HS病院薬剤部発行     

薬剤ニュース

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  1995年

4月1日号

NO.173

            

サリンガス中毒について      
〜その治療法は有機リン剤中毒と同様〜     

 昨年の松本市に続き、東京の地下鉄でサリンガスによると思われる中毒事件で多くの方が亡くなられました。サリンガスは、アセチルコリンを分解する酵素アセチルコリンエステラ−ゼの活性を抑制する作用を持っており、

 そのために、1)ムスカリン様作用(副交感神経末梢刺激症状)、2)ニコチン様症状、3)交感神経節刺激作用、4)中枢神経作用があらわれます。

 これは農薬や殺虫剤などに使われる有機リン剤の作用と同様のものです。


<一般的処置>

 1、胃洗浄・下剤 (油性下剤は禁忌) 2、人工呼吸・酸素 3、気管分泌物の除去 4、強制利尿剤 5、輸血・輸液 6、血液透析・潅流

毒・劇物に対する応急処置

<目に入ったとき>

 目を開き、5〜15分間多量の微温湯または流水で目を洗います。痛みのため目が開けられないときは、水を満たした容器に頭から入れて、水の中で目を開ける方法が良いと思われます。

*化学的解毒剤は使用しません。

<気道から入ったとき>

1.汚染された区域から新鮮な空気下に移し、衣類をゆるめる。
2.呼吸抑制がみられたら、直接法で人工呼吸を行います。顎を上げ、出来るだけ頸を後ろに曲げ、口または鼻から息を吹き込む。1分間に20回程度行いながら継続して行います。
3.必要があれば、毛布などで包み保温します。

<皮膚、粘膜についたとき>

1.付着物、衣類を剥ぎとる。衣類をとるときは、流水をかけながら行います。
2.ホースまたはシャワーで少なくとも15分間は水洗いをします。
3.化学的解毒剤(油脂、重曹など)は使用しません。


口から入ったとき

1.嘔吐させる。(吐かせる):指で咽頭を刺激して嘔吐を促します。手で入れるのが危険な場合は、スプーンの柄でおさえる。多量の水または微温湯を飲ませると嘔吐させ易くなります。
2.緩和剤:出来るだけ多量の牛乳を飲ませる。そのほか濃縮ミルク、ゼラチン液、泡立てた卵白、乳幼児には温めた牛乳がよい。
3.希釈;多量の水や濃いお茶で希釈。できればその後、吐かせます。

出典:薬・毒物中毒救急マニュアル 改訂6版(医薬ジャーナル社)

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 有機リン剤の有機リン酸部分がアセチルコリンエステラ−ゼのエステル分解部位に強く結合してアセチルコリンエステラ−ゼの活性が抑制されます。その結果アセチルコリンは分解されにくくなり、レセプタ−周囲にアセチルコリンが多くなって、アセチルコリンの過剰刺激症状を引き起こします。

軽症:食欲不振、胸部圧迫感、発汗、流涎、嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、倦怠感、不安感、頭痛、めまい

 中等症:軽症の諸症状に加えて、視力減退、縮瞳、顔面蒼白、筋線維性痙縮、血圧上昇、徐脈、言語障害、興奮、錯乱状態

 重症:失禁、縮瞳、気管支分泌液増加、湿性ラ音、肺水腫、呼吸困難、呼吸筋麻痺、意識混濁、昏睡、体温上昇、全身痙攣

 大量服用により急性の症状は数分から数十分後までに出現し、急速に極期に達します。一方、代謝は速やかですが、脂肪への移行性大のものもあります。

 意識障害や呼吸障害は遅延したり、改善後再燃することがあります。

{有機リン剤の治療法}

*アトロピン(酸素欠乏の状態での使用は禁忌)

 中等症:1〜4A(1A 0.5mg)静注し、15〜30分ごとに追加、もしくは5〜10A皮下注

  瞳孔の状態、口腔内乾燥の程度、肺野にラ音が聞かれないかどうかにより、追加あるいは中止の判断をする。

 重症:5〜10A静注。瞳孔拡大傾向、対光反射が出現するまで、30分ごとに5Aずつ追加。

 その後は30分ごとに1〜2A皮下注し、軽い散瞳状態を維持する。意識回復、瞳孔散大すれば中止。

*PAM(プラリドキシム):PAMはコリンエステラ−ゼと結合している有機リンを引き離し、PAM−有機リン結合することにより、有機リンによるコリン様作用に拮抗します。

 用法:25〜50mg/Kgを5分かけて、ゆっくり静注。6時間ごと繰り返す。

神経ガス中毒の予防と治療

神経ガス  GA:タブン
       GB:サリン〜揮発性だが水ほどではない
       GD:ソマン
       VX〜油性で揮発性が低い

 これらの薬剤はすべて皮膚を通して吸収されます。

 有機リン酸塩は、主にコリン作動性受容体部位でアセチルコリンエステラ−ゼを阻害することにより作用します。

<症状>

 筋線維束痙縮及び痙縮に加え、鼻、目、口、肺、及び腸からの大量の分泌を引き起こします。蒸気曝露後、縮瞳は顕著だが液体では生じないことがあります。

・ 液体の場合皮膚への少量の飛沫の初期作用は気付かないような局所の発汗及び線維束痙縮です。
最初の全身作用〜悪心、嘔吐、及び下痢に引き続き生じる不快感及び時々の筋痙縮は、曝露後18時間まで始まらないことがあります。液体GA、GB、又は少量のVXでは、1〜30分遅れて、突然の意識不明、痙攣、及び数分以内には弛緩性の麻痺及び無呼吸を引き起こすことがあります。

・ 少量の蒸気の曝露は、数秒以内に縮瞳、鼻漏、眼痛、結膜炎、及び目のかすみ又は視野のぶれを引き起こします。気管支収縮及び気管支分泌の増加は、軽度の不快から重症の呼吸困難までの種々の症状を引き起こします。大量に曝露すると、数秒以内に1、2回呼吸しただけで意識消失を引き起こし、続いて痙攣し、数分以内に弛緩性麻痺及び無呼吸を引き起こします。

<治療>

 医療従事者は、防護衣を着るべきであり、患者の皮膚は、次亜塩素酸(1:10に薄めた過程用漂白剤)又は石けん及び水により、又、眼には何も入っていない水により、必ず除染しなければなりません。

(軍人はクロラミン、ヒドロキシシド、及びフェノ−ルをしみ込ませた濡れナプキンを携帯している。)

・アトロピン
    初回量 軽度の呼吸困難 2mg,
    重症の 〃  、低酸素症、又は多様な全身兆候  6mg以上  
    筋注、静注5分ごとに、曝露後最初の3時間に15〜20mgを必要とする。
        アトロピンは発汗を阻害するため、暑い場所では高体温を引き起こす。
                       (サウジアラビア等)       
・塩酸プラリドキシム(PAM)によって大部分の神経剤は、曝露数時間後に有効に治療される。   

 GDは、2、3分で本剤に対して治療不応性になる。         
 初回量は1gで、20〜30分かけて静脈内与薬される。この用量で、数時間の間隔をあけて1回又は2回の追加与薬が繰り返されることがある。       

その他:ピリドスチグミン(メスチノン)

・抗痙攣剤:ジアゼパム

<備考>

  米国兵士は、3本のアトロピン注射器とPAMの自動注射器を持っているとのことです。

『米軍は神経攻撃が差し迫っていると考えられる時の前処理用に、重症筋無力症の治療に使用されている臭化ピリドスチグミンも配給している。ピリドスチグミンはかなり半減期の短いコリンエステラ−ゼ阻害剤で、アセチルコリンエステラ−ゼの作用部位を占めて神経剤の作用を阻害する。推奨量では、ピリドスチグミンは毒性がなく、GD曝露に対してアトロピン及びPAMの効果を非常に高めるが、他の解毒剤が投与されない場合には効果がない。』


中毒時の対処方法

 

  急性中毒の診断と治療  
  活性炭による薬物中毒(誤飲)の治療  
  誤飲時の拮抗薬(中毒時の処置) 
  酸、アルカリによる中毒(誤飲)の処置
  小児の急性薬物中毒(誤飲)
  セアカゴケグモの対処方法
  灯油による中毒(誤飲)
  ヒョウモンダコ  
  防虫剤(樟脳、ナフタリン等)の見分け方  
  有機リン剤中毒  
  強制利尿  

家庭用品は危険がいっぱい。

     誤飲時の処置

         出典:薬事 2002.2
 

<危険な物質>

・タバコ〜吐かせる。4時間経っても異常がなければ安心

・マニキュア〜少量でも飲んだら危険、上記を吸っても危険。飲んだ場合は吐かせてはいけない。そのまま受診。目に入った場合は流水で15分以上洗顔後受診

・漂白剤〜口の中を良くすすぎ、牛乳をコップ半分ほど飲ませ、受診する。目に入った場合は15分以上流水で洗い、眼科に受診

・ホウ酸団子(ゴキブリダンゴ)〜大量に食べたら、吐かせて受診、舐めた程度なら様子を見る

・ボタン型アルカリ電池〜X線により部位を確認し、24時間以上以内に停留する場合は摘出

<防虫剤>   見分け方はこちらに書いてあります

  ・樟脳(カンフル)〜ぬるま湯をコップ1杯飲ませ、受診。吐かせてはいけない。牛乳は禁忌
 
  ・ナフタリン〜ぬるま湯をコップ1杯飲ませ、できれば吐かせから受診。牛乳は禁忌

  ・パラジクロルベンゼン〜1/3個くらいならぬるま湯をコップ1杯飲ませ、できれば吐かせて様子を見る。牛乳は禁忌

<乾燥剤>

・生石灰(酸化カルシウム):せんべい、のり、菓子類の袋に入っている。〜吐かせないで、牛乳(水)を飲ませる。(アルカリ性による腐食作用と、発熱による熱傷のおそれ)

・塩化カルシウム:押入、洋服ダンス、引き出しの除湿剤〜水を飲ませて希釈(皮膚粘膜の刺激作用)

・シリカゲル:食品の袋に入っている。〜誤飲程度では無症状〜水を飲ませて様子を見る

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<比較的安全(低毒性・無毒性)のもの>


・洗剤類:石鹸、洗剤、シャンプー、クレンザー、歯磨きペースト、選択のり
・化粧品類:口紅、ハンドローション、シェービングクリーム、化粧用クリーム類、乳液、おしろい、ファンデーション
・ベビー用品:紙おむつ、洗浄綿、濡れナプキン、ベビーオイル、ベビーパウダー(固形)、ベビー用沐浴剤、ベビーローション
・その他:ろうそく、線香、靴墨、靴クリーム、鮮度保持剤(脱酵素剤)、シリカゲル乾燥剤、体温計の水銀、チューインガム、甘味料、マッチ、チャコ(チョーク)、電気蚊取マット
・文房具類:インク、ボールペンインク、スタンプインク、クレヨン、クレパス、水彩絵の具(学童用)、粘土、消しゴム、鉛筆、のり

{備考}

 蚊取マット(ピレスロイド系)〜1枚程度なら様子を見る。大量に食べたときに嘔吐、下痢、腹痛が起こる可能性

 体温計の水銀〜消化管から吸収されないので中毒の心配はない。飲み込んだ水銀は3日ぐらいで排泄される。ただし、ガラスの破片などで口の中に傷がある場合は吸収される可能性もある。放置すると上記となり、吸入すると中毒を起こす。


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食生活と中毒

2003年3月15日号 356

 普段、摂取する食物にも有毒成分が含まれていることがあります。良く知られているものとして、フグ、ギンナン、ジャガイモの芽などがあり、最近大阪市内で最近発売されるようになったアオブダイで9名が入院する食中毒が起きています。

<アオブダイ>

 アオブダイは、沖縄から東京周辺の海に生息し体は青緑色に輝き、頭に大きなコブをもつ体長80〜90pの魚で、肉には独自の臭いがあります。主に長崎、三重、徳島、高知、静岡でエビの刺し網漁などに混じって水揚げされます。

 これまで水揚げ地周辺でしか知られていなかった有毒魚が、流通手段の発達に伴い、物珍しさも手伝って大阪の市場にも出回るようになったため起きた中毒事故です。

 中毒症状は食後5時間〜2日で発症し、激しい筋肉痛や手足のしびれが現れます。下痢や吐き気などの消化器症状はほとんどないといわれています。

 アオブダイの有毒成分はパリトキシンでフグ毒のテトロドトキシンよりも猛毒です。

<ジャガイモ>

 ジャガイモでも、嘔吐、下痢、腹痛などの集団中毒が起きています。重症の場合は、脳浮腫を生じ、小児の場合、意識の混濁、昏睡から痙攣を経て、死亡することもあるといわれています。成人での死亡例はありません。

 原因物質は、ソラニンというステロイド骨格を持つアルカロイドで、全てのジャガイモに含まれていますが、緑色や茶褐色になった部分や、芽の部分に特に濃縮されています。

 ソラニンは
有機リン殺虫剤やサリンと同じようにアセチルコリンエステラーゼを阻害する作用があることが分かっています。(下記注)

<ギンナン>

 イチョウの種子である銀杏(ギンナン)を食べ過ぎると、まれにギンナン中毒になります。その原因物質は4-0-メチルピリドキシン;MPNという物質です。その構造がビタミンB6(リン酸ピリドキシン)と類似することから、アミノ酸の補酵素として働くビタミンB6の作用を阻害することにより、見かけ上ビタミンB6欠乏症を引き起こすとされています。

 GABA(γアミノ酪酸)の生合成がMPNにより阻害され、脳内のGABA濃度が低下するため、ギンナンにより誘発された抗痙攣薬が適用となり、ビタミンB6欠乏を補うためにリン酸ピリドキサールが有効です、

 この中毒のほとんどは小児で20〜50個の銀杏を食べています。中には5〜6個で中毒を起こした例もあり、小児には与えない方が良いと思われます。

 また、抗生物質を連用している患者では腸内細菌叢の交代現象が起きており、ビタミンB6の合成阻害が起こる可能性があります。他にもイソニアジドのようなリン酸ピリドキサール不活化物質や放射線照射時にもビタミンB6欠乏症が起こることがあります。このような患者はギンナンを食べない方が良いと思われます。

<バイケイソウ>

 ユリ科の植物で、そのステロイドアミン成分のプロトバラリンはトリカブトに匹敵する毒性を持っています。春になると、山菜のギボウシと間違えて、おひたしとして食べてよく中毒事故が起きています。(アセチルコリン過多症状)

(*注)
アセチルコリンエステラーゼ阻害作用
          ↓
    アセチルコリン過多症状〜流涎、頻尿、ふらつき、嘔吐、衰弱、呼吸・心拍減少 血圧低下、呼吸停止など

     {参考文献} 薬事 2003.3


医学・薬学用語解説(ニ)

    肉や糖分を摂らないと「うつ病」になる?! はこちらです。


強制利尿
Forced diuresis:FD

 未吸収毒物の排除法の1つ

 強制利尿は尿量を増加させて排泄を早めるもので、尿細管で再吸収されるのを、尿のpHを変えることで防ぐ方法が取られます。

 まず脱水補正や腎血流を維持できる輸液量を点滴し、更に少量のドパミンと利尿剤を用いて一定の尿量を維持します。(毒物濃度が尿細管や尿管などの粘膜が障害されない程度の濃度に希釈できる尿量まで増やすということです。)

 輸液量は、一定の時間尿量を250〜300mlに維持し、炭酸水素Naや塩化アンモニウム液で尿のpHを7.5以下の酸性にして毒物の尿排泄を促進します。

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※ 酸性薬物は尿をアルカリ性に、そしてアルカリ性薬物は酸性にすると排泄が促進される。

・アルカリ性強制利尿で促進されるもの。

 フェノバルビタール、ブロバリン、アスピリン、スルピリン、タンデリール、ベンザリン、ユーロジン、ポンタール、ボルタレン、有機砒素、フェノキシ系剤、塩素酸塩など。

・酸性強制利尿で促進されるもの。

 バラミン、ベンセドリン、キニン、キニジン誘導体、黄リンなど。

・中性利尿
 アルコール、有機リン製剤など。

           出典:大阪府薬雑誌 1999.3


毒薬
poison

医薬品の中で毒薬とされるものは,臨床上,中毒量と薬用量との幅が狭く,かつ薬理作用が激しいため,生命維持に障害を与えるか,もしくはその恐れのある薬物で,厚生大臣の指定(薬事法)するものをさす.マウスへの皮下注射でLD50が20mg/kg以下をおおよその目安としている.毒薬の容器や包装のラベルには,黒地に白枠,白字で薬品名と「毒」の文字を表示し,毒薬の保管場所には施錠することになっている.

劇薬
dangerous drug

医薬品のうち劇性が強いため薬事法第44条で厚生大臣により指定された薬物をいう.指定の基準としては次の通りである.
 1. 急性毒性
LD50が経口投与で30〜300mg/kg,皮下注射で20〜200mg/kg,静脈注射
で10〜100mg/kgの範囲にあるもの.
 2. 次のいずれかに該当するもの.
 1 慢性または亜急性毒性の強いもの.
 2 安全域の狭いもの.
 3 臨床上中毒量と薬用量が極めて接近しているもの.
 4 臨床上薬用量(常用量)において副作用の発現率の高いものまたは重篤な副
作用を伴うもの.
 5 蓄積作用の強いもの.
 6 薬理作用の激しいもの.

〔劇薬の取扱い〕

 薬事法により規制されている.劇薬を直接保存する容器には白地に赤枠,赤字で「劇」と表示し,他のものと区別して保管しなければならない.劇薬の譲渡に関しても厳しく制限されており,譲渡する劇薬の品名,数量,使用目的などを記載した文章の交付を要するが,薬剤師,その他劇薬を取り扱う上で資格のある者が公務所の証明があるところで行う場合にはその限りではない.劇薬の譲渡は,14歳未満の者その他安全な取り扱いをすることに不安があると認められた者には交付してはならない.なお,急性毒性が劇薬よりさらに強い医薬品については,厚生大臣により毒薬deadly poison,venenaに指定されている.医薬用外で毒性または劇性の強い薬物については毒物及び劇物取締法でその取り扱いが規制されている.

○毒物及び劇物取締法

(昭和二十五年十二月二十八日)
(法律第三百三号)
第九回臨時国会
第三次吉田内閣
毒物及び劇物取締法をここに公布する。
毒物及び劇物取締法
(目的)
第一条 この法律は、毒物及び劇物について、保健衛生上の見地から必要な取締を行うことを目的とする。
(定義)
第二条 この法律で「毒物」とは、別表第一に掲げる物であつて、
医薬品及び医薬部外品以外のものをいう。
2 この法律で「劇物」とは、別表第二に掲げる物であつて、
医薬品及び医薬部外品以外のものをいう。
3 この法律で「特定毒物」とは、毒物であつて、別表第三に掲げるものをいう。
(昭三〇法一六二・昭三五法一四五・一部改正)
(禁止規定)
第三条 毒物又は劇物の製造業の登録を受けた者でなければ、毒物又は劇物を販売又は授与の目的で製造してはならない。
2 毒物又は劇物の輸入業の登録を受けた者でなければ、毒物又は劇物を販売又は授与の目的で輸入してはならない。
3 毒物又は劇物の販売業の登録を受けた者でなければ、毒物又は劇物を販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、運搬し、若しくは陳列してはならない。但し、毒物又は劇物の製造業者又は輸入業者が、その製造し、又は輸入した毒物又は劇物を、他の毒物又は劇物の製造業者、輸入業者又は販売業者(以下「毒物劇物営業者」という。)に販売し、授与し、又はこれらの目的で貯蔵し、運搬し、若しくは陳列するときは、この限りでない。

第八条 次の各号に掲げる者でなければ、前条の毒物劇物取扱責任者となることができない。
一 薬剤師
二 厚生労働省令で定める学校で、応用化学に関する学課を修了した者
三 都道府県知事が行う毒物劇物取扱者試験に合格した者
2 次に掲げる者は、前条の毒物劇物取扱責任者となることができない。
一 十八歳未満の者
二 心身の障害により毒物劇物取扱責任者の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
三 麻薬、大麻、あへん又は覚せい剤の中毒者
四 毒物若しくは劇物又は薬事に関する罪を犯し、罰金以上の刑に処せられ、その執行を終り、又は執行を受けることがなくなつた日から起算して三年を経過していない者
3 第一項第三号の毒物劇物取扱者試験を分けて、一般毒物劇物取扱者試験、農業用品目毒物劇物取扱者試験及び特定品目毒物劇物取扱者試験とする。
4 農業用品目毒物劇物取扱者試験又は特定品目毒物劇物取扱者試験に合格した者は、それぞれ第四条の三第一項の厚生労働省令で定める毒物若しくは劇物のみを取り扱う輸入業の営業所若しくは農業用品目販売業の店舗又は同条第二項の厚生労働省令で定める毒物若しくは劇物のみを取り扱う輸入業の営業所若しくは特定品目販売業の店舗においてのみ、毒物劇物取扱責任者となることができる。
5 この法律に定めるもののほか、試験科目その他毒物劇物取扱者試験に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

第十一条 毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は劇物が盗難にあい、又は紛失することを防ぐのに必要な措置を講じなければならない。
2 毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物若しくは劇物又は毒物若しくは劇物を含有する物であつて政令で定めるものがその製造所、営業所若しくは店舗又は研究所の外に飛散し、漏れ、流れ出、若しくはしみ出、又はこれらの施設の地下にしみ込むことを防ぐのに必要な措置を講じなければならない。
3 毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、その製造所、営業所若しくは店舗又は研究所の外において毒物若しくは劇物又は前項の政令で定める物を運搬する場合には、これらの物が飛散し、漏れ、流れ出、又はしみ出ることを防ぐのに必要な措置を講じなければならない。

第十二条 毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は劇物の容器及び被包に、「医薬用外」の文字及び毒物については赤地に白色をもつて「毒物」の文字、劇物については白地に赤色をもつて「劇物」の文字を表示しなければならない。
2 毒物劇物営業者は、その容器及び被包に、左に掲げる事項を表示しなければ、毒物又は劇物を販売し、又は授与してはならない。
一 毒物又は劇物の名称
二 毒物又は劇物の成分及びその含量
三 厚生労働省令で定める毒物又は劇物については、それぞれ厚生労働省令で定めるその解毒剤の名称
四 毒物又は劇物の取扱及び使用上特に必要と認めて、厚生労働省令で定める事項
3 毒物劇物営業者及び特定毒物研究者は、毒物又は劇物を貯蔵し、又は陳列する場所に、「医薬用外」の文字及び毒物については「毒物」、劇物については「劇物」の文字を表示しなければならない。

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