種類がありますが、Ca拮抗剤は前者に結合し、チャンネル構造を変化させてCaイオンの細胞外から内への流入を選択的に阻害します。

 電位依存性Caチャンネルの種類は、その電気生理学および薬理学的性質の違いから、L,T,N,P型に分類されます。最近ではさらに新しいサブタイプも研究されています。

L型〜long lasting DHP-seistive(持続性)

N型〜neuronal

T型〜transietent(短期)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

                   L T N
アダラート      + - -
アムロジピン  + - ?
ランデル        + + -
カルブロック   + + -
コニール       + + +
アテレック     + - +

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

・L型Caチャネル阻害はCa拮抗剤の薬理作用の基本
 L型Caチャネルは主に血管の収縮に関与〜アムロジピン
 
 
・T型 心血管イベントと腎イベントの抑制
 T型Caチャネルは心臓、腎臓、副腎に存在し、心拍数増加、副腎でアルドステロン合成、腎臓の輸出細動脈の収縮に関与

L/T:カルブロック、コニール〜アムロジピンよりも蛋白尿を有意に減少させる。腎保護に有効
     輸入動脈と輸出動脈の両方を拡張
    糸球体高血圧を改善し、抗炎症作用などの非血行動態機序を介した腎保護も持つ。

 主に糸球体の輸入動脈を拡張
 パーキンソン病の進行を抑制する可能性が指摘され(ヨーロッパでの報告)、また、癌患者の疼痛軽減にオピオイドと併用すると効果が増強します。
 動物実験で眼圧を下げ、緑内障の治療に臨床応用が期待されています。

L/T/N型 〜ベニジピン
L/T型        〜アゼルニジピン


・N型Caチャネルは交感神経終末に存在し、ノルエピネフリン遊離を促進し交感神経を活性化させる。

L/N:シルニジピン(アテレック)

 アムロジピンよりも有意に蛋白尿を抑制、高塩分摂取ラットにアテレック(シルニジピン)を投与すると腎障害が改善することから、日本人には相性のよい降圧剤かもしれない。


  出典:薬局 2011.4 等

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
P/Q(小脳 purkinje)

 L型は骨格筋、平滑筋、心筋、神経細胞など広く分布し、ほとんどの興奮性細胞と多くの非興奮性細胞に存在しますが、一方、T型は心筋細胞と神経細胞に、NおよびPは神経細胞に限局して分布します。

<Ca拮抗剤の電位依存性Caチャンネルに対する作用様式>

 DHP,BTZ、PAA系Ca拮抗剤は、いずれも主にL型Caチャンネルに結合し、その活動を抑制します。しかし、詳しく調べると単に結合するのではなく、その結合様式と結合部位は薬剤のタイプによって異なっています。

 即ち、Caチャンネル(L型)は通常、「静止」「活性化」「不活性化」の3つの状態をとることが分かってきており、DHP系薬剤は主にこの「不活性化」の状態の時に、またPAA薬剤は「活性化」状態時に結合することが明らかになっています。

<Ca拮抗剤の受容体への移行様式>

 薬剤の持つ物理学的性質により移行様式が異なります。DHP系薬剤は他剤に比較し、一般に脂溶性が高いため血管平滑筋細胞へ広汎に分布します。ニバルジピンはその高い脂溶性から主に細胞膜の疎水性領域を介してCaチャンネル(受容体)へ移行すると推察される一方、アムロジピンは正の荷電を持ち、膜リン脂質の負の荷電と静電効果による親水性領域での膜分布が報告されています。ニフェジピンはニルバジピンに似ています。

DHP系Ca拮抗剤 血中半減期
T  ニフェジピン  3.4時間

U  ニモジピン   1.06
   ニソルジピン  4
   ニトレンジピン 4.6
   フェロジピン  10.2
   イスラジピン  1.9〜4.8
   ニカルジピン  5

V ニルバジピン  11
  アムロジピン  33.8                      出典:大阪府薬雑誌1998.4

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

           末梢動脈拡張  冠血管拡張  房室伝導抑制  心筋収縮抑制

*アダラート錠    +++         +++         ++          +
*バイロテンシン  ++         ++         -           -
*カルスロット錠  +++         ++         -           +
*スプレンジール  +++        +++          -           -
*ノルバスク錠    +++        +++          -           +
・ワソラン錠      +          +          +++          ++ 
※ヘルベッサー   +          ++          ++          +

*ジヒドロピリジン系 ・フェニルアルキル系 ※ベンゾチアゼピン系

 Ca2++チャンネルには細胞膜に存在するものと細胞内の小胞体膜に存在するものがあります。

 細胞膜のCa2++チャンネルには、電位依存性Ca2++チャンネル、受容体作動性Ca2++チャンネル、機械受容体Ca2++チャンネル、ストア共役Ca2++チャンネルが知られています。

 小胞体膜に存在するものは、受容体作動性Ca2++チャンネルです。これら種々のCa2++チャンネルの中でCa拮抗剤は電位依存性のCa2++チャンネルに作用して、細胞内へのCa2++の流入を阻害します。

 電位依存性Ca2++チャンネルは、電気生理学的性質や薬理学的性質から、L,T,N,P,Q.R型の6つのサブタイプに分類されレいます。

 現在使用されているCa拮抗剤はL型Ca2++チャンネルを遮断し、細胞内へのCa2++の流入を阻止するものですが、T型、N型Ca2++チャンネルに対する効果を併せ持つ薬剤もあります。最近L型Ca2++チャンネルにしか作用しないと考えられていた薬剤でT型、やN型にも作用することが分かってきた薬もあります。

 L型Ca2++チャンネルは平滑筋、心筋、骨格筋、内分泌細胞等に存在しますが、Ca拮抗剤の主な作用は心筋に対する抑制作用と血管平滑筋に対する血管各調査用です。

 T型Ca2++チャンネルは心筋、神経細胞等に存在し、心臓では洞房結節等でペースメーカー活性に関与しています。このチャンネルを抑制すると徐脈を起こすことが知られています。

 N型Ca2++チャンネルは神経細胞に存在し、神経末端での伝達物質の放出に関与しています。そのためNがたCa2++チャンネルを抑制する作用を持つ薬剤では交感神経末端からのノルアドレナリンの放出を抑制して頻脈を起こりにくくする効果が期待できます。

 P型、Q型、R型のCa2++チャンネルは小脳に分泌が認められていますが、その詳細はまだ不明です。

     出典:日本薬剤師会雑誌 2004.6


カルシウム感受性増強薬

アカルディ

  出典:医薬ジャーナル 2002.5

 心筋酸素消費量の規定因子と心筋エネルギー効率

 心筋酸素消費量の規定因子として、1.心拍数、2.総機械的エネルギー、3.収縮性、4.電気的活動、5.基礎代謝があります。

2.の総機械的エネルギーとは、左室圧−容積平面上で左室圧容積面積(PVA:pressure-volume area)により規定されるエネルギー消費で外的仕事部分と、ポテンシャルエネルギー部分とに分けられ、前負荷(拡張末期容積)・後負荷(収縮末期圧)の増大により増加します。PVAの概念が確立される以前は、機械的エネルギーの指標として壁張力と外的仕事量があげられていました。

 エネルギー効率の観点からみた好ましい心不全治療薬の条件は、エネルギー消費量を増加させずに伸縮性やポンプ機能を維持しながら心筋酸素消費量を減少させることです。この点で、収縮蛋白のカルシウム感受性を増加させるいわゆるカルシウム感受性増強薬(Ca 2+ sensitizer)が、エネルギー効率を改善する可能性のある新しい強心薬として期待されています。

 カルシウム感受性増強薬は、収縮蛋白のカルシウム感受性を増やすことにより、筋小胞体からカルシウムの総量を増やすことなく収縮力を増強させるので、カルシウムサイクリングのエネルギー消費を増大させずに収縮性を高めることができると考えられます。

 これまで強心薬は、生命予後に悪影響を及ぼすとの報告が多く見られましたが、アカルディは慢性心不全患者の心不全悪化イベントを減少させ、身体的活動(SAS:specific activity scale)を改善させることが示されています。

 しかしこれまでのカルシウム感受性増強薬は、同時にPDE阻害作用を持つものが多く、報告されている臨床的有用性が、真にカルシウム感受性増強作用によるものであるか否かは、より純粋なカルシウム感受性増強薬の登場を待つ必要があります。


カルシウム(Ca)

カゼインホスホペプチド(CPP)

出典:不明

 カルシウム(Ca)は骨あるいは歯牙の構成成分として生体の構造維持に必須ですが、この他にホルモンの分泌や筋肉収縮、神経興奮性の調節因子としても重要な役割りを果たしています。またCaの摂取量と骨粗鬆、高血圧や結腸ガンなどとの関連性についても最近明らかにされつつあります。

 成人1日1人当たりのCa摂取量は昭和30年の340mgから平成2年には531mgと増加していますが、成人男女の所要量は依然として達せられず、飽食の時代にある今日、唯一所要量を満たしていない栄養素がCaです。これは摂取量のこともありますが、吸収率の低さにも原因があります。

 一般にCaが吸収されるには、可溶性の状態で小腸管腔内に存在することが必要です。しかし、小腸内のpHは中性から弱アルカリで、Caの沈澱、不溶化が起こりやすい環境のためCaの吸収が悪くなります。牛乳や乳製品中のCaの吸収率が他の食品より良い理由として、乳糖の存在が挙げられていますが、牛乳カゼインの消化過程で生成されるカゼインホスホペプチド(CPP)にもCa吸収促進効果が認められています。

 CPPは、牛乳のカゼインにトリプシン等のタンパク分解酵素を作用させて得られる比較的分子量の大きいペプチドで、ホスホセリンなどの含リンアミノ酸を多く含みます。αS1-及びβ-カゼインから得られたものをそれぞれα-CPP、β-CPPと呼び、以下に述べるCPPはその混合物です。CPPは消化酵素によって攻撃を受けにくく、ミネラルの不溶化を防止し、可溶化状態を維持する作用があるためCaや鉄(Fe)の吸収を促進する物質として注目されています。

 摂取されたCaは、二つの経路(小腸上部で行われる能動輸送と小腸下部で行われる受動輸送)で腸管壁から吸収されるものと考えられています。小腸上部はpH5〜6の微酸性でCaイオンの可溶区分量が多いが、弱アルカリ性の小腸下部に移行するにつれて不溶化してきます。

 CPPは、Caとリン(P)が結合してできる不溶性塩の生成を阻止する働きにより、小腸下部での溶解性Caの量を増加させ、従って溶解量に依存するCaの吸収量を増大させます。一方、CPPはFeの可溶化能も高いが、この場合はキレートを形成しているものと考えられます。

 CPPは種々の食品に添加できますが、単独ではあまり意味がなく、CaやFeを一緒に配合することが望ましいといわれています。安定性については、粉末で使用される場合は全く問題がなく飲料や液体の製造工程での加熱や保存中の劣化はほとんど無視できます。

 焙焼など180℃以上での長時間の加熱はCPPの機能がやや低下するので使用量を若干増やすか、可能であれば温度が低下してから添加するなどの工夫が必要です。

 市販されているCPP含有商品は、成長過程の子供の骨形成あるいは骨粗鬆症の予防や治療的な意味で成人を対象とした健康志向食品や保健用食品で、カルシウムタブレット、鉄補給タブレット、飲料、菓子、乳製品などがあります。過食や安全性については十分な食経験があることから全く心配がありません。

 また、血液透析患者におけるリン吸着剤として、CPP配合の栄養補助食品(ヘルッシュCa:森下ルセル)が有用であったとの報告も出されており、今後さらに多方面で応用される可能性が考えられます。

<付記>

 食物として経口摂取されたCa(平均で約600mg)のうち、約250mgが腸管から吸収されますが、逆に腸管に消化液として約150mgが分泌されるので、未吸収分と合わせて便中には1日当たり約400〜500mgが排泄されます。吸収されたCaは主として骨形成や細胞増殖に利用され、最終的には余剰分約150mgが尿中に排泄されます。

 Caの吸収が排泄を上回れば正のCaバランス、下回れば負のバランスとなりますが、体内のCaの99%が骨に存在しているため、正のCaバランスは骨塩量の増加、負のバランスは減少となります。
 骨へのCaの集積は青年期に完成し、以後は徐々に減少しますが、Ca摂取不足の状態で高齢化していった場合には一層、骨粗鬆症になりやすくまります。この疾患は女性で、顕著に発生し、70歳代の女性の約半数が罹患しているといわれています。

 骨粗鬆症が進行すれば、骨は支持体としての能力を失い骨折を発生しますが、大腿骨頸部骨折は“寝たきり老人”の原因の第2位を占め社会的問題にもなっています。

 Caと高血圧の関係については、平滑筋の収縮は収縮性タンパク質−アクチンとミオシンの相互作用によって生じ、細胞質ゾルの遊離Ca濃度が上昇することにより生ずる反応の最終結果であることから、食事性Caが血圧に影響を及ぼし高血圧の危険をもたらすとの仮説が導き出されています。また食塩感受性高血圧症とCaの摂取量との間には負の相関のあることが知られていますが、Ca剤1,000mgを毎日服用することにより、男女いずれも拡張期血圧降下作用が認められています。

 また米国で1,954名を対象に行われた研究では、結腸ガンにかかった人の摂取した平均Ca摂取量は対照群と比べて有意に低いという結果が報告されています。これは、Caが脂肪酸と結合して石ケンを作りこれが直接粘膜細胞を刺激するのを防ぐことから結腸ガンの発生を抑制するとの説が出されています。


メインページへ

Polypill strategyとは

2009年12月1日号 No.511

 最近、降圧剤と利尿剤の合剤が相次いで登場しています。
 患者さんは、薬剤が増えると病気が悪化していると思います。また、薬剤数が増加するとコンプライアンスも低下します。
2008年から生活習慣病(循環器疾患)治療薬として合剤が登場し始めました。特にARBと降圧利尿剤を併用すると強力な降圧が望め、今後もカルシウム拮抗剤とスタチンの合剤、カルシウム拮抗剤とARBの合剤も発売予定で、合剤の時代に移りつつあります。

 {参考文献}治療 2009.11

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’
 背景として2002年海外で“combination pill"という言葉が提唱され、2003年には4種類の危険因子(LDLコレステロール、血圧、血清ホモシステイン、血小板機能)それぞれスタチン、3種類の降圧薬(β遮断剤、サイアザイド系利尿剤、 ACE阻害剤)、葉酸、アスピリンの計6種類の合剤で、虚血性心疾患を88%、脳卒中を80%発症抑制するというシミュレーションのデータが報告され、“Polypill strategy”が提唱されました。

 Polypillの問題点としては、副作用が出現した場合にどの薬剤が原因か分からないこと、各薬剤の用量が固定されていることなどがあります。

 「高血圧ガイドライン2009」では、利尿薬とACE阻害剤の併用は推奨されていますが、利尿剤とβ遮断剤あるいはACE阻害剤とβ遮断剤の併用は推奨されていません。

 ARB・利尿剤・カルシウム拮抗剤の3剤併用が望ましいのですが、コストの問題が生じてきます。さらには今後、インスリン抵抗性改善剤のピオグリタゾンの併用も必要になってくると思われます。

 ACE阻害剤と利尿薬の併用で高血圧、糖尿病、脳卒中の既往、年齢、性別、人種、基礎血圧にかかわらず、下げれば下げるほど脳卒中再発は少ないことが、PROGRESS試験で示され、糖尿病での脳卒中予防では、合併する高血圧や脂質異常症に対する積極的な治療(厳格な血圧コントロールとスタチンによる治療)が必要です。

 糖尿病治療薬であるアクトス(ピオグリタゾン)の併用で脳卒中の再発が47%減少することが示されています。(PROactive試験)

<循環器疾患の合剤>

 発売:◎は当院採用、○は試験使用

◎プレミネント〜ARB+利尿剤   (万有)
○コディオ  〜   〃      (武田)
・エカード  〜   〃  (ノバルティス)
・ミコンビ  〜   〃  (アステラス、ベーリンガー)
・カデュエット〜 Ca拮抗剤+スタチン (ファイザー)

<近日販売予定>

・バルサルタン+アムロジピン  ノバルティス
 (ARB)  (Ca拮抗剤)
・オルメサルタン+アゼルニジピン 第一三共
 (ARB)   (Ca拮抗剤)

<臨床試験中>
・カンデサルタン+アムロジピン 武田
 (ARB)  (Ca拮抗剤)
・オルメサルタン+アムロジピン+利尿剤 第一三共
 (ARB) (Ca拮抗剤)
・オルメサルタン+利尿剤      第一三共

 *利尿剤はすべてヒドロクロロチアジド

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 朝食後にPolypillを1錠飲んで脳卒中予防が可能となる時代となりましたが、禁煙、節酒、運動療法、食事療法が不可欠なのはいうまでもありません。


     {医薬品トピックス} ワーファリン抵抗性はこちらです。

メインページへ