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ライ症候群

昭和62年10月15日号 No.9

   ライ症候群とは、主に小児でインフルエンザ、水痘等のウイルス性疾患の先行後、嘔吐、
意識障害、痙攣(急性脳浮腫)と肝臓や諸臓器への脂肪沈着、ミトコンドリア変形、GOT、
GPT、LDH、CPKの急激な上昇、高アンモニア及び低プロトロンビン血症、低血糖といった
症状が1週間のうちに発現する病態で、オーストラリアの病理学者(Reye)らによっ
て報告されたものです。

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 ライ症候群の発症と水痘等の罹患時でのアスピリン等サリチル酸系製剤の使用との因果関
係に関する調査が、米国の医薬品協会で1986年に実施されました。

 それによりますとライ症候群発症前の前駆疾患にサリチル酸系製剤を服用したことと、
ライ症候群発症との間に、相対危険度(オッズ比)40.95%という有意差が認められまし
た。

 この研究から、ライ症候群の症例の多くはサリチル酸系製剤の使用に起因している可能性
のあることを示唆しています。

 一方、日本国内での研究では、両者の関連性は極めて低いものとなっていますが、インフ
ルエンザの流行期を迎えたことなどをふまえ、あえて厚生省薬務局安全課では情報を提供
しており、アスピリン等サリチル酸系製剤の使用にあたっては十分この情報に留意される
ことをお願いします。

2000年追記:その後、米国でアスピリンを小児に使用しない処置をとったところ、ライ症候群は激減しアスピリンとライ症候群の因果関係は確定的なものとなりました。

関連項目 バルプロ酸とライ症候群


<追補>

 小児において極めてまれに水痘、インフルエンザ等のウイルス性疾患の先行後、激しい嘔吐、意識障害、痙攣(急性脳浮腫)と肝ほか諸臓器の脂肪沈着、ミトコンドリア変形、GOT・GPT・LDH・CPKの急激上昇、高アンモニア血症、低プロトロンビン血症、低血糖症が短期間に発現する高死亡率の病態


出典:月刊薬事 1998.4

 一般の急性脳症的治療としての脳浮腫、痙攣の管理を行い、急性期の病状の把握、呼吸管理を行うとともに、ライ症候群の病態を考慮し、次の治療を行う。

治療法
1.脳圧降下剤としてマンニトールの点滴。グリセロールは肝で代謝され、脂肪代謝の影響を及ぼすので避ける。
2.血液凝固系の低下改善にビタミンK、新鮮凍結血漿
3.高アンモニア血症に対し、モニラック(内服)
4.脂肪酸異常を呈する細胞内アシルCoAの増加を除去する目的でカルニチン
5.ときに交換輸血、血液透析


 ライ症候群は肝障害を伴う非炎症性脳症で、特に小児に多発します。
病院は未だ明らかではありませんが、先行感染があることより、各種ウイルス(インフルエンザ、水痘など)、そして発症前にアスピリンを服用していた小児が有意に多いと言った疫学的調査によりサリチル酸製剤との関係が重視されています。

 また最近では、感染に伴うTNFやIL1、IL6などのサイトカインの関与により、異常なCa動態が認められることから、遺伝的因子の影響が考えられています。

 すなわち何らかの遺伝的欠陥のあるミトコンドリアを持つ小児でのウイルス感染、アスピリンなどの薬物が複合的に作用し、ライ症候群の発症を惹起すると考えられています。

 病因は、いまだ確立されたとは言えません。類似疾患として、反復性ライ症候群、病因不明の肝不全(ジカルボン酸尿症)、急性脳症、出血性ショックといった様々な病態との関連性があり、診断は非常に難しいといわれています。

関連項目 バルプロ酸とライ症候群


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インフルエンザ脳症の現状

2003年12月15日号 No.374

 インフルエンザ脳症は、小児期インフルエンザの最も重大な合併症で、5歳以下の乳幼児(特に1〜3歳の幼児)では特に注意が必要です。

 インフルエンザを発症してから脳症に至るまでの期間は、1日以内(特に6時間以内)と短いことが多いため、早期診断・早期治療を行っても発症を防ぐことが難しく予後も不良です。

 インフルエンザウイルスの感染に伴う中枢神経系での
サイトカインの過剰産生が誘引になっていると考えられていますが、現在有効な治療法はありません。

 インフルエンザ脳症は、死亡した症例の病理学的検討では、脳組織に細胞浸潤やウイルス抗原は認められないことから、ウイルスが脳実質内で増殖することによって起きるものではないことが明らかになっています。

 また、血中と髄液中に高濃度の
TNFαIL6、IL1βなどのサイトカインやNOxが認められること、血管内皮の障害や血管透過性の亢進が認められること、髄液中のチトクロームCが高値を示し脳内の神経細胞にアポトーシスが認められるであろうこと、などが明らかにされており、それらが相まって脳浮腫、急性壊死性脳症を起こすものと推定されています。

 本脳症の病像は、インフルエンザや水痘などのウイルス感染症に対してアスピリンを使用すると起きやすい
Reye(ライ)症候群と類似しますが、発症年齢や検査所見などいくつかの点で異なる部分があり別の病態として考える必要があるとされています。

 血液生化学検査では、血清GOT値、血清CK値、血清クレアチン値の上昇、血尿、尿蛋白、二次的に生じるDICに伴うと考えられる血小板低下、凝固異常などが特徴的です。

 また本脳症が日本で特に多い点について、その要因を明らかにするためには、今後更に詳細な国際的な疫学調査が必要ですが、人種的(遺伝的)な要因も否定できません。

 <インフルエンザ脳症に対する治療>

 これまでに判明しているインフルエンザ脳症の病態生理を勘案すれば、インフルエンザウイルスに対する原因療法とサイトカインの異常産生と神経細胞のアポトーシスを抑制するような治療を組み合わせて行うのが良いとされています。

 その他一般的な痙攣や脳浮腫に対する治療として、抗痙攣薬、グリセリン、呼吸管理を含めた全身管理を行うとともに、ヘルペス感染が否定できない場合は、アシクロビルを併用することも必要です。

・抗ウイルス剤:タミフル、アマンタジン
・抗痙攣剤
・グリセリン〜脳浮腫の改善
・ガンマグロブリン大量療法
   〜高サイトカイン血症の抑制
・ソルコーテフのパルス療法
   〜中枢神経系に対する抗炎症作用
     脳浮腫の改善
・脳低体温療法
   〜中枢神経系免疫の異常活性化の抑制
    脳浮腫の予防
・血漿交換療法
   〜炎症性サイトカインの除去による全身の組織障害の阻止
・シクロスポリン療法
   〜ミトコンドリア透過性転換を抑制することによるアポトーシスの抑制
   
* インフルエンザに解熱剤は禁忌です。

 インフルエンザ脳症の重症化に関しては、ジクロフェナックやメフェナム酸などの解熱剤;NSAIDsの関与も疑われています。

{参考文献} 治療 2003.12


医学・薬学用語解説(り) リボザイム医薬はこちらです。

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急性脳症
acute encephalopathy

インフルエンザ脳症

出典:ノバルティスファーマ資料 2001.6

 急性脳症という用語は、小児が急に意識障害に陥っていて、その原因を特定出来ない場合に使われます。

 急性脳症は小児が高熱を伴うウイルス感染症の急性期に、多くは痙攣を伴い、急激に意識障害を呈する弛緩で、化膿性髄膜炎、硬膜下膿瘍などの細菌感染、先天性代謝異常、熱性痙攣重積症、腸管出血性大腸炎による脳症などを除外したものです。

 急性脳症には、脳浮腫と肝臓脂肪変性を特徴とするライ症候群、DIC(播種性血管内凝固症候群)とショックが特徴である出血性ショック脳症症候群(
HSES、又はHSE:Hemorrhagic shock and encephalopathy syndrome)、両側視床の変化が急性壊死性脳症(ANE:Acute necrotizing encephalopathy)が知られています。

 また、インフルエンザの臨床経過中に重傷な意識障害を伴う症候群をインフルエンザ脳症といいます。
インフルエンザ脳症はしばしば痙攣を伴いますが、いわゆる熱性痙攣及びその重積状態とそれに伴う妄想状態はのぞきます。脳脊髄液中にウイルス自体あるいはウイルスゲノムを証明して確定診断されます。しかし、脳脊髄液はすべての患者から得られるとは限らないため、臨床症状が一致し、鼻咽頭粘膜からウイルスが得られた場合にも同様にインフルエンザ脳症と診断されます。

 ライ症候群、HSES、ANEを含む従来原因不明の脳炎・脳症と診断されていた症候群で、インフルエンザウイルスの関連が証明された場合には、インフルエンザ脳症に含めて考えます。

<ライ症候群>

 ライ症候群は小児に見られる急性脳症で、発病初期では高アンモニア血症、低血糖がみられ引き続いてAST、ALT、プロトロンビン値低下などの肝機能障害が認められます。肝生検所見でのクッパー細胞の腫大、小脂肪滴の散在などを特徴とします。

 脳波は、非特異的な徐波を示し、脳脊髄液に異常はありません。剖検例での大脳には脳浮腫、乏血性変化、ニューロンの消失を特徴的所見とします。生化学的な異常内容と肝での電子顕微鏡所見からミトコンドリアの異常が病態の中心をなしていると考えられています。

 現実的な取り扱いとして、(1)肝生検で組織の確定されたものを確定ライ症候群、(2)組織所見の異なるものをライ様症候群、(3)組織学的確認のないものを臨床的ライ症候群とする分類もあります。 

 ライ症候群の診断基準

1.急性非炎症性脳症で生検または剖検肝の微細脂肪変性、または血清AST,ALT またはアンモニアの正常値の3倍
2.脳脊髄液の細胞数が≦8/1mm3
3.脳症状や肝障害を説明できる他の成因がない。


<ボルタレン錠・坐薬・SRカプセル>

ライ症候群を発症したとの報告があり、本剤をウイルス性疾患では投与しないことを原則とする。


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インフルエンザ脳症

2002年2月15日号 331

             {参考文献}大阪府薬雑誌 2002.2
                   大阪市立医療センター小児救急科 部長 塩見 正司

 インフルエンザ脳症の神経合併症として、代表的なものは熱性痙攣と
急性脳症があります。

 熱性痙攣は、インフルエンザ罹患時には小児の5%程度が痙攣を合併すると言われています。痙攣が30分以上持続すると痙攣重積症となり緊急治療が必要です。特に90分を越えると後遺症や死亡例が増加します。

 痙攣とは神経細胞の異常な電気活動ですが、長時間持続すると神経細胞自体が細胞死を起こします。

 急性脳症とされている症例の中には、痙攣の持続によって神経細胞障害が起こったものが含まれていると考えられています。

 痙攣重積症の治療はジアゼパムの静注が一般的ですが、痙攣の持続が長くなると抗痙攣剤の効果も低下すると言われ、より強力な薬剤が必要となります。

<インフルエンザ脳症の症例より>

1) 急性壊死性脳症(脳幹型)

 興奮症状や短い痙攣の後に、意識障害を来たし、数時間で呼吸停止に至ります。
 脳幹や視床下部の低呼吸と腫大が特徴
 下記の病変限局型とは画像状視床・脳幹病変が広汎であるなどの相違があります。

2)急性壊死性脳症(病変限局型)

 両側の視床、大脳皮質、小脳、脳幹に対照的に境界明瞭な病変を生じます。

3)全大脳型〜大脳全体に浮腫像を呈します。

4)血球貪食症候群(HPS)型

 意識障害、肝機能の著明な上昇、DICを合併。 画像状脳幹視床病変はなく、大脳皮質に出血巣がみられることもあります。

5)遅発性皮質型

 短い痙攣とその後意識障害をきたします。発症後数日は正常ですが大脳皮質全体に低吸収を呈し、浮腫は軽度で、その後萎縮が明瞭となります。

6)痙攣重積型

 インフルエンザの経過中に持続型痙攣重積で発症し、画像では急性期に片側半球性浮腫、あるいは両前頭葉の浮腫など、脳葉単位の広がりを持つ浮腫(脳葉性浮腫)を来たし、やがて萎縮となるタイプ。厳密には、急性脳症というよりも後遺症を残した痙攣重積症かもしれません。

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*突発性発疹などでも急性脳壊死性脳症や痙攣重積で脳葉性浮腫を来す型などの病態などがみられることがあり、これらの病態はインフルエンザ固有のものではありません。

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<インフルエンザ脳症とNSAIDs>

 統計学による手法による解析では、NSAIDsとインフルエンザ脳症の予後による相関が認められたとされています。しかし、因果関係は確定したものではなく、現在、過去の症例での対照研究が計画されています。

 現在、ボルタレンとポンタールはインフルエンザ治療には禁忌とされています。

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サイトカイン・ストーム
ストーム → 嵐


 インフルエンザ脳症の鍵は、サイトカインストームと呼ばれる現象です。
全身の細胞から通常量をはるかに超える炎症性サイトカインが放出され、体内を嵐のように吹き荒れることを言います。

 こうしたサイトカイン・ストームにボルタレンやポンタールを使うことは禁忌とされておりそれ以外のNSAIDsもいくら熱が高いからといって安易に使用することは大きな危険が潜んでいます。

     出典:医薬ジャーナル 2004.11

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サイトカインの嵐

わが国のインフルエンザ脳症の重症例に良く見られる病型

 脳症の他、肝臓、腎臓、心臓、筋など様々な臓器の障害、さらにDIC(播種性血管内凝固)や血球貪食症候群など血液学的異常を合併しやすく、予後は不良で、急性期死亡率が約30%と高く、生存者の多くに中等度〜高度の神経学的後遺症が残ります。頭部CT・MRIでは脳全体または大脳皮質全域にわたるびまん性浮腫を呈します。

 急性壊死性脳症、Reye様症候群、HSE症候群など(下記参照)は、マクロファージ活性化ないし高サイトカイン血症に起因する病態(ショック、多臓器不全、DIC,血球貪食症候群など)を呈します。

 また、インフルエンザ脳症の症例で急性期の血液・脳脊髄液中のサイトカインを測定するとTFNαやIL6など炎症性サイトカインの異常高値多くの症例で認められます。このような証拠の積み重ねにより、サイトカインの嵐がこれらの脳症の病態の主要部


1.Reye様症候群

 著明な肝機能障害を呈し、Reye症候群の診断基準を一応満たしますが、古典的Reye症候群に特徴的な生化学的反応(高アンモニア血症)や組織学的異常(肝細胞の小脂肪滴沈着・ミトコンドリア変形)を伴いません。これは古典的Reye症候群とは異なり、欧米より日本で頻度が高く、乳幼児に好発し、インフルエンザの有熱期に発症し、アスピリンとの関連はない症候群です。低血糖よりも、むしろ高血糖を来たしやすいとされています。

3.急性壊死性脳症

 本症は、脳のびまん性浮腫に加え、視床を含む特定の脳領域(視床、被殻、大脳深部白質、脳幹被蓋、小脳深部白質)に両側対称性の病変を形成する症候群です。

 本症は、疾患に特異的な頭部CTやMRIで明確に診断できます。急性期の脳脊髄で蛋白がしばしば増加し、回復期には神経学的局所症状(失調、片麻痺、眼球運動障害など)の特有の組み合わせが見られやすいなどの特徴もあります。

3.HSE:出血性ショック脳症症候群
hemorrhagic shock and encephalopathy

 著明な血液学的異常(DIC)と循環不全、多臓器障害を伴う症例は本症例の診断基準をみたします。

    出典:日本薬剤師会雑誌 2007.1

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HSE:出血性ショック脳症症候群
hemorrhage shock and encephalopathy

  1998年に提唱された病態で、前夜まで元気にしていた乳児が夜間高熱、ショック状態、意識障害、痙攣重積となる。発汗にも関わらず過剰にくるむとうつ熱を来しますす。

 ウイルスが分離されることは少ないが、あってもRSウイルス、ロタウイルスなどの高熱を来すことの少ないウイルスが多いとされています。

 肝機能異常、腎機能異常、低血糖、高Naが多い。痙攣が多いのも特徴でCTは脳幹、基底核の異常はありません。日本では希です。


血中半減期とは

        添付文書の読み方(1)

 血中濃度、血中半減期などというといかにも難しそうで添付文書の記載などでも読み飛ばしてしまいそうですが、知っておくと便利なのです。血中濃度半減期は、薬がいつ効いてくるのかを判断するのに役立ちます。

 薬は飲むとすぐに効くと思っておられる方が多いようですが、実際に効果が現われるには、数日かかるのが普通です。(無論、飲んですぐに効く薬もありますが、、) 薬が効果を現すには、血中で定常状態に達することが必要です。

 薬を飲むごとに体内(血中)での濃度は少しずつ上がっていき、4〜5回目の服用で入っていく薬の量と、消失していく薬の量が等しい定常状態に達します。

 血中半減期の4〜5倍以内の間隔で服用すると、定常状態に達するのは、半減期の4〜5倍、例えば、ラニラピッド錠では、半減期が36時間ですから約180時間(7.5日)もかかります。

 初回服用後、1半減期を経過したときには、血中濃度は最高血中濃度の半分に低下していますので、体内薬物量も半分になります。2回目の服用後、2半減期を経過したときには、初回分と2回目分の残りがあるので、最高血中濃度の75%が残っています。このように、3半減期経過で87.5%、4半減期経過で最高血中濃度の約94%に達し、5半減期でほぼ100%定常状態になります。

 服薬間隔は、血中濃度半減期の5倍以内であれば、血中濃度は上昇していき、必ず定常状態が存在し、その間は、薬が効果を発揮しています。

 もし、血中濃度半減期より短い間隔で服用したとすると、高い血中濃度で定常状態に達するだけで、定常状態到達時間は半減期の4〜5倍であることに変わりはありません。

 血中濃度半減期よりも長い間隔で服用した場合では、定常状態の血中濃度が低くなるだけで、同様に定常状態到達時間は、半減期の4〜5倍です。

<薬の影響がなくなる時間は?>

 体内にある薬がなくなるには、同様の理屈で飲むのを止めてから血中濃度半減期の4〜5倍の時間がかかることになります。つまり、副作用がなくなるにも、そのくらいの時間がかかると言うことです。(授乳中、体内から消失する時間などでもこの血中半減期が利用できます。次回参照;下記)

 ただし、フェニトイン中毒のように代謝酵素がめいっぱい働いていて、体内薬物量に関わらず一定量しか消失していかない場合(0次速度過程といいます。)には、この限りではないので注意が必要です。

{参考文献} 協和発酵資料 
      「添付文書の読み方」菅野 彊 著


2002年3月1日号 NO.332

体から薬の効果が消えるのは、半減期の5倍

添付文書の読み方(2)

 体内にある薬は、服用を止め、血中濃度半減期の時間がたつと半分の量が体内に残っています。次の半減期でそのまた半分、その次の半減期でさっきの半分といように減少していきます。 2半減期で始めの体内薬物量の75%が消失し、3半減期で87.5%、4半減期で約94%が消失することになります。

 実際には、ここでほとんど消失したとみなして良いのですが、完全に消失するには、さらに1半減期が必要となり、半減期の5倍かかることになります。

 例えば、半減期24時間の薬では、血中で定常状態になるのに4〜5日かかり、飲み終わってから体内から薬がなくなるのも4〜5日という理屈になります。ですからもし副作用が出現して飲むのを中止しても、副作用がなくなるのは飲み終わってから4〜5日という理屈になります。

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* 副作用   

 1.薬理作用の過剰反応〜効きすぎによる副作用:頻度高い。
 2.薬物毒性〜初期には発現しにくい。:腎毒性、肝毒性、血液毒性
 3.薬物過敏症〜6ヶ月以内(目安として好酸球上昇):発疹、発熱、かゆみ等

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 授乳させたいので、薬を止めたいのだがすでにAというお薬3日分飲んでしまっています。この薬を中止してから何日たったら授乳しても良いのでしょうか?

 Aというお薬には、授乳中の妊婦は服用投与しないことと記載されています。

 このAという薬の添付文書をみると、「血漿中未変化体濃度の推移は二相性を示し、消失半減期はそれぞれ約1.5時間および8時間であった。」と書かれていました。

 そして、血中濃度パラメータとしてt1/2α 1.5±0.7hr、t1/2β 8.2±2.9hrの2種類が記載されていました。

 t1/2αは、分布相の半減期といわれ、薬が急激に血液が密になっている所に分布して行く過程の半減期です。t1/2βは、薬が全身に行き渡って、ゆっくり体内から消失して行く過程の半減期で消失相の半減期と言われています。

 このケースでは、すでに3日間連続して服用していますので、全身に薬が行き渡っており、β相(消失相)の半減期で消失していることになります。ですから、体内からAという薬が消失するには8.2時間の5倍で約40時間、つまり1日半かかることになります。

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ローディング・ドーズ
loading dose
負荷用量

 薬物の繰り返し投与時の血中濃度は初回投与時から徐々に蓄積し、定常状態に達する時間は消失半減期の約4倍かかります。消失半減期の長い薬物では目的とする血中濃度に到達し、それを維持するまでにかなりの時間を要するため、迅速な効果を得たい場合には、早急に目的とする血中濃度を得るために負荷する用量を負荷用量といいます。

 消失半減期が短い薬物では、負荷の必要はなく、プロジフ注、タゴシッド注やジギトキシンのように消失半減期が長い薬物ではこの方法が有用です。

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