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1995年12月15日号 190

セアカゴケグモの対処方法

医療体制の確保について

   最近、テレビ、新聞等で話題になっていますセアカゴケグモについて、大阪府環境保険部長より、関係医療機関に対し、その対応について依頼がありましたので、紹介します。

 1.病院職員が対応できるよう、あらかじめ周知徹底を図る。
 2.血清については、府立病院に備蓄しています。
  (右の囲み記事参照)   
 3.被害者を受け入れたら、その概要を保健所まで、 速やかに連絡して下さい。

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<クモ毒による症状>

 刺されると、鋭い痛み、あるいは灼熱感を生じることがあり、感覚がなくなることもあります。
その後すぐに、発赤と浮腫が刺傷部に生じ、局所的に痛みと発汗が随伴して起こることがあります。その痛みはしばしば激しいものであり、しだいに激しさを増し、全身に拡がることもあります。通常、おびただしい発汗が起こり、随伴症状として悪寒、嘔気、不穏、筋脱力があらわれることがあります。

<処置>

 包帯や止血帯はすすめられません。クモ毒素の反応は比較的ゆっくり起こるためであり、また末梢循環を制限することが局所の痛みをより増加する可能性があるからです。刺傷部を切開または切除すべきではありません。応急処置として、氷でひやすと、痛みの軽減になります。24時間後では、温湿布。全身症状を防止、軽減するような局所療法はありません。  
 もし何かに刺されたが、クモかどうか分からない時、又、刺傷部以外に、症状、徴候もなければ、抗毒素の使用はしばらく控えた方が良いでしょう。
 
 子供の場合、特に夏に突然痛みを伴う皮膚症状を起こした場合には、セアカゴケグモの刺傷を常に念頭におくべきでしょう。又、睾丸捻転を鑑別診断の一つとして考えられます。

 もし、人が実際にセアカゴケグモに刺された場合、クモ毒による明らかな苦痛を伴う症状がみられます。刺されてから24時間経過し、抗毒素を使っていない状態で、弱い局所症状のみが生じているのであれば、抗毒素の使用は控えるべきです。ただし、それ以外の場合は、速やかに抗毒素を適用を考慮する必要があります。抗毒素の適用は早ければ早いほど効果があります。
 
 抗毒素の初期用量については目安がありません。蛇の抗毒素は静注ですが、セアカゴケグモ抗毒素は筋注となっています。(下記参照)

<セアカゴケグモの血清>

 万一、被害が発生し、明かに血清が必要とされる症状が見受けられた場合は、府立病院へ速やかに連絡して下さい。

 ・06-692-1201

その他、セアカゴケグモに対する相談

府立病院救急診療科 06-692-1201  


セアカゴケグモに対する治療の実際

抗毒素を使用する方法

1.患者に適量の抗ヒスタミン剤を非経口的に与薬する。 
2.アドレナリン1ml(1mg)を用意しておく。患者が馬血清蛋白に対しアレルギー体質である場合、 あるいは、以前馬抗毒素を投与されたことがある場合は少量のアドレナリンを皮下注射する。(成 人で0.5mg)。アレルギー体質でない場合でも予防的な量として、0.25mgを皮下注射しておくほうがよいかもしれない。
3.アナフィラキシー反応に対応できる状態でのみ抗 毒素を使用すること。
4.抗ヒスタミン剤を非経口的に与薬した15分後に (他の部位へのアドレナリン適用の有無に関わらず)、セアカゴケグモの抗毒素を筋注する。
 :初期量は1アンプル500単位。

 1時間以内に何の改善も見られない場合、同量の抗毒素を繰り返し与薬する。患者が重篤な中毒症状をきたしている場合は静注する。この場合も前もってすべての患者に少量のアドレナリンを皮下注射しておき、ハルトマンあるいは同様の溶液10に対し抗毒素1になるよう希釈する。

抗毒素使用により、クモ毒の様々な作用に対し迅速に効果が現われた場合は、補助的な治療として、緩和な鎮痛剤や鎮静剤を用いた方がよいこともある。ジアゼパムは患者の苦痛や筋肉痙攣を軽減させる。

 抗毒素は、1アンプルに500単位を含む。
 要遮光、要冷蔵(2〜8℃)、凍結厳禁
 
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 雌のクモのみが危険性がある。雄のクモはかなり小さく、比較的無害。雌雄どちらも攻撃的ではなく、危険がせまると逃げるか死んだふりをする。クモは追い詰められた時や卵を守る時に刺すおそれがある。

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主な症状

局所〜痛み、発赤、浮腫、熱感、そう痒感
随伴症状〜リンパ腫脹
全身症状〜刺傷以外の痛み、嘔気・嘔吐、不快感
     知覚異常、発熱、不眠症、眩暈、頭痛
     発疹、高血圧


<トピックス>

カチリと水痘

カチリ:フェノール亜鉛華リニメント:CZL

 カチリは日本独特の処方で、主な効果はフェノールの鎮痒作用や亜鉛華の抗炎症作用です。
湿疹・蕁麻疹、汗疹、小児ストロフルス、虫刺症など一般に乾燥性皮疹に用いられています。

 水疱、膿疱、かさぶた、角質増殖のあるとき、頭部、その他硬毛部、炎症高度の皮膚には適さないとされています。

 かゆみ止めにはかゆみが止まるまで何回もよく擦り込みます。指先でうすく塗ると、水分が蒸発してゴム被膜が残り、皮膚を保護します。

 カチリを水痘に使用するのはいくつかの問題点があります。

 まずそう痒を抑えるためには、相当頻回に塗る必要があります。
また、ゴム皮膜が形成されるとこれが人工のかさぶたとなってしまい。細菌の二次感染を起こした場合に皮膜下で膿瘍を形成し、まれに蜂巣織炎を生じることがあります。

 近年では、発症早期に抗ウイルス剤を用いることにより、以前のような重症例はは減少していて、代用剤を必要としない症例が増えてきています。

 もし、皮疹が重症化して多数の水疱、びらん、潰瘍を生じた場合には、発熱がおさまった後、まずシャワーなどで皮膚の清潔にしておくのがよいでしょう。この際に消毒剤を使用する必要は全くありません。

 びらん、潰瘍に対してはワセリンなどの刺激の少ない基剤の軟膏を使用して、創部を保護すべきです。

 感染予防の目的で、抗生物質を含有した軟膏を用いると、創部に多剤耐性菌が感染する場合がありますので、抗生物質を含まない軟膏を用いるべきです。

 出典:治療 2004.1 秋田大学医学部感覚器講座皮膚科・形成外科部門 安齋 眞一


<医学辞典>

Breakthrough(抗真菌剤)

 深在性真菌症ではすべての真菌に対して有効な薬はなく、抗真菌薬の使用に伴って本来抗真菌活性を示さない真菌による深在性真菌症は発症することがあります。これをいわゆるbreakthroughと呼び、抗菌薬使用に伴う菌交代現象に類似する問題と考えられます。

 このようなbreakthroughが発症すると、極めて難治性なることが多いので、breakthroughを生じさせない抗真菌薬の使用を考慮することが重要です。


 出典:薬事 2007.9

 

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