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流行性感冒(風邪)への対応

1993年9月15日号 No.137

     風邪は、その起炎病原体の多くがウイルスであるため、今もって根本的治療が不可能です。しかしながらある一定期間後には治癒する疾患であることから、その間の症状緩和を目的とした対症療法が行われます。しかしそこにはいくつかの問題点が存在します。

{参考文献}薬局 1993.9

  関連項目 風邪症候群

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1.総合感冒剤と抗炎症剤(NSAIDs)の単独ではどちらが優れているか?

 解熱効果では優劣がつけがたいものの呼吸器症状の改善はNSAIDsの単独療法では十分ではなく、総合感冒薬の方が勝っています。

2.抗菌剤の使用を必要とするか?
 
 ・体温39度以上が続いている患者、・発症が7日以上続いている患者
 ・全身状態から考えて白血球数、炎症反応検査を必要とする患者
 ・発症初期から咳を主体とし、かつ初診時に咳嗽の強い患者
 ・咽頭発赤が強い患者、・口腔内に膿の認められる患者
 ・重篤な基礎疾患を有する患者
 
 上記に合致する症例は抗菌剤の使用を検討。それ以外の患者では、総合感冒剤単独による対症療法で十分であるとされています。その服用期間は多くの場合で4日以内でよく、経過中に抗菌剤の必要となる患者は少数です。

3.病原ウイルスにより、感冒剤の効果は変化するか?

 ウイルス学的に明らかなインフルエンザと判明した症例とそうでない症例との間に薬剤の臨床的効果に差は認められていません。健康成人に発症した風邪はウイルスの種類により臨床症状に差があるとしても、総合感冒剤は有用であることが示唆されています。

4.注意すべき病態とは〜ハイリスクグループ

 ・慢性呼吸器疾患(肺気腫、肺線維症、肺結核後遺症等)、寝たきり高齢者
 ・心臓弁膜症特に僧帽弁疾患、先天性心疾患、心機能低下患者
 ・妊娠
 ・糖尿病、肝硬変
 ・悪性腫瘍患者

<<風邪と流行性感冒:インフルエンザとの相違>>

  風邪                        :   インフルエンザ

起因ウイルス:RSV、アデノ、コロナ、パラインフルエンザ :インフルエンザA・B

発症     :緩徐                   :急激

全身症状   :無い、または軽い             :強い

発熱     :37℃台                  :39〜40℃

局所症状   :咽頭、鼻炎                :全身症状に続く

結膜充血   :無い                   :有り

合併症    :中耳炎                  :下気道炎(高齢者)

重病感    :無い                   :有り

経過     :長引くことが有る             :一般に短い

患者発生   :散発                   :流行的

関連項目 風邪症候群の治療

 インフルエンザの薬物治療(アマンタジンの使い方)

 インフルエンザと解熱剤の使用についてパンデミックウイルス


インフルエンザと風邪   2009.6.1号 No.499


普通の風邪(インフルエンザ以外のウイルス)

 鼻閉、鼻汁、咽頭発赤などのカタル性上気道炎および発熱が共通し、これに各ウイルスに特有の症状・所見が加わります。

 ライノやコロナ・ウイルスは、不快感や乾燥感、くしゃみ、鼻閉、鼻汁、微熱があるものの、数日で軽快・消失します。

 春や秋に多いアデノウイルスは、咽頭炎や嚥下痛、咽頭粘膜の発赤・腫脹、発熱が主で、二次感染の起因菌は連鎖球菌が多く見られます。

 夏に多いエンテロウイルスはヘルパンギーナや手足口病、無菌性髄膜炎、発疹、眼感染、下痢を発現させ、コクサッキーウイルスは心筋炎や心膜炎を発症させます。

 冬に多いRSウイルスと春・秋に多いパラインフルエンザウイルスは喉頭と下気道を侵しやすく、乳幼児では嗄れ声や犬吠様咳のクループに進展することがありますが、いずれも加齢と感染の度に免疫が強化されて症状がしだいに軽くなっていきます。

 ただし、ライノウイルスやコロナウイルスに対する永続的な免疫は獲得されにくく、何回も鼻風邪をひくことになります。

<インフルエンザ>

 1〜2日の潜伏期の後に突然、悪寒、発熱、頭痛、腰痛、倦怠感などの全身症状と、やや遅れて鼻汁や咽頭痛、咳などの呼吸器症状が出現し、39〜40℃の熱が3〜5日続きますが、そのうち急速に解熱します。

 筋肉痛や関節痛、嘔気・嘔吐、下痢・腹痛などを合併することが多く、重病感が強く現れます。

 インフルエンザに対する免疫は1〜2年でほぼ失活するとともに、ウイルス抗原の変異が繰り返されるため、ワクチンなどで予防しない限り、数年ごとにインフルエンザに罹患することになります。

肺炎

 インフルエンザ流行時には、特に高齢者が肺炎を併発しやすい。
全身・局所の免疫能あるいは感染防御能が低下しているため、起因菌には肺炎球菌やインフルエンザ菌、モラクセラなど口腔・咽頭粘膜に常在する最近が多くなります。

 生体内に常在しているこれらの菌は、普段はむしろ外界らの病原体の侵入を不正でいます(コロニゼーション レジスタンス)が、食物や唾液に混入して誤嚥・落下、吸引され、無菌状態の下部呼吸器に侵入することがあります。気道の線毛運動などの感染防御機構によって排除されるため、感染成立は極めて希ですが、脳血管障害などで嚥下反射の低下した高齢者では感染が成立しやすく、発病も容易となります。インフルエンザなどのウイルス感染の先行はこれをさらに加速します。

 細菌性肺炎の特徴は黄色膿性痰です。単なる感冒やインフルエンザと思われても、膿性痰があれば細菌性気管支炎や肺炎の可能性を考えます。

 高熱や多量の喀痰、胸痛、息切れ・呼吸困難などがあれば肺炎の可能性が高く、基礎疾患として慢性呼吸器疾患(肺気腫、慢性気管支炎、肺線維症、気管支拡張症、肺結核後遺症、塵肺など)を持つ例では注意が必要です。これらの人では普段から咳、痰、息切れなどがあることが多く、肺炎を併発してもその差が把握しにくいため、平常との違いがどの程度かを注意深く問診すべきです。

 問題となるのは、インフルエンザ罹患が確実でも、さらに細菌性二次感染、特に肺炎を併発しているか否かの鑑別が困難なことで、胸部X線撮影は必須です。

 インフルエンザ感染のみに留まっている場合には、発熱や咳など多くの症状があっても喀痰はほとんどでないか、あっても粘液性痰のみの場合が多く見られます。臨床検査では、白血球数は増加せず、むしろ低値となりやすく、CRPの亢進も少なくなっています。特に黄色膿性痰が見られる場合には、それだけで細菌二次感染へ進展していると判断しても良いと思われます。

<インフルエンザ罹患時に見られる肺炎の病型>

1.純ウイルス性肺炎:高熱、筋肉痛、全身倦怠感に続いて咳、呼吸困難の進行
          :痰は少なく透明〜白色
2.細菌混合型肺炎:高熱、筋肉痛、全身倦怠感に続いて咳、痰の増加、呼吸困難出現
         :痰は黄色〜緑色
3.二次性細菌性肺炎:高熱、筋肉痛、全身倦怠感が軽快後、数日〜1週間後に再発熱、咳
          :膿性痰(緑色、錆色)、呼吸困難出現

 インフルエンザに引き続いて早期から細菌感染に連続移行するような例は、万世呼吸器疾患を持つ例に多く見られます。ウイルス感染がそのまま肺に波及してウイルス性肺炎へ進展する例では、咳や呼吸困難はあっても、喀痰、特に膿性喀痰の少ないのが特徴です。

     出典:治療 2000.11
 

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風邪予防と栄養

    ===ビタミンCの風邪に対する効果===

2003年11月15日号 No. 372

 日本では“風邪をひいたら卵酒”、英国では“レモンと蜂蜜で作ったホットハニーレモン”などというように昔から、風邪をひいたときに、体を温めたり、何らかの栄養素を摂ることで症状を緩和し、治癒を促進させようとする民間療法は世界各地に存在します。

 ビタミンC、鉄、オリーブ葉エキスなどは 風邪を含む感染症に効果があるとされています。

* ビタミンC

 風邪に作用するビタミンCの働きは、免疫増強作用とウイルス不活化作用に大別されます。

 免疫増強作用は、末梢血中の好中球の走化性が高まること、マクロファージの運動性が増大すること、リンパ球を幼若化しその分裂を促進することなどが知られています。

 体液性免疫については諸説がありはっきりしていませんが、抗体産生能やリンパ球機能亢進作用を持つビタミンEの欠乏をビタミンCが補うという意味でも免疫増強的に働いています。

 これは、活性酸素などで酸化されたビタミンEラジカルを抗酸化剤でもあるビタミンCが還元してビタミンEレベルを維持することによります。

 ビタミンCにより不活化されるウイルスは多数報告されています。

 ビタミンCの1日10gの服用で不活化が実証されているものは、ポリオ、ヘルペス、インフルエンザ、コクサッキー、狂犬病などです。

 その機序は、生体内でビタミンCが酸化される過程に生じる中間体のモノデヒドロ・アスコルビン酸によって、ウイルスの核酸鎖の切断が起こるためとされています。

<ビタミンCの必要量>

 ビタミンCは病的状態で需要が増加し、また、喫煙、加齢、アルコール常飲、寒冷や高温などの条件により必要量が増加するので、一般的な至適必要量を決めるのは困難です。

 個々の必要量を決める目安としてビタミンCの1日摂取量を、「腸の蠕動が強くなり、ガスが発生し、排便の回数が増えるようになるまで増やしていき、その後やや緩下剤として働くレベルまで減量する」という方法があります。

 風邪を予防するには、概ね1日3g以上必要と言われています。

 免疫増強作用が認められるには1日5〜10g必要とされています。

 <ビタミンC(アスコルビン酸)の副作用>

 ビタミンCは大量に服用しても毒性副作用の心配はありません。
但し、シナール顆粒の貼付文書には下記の記載があります。

頻度不明:胃不快感,悪心・嘔吐,下痢等があらわれることがある。

  なお、ビタミンCの大量摂取が有害とする説もあります。→ ビタミンCの取り過ぎに注意

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* 鉄〜潜在鉄欠乏(フェリチン値低下)は感染しやすい状態です。鉄欠乏の改善により易感染性だけでなく、風邪の諸症状も緩和できます。

<オリーブ葉エキスの病原微生物に対する作用>

die off現象
ダイ オフ〜死滅

* ヨーロッパでよく用いられているオリーブ葉エキスはウイルス、細菌など各種の病原微生物に有効で、その主成分はR−エレノール酸カルシウムです。

 風邪をはじめとする各種感染症の予防には、オリーブ葉エキスを1日1〜3g程度、罹患した後の治療には、1日4〜6g程度服用しします。

 オリーブ葉エキスで起こる唯一の副作用といえるものがダイオフ現象です。

 微生物が死滅することで生じる有害な異物が局所粘膜から吸収され、その新たな抗原に新たな免疫反応が惹起されることで、一時的に(4〜7日以内)に症状が悪化したように見え、その後劇的に体調が改善します。

 ダイオフ現象は治療時にしばしば経験され、そうした意味からも日常的にオリーブ葉エキスを予防量摂取することで、風邪(感染)を予防することが出来ます。

           {参考文献}治療 2003.11


医学・薬学用語解説(よ) 葉酸欠乏と誤飲性肺炎はこちらです。


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インフルエンザ曝露後の予防としてのタミフル

2007年12月15日号 No.466

 インフルエンザ感染予防の第一選択が、ワクチン接種であることに議論の余地はありませんが、ワクチンによる発症予防効果は完全なものではなく、抗ウイルス剤による予防の必要性が検討されています。

 オセルタミビル(タミフル)が2004年に、ザナミビル(リレンザ:当院未採用)が2007年に予防投薬の認可を受けています。それにより家族内や高齢者施設などで、インフルエンザ患者が発生した場合の曝露後予防として抗ウイルス剤を使用することが可能になりました。

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 NA阻害剤による曝露後予防は、流行期間中の長期予防投与とインフルエンザ曝露後の短期投与の2種類の方法があり、それぞれ約60〜90%の発病予防効果が認められています。

 ウイルス曝露後の短期投与は、ハイリスク患者(下記参照)であって同居家族または共同生活者でインフルエンザ患者との接触があり、特にワクチン接種をしていないものに実施されます。

 この場合には、タミフルは、インフルエンザ患者との接触後48時間以内に1日1回75mg(1Cap)を7〜10日の服用が推奨されています。

<予防投薬の問題点>

 NA阻害剤は耐性を生じにくい上に、耐性株は感染性が低いことが知られています。しかしタミフルでは成人で0.34%、小児で4.5%の耐性が報告されていることから、乱用による耐性ウイルス出現防止が今後の課題になっています。

 またNA阻害剤の予防投薬は厚生労働省によって承認されていますが、健康保険の適用は「A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の発症後の治療を目的として使用した場合に限り算定できる」と明記されており、予防では自費になります。

※インフルエンザ院内発生時の対応(北海道大学病院でのマニュアル抜粋)

・発端者の診断を迅速診断検査で確定
        
・発端者の発熱2日前から現在までの間に濃厚接触した患者をリストアップ(発端者が入院患者の場合、原則的に同室患者が濃厚接触者。原則として付添者は対象としないがやむをえない場合は症例ごとに考慮)
        
・入院患者が発端者の場合には、個室隔離、外泊退院とする。タミフルによる治療を原則とする。
・リストアップされた濃厚接触者にタミフルの予防投与を行うか判断する。

*予防投与を行わない場合、接触患者は可能であれば2日間外泊して発症しないことを確認する。
*予防投与を行う場合は、感染制御部に連絡承諾を受ける。承諾書はカルテに保存

<ハイリスク患者>
1.高齢者(65歳以上)、2.慢性呼吸器疾患(喘息等)または慢性心疾患(中隔欠損症等)
3.代謝性疾患患者、4.腎機能障害患者

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 NA阻害剤は、服薬期間内しか予防効果が認められないことから、耐性ウイルス出現を防ぐ耐えにも、ワクチンの代替にはなりません
 NA阻害剤の予防的投与に関しては、インフルエンザの流行状況、ハイリスク患者の背景によりリスクとベネフィットを十分に考慮することが大切です。

<医学トピックス>

病院で行うインフルエンザ対策

 流行期の対策

 インフルエンザ流行期には、インフルエンザを院内に持ち込まないことが重要です。

 入院患者の家族や見舞客には、発熱や咳のある時には、来院を遠慮してもらう必要があり、この点を来院者に対して指導をします。 病院職員は、自分の家族の発症状況にも注意し、家庭から持ち込まないように注意するとともに、体調不良時にはマスクをするなど、インフルエンザとしての症状がはっきりしない発症早期に病原体を持ち込まないようにします。

 インフルエンザが疑われる場合には早期に受診し、迅速キットなどを用いて確定診断を行い、発症者は解熱後2日以上経過するまで休暇をとるようにします。

<呼吸衛生>
・咳やくしゃみをする時はティッシュなどで口と鼻を覆い、すぐに手洗い/手指消毒の習慣を付ける。
・手指消毒のための設備・消耗品(アルコール手指消毒や、シンクの石鹸・紙タオル)やその使い方を周知させる。
・風邪が流行する季節には咳のある患者にはマスクを薦め、他の患者から少し(1m)以上離れたところで待つように指示する。

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 インフルエンザワクチンは個人防衛としての有効性にも増して、病院などの施設の感染防止策としての必要性があります。

{参考文献} 医薬ジャーナル2007.11
 


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