抗悪性腫瘍剤静注時の血管外漏出に対する処置方法
昭和63年11月15日号 No.33
抗悪性腫瘍剤は、一般に細胞毒性を有するものが多く、その静注時の血管外漏出は、組織障害を引き越し、しばしば重篤な機能障害を生じます。その障害の程度は、薬剤の種類とその漏出量により異なりますが、確認できないほどのごく少量が、血管外に漏出しただけでも重篤な経過をたどることがあります。
一般に軽症の場合には、局所の疼痛・発赤・腫脹を認め、短期間で治癒しますが、重症になると長期間(3〜4ヶ月以上)におよぶ激しい疼痛と共に、漏出部位潰瘍、壊死を生じ、腱、神経、血管等の深部組織にまで不可逆的な影響を及ぼします。 {参考文献} 医薬ジャーナル 1988.11 |
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抗悪性腫瘍剤の使用に際しては、血管外漏出防止に細心の注意を払うことが第一ですが、万が一血管外に漏出したとしても、その障害が最小限に抑えられるように、薬剤は低濃度に希釈し、出来るだけゆっくり注入することが必要です。
重篤な昨日障害を生じやすい手背、手関節部静脈からの注入は避けるべきです。
抗悪性腫瘍剤の血管外漏出が認められた場合には、直ちにその注入を中止し、注入部位より3〜5mlの血液を抜くと共に、出来るだけ多くの薬剤を取り除き、速やかな処置を実施する必要があります。
<抗悪性腫瘍剤漏出時の保存適量法の1例>
1.血管外漏出後1時間以内にステロイド剤を漏出部位を中心に皮下注する。血管外漏出の翌日まででも発赤、腫脹が残っていれば局中を反復する。
2.局中後0.1%リバノール液で湿布(冷湿布)する。
3.漏出した翌日からステロイドの外用剤を塗布し、その上から0.1%リバノール液で1日2回冷湿布を行う、原則として1週間これを継続する。
<処置方法>(注意:下記参照)
1.直ちに拮抗剤、ステロイド局注、30〜60分温湿布を行う、
2.直ちにステロイド局注、冷湿布
3.ステロイドの全身与薬
4.まず保存的治療で経過を追い、必要ならデブリドマン再建
5.直ちにデブリドマンを行う
<ステロイド剤の局注方法>
*ソルコーテフ100mg〜200mgまたはプレドニン20〜50mgまたはリンデロン2〜4mgを生食で、総量4〜8ml暗いに希釈し局注。
*ただし疼痛が強いときには1〜2%塩酸プロカインを混注して使用。
デブリードメン
(デブリードマン)
滅創や感染創などの壊死部分や異物を除去すること。
異物や壊死部分は血行障害や感染を招ねき、創傷(きず)の治癒を著しく阻害して瘢痕も醜形となるため、汚染創の処置においてはデブリードマンは必須となります。
通常,無菌部分が露出して出血のみられるところまで切除します。
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<2000年追記>下記のような貴重なメールが来ましたので付記します。
抗悪性腫瘍剤静注時の血管外漏出に対する処置方法
を拝見いたしまして、メールさせていただきます。
当方の勤務先の病棟では、抗癌剤漏出の際、貴ページ記載と同様のマニュアルにて対処してきておりました。
これが、ホントに正しいのかという事が気になって、調べてみました。
etoposideについての英文のdrug informationを参照しますと、
@ヒアルノニダーゼの皮下注
Aあたためる
Bステロイドの局注は禁忌
C冷やす事も禁忌
とあります。
日本語の能書には、対策は記載されておりません。
英文サイトをサーチしますと、NIHのサイト
http://www.cc.nih.gov/nursing/IVCTXSOP.htm
http://www.cc.nih.gov/nursing/APNDXA.htm
NIH Clinical Center Nursing Department
SOP: Care of the Patient Receiving Intravenous Cytotoxic
Agentsに、各種抗癌剤別の対策が記載されています。
要点は、
@ビンカアルカロイドやエトポシドは薬の拡散、吸収を促進させるためにあたためる。
Aアドリアマイシン、類似は冷やす。
B低濃度のシスプラチンでは特別の対策が必要ない。
Cステロイドの局所適用は、動物実験で有害性が示されている場合(ビンクリスチン)もある。
D抗癌剤の局所毒性ををirritant とvesicant(水胞形成性)に分類している。
貴サイトの文章は、医薬ジャーナル1988年11月号を文献としてあげており、これが恐らく、当方の病棟のマニュアルも根拠にしたものではないかと、推察しています。共通のソースで間違っている、ということだと思います。
血管外漏出に注意すべき注射剤(抗癌剤以外)
2008年5月1日号 No.474
化学療法剤(抗癌剤)は、基本的に血管外漏出に最も注意を払うべき薬剤で、このことはすでに一般的によく知られています。
ここではそれ以外の注射剤について述べます。
血管外漏出に注意すべき主な成分
1)強アルカリ性薬剤:アレビアチン、ラボナール、アイオナール:組織障害を起こす可能性
2)血管収縮剤:ボスミン、ノルアド、ドパミン(イノバン):虚血による皮膚障害の可能性
3)組織障害性の強い薬剤
:蛋白分解酵素阻害剤(フサン、レミナロン):濃度依存的に血管内皮細胞を傷害し、血管壊死を生じる。
<血管外漏出のリスクが高い要因>
1.刺入部が手背や足背である場合
2.高齢者、乳児
3.片麻痺、脊損
4.意識障害患者
5.咳、嘔吐、痙攣などの体動がある場合
6.就寝時
7.輸液ポンプによる注入時
8.薬剤を複数混合している場合 等
<予防策>
・高浸透圧性の薬剤は希釈するかもしくは低浸透圧の薬剤への変更を考慮する。
・強アルカリ性薬剤は可能であれば静脈内にボーラスに注入し、持続的注入を避ける。
・金属針で無くナイロン針で上肢の太い血管から行う。
・血管外漏出時の初期徴候(発赤・紅斑・腫脹・浸潤)について患者にあらかじめ説明しておくことにより、早期の処置、対応が可能となり得ます。
<組織障害生じ得る薬剤>
*制酸・中和剤:メイロン
*麻酔薬:ディプリバン、バルビツール系麻酔薬
*蛋白分解酵素阻害剤:フサン、レミナロン(エフオーワイ)
*カテコールアミン系薬剤:ドブトレックス、イノバン(ドパミン)、エピネフリン(ボスミン)、ノルエピネフリン(ノルアド)
*抗生物質:バンコマイシン
*アシドーシス治療剤:トロメタモール(当院未採用)
*アミノ酸輸液:アミフリード
*昇圧剤:エホチール、アラミノン
*抗てんかん剤:アレビアチン
*抗癌剤(化学療法剤):全般
〔参考文献}治療 2008.3
水にまつわる科学・非(ニセ)科学
最近、さまざまな浄水器や活水器の宣伝が広く行われていますが、その多くは化学的根拠に乏しいか完全に間違っています。
例えば、根強くある俗説に「クラスターの小さい水はおいしくて体に良い」というものがあります。
クラスターの小さい水とは、水分子間の水素結合が切れている水のことで、NMRで測定できるとされていますが、実際には最初に提唱した人がNMRの測定を誤解して広めてしまった間違った説です。
また、水に磁場をかける装置が「磁気活水器」として販売され、宣伝では、「水の活性化」とか「マイナスイオンを作る」といった科学っぽい用語がちりばめてあるものの、科学の素養を持った人が見れば、意味不明な説明がなされています。
実験の結果、効果があったとする磁気活水器についてきちんと調べたところ、磁気以外による理由によるものであったという報告もあります。
水のニセ科学は、水以外の不純物の量の効果を無視し、何らかの物理変化が起きると思い込んだ結果生じてきます。化学変化が起きたとされる場合でも、定量的な検討がなされていません。
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・非科学〜科学ではないもの。(一見、科学っぽいが、科学用語を使っているだけ)
(例)血液型と性格、ホメオパシー等
・未科学〜まだ研究されていないもの
(例)イチョウ葉エキス、アガリクス等
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{参考資料} 日本薬学会大128年会(2008.3.26) 一般シンポジウム 山形大理 天羽 優子 機能水の嘘・真実より
<医学用語辞典>〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
MDT
Maggot Debridement Therapy
ウジ虫治療
ウジ虫が潰瘍の治療に効果があるといのは古くから知られていて、ウジ虫が湧いた傷は早く治ると記した軍医の記録もあります。
この治療法は非侵襲的で麻酔を必要とせず、汚染された組織を除去(デブリードマン)し、創傷治癒を促進させ、殺菌作用により感染のリスクも減少します。
出典:ONO TOPICs 2004.10.15
皮膚症状から分かる悪性腫瘍
腫瘍随伴性皮膚病変
2001年5月1日号 313
「皮膚は内臓の鏡」といわれているように、内臓に悪性腫瘍があった場合、それと関連した皮膚症状を呈することがあります。それが腫瘍随伴性皮膚病変です。このうち特に臨床的に意義があるのは、患者が発疹を主訴として来院し、ここから内臓悪性腫瘍が見い出される場合です。
腫瘍随伴性皮膚病変は特徴的なものからきわめて軽微なものまであり、軽微なものは見逃されやすくなっています。
* 皮膚筋炎は主として筋肉を侵す膠原病で、診断的価値の高い皮膚症状が存在します。臨床的には、発疹と血中筋逸脱酵素の上昇を含む筋症状の出現にずれを生じることがあります。筋症状があまり明確でない時期でも、特徴的な皮膚所見から診断が可能であることから、皮膚症状は診断上重要です。
<<皮膚筋炎の特徴>>
*ヘリオトロープ疹〜両側の上眼瞼を中心にみられる紫紅色浮腫性紅斑。日本人ではやや紫色を帯びた暗い紅斑。皮膚筋炎に特徴的な皮疹
*蝶形紅斑〜SLEの代表的な皮膚症状として知られていますが、皮膚筋炎でも認められます。
*体幹、四肢の紅斑〜体幹では前胸三角部や項部上背部に好発します。体幹の紅斑はそう痒を伴うことが多く、ときに掻破痕に沿って線状の紅斑を認めます。肘頭、膝蓋にも鱗屑の付いた紅斑が見られます。
*ゴットロン徴候〜主に手指関節背面に、敷き石状の紅斑や角化性丘疹を生じたもの。
*爪の変化〜爪囲の紅斑が顕著で、爪上皮の延長と爪上皮内の点状出血
悪性腫瘍を合併した皮膚筋炎の臨床的特徴としてはそう痒が強く、顔面の紅斑、ヘリオトロープ疹、ポイキロデルマ(多形皮膚萎縮症)の発現率が高く、ゴットロン徴候、脱毛、関節痛の発現は少ないとされています。
<<皮膚筋炎と内臓悪性腫瘍>>
悪性腫瘍の合併頻度は20〜30%とされています。男性にやや多く、50歳以上の場合悪性腫瘍の合併率が急速に高まります。
合併する悪性腫瘍に特定の傾向はなく、日本では胃癌、肺癌、食道癌が多く、女性では乳癌、胃癌、子宮癌が多い。皮膚筋炎と悪性腫瘍のどちらが先に見い出されるかについては、皮膚筋炎の先行ないし同時発症例が多い。
治療については、悪性腫瘍の合併がある皮膚筋炎ではまずその治療を行います。悪性腫瘍に対する治療の結果皮疹の改善を認めることもあり、また病巣の拡大、再発や転移巣の出現に伴って皮疹が急速に悪化したり、再燃した報告もあります。
* 黒色表皮腫と内臓悪性腫瘍
黒色表皮腫に合併する悪性腫瘍のほとんどは腺癌で、その9割以上は胃癌です。発現時期は皮疹が先行するか、皮疹と悪性腫瘍が同時に発症する例が多く見られます。このことから本性は内臓悪性腫瘍の早期発見の手がかりとなり重要な発疹です。
* レザー・トレラ症候群と内臓悪性腫瘍
悪性腫瘍は胃癌、大腸癌、膵癌、卵巣癌、乳癌など腺癌が多く、一般に進行癌で早期癌は希です。
[老人性疣贅で、内臓癌の皮膚表現として急速に多発し,そう痒を伴うものをレザー・トレラ症候群(Leser‐Tre´lat
sign)といいます]
{参考文献}臨床と薬物治療 2001.3
デルマドローム
dermadorome
出典:臨床と薬物治療 2001.3
種々の代謝異常が皮膚に変化をもたらします。このような皮膚変化を内臓病変の皮膚表現-デルマドロームといいます。
例えば、糖尿病患者の約半数(30〜70%)は何らかの皮膚の変化を示し、これを糖尿病のデルマドロームと呼びますが、こうした変化は患者の早期治療、コントロール状態の判定、合併症の早期発見に役立てることができます。
* 糖尿病性デルモパシー:diabetic dermopathy
糖尿病性微小血管障害を基盤として発症する皮膚障害が、以前から前脛骨部色素斑として呼ばれていた糖尿病性デルモパシーです。
これは成人糖尿病患者の両下腿伸側に、多発性に生じる境界明確な褐色斑で、中央部瘢痕様に萎縮・陥没します。毛細血管の直径の狭小化、基底膜部の変化を伴う部位に、機械的並びに温熱、寒冷刺激が加わって発症します。
糖尿病患者の約40%に糖尿病性デルモパシーがみられ、網膜障害、神経障害、腎障害との合併率も高くなっています。
また、年齢の高い患者(50歳以上)および糖尿病罹患歴の長い患者にその頻度が高いとされています。
有効な治療法は特にありませんが、健常者の場合糖尿病性デルモパシーが単発で認められることはあっても多発することはありませんので、診断的意義の高い皮膚病変です。両下腿伸側部に4個以上これを認めた場合、糖尿病ならびにその合併症を疑います。
メトロニダゾールによる臭気管理
院内特殊製剤〜静岡県立総合病院薬剤部
癌病巣が体表部に露出し癌性潰瘍を形成すると、自壊した腫瘍の壊死過程での代謝産物により発生する悪臭に加えて疼痛を伴うことが多く、その管理は困難となっています。
この癌性悪臭は、癌病巣の嫌気性菌感染が密接に関係するといわれており、嫌気性菌に感受性のある抗菌剤を用いた軟膏製剤による臭気の改善が報告されています。
※0.8%メトロニダゾール軟膏
※1.0%メトロニダゾール軟膏
メトロニダゾール(試薬) 0.8g 1.0g
マクロゴール400(局法) 20g 49.5g
マクロゴール軟膏(局法) 79.2g 49.5g
全量 100g 100g
※メトロニダゾール生食 ※0.8%メトロニダゾール液
メトロニダゾール(試薬) 0.8g
メトロニダゾール(試薬) 0.8g
生理食塩水 適量
4%キシロカイン液 5mL
2%キシロカインビスカス 10mL
生理食塩液
適量
全量 100mL 全量 100mL
出典:薬事2005.2
RA、腰痛、膝関節痛、肩こりとステロイド
ステロイドを考える(5)
このシリーズは、新潟大学医学部医動物学の安保徹教授が「治療」に1999年から2000年にかけてに連載されておられたものを再構成したものです。
出典:治療 2000.7
RA(慢性関節リウマチ)、腰痛、膝関節痛、肩こりなどの炎症は顆粒球を主体とした炎症です。細菌感染が無い炎症は化膿性の炎症というよりも組織破壊の炎症となります。
顆粒球の炎症を抑えるには血流を増やす必要があります。この意味でもNSAIDsやステロイドホルモンは血流を低下させる働きがありますので逆効果となります。
RAは自己免疫疾患に分類されています。これまで、これらは自己免疫疾患であるからリンパ球の病気で、リンパ球の働きの異常あるいは過剰反応と理解されてきました。しかしそれは誤解でした。
RA患者の関節液中の白血球の98%は顆粒球でリンパ球は2%にしかすぎません。これは免疫抑制の傾向です。RA(他の自己免疫疾患)も免疫抑制の病気で、顆粒球が過剰に増加、過剰活性化して関節を破壊していく病気なのです。
パルボウイルス(他の風邪ウイルスも含む)などの感染によって急性炎症が始まり、その後顆粒球を主体とした慢性炎症に移行したのがRAといえます。
顆粒球の活性化は交感神経の支配下にあるので、慢性期に入ったRA患者は脈拍が多く、いつも疲れた状態となります。また、他の交感神経緊張症状も伴います。(高血圧、頻脈、便秘、易疲労、口渇など)。RAの関節液の中には少数のリンパ球が含まれていますが、T、B細胞はありません。RAは免疫病といっても顆粒球を主体とした炎症で、リンパの関与もこれまで考えられてきた通常のT、B細胞の世界とは異なっているのです。
自己免疫状態では、胸腺はむしろ萎縮し免疫抑制状態になっています。古いタイプの胸腺外で分化するT細胞は古いタイプの自己抗体を産生するB細胞とともに働きますので、同時に自己抗体も出現してきます。
長期間NSAIDsやステロイドを服用、または外用している場合、生体を交感神経優位の体調に固定するので、血流が低下し筋肉が衰え筋疲労が引き起こされます。さらに血流障害と顆粒球増多となって運動器官への障害へと進みます。治癒反応として血流が回復した時、関節に痛みが出ます。この痛みに対してNSAIDsを用いると逆効果となります。