メインページへ

1998年1月15日号 237

新型インフルエンザとは

   インフルエンザウイルスはRNAウイルスで、大きな流行を起こすのはA型とB型です。
インフルエンザの表面には2種類のスパイク(トゲ)があります。赤血球凝集素:HAとノイラミターゼ:NAです。

 ウイルスの感染防御に関係するのは、HAとNAのスパイクに対する抗体で、特に重要なのはHAに対する抗体、赤血球凝集阻止抗体(HI)です。

 インフルエンザウイルスの変異には抗原連続変異と抗原不連続変異があります。抗原連続変異とは、HAとNAの変化が、前年と同じ型であり、抗原構造がわずかに変異したものをいい、HAとNAのいずれかが、あるいは両方が別の型に置き換わった場合を抗原不連続といいます。

 新型インフルエンザウイルスとは、このように現在流行しているウイルスとは抗原性が全く異なる抗原不連続変異によるものです。

       {参考文献}薬局12.1997

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’
 最近、問題となっている新型のインフルエンザの出現は、抗原不連続変異(シフト)とも言われトリとヒトのインフルエンザの遺伝子の組み替えにより生じます。しばしば誤解されていますが、突然変異ではありません。ブタにはヒトのインフルエンザも感染し、トリのインフルエンザも感染します。

 ブタの体内で、たまたまヒトとトリのインフルエンザが同時に感染する状況が発生すると、ヒトとトリのA型インフルエンザ間で、遺伝子の組み替えが起こり、トリのHAをもった(時にはNAも持った)新型インフルエンザができます。

 インフルエンザのRNAは8個の分節に分かれ、そのためウイルス間で、遺伝子の組み替え(遺伝的再結合)が起こりやすくなっています。A型インフルエンザはヒト以外に、トリ、ブタ、ウマに存在し、B型はヒトにのみ存在します。

 ヒトのA型インフルエンザのHAは、H1,H2,H3の3種類、NAはN1,N2,の2種類がありますが、B型はHA,NA,各1種しかありません。

 トリのA型インフルエンザには、HAはH1からH15まで15種類、NAはN1からN9まで9種類が確認されています。A型インフルエンザは、HAとNAの組み合わせで分類され、香港風邪はH3N2、ソ連風邪はH1N1です。

 毎年、インフルエンザの流行期になると、インフルエンザウイルスの変異のことが話題になりますが、これは、抗原連続変異(drifit)と言われ遺伝子の突然変異により起こります。大なり小なり毎年見られ、ウイルス表面のHAとNAの抗原性が変異します。流行の原因としては、HAの変異の重要性がはるかに高くなっています。

 変異したウイルスのHA抗原性は、その前に流行したウイルスと連続性(関連性)があり、以前のウイルスに対する抗体を保有していれば、一定の防御効果が期待できます。しかし、突然変異の程度が大きいと大きな流行となり、ワクチンの効果が低下します。

 新型インフルエンザは 10年から40年に1回出現し、トリのインフルエンザがそのままヒトの世界で流行する可能性もあります。本年8月に報道された香港での新型インフルエンザの騒ぎはトリのA型インフルエンザ(H5N1)がそのままヒトに感染したものです。

<関連項目>

 インフルエンザの薬物治療(アマンタジンの使い方)インフルエンザへの対応

 インフルエンザと解熱剤の使用についてパンデミックウイルス

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

鳥インフルエンザ
高病原性鳥インフルエンザ


 A型インフルエンザウイルスを原因とする鳥類の感染症を「鳥インフルエンザ」といい、中でも感染した鳥類が死亡し、全身症状などの特に強い病原性を示すものを「高病原性鳥インフルエンザ」をいいます。高病原性とは、鳥に対する病原性の強さです。

 鳥インフルエンザウイルスはすべての鳥に感染すると考えられる一方、通常鳥とブタ以外には感染しません。

 1997年に初めて香港で鳥インフルエンザウイルスの鳥からヒトへの直接感染が確認されました。

 鳥インフルエンザとヒトインフルエンザが同時に感染すると、両者の間でウイルス遺伝子の再集合が起こり、新型インフルエンザが発生する可能性があります。実際にヒト新型インフルエンザウイルスは、カモの腸内ウイルスが家禽を経てブタの呼吸器にヒトのウイルスと共感染して生じた遺伝子集合体です。


 鳥インフルエンザウイルスには15の亜型があり、これまで高病原性鳥インフルエンザの集団発生はH5とH7の亜型によって発生しています。低病原性ウイルスでも群の中で短期間循環後、高病原性のものに突然変異することがあります。

 ウイルスは75度 1分で死滅します。

<H5N1型>

 H5N1型は、鳥インフルエンザウイルスの亜型の中で病原性が高く、ヒトに感染して死亡率の高い重篤な疾患を起こします。

 H5N1型は急速に変異し、他の動物種に感染するウイルス遺伝子を獲得する傾向があります。

   出典:医薬ニュース  Vo.13.No.4 2004 東邦薬品KK 共創未来グループ


ハイブリッド 新春特別企画:無駄口薬理学

 パソコンを使い始めて3年経ちました。(1998年の記事です)
パワーユーザーとはいかないまでも、かなり使えるようになってきたと自負している昨今です。

 最近では、ウインドウズ使って、マック用のプリンタドライバーをインターネット経由でダウンロードしてきて、それをマックに組み込むということまでできるように成りました。(あえてこれ以上の説明は省きます。)
 マックとウインドウズでは本来互換性がありません。ですから自分のパソコン(ウィンドウズ)から薬剤部のパソコン(マック)にデータを受け渡す際に、データを変換する必要があるのです。マックの文章はウインドウズでは読めないのですが、DOSファイルに変換さすと相互にデータの交換ができるようになります。

 マッキントッシュとウインドウズの両方で使えるCD−ROMのことをハイブリッド版といいます。
最近トヨタが出したハイブリッドカーは、ガソリン自動車と電気自動車の合の子(あいのこ)で地球温暖化防止の切り札として注目されています。

 これと同じことをウイルスもどうやらやっているようなのです。(このページの上の方を見てください)微生物の世界でも、ハイブリッド化が進行しているのです。ハイブリッドとは雑種という意味だそうです。
 従来は、動物の種類が異なれば、ウイルス感染はないとされていたのですが、そうでもないようです。
今年、香港で注目されている新型のインフルエンザは鳥から人に移ったとされています。
新種のインフルエンザは中国南部の鶏とブタと人間が共存している環境から生まれてきていますこうした環境がハイブリッドのウイルスを作ったのでしょう。O−157も大腸菌と赤痢菌のハイブリッドであるといえます。

細菌のハイブリッド化はますます進んでいくことでしょう。ところで筆者も薬剤師かキーパンチャーか分からないほどパソコンばかり触っています。もっと調剤せんかい!との声も聞こえますが、専門馬鹿にならない頭脳のハイブリッド化も必要だと思っています。


メインページへ

   パンデミックウイルス

2000年12月15日号 NO.305


パンデミックとは「大流行」のこと

{参考文献}治療 2000.11

 今世紀に入って、ウイルス学的に解析可能となった2回のパンデミック、1957年のアジア風邪(H2N2)と1968年の香港風邪(H3N2)の出現には、遺伝子再集合が表面抗原の不連続変異に大きな役割を果たしています。

 インフルエンザウイルスは8本のRNAを遺伝子情報として持っており、感染細胞内では各RNA文節が独立に複製されます。このため、1つの細胞に異なった2種類のインフルエンザウイルスが重複感染した場合、その宿主細胞内で合計16種類の遺伝情報がミックスされることになります。

 その結果、計算上2の8乗種類の1組の遺伝子情報を持ったウイルスが作り出されます。そしてこのような遺伝子再集合の結果できたウイルスの表面抗原であるHA、NA亜型がその時々の流行株の亜型と異なっており、かつヒトでの増殖性が高いときには、新型ウイルスとしてパンデミックを起こす可能性があります。

 分子生物学的解析によって1957年のアジア風邪の出現の際には、それまでの流行株であるH1N1の出現の際には、それまでの流行株であるH1N1型ウイルスの遺伝情報のうちPB1、HA、NAの3つ遺伝子文節が再集合によってトリ型の遺伝子に置き変わったことが明らかにされています。

 さらに1968年の香港風邪(H3N2)の際には先のアジア風邪ウイルスのPB1,HAが、再び別のトリ型に置き変わっていました。そして、このような遺伝子再集合に場を提供しているのがブタではないかと考えられています。


 毎年の流行を引き起こしているウイルスは香港型(A型H3N2亜型)、ソ連型(A型H1N1亜型)ならびにB型の3種類です。

 インフルエンザウイルスに対するヒト側の感染防御因子である中和抗体は主にインフルエンザウイルスの膜蛋白質の1つである赤血球凝集素(Hemagglutinin:HA)に対して惹起させます。

 インフルエンザウイルスの変異には抗原連続変異と抗原不連続変異があります。抗原連続変異とは、HAとNAの変化が、前年と同じ型であり、抗原構造がわずかに変異したものをいい、HAとNAのいずれかが、あるいは両方が別の型に置き換わった場合を抗原不連続といいます。

 新型インフルエンザウイルスとは、このように現在流行しているウイルスとは抗原性が全く異なる抗原不連続変異によるものです。

<抗原の連続変異>

 インフルエンザウイルスは、RNAを遺伝情報として持っていますが、RNA複製をつかさどるRNAポリメラーゼ転写校正機構を持たないために、DNAに比べて変異率が高くなっています。このため、HA遺伝子にも変異が蓄積されます。その結果、抗原決定部位にアミノ酸の変化を伴う変異が生じることがあります。

 このように抗原決定部位でのアミノ酸変異を伴う点突然変異が蓄積されることによって、少しずつ抗原性がずれた新たな抗原変異株が次々と出現することを連続変異と呼びます。

<不連続変異>

 一方、パンデミックを引き起こす新型ウイルスはこれとは全く別の機序によって出現します。

 A型インフルエンザには、抗原的に異なる様々な亜型が存在します。パンデミックを引き起こす新型のウイルスの亜型は、その時々の流行ウイルスの亜型と異なっているため、多くの人々はそのウイルスに対する中和抗体を全く持っていません。従って世界中のすべての人が新型ウイルスに対して感受性を持つため、地球規模での大流行が起こり得るのです。

 インフルエンザウイルスの自然宿主はA型ウイルスの場合、カモや海鳥などの水禽類で、この自然宿主でのインフルエンザの遺伝子プールには、HA亜型のH1型からH15,NA亜型のN1からN9までのすべての亜型が保存されています。この野生の遺伝子プールが新型ウイルスの源となり、ここから新たな亜型のウイルスがヒトに感染性を獲得し流行を引き起こした際に、これを抗原の不連続変異と呼びます。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 インフルエンザの治療薬は?

 現在日本で使用できるインフルエンザ治療薬は、
シンメトレル錠(アマンタジン)のみです。(A型のみ)(注 2000年の記事です。

 ノイラミダーゼ阻害剤は、昨年の11月に承認されましたが、現在は保険薬には収載されておらず、実質的には使用できない状況です。
(追記:タミフルは2001.2月薬価収載)

 シンメトレル錠もインフルエンザ合併症を予防すると行ったエビデンスもないことから、その使用には、注意深い経過観察が必要です。推奨されている与薬期間は5日間程度です。


遺伝子と糖尿病(3) :MODYはこちら


メインページへ

感染症の変貌(その要因)

  〜〜プレパンデミックワクチン〜〜

2009年5月15日号 No.498

 感染症が、再び人類にとって身近な問題として戻ってきた大きな要因として、人口の増加と都市化、集団的な生活機会の増加、食習慣、性習慣をはじめとする生活習慣の急速な変化、自然環境の破壊、人の住居地の拡大による人と野生動物の距離の接近(動物だけのものであった微生物による人への侵入)など多くが挙げられています。

{参考文献} 日本病院薬剤師会雑誌 2009.5

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’
 抗生物質の進歩が、感染症による死亡数を著明に減少させましたが、その使用量は世界中で急速に増加しました。その結果、一方では弱毒菌の中で薬剤耐性菌が増加し、いずれの国の臨床現場でも新たな難治性感染症の原因菌として問題となっています。

 また、近年忘れかけられている感染症の病原体(炭疽、天然痘、野兎病、ボツリヌスなど)が、生物兵器として使用される可能性が危惧されています。

 そして交通機関の発達による人と物の大量で短時間の移動は、病原体の移動をも容易にしました。
 これまでに人類が完全に根絶することが出来た感染症は天然痘の1つだけです。天然痘に次ぐ第2の標的であるポリオも次第に多くの国で消えつつありますが、世界での年間発生件数2,000例前後となった最終段階で足踏み状態となっています。
これらは、治療ではなく「ワクチンで予防する」ということが最大の効果を発揮しました。

 100%の効果と100%の安全性のあるワクチンが理想的ですが、既存のワクチンにはそのようなものはなく、できるだけ高い効果とできるだけ副反応のないものを使用しているのが現実です。

 パンデミックの原因となるウイルスが明らかとなりそれを用いたワクチンが製造できれば、効果の高いワクチンができます。しかし現在の製造法ではワクチンの開発から製造まで半年ほどかかり、製造に必要な鶏卵がその時点で不足していれば鶏卵ができるまで待つ必要があるので、さらに時間がかかります。

*インフルエンザワクチンとギランバレー症候群

 ギランバレー症候群(以下GBS)の原因の一因としてキャンピロバクター(Campylobacter)感染が関与していることが明らかにされていますが、非特定的な腸管感染症或いは呼吸器感染症をきっかけとしているか、あるいは明らかな原因は不明であることのほうが普通です。

 1976年、米国でSwineインフルエンザワクチン緊急接種の際にGBSが多発したことが大問題となり、ワクチン接種は中止されました。

 当時のGBSの発生頻度は、人工10万に1人でした。その後もインフルエンザクチンとGBSの関係について疑念が長くいだかれていましたが、その後の検証でGBSはワクチン接種者の100万人あたり1の発生で、インフルエンザ感染のリスクを上回るものではないとされています。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 現在予定されているプレパンデミックワクチンは、鳥インフルエンザH5N1ウイルスがパンデミックの元になるという前提で準備されており、ほかのH7あるいはH9などが元となった場合、あるいはまったく異なった亜型が元となった時にはその効果は期待できなくなります。

 しかし、H5の場合では、病原性が最も高いと考えられるので、蓋然性の高いものとしてH5N1対策が採られています。

 現在日本で薬事法上の許可を受けたプレパンデミックワクチンはこのH5N1のみで新型インフルエンザワクチンと名づけられていますが、この名称は誤解を招きやすいとも指摘されています。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

最近話題となった感染症 <新興感染症:エマージング><再興感染症:リ・エマージング>はこちらです。

 

メインページへ