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                風邪症候群の治療         

   

NSAIDsの感冒への適応について

風邪症候群の対症療法

感冒に対する抗生物質

葛根湯とアスピリン

流行性感冒への対応

インフルエンザの薬物治療(アマンタジンの使い方)


 NSAIDsの感冒への適応について

1994年10月1日 NO.161

      ****頓服・1日2回までに制限****               

 

 8日の中央薬事審議会で、平成6年度分2回目の医薬品再評価結果が報告されました。今回は、非ステロイド性解熱鎮痛消炎剤(以下NSAIDs)の再評価・再審査が行なわれ、「感冒の解熱」、「風邪症候群」、「急性気道感染症」など従来から自然治癒傾向が強いと指摘された効能・効果について見直されました。

 その結果、長時間持続型消炎鎮痛剤のナイキサン、フェルデン坐薬等について急性上気道炎や気管支炎などに対する適応を削除、その他の薬剤についても安全性の性の観点から、使用を必要最小限にするために用法・用量を頓用に限定、1日2回までとされました。(別に1日最大量も設定されています。)

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 NSAIDsは、1984年にその安全性が問題となって以来、有効性に関する見直し作業が行なわれてきました。その結果再評価を行なう必要があるとされ1986年11月付厚生省告示第200号において、再評価指定(第二次再評価)が行なわれ、その後調査会で急性上気道炎等の急性疾患に対しては、「頓服とする」、「鎮痛・解熱を対象とし、消炎は適当でない」等が取りまとめられました。

 従来承認されている「感冒の解熱」、「かぜ症候群」などの適応を「下記疾患の解熱・鎮痛:急性上気道炎」とし、用法・用量も頓用、1日2回までと改めることになりました。

 この変更は、対象成分のうち「感冒の解熱」や「かぜ症候群」などの適応のない薬品を除いた全ての成分で適応されることとなります。

<感冒では使用できないNSAIDs>

インフリー、パラミジン、ロキソニン

フロベン顆粒、ミナルフェン

インダシン坐薬、フェルデンサポジトリ、メナミン坐薬

*メチロン坐薬、*ボルタレン坐薬

 (*下記注参照)

[*注]

 /メチロン坐薬 \ボルタレン坐薬/

他の解熱剤では効果は期待できないか、あるいは他の解熱剤の与薬が不可能な場合の緊急解熱

(注1)スルピリン  解熱のみ

(注2)ソランタール 鎮痛のみ

 フェルデンサポジトリやナイキサン などでは、「体内薬物半減期が長い成分はかえって副作用が発現する恐れがある」と判断され、急性気管支炎などの効能が削除されました。

{急性上気道炎の適応のある薬品}

頓服(1日2回まで)

アスピリン末、小児用バッファリン、スルガム、スルピリン(注1)、セデスG、ソランタール細粒(注2)

ボルタレン錠、ポンタール、ランツジール

 

医師のコメント

○ 解熱で疾患が治癒するわけではない。しかし、高熱が持続すると体力消耗、脱水、蛋白変性が起こるおそれもある。異論もあろうが、体温39℃以下に保つようにしている。

2000年追記

緊急安全情報 2000年11月

ボルタレン・錠、SRカプセル、坐薬をインフルエンザ脳炎・脳症患者に使用しないこと!!
 


風邪症候群の対症療法

 風邪症候群の解熱の目的で、NSAIDsが用いられます。感染を受けた生体は発熱しますが、発熱には、生体にとって有利な側面と不利な側面があります。

 有利な側面として、第1に生体の免疫能亢進があります。すなわち体温上昇により、多核白血球の貪食能の亢進、T細胞の活性亢進、インターフェロンの抗ウイルス作用の増強といった現象が観察されています。

 第2に、ウイルスの至適増殖温度との関係があります。たとえばライノウイルスの至適な温度は33℃であるため、発熱した宿主の体内ではウイルスの増殖が阻止、あるいは抑制される可能性があります。

 一方、発熱の生体にとって不利な側面としては、組織の酸素消費量の増加、交感神経の緊張亢進、中枢神経系への影響などがあります。この結果、特に高齢者では心拍数の亢進から心不全の合併をきたしやすくなります。乳幼児では痙攣閾値が低下し、熱性痙攣がみられることがあります。また発熱時、十分な水分摂取がなされないと多量の発汗などにより容易に脱水状態となります。



感冒に対する抗生物質

出典:JJSHP 1999.3

 一般的に80〜90%の感冒はウイルス感染が原因で、残りの10〜20%を一般細菌、クラミジア、マイコプラズマなどの細菌感染や寒冷などの非感染性因子が占めます。

 感冒の原因ウイルスとしてライノウイルスの頻度が一番高く、その他RSウイルス、コロナ、アデノ、コクサッキー、パラインフルエンザがあり、全身症状を主徴とするものとしてインフルエンザウイルスがあります。

 なぜ、抗生物質を使うか。

1.感冒の原因がマイコプラズマやクラミジア、細菌などの場合、すなわち抗菌薬の効果が期待できるウイルス以外の病原微生物に対する原因療法
2.ウイルス感染に引き続く肺炎などの下気道の重篤な細菌感染が併発するのを防ぐための予防

 ライノウイルスでは問題となるような細菌の2次感染の頻度は0.5〜2%と低く、インフルエンザでは10%以上に細菌感染を合併すると報告されています。

 基礎疾患を持たない健常成人は感冒から問題となる細菌感染に移行する頻度は大変低く、抗菌薬の予防的使用については否定的な報告が多くなされています。

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EBM(化学的根拠)の立場からみても抗生物質が風邪症候群に有効というデータはありません。

 全般的な症状の改善では、プラセボ群と有意差が無く、抗生物質使用群で有意に副作用が多かったという結果が出ています。また、ビタミンC、入浴の回避なども風邪に対して有効であるという説得力のある化学的根拠はありません。

 関連項目:プロカルシトニン試験

出典:臨床と薬物治療 2000.12


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Occult bacteremia:オカルト菌血症

2004年9月1日号 No.390

 occult:オカルト;神秘的な,不思議な; 超自然的な,魔術的な,ラテン語「隠された」の意

 比較的元気な小児での発熱のフォーカスが不明の細菌感染症の代表として、尿路感染症とOccult bacteremiaがあげられます。

 Occult bacteremiaは発熱を主な症状とし、ときに感冒症状や中耳炎を伴いますが、明らかな局所感染症状や重篤な全身状態の悪化のないものと定義されています。

 その5〜15%に化膿性髄膜炎、細菌性肺炎、急性咽頭蓋炎、細菌性肺炎、急性咽頭蓋炎、化膿性関節炎、骨髄炎を合併するため、重症細菌感染症の前段階として重要です。

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 Occult bacteremiaに関する最初の大規模な調査は1973年(海外)で、これによりますと、発熱で小児科の外来を受診した患者708例に血液培養検査をを行い、31例(4.4%)で有意な菌が検出されました。菌血症は比較的元気な乳幼児の中にも多数見られ、臨床症状だけでは受診時に診断することはできませんでした。

 このような病態は、結果的に血液培養で診断されたもので、潜在性の菌血症という意味でOccult bacteremiaと呼ばれるようになりました。

 その論文によればOccult bacteremiaを疑うもっとも有効な因子は体温です。その頻度は体温が39℃未満では212例中2例(0.9%)、39〜39.5℃では5例(4.1%)、39.5〜40.0℃では13例(8.7%)、40℃以上では9例(8.0%)でした。高熱の患児ほど可能性が高いことになります。

 その後の研究でも、医師の診断だけでは菌血症の60%を見逃してしまう結果が出ています。Occult bacteremiaを受診時に診断するのは難しく、血液培養の結果が判明するまで分かりません。これは現在でも変わっていません。

 放置すると合併症を起こす恐れがあり、フォーカス不明の発熱児の中でOccult bacteremiaをどのように鑑別するか研究がなされています。

 米国での調査によりますとOccult bacteremiaの起炎菌の中では、肺炎球菌が約84%を占め最も多くなっていますが、比較的予後は良く、髄膜炎を起こす頻度は無治療で5.8%、抗生物質使用で0.4%程度です。

 ついでインフルエンザ菌b型によるものが多く、約13%ですが、髄膜炎を起こすリスクは肺炎球菌に比べ12倍程度と言われ、危険性ははるかに高くなっています。そのため、実際に髄膜炎を起こし顕在化するのはインフルエンザ菌b型によるものが多くなっています。
その他にサルモネラや髄膜炎菌がありますが、頻度は多くありません。

 なお、米国では1990年以降インフルエンザ菌b型ワクチンが導入され、現在ではインフルエンザ菌b型によるOccult bacteremiaはほとんど見られなくなっています。

 日本でも2004年4月にOccult bacteremiaについて調査が行われました。その結果、3〜36ヶ月で最高体温が39℃以上で受診した患児105例に血液培養を行い、4例(3.8%)でOccult bacteremiaが見つかっています。わが国でも米国とほぼ同等の頻度と思われます。

 一般診療でこれほど多い病態であるのに、現在まで日本で問題にされることがなかったのは、血液培養を行う習慣がないことと、培養以前に抗生物質が使用されることが多かったことが原因と思われています。

            {参考文献}治療 2004.8

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重症感染症のリスクを想定したガイドライン

 米国では、フォーカス不明の発熱児の場合、年齢と白血球数を基準にしてOccult bacteremiaをはじめとする重症細菌感染症の可能性が高い例に抗生物質を使用するというガイドラインが示されています。

1)生後28日まで患児 
 前例入院の上、髄液、尿、血液の培養検査を行い、抗生物質を使用する。
(白血球が5,000〜15,000/μLで桿状休1,500/μL以下の場合は低リスクと考え、抗生物質を使用せず経過観察する。)

2)生後28〜90日の患児
 全身状態の悪化が無く、白血球が5,000〜15,000/μLで桿状休1,500/μL以下の場合は低リスクと考え、ロセフィン注(CTRX)を使用の上、外来で慎重経過観察を行う。
または尿培養だけを行い、抗生物質を使用せず経過観察する。
低リスクでなければ入院

3)生後3〜36ヶ月の患児
 全身状態の悪い患児は前例入院し、血液、尿、髄液の培養を行ったうえで抗生物質治療を開始する。
全身状態の悪化が無くても体温が39℃以上であれば血液検査を行う。
白血球が15,000/μL以上なら、Occult bacteremiaの可能性を考えロセフィン注50mg/Kg筋注。15,000/μL未満なら、抗生物質を使用せず経過観察を行う。
体温39℃未満の患児は、全身状態が悪くなければ血液検査を行わず、抗生物質の使用もせず経過観察を行う。

 なお、このガイドラインは米国小児科学会の承認を得られたものではありませんが、小児救急の臨床現場では使用されることが多いとのことです。ガイドラインは白血球数だけを指標にしたものですが、発熱後12時間以上を経過していればCRP値も有用になります。
 7mg/dL以上で重症細菌感染が有意に多くなるとの報告もあり、特に急激な上昇を見る場合には髄膜炎を想定した対応が必要です。 


医学・薬学用語解説(L)    Low T3症候群と拒食症はこちらです。  


 2001年7月15日号 318

葛根湯とアスピリン

{参考文献}ファルマシア 1997.10 等

 インフルエンザは、原因ウイルスがたびたび変異して新しい型が流行するため未だに克服できない感染症です。西洋では、古くからある種のヤナギの樹皮に解熱効果があると知られていました。その活性成分はサリシンと呼ばれる苦味配糖体で、体内でサリチル酸に変わることが証明されました。

 アセチルサリチル酸に解熱作用や抗炎症効果のあることが証明され、これが「アスピリン」という商品名で医療に使われるようになって、もう百年になるそうです。

 一方中国では風邪を治す処方が2千年近くも前から存在しています。その代表例として、急性病(熱病)の治療を目的とした葛根湯があります。葛根湯は、自然発汗がなく発熱、頭痛、悪寒などを伴う熱性疾患に有効とされ解熱作用を有することが知られています。

 西洋医学では風邪・感冒にアスピリンをよく用いますが、これは西洋生薬由来の代表的な薬剤で、その起源は相当古いものです。一方中国では風邪を治す処方が2千年近くも前から存在しています。その代表例として、急性病(熱病)の治療を目的とした葛根湯があります。葛根湯は、自然発汗がなく発熱、頭痛、悪寒などを伴う熱性疾患に有効とされ解熱作用を有することが知られています。

 最近の研究で、生体防御免疫因子と考えらえるサイトカインの産生に及ぼす葛根湯の影響を調べたところ、感染によるIFN活性の上昇は葛根湯により抑制されませんでした。また感染後の血清中、IL2、腫瘍壊死因子(TNFα)、IFNγ濃度にも影響しませんでした。しかし、葛根湯で発熱が抑制されている時にも、感染による血清中IL1α濃度の上昇が有意に抑制され、非感染時のILα濃度レベルに維持されました。

 以上のことにより、葛根湯の肺炎軽症化作用、発熱抑制作用は、インフルエンザウイルス感染で上昇するIFNにより誘導されるIL1αの産生抑制に基づいている可能性が示唆されました。一方、同様の方法でアスピリンの解熱作用のメカニズムの解明を行ったところ、アスピリンはIFN活性、IL1αの誘導には影響せずに、
COX活性を阻害することによりCOX−PGE2を減少させて解熱効果を発揮することも既に明らかにされています。このことは、発熱のカスケードでは、葛根湯の阻害の段階はアスピリンよりも前段階にあることを示唆しています。

 つまり、風邪に用いるのなら、アスピリン(NSAIDs)よりも葛根湯の方が優れているように思えます。解熱剤の使用も様々な副作用(
ライ症候群など)の点から見直しがなされています。

 しかし、アスピリンは、すたれるどころか、最近になって「狭心症等での血栓・塞栓形成の抑制」の適応がとれるなど、その優れた薬理作用からますます重要な薬となっているのです。

 先端研究を行うことは重要なことではあるが、それと共に温故知新も必要なのですね。

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シリーズ アスピリン

(NSAIDs:解熱・消炎・鎮痛剤について)

このシリーズは2001年7月15日より11月1日まで8回にわたり連載したものです。

  葛根湯とアスピリン
  アスピリン
  スーパーアスピリン
  NO放出性アスピリン
  セデスGは何故中止になったか
  COX−2
  NSAIDsのその他の作用(抗癌作用、抗痴呆作用) 
  NSAIDs(解熱・消炎・鎮痛剤)

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アスピリンの新たな作用機序(血小板凝集抑制作用と独立した)


・フィブリン形成と線溶に及ぼす用量依存的な作用
・肝臓でビタミンK形成に及ぼす作用
・プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)放出
・炎症の抑制(CRP正常化、NFκB不活性化)
・一酸化窒素(NO)合成促進
・抗酸化作用
・フリーラジカルに対する保護作用
・抗アテローム硬化作用
・フェリチン酸性増加作用
  

 などが、新たなアスピリンの作用として報告されています。これらは血小板凝集抑制作用と独立していて、近年ではアスピリンの血栓形成に対する正味の予防効果は、多様勝複雑に絡み合った生化学的・生理的プロセスにより発揮されていると考えられています。

 出典:ファルマシア 2003.12