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HS病院薬剤部発行

薬剤ニュース  1995年5月1日号 NO.175

 ボルタレン錠・坐薬・SRカプセルの使用上の注意改訂

        〜メ−カ−が安全性を見直し〜        

 解熱鎮痛剤(NSAID) は平成6年9月8日付け厚生省薬務局長名で再審査結果が通知され、風邪症候群、感冒の解熱等について用法・用量が頓用(1日2回まで)とするなど、使用が制限されるようになりました。

 日本チバガイギ−社では、これを機に諸外国の安全情報を見直し、「使用上の注意」を自主的に改訂しました。

 【警告】ボルタレン坐薬

 幼小児・高齢者又は消耗性疾患の患者は過度の体温下降・血圧低下によるショック症状があらわれやすいので、慎重に与薬すること。

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*慎重与薬

  腎血流量が低下しやすい患者、心機能障害のある患者、利尿剤使用中の患者、腹水を伴う肝硬変のある患者、大手術後、高齢者では有効循環血液量が低下傾向にあり、腎血流量が低下しやすいので、腎不全を誘発するおそれがあります。

 うっ血性心不全、肝硬変、失血性低血圧では有効循環血液量が低下状態となります。このような状態ではレニン-アンジオテンシン系および交感神経系が賦活されており、アンジオテンシンUの産生とノルエピネフリンの分泌が亢進しています。

 一方、腎ではこれに拮抗してプロスタグランジン(PG)EやPGIの産生を増加することにより、腎血流量を確保しつつ糸球体濾過値の低下を防止しています。

 ところが、PG産生を抑制する解熱鎮痛剤(NSAID)が与薬されると、腎内因性PGの産生増加により保持されていた腎血流量が低下することになり、急性腎不全が発症します。(ボルタレン以外の解熱鎮痛剤でも同様です。)

*重大な副作用

 外国において重篤な肝障害(広範な肝壊死)が報告されているので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には与薬を中止し、適切な処置を行うこと。

 ボルタレンにより肝障害は通常一過性のもので中止すれば良好な経過をたどることが多いが、きわめてまれに腹水、出血傾向、肝性昏睡などを呈する重篤な肝障害も報告されている。

*外国において、肝性ポルフィリン症の患者に与薬した場合、急性腹症、四肢麻痺、意識障害等の急性症状を誘発するおそれがあるとの報告がある。

[肝性ポルフィリン症]

 血色素の構成成分であるヘム生合成経路に存在する酵素が障害され、肝臓にポルフィリンの過剰生産をきたす疾患で(1)腹部症状(腹痛、嘔吐、便秘)、(2)神経症状(四肢麻痺、脱力、筋痛、しびれ感)、(3)精神症状(不安、不眠、ヒステリ−)これらの症候が多彩に組み合わさり発現する。


<医学・薬学用語解説>

SLPテスト

SLP:Silkworm larvae plasma

 SLPテストは、グラム陽性菌・陰性菌の菌体成分として共通に認められるペプチドグリカンと真菌に特有に認められる菌体成分β-Dグルカンに反応します。

 カイコの血液のフェノール酸化酵素前駆体カスケードを利用して、最終産物として産生されるメラニンにより透過光量が減少するのを経時的に測定し、透過光量が92%になった時点を反応時間として陽性、陰性の判定を行います。

 SLPテストは、絹を作る蚕(カイコ)が微生物に感染するとマユが黒く変色してしまう現象を利用したもので、カビや細菌に対するカイコの生体防御反応と考えられています。

 SLPテストは、水質検査に活用され水系測定法が確立されていますが、ヒトの血漿でも使用可能であることが報告されています。SLPテストで陽性で有ればあれば、血中に微生物由来物質のペプチドグリカンもしくはβ-Dグルカンの存在し、グラム陽性・陰性菌、あるいは真菌が体内に侵入していくことが裏付けられたことになります。

 このSLPテストを周術期感染症の早期予測に利用できないか検討されています。

 これまでは、血中エンドトキシンが感染を反映する菌体成分として血清学的検査に用いられてきましたが、エンドトキシンを保有する菌体は限られていて、細胞培養で感染成立が確認されても検出されないこともあり、感染症症診断検査としては十分なものとは言えませんでした。

   出典:臨床と薬物治療 2004.3 滋賀医科大学外科学講座 田畑 貴久

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プロカルシトニン試験
Procalcitonin

 ウイルス感染か細菌感染かその診断法として、プロカルシトニン測定が注目されています。

 プロカルシトニンとはカルシトニンの前駆蛋白で、甲状腺のC細胞で生成されます。

 細菌感染ではプロカルシトニンの血中濃度の上昇度合いが高くなりなりますが、ウイルス感染では僅かしか上昇しません。

 抗菌薬の過剰使用がなされがちな急性呼吸器感染症に対し、プロカルシトニンを測定することで、臨床上からも医療経済上からも重要な意味を持つと考えられます。

 しかし、現時点では抗生物質、抗菌剤抜きの治療には、慎重な医師も多くプロカルシトニン検査の有用性については更なる検証が期待されています。

   出典:医薬ジャーナル 2004.5


<病名辞典>

ムコ多糖症


 正確にはムコ多糖代謝異常症といいます。アミノ酸を成分に持つムコ多糖を分解する酵素が生まれつき欠損していることにより、全身の組織、特に皮膚、骨、軟骨などの結合組織にムコ多糖が蓄積し、種々の臓器や組織が次第に損なわれていく進行性の病気です。

 ゆっくりと蓄積が起こってくるため、赤ちゃんの時は正常に見えますが、年齢が進むに連れて徐々に明らかになっていきます。

 欠損している酵素の種類によってT〜Z型に分類され、ハラー(TH型)、シャイエ(TS型)、 ハンマー(U型)、サンフィリポ(V型)、モルキオ(W型)、マルトラーミー(Y型)、スライ(Z型)といった症候群として知られています。これらの約半分は様々な知的障害を伴い、進行性で、成人に達すると志望する型もあります。

 T型のハラー症候群はムコ多糖症のなかでも重症で、6〜2歳頃に、肝臓・脾臓の腫大、骨の変形、特徴的な顔貌、関節の拘縮、大きな舌などで気づきます。

 6〜8ヶ月以降は発育障害が起こりますが、発達は2〜4歳をピークとしてその後、後退します。さらに聴力障害や大きな舌による発音の障害のために言葉の獲得に障害が生じます。

 中耳炎の頻発、上気道感染、騒音性の呼吸、慢性の多量の鼻汁が認められ、1歳までに角膜混濁もあらわれます。レントゲン像では、頭蓋骨の肥厚、椎骨や肋骨など全身の骨が変形しているのがわかります。

 主な死因は閉塞性の呼吸障害、呼吸器感染症、心不全などです。

 ムコ多糖症の治療には、対症療法と根治療法があります。対症療法は中耳炎に対するTチューブ挿入、無呼吸に対するアデノイド除去、角膜混濁に対する角膜移植、心疾患に対する弁置換術などがあります。

 一方、根治療法には酵素補充療法、造血幹細胞移植、遺伝子治療などが行われます。
酵素補充療法は、欠損している酵素を体外から補充することにより、ライソゾーム内に蓄積しているムコ多糖を分解する方法です。1週間に1回、酵素製剤を4〜5時間かけて点滴します。

 欧米では2003年にT型治療薬ラロニダーゼ、2005年にはW型治療薬ガルサルファーゼ、2006年にはU型治療薬アイドロサルファーゼが承認されました。

 日本では、T型治療薬ラロニダーゼが2006年10月に承認され、ムコ多糖症の治療に期待されています。

  {参考文献}日本病因薬剤師会雑誌 2007.5
 

 

 

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