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医薬品による重篤な皮膚障害について

皮膚粘膜眼症候群,中毒性表皮壊死症とは

1997年9月15日号 230

中毒性表皮壊死症

(Lyell症候群、TEN:toxic epidermal necrolysis Lyell)

シリーズ副作用を考える(1)

 9月に医療法の改訂が行われ、患者さんの負担金が増えるとともに、医療への関心も増えてきました。薬剤部の窓口でも自分の飲んでいる薬をもっと知りたいという患者さんが増えてきました。

 中でも副作用に関する質問が増えており、また今年の4月から、薬剤師の情報提供が義務づけられるようになったことから、この薬剤ニュースでも、特に重要な副作用について集中的に連載を始めてみます。

 第1回目にLyell症候群(中毒性表皮壊死症)を取り上げました。中毒性表皮壊死症(Lyell症候群)は高熱を伴って発症する場合が多く、はじめに斑状の発赤が全身各所にに生じ、この紅斑が急速に広がります。(全身の20〜80%)
 
 第2度熱傷と同様の水疱が発赤局面中央に1〜2時間から数時間以内に生じ、周囲に向かって拡大し、表皮剥離を生じます。表皮真皮境界部の剥離、表皮の壊死性変性が特徴です。

 ニコルスキー現象(皮膚面に機械的圧迫を加えると容易に表皮剥離や水疱を生じる現象)を呈し口腔粘膜や結膜にもびらんを生じ、ときには意識障害、呼吸困難に陥ります。またびらん部からの体液漏出により重篤な経過をたどることもあります。皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)ではニコルスキー現象は呈しません。

 特定の薬剤はなく、種々の薬剤が原因となりますが、T細胞免疫反応が重要な役割を果たすと考えられています。エフェクターT細胞のCD8陽性の cytotoxicT(TC)細胞によって誘導されますcytitixity(CT)型反応(細胞障害反応)が、免疫抑制機構の麻痺とも関連して、異常に強く発現したためといわれています。

 厳重な全身管理により局所の感染を防止し、はじめの2週間を乗り切ることが重要とされています。皮疹は約1ヶ月で回復もしくは軽快します。二次感染が起こると、ときに浅い瘢痕が残ることがあります。
 
<治療法>
 補液による水分、電解質の補給、皮膚・粘膜等のびらん部よりの二次感染防止のため、抗生物質抗菌剤の投与、重症例ではステロイド、また、治療にあたって投薬する薬剤は、既投与薬剤と化学構造の異なる薬剤を選択します。薬剤除去を目的に血漿交換療法も行われます。

「皮膚の緊張感、灼熱感と疼痛が現れ、手で触れるといっそう強く感じ、熱傷時の自覚症状を呈したり、口腔等の粘膜がおかされる。」このような症状に気づいた場合には服薬を中止し、速やかに主治医に受診して、適切な処置を受けるよう指導する必要があります。
 
 初期症状に気づかずに対応が遅れると第・度熱傷と同様の水疱や表皮剥離が現れる。広範囲の粘膜に発症した場合は死に至ります。死亡率は20〜30%と高いことが報告されている。

【患者さんに伝える自覚症状】

 発熱、発疹、皮膚が赤くなる、皮膚が焼けるように熱く感じる。

 経過〜皮膚の痛み、水ぶくれができる、口内があれる。
 早いもので3日以内、多くは15〜21日まで、大半は1〜3週で、なかには1ヶ月以 上たってから発症したものも 報告されているが、極めて少ない。

関連記事:高松高裁判決

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皮膚粘膜眼症候群(SJS;Stevens-Johnson症候群)

 Lyell症候群(中毒性表皮壊死症)とよく似た副作用で、発現する薬剤も重複するものが多く見られます。(下記参照)通常、ニコルスキー現象(上記参照)は呈さない点でLyell症候群(中毒性表皮壊死症)とは異なっています。

 熱、頭痛、多発性関節痛とともに、粘膜病変を呈します。眼、鼻、口、外陰部などの皮膚粘膜境界部を侵すため、粘膜疹を生じます。重症例では疼痛のため、食餌摂取不能などにより全身衰弱をきたすものもあります。(急性期の死亡率は10%)

 多型滲出性紅斑の重症型と考えられており、悪寒発熱、全身倦怠感などの全身症状とともに、全身の皮膚に多型の浮腫性紅斑が分布します。また、口腔外陰部の粘膜、眼結膜に病変を生じるのが特徴です
 
 服薬後、早いもので3日以内、多くは15〜21日までに発現し、大半は1〜3週で、なかには1ヶ月以上たってから発症したものも報告されていますが、これは極めてまれな例です。

 テグレトール、ボルタレン、メキシチール、フェニトインなどが要注意の薬剤です。その他、抗菌剤NSAIDs、抗けいれん剤、筋弛緩剤など


 作用機序は、左記のLyell症候群(中毒性表皮壊死症)と同じくT細胞免疫反応が重要な役割を果たすと考えられています。

 はじめに感冒様の前駆症状を呈し、発熱、頭痛関節痛が現れます。口腔粘膜、外陰部粘膜、眼粘膜などに紅斑、水ぶくれが生じた場合には、速やかに主治医に受診し、適切な処置を受ける必要があります。

 患者さんが気をつける症状は、「発熱、関節が痛い、皮膚が赤くなる、水ぶくれができる、口びる・口内があれる、目が充血する」です。

 治療としてはまず原因薬剤の中止、さらに全身症状に対して輸液療法を行うとともに、ステロイドの投与を行いますが、その際には、敗血症や消化管出血が起こる可能性があり十分に注意が必要です。

 一般に合併症がなければ約2〜3週間の治療によって全身症状、皮疹とも軽快するとされています。

{参考文献}薬事時報社:重大な副作用回避のための服薬指導情報集
 

 当院採用の内服薬の添付文書に今回取り上げた副作用が記載されて
いるものの抜粋。

Lyell症候群(中毒性表皮壊死症)
 フェノバール、アレビアチン、マイソリン、エクセグラン、バレリン
 ポンタールシロップ、小児用バファリン、インフリー、ボルタレン
 クリアミンA、セデスG、プランサス、ミナルフェン、ランツジール
 PL顆粒、複合ブスコパン、メキシチール、ダイアモックス
 レニベース、ヘルベッサーR、タガメット、チガソン、チオラ
 サロベール、ダーゼン、メソトレキセート、リマチル、セフテム
 サワシリン、ケフラール、セフゾン、トミロン、バナン、メイアクト
 ケフラール、エリスロマイシン、フルビスタチンUF、サラゾピリン
 イソニアジド、シプロキサン、トスキサシン、ジフルカン、バクタ

皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)
 ラボナ、フェノバルビタール、アレビアチン、ヒダントール、エクセグラン、テグレトール
 デパケンR、バレリン、ポンタールシロッフ、小児用バファリン、インフリー、ボルタレン
 ミナルフェン、セデスG、ロキソニン、ナイキサン、プランサス、ルジオミール、PL顆粒
 複合ブスコパン、メキシチール、ダイアモックス、レニベース、ロコルナール、ヘルベッサーR
 タガメット、サロベール、ダーゼン、メソトレキセート、リマチル、セフゾン、メイアクト
 トミロン、バナン、ミノマイシン、サラゾピリン、イソニアジド、シプロキサン、スパラ
 ゾビラックス、ジフルカン

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2000年12月追記

医薬品・医療用具等安全性情報163号

 

1.序論
 医薬品による皮膚に対する重篤な副作用として,皮膚粘膜眼症候群,中毒性表皮壊死症等が知られている。皮膚粘膜眼症候群,中毒性表皮壊死症の発生頻度は,人口100万人
当たりそれぞれ年間1〜6人,0.4〜1.2人1,2)と極めて低いものの,発症すると予後不良となる場合があり,また,皮膚症状が軽快した後も眼や呼吸器官などに障害を残
すことがある重篤な副作用である。今般,皮膚粘膜眼症候群,中毒性表皮壊死症について改めて注意を喚起するため,厚生省への副作用報告症例や文献等をまとめて紹介する
こととした。

2.皮膚粘膜眼症候群,中毒性表皮壊死症とは
 皮膚粘膜眼症候群は,1922年にStevensとJohnsonが報告したことから,スティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson syndrome:SJS)とも呼ばれ,重症型多形滲
出性紅斑(erythema exsudativum multiforme major:EEMM)と同義語とされている。
これらの皮膚疾患の中で最も重篤とされているのが中毒性表皮壊死症である。SJS,EEMMは中毒性表皮壊死症へと移行する場合もある。近年,SJSとEEMMがその原因や程度によっ
て区別でき,SJSと中毒性表皮壊死症は同一カテゴリーの疾患とする報告が多い。
 中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)は,1956年,Lyellが初めて報告したことからライエル症候群(Lyell syndrome)とも呼ばれる。類似症状を示す
疾患としてブドウ球菌性TEN(staphylococcal scalded skin syndrome:SSSS)や輸血後の移植片対宿主病(graft versus host disease:GVHD)などがある。

(1)初期症状と臨床経過
 SJSの初期症状は,発熱,左右対称的に関節背面を中心に紅斑(target lesion等)が出現し,急速に紅斑の数を増し,重症化するにつれ,水疱,びらんを生じ,融合する。
眼,口腔粘膜,外陰部などの粘膜疹を伴うことも多く,検査所見では白血球増多,赤沈亢進,CRP陽性などを示す。発熱などの全身症状とともに,多形滲出性紅斑様皮疹(tar
get lesion),広範な粘膜疹が急激に生じることより診断は困難ではない。呼吸器障害(肺炎等)や肝障害などの合併症を来し,その死亡率は6.3%との報告がある5)。
 一方,TENは,発熱や腋窩,外陰部,体幹などに広範囲な紅斑が出現した後,急速に水疱を生じ,水疱は破れやすく(ニコルスキー現象),全身びらん症状を呈する。U度熱
傷に似て,疼痛も著明である。検査所見では,血液,肝,電解質などに異常を認めることが多い。多臓器障害の合併症(肝障害,腎障害,呼吸器障害,消化器障害等)を来し,
死亡率も高く20〜30%とする報告が多い。

(2)発症原因と機序
 単純疱疹ウイルス,肺炎マイコプラズマ,細菌,真菌などの種々のウイルスや細菌による感染症,医薬品,食物,内分泌異常,悪性腫瘍,物理的刺激などによって起こるア
レルギー性の皮膚反応(V型アレルギー)と考えられているが,医薬品が原因となる場合が多いとされており,文献によるとSJSの59%が医薬品が原因と推定されたとする報
告5)や,TENでは,90%以上が医薬品が原因と推定されたとの報告もある。一般に医薬品のように比較的簡単な構造を持った化学物質は,単独では免疫原性を有しな
いハプテンとしての性格を持っており,蛋白質のような高分子化合物と結合し免疫原となって重症な皮膚疾患を起こすものと推定されているものの,これら皮膚疾患の発症機
序の詳細は未だ明確にされていない。したがって,これら重篤な皮膚疾患の発症を予知することは非常に困難である。

(3)原因医薬品
 原因医薬品は,抗生物質製剤,解熱鎮痛消炎剤,抗てんかん剤,痛風治療剤,サルファ剤,消化性潰瘍用剤,催眠鎮静剤・抗不安剤,精神神経用剤,緑内障治療剤,筋弛緩
剤,高血圧治療剤などであり,その他種々の医薬品で発生することが報告されている(4)治療
 医薬品によるSJS,TENに対しては,発熱や発疹等の初期症状を認めた場合,原因と推定される医薬品の投与を中止することが最も重要で最良の治療法である。しかし,投与
を中止してもSJS,TENへと重症化する場合があるので注意が必要である。一般にSJS,TENが発症した場合,副腎皮質ホルモン剤の全身投与,あるいは血漿交換療法,ビタミン
類の投与,更に二次感染予防の目的で抗生物質製剤投与が行われ,皮膚面に対しては外用抗生物質製剤,外用副腎皮質ホルモン製剤が用いられている。粘膜面にはこれらとと
もに,うがい,洗眼など開口部の処置が行われている。なお,これらの治療は,皮膚科の入院施設のある病院で行うことが望ましいとされている10)ステロイドの使用については異論もあります。)

3.添付文書への記載状況と厚生省への副作用報告症例について
(1)添付文書への記載状況
 医療用医薬品については,発生が示唆されている医薬品の「使用上の注意」に,「皮膚粘膜眼症候群,中毒性表皮壊死症」について記載することによって医療関係者に注意
を喚起している。添付文書への記載状況は,医薬品情報提供ホームページ(http://www.pharmasys.gr.jp/)に掲載されている添付文書情報9,786枚のうち,「皮膚粘膜眼症
候群」,「中毒性表皮壊死症」の記載のあるものは,各々1,097枚,913枚である(平成12年9月末日)。
 一方,一般用医薬品については,市販の解熱剤やかぜ薬を飲み,高熱やショック状態,眼に異常を及ぼす重篤な副作用が報告されたことを受け,平成7年9月に,製薬企業に
対し「使用上の注意」の追記を指示し,テレビCMなどで注意を促すことを求め,薬局にも服薬指導の徹底を要請した。また,平成11年8月に,医薬品の重要な情報が一般使用
者にわかりやすく伝達されるよう,「一般用医薬品の添付文書記載要領」を定め周知を図っているところである。
(2)厚生省への副作用報告症例について
  平成9年4月1日から平成12年3月31日の3年間に,薬事法に基づく企業からの企業 報告,
医療機関から直接厚生省へ報告される医薬品等安全性情報報告制度によって報告 された件数は69,872件であった。
それらのうち副作用がSJSあるいはTENとされた報告は 約1.3%の882件であり,そのうち一般用医薬品が被疑薬に
含まれている報告は約6%の 54件であった。882件の転帰は,約76%の668症例は“軽快”あるいは“回復”とされた
症例であり,61症例(約7%)が何らかの後遺症を来し,81症例(約9%)が医薬品が 関連した死亡とされた症例であった。
残り約8%の72症例については,医薬品以外の原 因による死亡,あるいは転帰不明とされた症例であった。
なお,これらの報告症例につ いては重複症例があること,医薬品との因果関係が明確でない症例も含まれていること
 にご留意いただきたい。
  被疑薬として報告があった医薬品は259成分であり,報告数の多かった医薬品10品目 を表3表4に示す。
なお,報告数順位については,各医薬品の販売量が異なること, また,使用法,使用頻度,併用医薬品,原疾患,合併症
などが症例により異なるため, 単純に比較することはできないことにご留意いただきたい。 
4.まとめ
  SJS,TENはその発生頻度は極めてまれではあるものの,いったん発症すると皮膚症状が軽快した後も眼や呼吸器官などに
障害を残したり,多臓器障害の合併症などにより致 命的な転帰をたどることがある重篤な皮膚疾患である。
厚生省への副作用報告症例の調 査の結果,3年間でSJS,あるいはTENの被疑薬として報告のあった医薬品はおよそ260 成分にも
のぼり,幅広い医薬品が原因になり得ることがうかがえた。また,それらのうち報告の多かった医薬品は,汎用されている医薬品
(抗生物質製剤,解熱鎮痛消炎剤等)や長期使用される医薬品(抗てんかん剤等)などであり,約7%が何らかの後遺症を来
 し,約9%が死亡という転帰であった。SJS,TENの発症の予知は現在において極めて困 難であるとされている。
これらの皮膚障害は,非常に稀とはいえ,個人や医薬品を問わず起こり得る可能性がある。薬疹に対しては,被疑薬の投与を中止
することが最も重要で最良の治療法とされており,医薬品投与後に高熱を伴う発疹等を認めた時は,直ちに 被疑薬の投与を中止
するとともに,SJS,TENの発症を疑った場合には,皮膚科の専門医 を紹介することが必要と思われる。 

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TEN、SJSが起こったときの治療

2001年4月15日号 312

 最近の添付文書改訂で、重大な副作用として肝機能障害(黄疸を含む)、横紋筋融解症とともに皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)Lyell症候群(中毒性表皮壊死症)につきましても、記載される薬品が増え、どの薬品でも起こりうる事が示唆されています。

 従来、これらの副作用が起こった場合の処置法としてステロイド剤の使用が勧められていましたが、ステロイド剤の使用はむしろ危険とする報告が出ています。

 TEN、SJSは、ごく軽度の場合には、ステロイドを使用しなくても原因薬剤の使用を中止すれば回復します。重症の場合には、表皮が剥離してびらん面となって、感染を起こし易く、表皮の再生を妨げるなどステロイドの使用はかえって予後を悪くします。

<治療の実際>
1.30〜32℃の暖かい部屋に入院させ、皮膚を傷つけないこと
2.輸液路を確保する。
3.全身状態や基本的計測、バイタルサインを聴取。
4.皮膚病変(皮膚剥離部分、水疱、ニコルスキー現象陽性部分)の広がりを計測
5.コルチコステロイドを処方しない。
6.すべての薬剤使用を中止
7.写真撮影
8.眼科受診を受けるまで、取りあえず刺激のない点眼剤を使用
9.その他
 大量の浸出液や下痢等に伴う体液の大量喪失に対して、電解質と補液を適切に行う。
 細菌培養に基づき抗生物質を適切に選択し、むやみな予防使用を行わないこと。不要になった場合には早期に中止。広範囲の火傷の治療に準じたびらん面の局所治療をはじめ、可能な限り無菌的に操作すること。
 安静を強いるため血栓を生じやすくなるので抗凝固療法を考慮するなど、支持療法を適切に実施することが基本です。

* TENやSJSは重篤で致死的なことが多いので、直ちにICUや熱傷部門に入院させ、ICUチーム、皮膚科、眼科などによる共同治療チームによって治療を行うようにしなければなりません。
* SJSもTENも皮膚が障害されるだけではありません。咽頭や口内、陰部、眼などの炎症や発熱などの症状が始まることがありえますので、これらのいずれかの症状があれば、これらの疾患の始まりの可能性を考えてまず薬剤を中止してみることが必要です。特に使用開始2〜3週間以内(長くても2ヶ月以内)に使用が開始された薬剤が疑わしいので、それらを中止する必要があります。

<原因薬剤の同定>
 ステロイド剤が使用されていない場合には、咽頭症状や皮疹など初発症状が発現する前に使用していた薬剤はすべて可能性があると考えて、これらすべての薬剤を用いてリンパ球刺激試験(DLST、LST)を実施します。
 ステロイドが使用されている場合には、結果が偽陽性となる可能性が高いので、皮疹が回復し、ステロイド剤の影響が無くなるまで待ってから、同様にリンパ球刺激試験を実施します。陰性に出ても原因薬剤であることが完全に否定されるわけではありませんが、陽性が出たらほぼ原因であると考えて差し支えありません。

{参考文献}薬事 2001.3

 TEN〜ニコルスキー現象あり。

 toxic epidermal necrolysis
 
Lyell症候群 中毒性表皮壊死症とも呼ばれます。

SJS〜ニコルスキー現象なし
 
Stevens-Johnson症候群、皮膚粘膜眼症候群とも呼ばれます。


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DIHSとは

2003年8月1日号 No.365

Drug-induced hypersensitivity syndrome :ディース

 DIHSは通常の薬疹とは異なる大きな特徴を持っています。

 通常の薬疹では原因薬剤を使用して短期間に出現しますが、DIHSは逆で原因薬剤使用から発症まで数週間から数ヶ月を要し、また原因薬剤を中止しても数週間から数ヶ月にわたり、症状の遷延あるいは再発が見られます。

 その代表的なものとしてよく知られているものにDDS症候群があります。

DDS:dapsone,4,4-diaminodiphenylsulphone 商品名 レクチゾール(自己免疫性水疱症、血管炎、ハンセン氏病の治療薬)

 DIHS(薬剤性過敏性症候群)は、皮膚粘膜症候群(Stevens-Johnson症候群)・TEN;toxic epidermal necloysisとならぶ重症薬疹の1つです。

 臨床的にいくつかの特徴がありますが、最近、薬剤アレルギーとウイルス感染症(HHV-6の再活性化)の複合した新しい病態であることが明らかになりました。さらに脳炎、糖尿病などの重篤な疾病を合併することから多くの分野で注目されています。

 DIHSでは、ある限られた薬剤を2〜6週間内服した後、発熱とともに紅斑が全身に広がります。DIHSを発症する人では、これらの服用により薬剤本来の薬理作用とは別にB細胞の減少や免疫グロブリン低下などの免疫学的な異常が引き起こされています。

 このような免疫異常がウイルス再活性化に関与してDIHSの病態を形成している可能性が考えられています。

 DIHSは、ヒトヘルペスウイルス6型の再活性化を合併するという特徴があり、最近では、DIHSの経過中の再燃という形でみられていた病態に、再活性化したHHV-6が関与することが明らかとなってきました。

 ある報告によりますと、原因薬剤は、カルバマゼピンが23例と最多で、メキシレチン5例、アロプリノール、フェニトインが各4例、サラゾスルファピリジン3例となっています。その報告では、男性32例、女性24例で平均年齢は49.9歳でした。20歳未満の症例は4例でDIHSの小児発症例は比較的稀と考えられます。

 DIHSの治療

 DIHSの治療を考える上でT細胞の活性化の抑制に加えて、ウイルスの再活性化の抑制が重要となります。

 DIHS患者はほとんど全例で発症時の免疫グロブリン(Ig)の著明な低下が見られ、これがウイルスの再活性化につながる可能性があります。

 そのためIgの低下を補うような免疫グロブリン製剤は極めて有効です。現在のところグロブロリンとステロイド剤(全身与薬)の併用が最も優れた治療法とされています。

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 その他にDIHSで脳炎を併発した症例、劇症1型糖尿病を発症した症例、心筋炎を併発した症例、サイトメガロウイルスの再活性化が見られた症例などの報告もあり、アレルギー機序との関連や特異的治療の開発など今後の研究の発展が望まれます。

 厚生労働省の特別研究事業の一環として重症薬疹(SJSやTEN)などとともに、DIHSの診断基準と治療指針の研究が始まり、その骨子がまとまりつつあります。

{参考文献} 医薬ジャーナル 2003.7 日本病院薬剤師会雑誌 2004.1


医学・薬学用語解説(ま)前向き研究 はこちらです。


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重篤な皮膚障害とPGx                  PGx:Pharmacogenomicsについてはこちらをご覧下さい。

2010年6月15日号 No.523

 近年、薬剤反応性の個人差をゲノム情報をもとに研究する領域(PGx)が急速に発展し、その研究成果は日常臨床へ導入されつつあります。

 近年、PGxの手法を用いた重篤な副作用機序の解明で最も大きな進歩があったのは、重篤な皮膚副作用と特定のHLA座との関連に関する研究です。

 {参考文献}薬事 2010.4

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 薬剤誘発性の皮膚障害は臨床的に即時型と遅延型に分類されます。

 即時型の皮膚反応の典型ははアナフィラキシー反応です。一方遅延型の皮膚副作用は発疹形状からは斑丘疹状紅斑(MP:maculopapulareruption)ですが、重症なものでは薬剤過敏症性症候群(DIHS)又はHS:Hypersensitiveity syndoromeやSJS(Stevens-Johnson症候群:皮膚粘膜症候群)、中毒性表皮壊死症(TEN)などに分類されます。(このページの上記参照)

 最も重症な薬物誘発性皮膚副作用であるSJS、TENとHLAアレルとの関連にも、研究の進歩がみられています。両病態は、急速に進展する広範な痒みのある紅斑と痛みを伴う水疱や表皮剥離、びらん、潰瘍を症状としますが、最近では、SJSとTENを重傷度が異なる一連のスペクトラムを持つ疾患群としてとらえる見方が支配的で、皮膚剥離面積が全表皮の10%以下のものをSJS、30%以上のものをTENとしています。

 SJSやTENなどの重症皮膚副作用の発現頻度は0.4〜6人/100万人と低いのですが、それぞれ致命率は5〜10%および30〜40%と高く極めて重篤です。

 SJSやTENなどの重症皮膚副作用には100種以上の薬物が関係することが、報告されていますが、中でもアロプリノール(サロベール錠)や芳香環構造を持つ抗てんかん剤(フェニトイン、テグレトールなど)は代表的な原因物質です。

 抗てんかん剤カルバマゼピン(テグレトール錠)誘発性のSJSに対しては、漢民族起源の中国人やタイ人集団での検討ではSJSとこのHLA-B1502アレルが高度にSJS発症リスクに関係することが発見されています。

 白人や日本人での検討ではSJSとこのHLAアレルとの関連はみられませんが、その理由は両人種においてHLA-B1502アレル頻度が漢民族中国人集団(7.3%)よりも著しく低いためです。またアロプリノールによる重症薬疹(SJS、TEN,DIHS)には漢民族中国人、日本人、白人いずれにおいてもHLA-B1502との強い関連が見出されています。

 用量依存性のない免疫的な機序に基づく副作用は、従来予測不可能と考えられていましたが、ここ数年の研究で予測可能なものとなりつつあります。すでにカルバマゼピンなどでは、添付文書にも記載がなされています。原理的には近い将来に薬物誘発性副作用に関する特異体質は、PGx研究により克服されるものと期待されています。

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        PGx:Pharmacogenomicsについてはこちらをご覧下さい。


2001年4月15日号 No.312

膠原病とステロイド

ステロイドを考える(4)   無菌の炎症

このシリーズは、新潟大学医学部医動物学の安保徹教授が「治療」に1999年から2000年にかけてに連載されておられたものを再構成したものです。

{参考文献}治療 2000.10

 新潟大学医学部医動物学の安保徹教授は、膠原病や自己免疫病にステロイド療法を行うことには2つの問題点があると指摘されておられます。

1)これらの病気はむしろ免疫不全状態にあり、ステロイドの免疫抑制作用自体が意味を持ちません。実際、ステロイドを使用しても、問題となっている顆粒球や胸腺外分化T細胞は減少せず、ステロイドの長期使用によってむしろ増加していきます。

2)ステロイドの抗炎症作用は組織反応の一時的抑制(冷え)のためであり、真の治癒とは別のものです。長期使用によって組織障害は広がり再燃力も増してきます。

 つまりNSAIDs(サラゾピリン、ペンタサ等)やステロイドは、治癒を先延ばしにしているだけなのです。悪いのはこれらの治療によってさらなる組織障害が加わっていくので再燃反応を増すのです。これらがステロイド治療による膠原病や自己免疫疾患の難治化のメカニズムです。

 膠原病や自己免疫疾患は圧倒的に女性に多く見られますが、これは感染症やストレスを救おうとしてグルココルチコイドとともにエストロゲンが分泌されるために、血流障害や組織破壊がより強く起こるためと思われます。

 コレステロール骨格を持つグルココルチコイドやエストロゲンは強力な抗炎症作用を持ちますが、これらの過剰は血流障害と顆粒球増多を招き組織破壊を増強します。aseptic(無菌)の炎症とは、こうした顆粒球を主体とした炎症なのです。細菌感染が無く、化膿性の炎症とは異なり組織破壊の炎症となります。

 潰瘍性大腸炎は交感神経緊張による顆粒球増多によって引き起こされますので、NSAIDsやステロイドは急激に病状を悪化させていきます。下痢や粘血便を一過性に抑制しますが、両者とも血流障害と顆粒球増多を招く薬理作用がありますので、病気を悪化させてしまう可能性があるのだそうです。

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