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降圧療法でのQuality of Life

昭和63年10月15日号 No.31

   癌患者や重症慢性疾患患者の治療方針に"Quality of Life:生活の質"とい概念が、20年以上も前から組み込まれてきていました。

 最近、高血圧の治療にもこの重要性が認識されるようになり、国際高血圧学会などで取り上げられてきています。

      {参考文献} 医薬ジャーナル 1998.9

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 このQuality of Lifeがクローズアップされてきた背景には、次のようなことが挙げられます。

1 優秀な各種の降圧薬の開発により、大部分の高血圧はコントロール可能となり、高血圧性合併症の発生並びにそれによる死亡率は減少し、高圧療法の初期の目的が達成されましたが、次のステップとして日常生活をめぐる質的な面の改善が要求される時代が来た。

2 高圧療法の対象は主として軽症・中等症の高血圧患者で、しかも無愁訴の人が大分である。

3 人口の高齢化に伴い老年者高血圧をはじめ、慢性成人病(ほとんどが完治しない)の管理が問題となり、日常生活を営みながらコントロールする機会が多くなって来た。

4 医師が従来の純科学的見地からみた判断と、患者の日常生活精神面から見た広い視野からの判断のと間に、大きいギャップがあることが問題にされるようになった。

 医師が降圧目標に血圧をコントロールしても、患者及び家族が不変ないし悪化と評価したとの事例もあります。

 Quality of Lifeのチェック項目としは、日常生活の充足感、性機能を含んだ肉体状況、知的機能を含む社会的活動などがある、現在多くの施設でアンケート調査により、高圧剤の調査研究が行われています。

<<高圧剤のQuality of Lifeの評価法:Croogらによる>>

*sense of well-being(改善感)、身体症状、性機能、労働意欲、感情状態、認識能力、社会的活動、生活の満足感

 

関連用語:QALY:Quality-adjsted Life Year  

      健康寿命:span of healthy life

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追加記事 2002年

QOLの測定法

    出典:医薬ジャーナル 2002.2

 QOLは、疾病や治療が与える影響や結果を患者が評価する方法として重要な意義を持ちます。しかし、それは元来、患者の主観的かつ定性的な表現でしかありません。
これを科学的に取り扱えるデータにするためには、一定のルールが必要です。

 主観的表現を客観的データに変換するための作業

1.医学領域で用いるQOLは、対象者の健康状態を総合的に評価するものであり(健康関連QOL)、その評価は患者の主観的判断によってなされます。
2.これを測定するには、計量心理学的に再現性及び妥当性が評価されたQOL質問紙を用います。
3.QOL質問紙は、身体機能や症状、社会的機能、役割や日常生活、精神的機能や満足度の各領域に属する質問項目から構成されます。
4.QOL質問紙には、すべての疾患や健康状態に適応できる包括的質問紙とある特定の疾患だけに用いられる疾患特異的質問紙があります。

 包括的質問票 SF36:Short Form 36,  SIP:Sickness Impact Profil  など

SF36〜領域に分類され、それがいくつかの質問から構成されています。
1.身体機能SF:歩く、階段を昇る、などの活動項目がどの程度出来るか。
2.日常役割機能(身体)RP:仕事や活動が身体的な理由で妨げられたか?
3.体の傷みBP:痛みによって日常活動がどの程度制限されたか?
4.全体的健康観GH:現在と将来の健康状態についてどう思っているか?
5.活力VT:元気か、あるいは疲れを感じているか?
6.社会生活機能SP:人とのつきあいがどの程度制約されるか?
7.日常役割機能(感情)RE:仕事や活動が心理的な理由で妨げられたか?
8.心の健康MH:不安、憂鬱、楽しいなどの気分の程度

  質問票 家の活動、例えば、家や庭の掃除をする。1〜2時間散歩するなど
  (1.とてもむづかしい。 2.すこしむづかしい。 3.ぜんぜんぶずかしくない)


SIP〜全般的な項目、身体機能の項目、心理的な項目に大分類、それぞれに下尺度があります。
質問例:あてはまる項目を選択する方法
・仕事:私は全く仕事をしていない。
・食事:私は特別食あるいは人と違う食事をしている。
・社会:私は他人と交わることが少ない。
・感情:私は自殺を考えたことがある。

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ITR−QOL

Insulin Therapy Related-Qol

インスリン治療が患者のQOLに与える影響を測定するための質問票


予防医学とは

2001年10月1日号 323

{参考文献}薬事 2001.9

 普通、予防医学とは「疾病の発症を阻止すること」と考えられています。しかし、これは狭義の定義です。現在では、疾病の発症阻止だけでなく疾病の進展を抑制し、遅延させることも予防であるとされています。

 1次予防:健康増進と特異的予防

 2次予防:早期発見と早期治療

 3次予防:後遺症の予防と社会復帰


*1次予防

1)健康増進

 家庭、職場、学校、地域等で、健康的な条件、すなわち適切な衣食住を提供すること。 休養、レクリエーションも含み、広義の健康教育・指導(性教育、結婚相談等)も重要です。環境面では、
アメニティーが提唱されています。

2)特異的予防

 感染症対策は、予防接種と環境衛生学的対策(上下水道の完備等)、生活習慣病に対しては、主食、主菜、副菜のバランスが取れた食生活、禁煙、飲酒、運動、ストレスマネジメント、休養、さらに脳卒中、虚血性心疾患の場合には、高血圧、高脂血症等の危険要因のコントロールです。

 B型、C型肝炎ウイルスキャリアの検出、適切なコントロールは、肝硬変、肝臓癌の特異的予防です。遺伝子解析による、オーダーメイド予防も特異的予防となります。

*2次予防(早期発見と早期治療)

 可能なら、前臨床期に検出することです。早期発見と早期治療は、疾病を治癒に導きますし、疾病の進行を遅らせ、合併症を予防し、後遺症を軽くします。

 肺結核、性行為感染症等の場合には、他人への伝播を防ぐという意味で1次予防につながります。胃癌、子宮癌等の癌検診も有効です。

*3次予防

1)後遺症の予防

 脳卒中の急性期からの理学療法等は、後遺症の予防に有用です。回復期では座位バランスの訓練、起立歩行訓練、歩行以外の
ADL訓練、上肢機能回復訓練、言語機能回復訓練、歩行・失認の回復訓練等。

 失われたものそのものの回復よりも残存機能の有効利用が重視されます。また、医師、看護婦、栄養士、理学療法士、作業療法士、義肢装具士、カウンセラー(心理面、福祉面)等のチーム医療が要求されます。

2)社会復帰

 保険・医療・福祉機関およびその従事者と患者、家庭との連帯が有機的に機能することが必要です。地域社会の受け入れとしては、職業訓練施設、後遺症の復職・就職、車椅子等の器具の開発、地域・家庭でのバリアフリーの環境作りなどです。

 生き甲斐感、幸福感、満足感、家庭・社会での交流等の充実した生活、すなわちクオリティー オブ ライフ(QOL:生活、人生の質)の豊かな生活であることが最も求められています。

 予防医学は、科学というよりも実践活動です。医学、保険学、看護学、栄養学等だけでなく、他の自然科学、人文・社会科学の領域を包含するものです。21世紀になり俯瞰型研究として発展していくものと思われます。

<<用語解説>>

* アメニティ amenity
〔快適さ・喜ばしさ、の意〕都市計画や環境の整備・保全の目標となる快適な生活環境。単に危険・災害・公害などの防止だけでなく、快適性や居住性を追求するもの。

          関連用語:ユニバーサルデザイン


2001年10月1日号 No.323

クリック→COX2について

シリーズ:アスピリン(6)


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ユニバーサルデザイン     関連用語 アメニティー

2003年11月1日号 No.371 

 ユニバーサルデザインとは、それまでのバリアフリーの概念に代わって、「できるだけ多くの人が利用可能であるように製品、建物、空間をデザインすること」です。

 一口に障害を持つ人といっても、視覚、聴覚、肢体、内部、知的など、さまざまな障害があります。同じ障害でも程度の差があり、また誰もが、怪我などで一時的に障害を持つこともありますし、言葉のわからない土地に行けば移動制約者となり得ます。

 ユニバーサルデザインは、“すべての人が人生のある時点で何らかの障害をもつ”ということを、発想の起点としている点で、それまでのバリアフリーデザインとは大きく異なります。そこには、可愛そうな人のために何かしてあげようと いう慈善はありません。

 障害の部位や程度によりもたらされるバリア(障壁)に対処するのがバリアフリーデザインであるのに対し、ユニバーサルデザインは障害の有無、年齢、性別、国籍、人種等にかかわらず多様な人々が気持ちよく使えるようにあらかじめ都市や生活環境を計画する考え方です。

 都市空間であれば、誰もが歩きやすいように電柱を地下に埋設した道路、多言語表記のわかりやすいサインなどがあげられます。建物であれば自動ドアや多目的トイレ、日用品であれば、テレホンカードの切り込みやシャンプー容器のギザギザが、ユニバーサルデザインの代表例です。

 ユニバーサルデザインによって、バリアフリーデザインがなくなるかといえば、そうではありません。例えば、町でよく見かける黄色の点字ブロックは、バリアフリーデザインの代表例ですが、ユニバーサルデザインの町づくりという全体的なデザインのなかでは、ユニバーサルデザインの一部となります。

 ユニバーサルデザインの領域は製品、施設、都市などの目に見えるものから、サービスやシステムなどの目に見えないものまで多岐にわたります。それらが関連し補完し合わなければ、ユニバーサルデザインの社会は実現できません。

<ユニバーサルデザインは次の7原則で構成されます>

1.誰にでも公平に利用できる〜センサー付き自動ドアはすべての利用者に便利

2.使う上で柔軟性に富む〜利き手に関係なく、どちらの手でも使えるスプリング式のハサミ

3.簡単で直感的に利用できる〜イラストによる説明書(マニュアル)

4.必要な情報が簡単に理解できる〜触覚と視覚によるサーモスタットの操作盤

5.単純なミスが危険につながらない〜簡単に誤りを直せるコンピュータ操作時の「取消」機能

6.身体的な負担が少ない〜ノブよりも手の操作が簡単なレバーハンドル

7.接近して使える寸法や空間になっている〜広い改札口は誰にでも便利

{参考文献}ユニバーサルデザイン01号(1998年6月発行)

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ユニバーサルデザインフード

 日本介護食品協議会は、高齢者にも食べやすく、介護用食品として配慮した加工食品を「ユニバーサルデザインフード」とし、マークを表示します。

 噛む力、飲み込む力のレベルに応じて4段階に区分します。

 一般家庭で使用することを前提とした商品で、2003年秋から表示される予定です。

     出典:東邦医薬ニュース 2003 Vol.12 No.10

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医学・薬学用語解説(ゆ)

ユニバーサルデザインと医薬品

 全ての人が識別できるようにするためには、薬品表示に使用できる色の種類が、むしろ限定される可能性があります。

 このような状況下で、色調を絶対的な指標として識別を行うことには危険が伴うため、色による識別は補助手段として行われるべきです。

 また、医薬品の表示は薬事法によって定められているため、さらに読解性の向上の工夫が求められています。

<ユニバーサルデザインを用いた服薬過誤対策>

・ 認識された文字、図、文章の意味が、個人の経験、知識、興味等によって異なることがあります。標準化した文字や図・イラスト、危険マークなどを採用するとともに、正しく解釈されるような適切な文章で表現する。

・ デザインの検討時、暗所等での正確な識別が可能であることや、高齢者でも正しい識別が可能であることを確認する。


・ 色が人によってどの様に見えるかを確認する。

・ 例示、イラストの重要性を再認識し、複雑な図や字数の多い表示は読まれずに、時として模様として認識される可能性があるため、模様として認識されにくいデザインを志向する。

・ 重要な概念を正しく認識できるデザイン、例えば暗所でも正確な識別が可能であることや、高齢者でも正しく識別が可能であることを確認する。

・ 薬品の文字でも、「ソ→ン」、「リ→ソ」、「ツ→シ」、
「コ→ユ」、「ベ→ペ」などは誤読しやすいことを意識しておく。

・ 今後薬品の名前は、効能効果を連想するようなものにする。商品名の前後・上下のいずれかに、必ず効能効果を示唆する文字を表示する。

{参考文献}  医薬ジャーナル 2003.9

   

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ノーマライゼーション

 障害者を特別視しないこと。そのような社会実現を目指していくこと。

 ノーマライゼーションの理念は正常にすることではなく、障害があっても受容して障害者にとって生活条件を提供することにあります。

 障害者のQOLのためには、障害の重度化を予防するだけでなく、経済的自立、社会保障や、必要性のある介護の提供、プライバシーの確保、住宅、移動のバリアフリー、地域の援助など健常者と同じ様な役割を果たすための社会的、物理的な環境の調整がトータルリハビリテーションとして必要になります。

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アクセシビリティー

「ITにおけるアクセシビリティー」とは、障害者、高齢者など全てのヒトが情報機器を操作できるようになることをいいます。

 コンピュータの利用により、障害者にとっても情報へのアクセス環境は広がっています。
この技術を一般化して、多くの人が様々な職種につけるように普及・成長させ、ひいては情報機器へのユニバーサルアクセスを実現させることが大きな目標とされています。

(例)
 デジタル点字、通常の文章を読みとりテキストに変換するOCR、
 視覚障害者がコンピュータにアクセスする際に用いコンピュータ上の情報を読み上げるスクリーンリーダー 等

  出典:レーダーニュース May.2004 (くすりの適正使用協議会)

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