1999年3月15日号 264
n-6/n-3比と血栓性疾患
コレステロールではなかった主危険因子 n-6/n-3のnについては下記をご覧ください。
n-6/n-3比とは、必須脂肪酸「n-6系」と「n-3系」の摂取率のことで、n-6系の代表がリノール酸、n−3系はα-リノレン酸や魚油に含まれるDHAなどです。両者の割合は4:1程度が好ましいとされています。 動脈硬化や血栓性疾患に対してアラキドン酸前駆体である高リノール酸食品が危険因子であり、動物実験ではコレステロール添加食、および紫蘇油などn-3系が脳卒中発症を抑制することが証明されています。 血清コレステロールも1つの血栓性疾患の危険因子ですが主要なものではなかったといえます。心疾患の主危険因子が高いn-6/n-3比であることを示している研究結果が出ています。 |
2002年追記 現在 n3、n6という表記はω3、ω6という表記に改められています。 |
(n-6系列)リノール酸→γ‐リノレン酸→アラキドン酸
〜紅花油、豆類、発酵油、月見草油、マヨネーズ、穀類など
(n-3系)αリノレン酸→EPA→ドコサヘキサエン酸(DHA)
〜紫蘇油、魚油、エゴマ油など
各種食品の含むこれらのバランスが異なり、食品の選択によって特にリノール酸(n-6)系列とα-リノレン酸(n-3)系列のバランスが変わりこれが多くの疾患と深くかかわっていることが分かってきました。
多くの酵素系でn-6系とn-3系は競合関係にあります。細胞膜のリン脂質でアラキドン酸が増えるとメディエーターの「過剰でアンバランスな産生」が起こり、これが多くの疾患の原因となります。
リノール酸の1日必須量は1〜2g以下ですが現在日本人はアラキドン酸0.3g、リノール酸を15〜20g摂取しており、実質的には大過剰のリノール酸がリン脂質中のアラキドン酸を増やす基となっています。
ところが現在の医療の分野では、「リノール酸がアラキドン酸の前駆体である」ことが十分に評価されていません。
リノール酸はコレステロールを肝臓にためるので一過性に血清コレステロールを下げますが、やがて肝臓が代謝応答してコレステロールを血中に出し始めます。
動物性脂肪と高リノール酸植物油はともにコレステロール値を上げるのに対し、紫蘇油、魚油などn-3系油脂は低く保つことが分かっています。
リノール酸が増えてリン脂質のアラキドン酸が増えると、1)エイコサノイドバランスが悪化し血栓性が上がる。2)血液粘度が上がり、末梢血流が悪くなる。3)炎症性が上がるなどの結果、むしろ血栓性疾患を増やし、寿命が短縮することが臨床的に証明されています。
冠動脈心疾患の危険因子としては、高いn-6/n-3比が7割、高コレステロール血症が3割以下であると推定されています。
また、血栓症の治療にNSAIDsを使うケースも多く、動物実験ではステロイド剤が動脈硬化の進展を抑えるという報告もあります。
{参考文献}日病薬誌 1999.1
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欧米型癌とn-6/n-3比
わが国で非常な勢いで増えており、欧米で死亡率の高い欧米型癌(肺、大腸、乳腺、膵臓、前立腺、皮膚、食道などの癌)は、リノール酸、γ‐リノレン酸などn-6系で促進され、α‐リノレン酸、EPA、DHAなどn-3系油脂(紫蘇油、魚油)で抑えられます
動物実験での乳癌とリノール酸摂取量との用量依存性は、我が国の過去40年の「リノール酸‐乳癌増加」の関係と一致し、現在のリノール酸摂取量もn-6/n-3比もすでに発癌促進の点では飽和量に達し、これらの値を40年前のレベルに向かって下げることが国民栄養の緊急の課題となっています。
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間違っていた栄養指針〜アレルギーとの関係
1999年3月15日号 264
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脂肪酸についての知識
2003年12月1日号 No.373 関連記事 n-6/n-3比と血栓性疾患
脂肪酸は、十数個〜30個ほどの炭素原子が鎖のように連なった構造になっています。飽和脂肪酸は、炭素の4本の手が全て水素に結合していますが、不飽和脂肪酸は炭素同士の二重結合を持っています。
不飽和脂肪酸の炭素数(n個)で、最後(メチル基)から何番目に二重結合があるかにより、n9(最後から9番目)、n6(最後から6番目が最初の二重結合)、n3(最後から3番目が最初の二重結合)と分類されています。
{参考文献}治療 2003.11
必須脂肪酸は2つに大別され、n6系とn3系とに分かれます。
n9系〜オレイン酸:オリーブ、キャノーラ
(1価不飽和脂肪酸)
血清TCを減少させる、過酸化脂質を作りにくい。心臓病・癌の発病率を低下
n6系〜リノール酸:大豆、コーン、紅花
γリノレン酸: 同上
アラキドン酸:卵、レバー
血清TCを減少させる。過剰摂取で心臓疾患、癌、アレルギー、老化を促進
n3系〜αリノレン酸:しそ、ごま
EPA:いわし、さば、さんま
DHA:かつお、まぐろ
基本的には常温で「液体」
血圧降下、抗癌作用、血小板凝集を抑制、TC、TGを減少、LDLを減少、HDLを増加、動脈硬化や心筋梗塞を防ぐ。
飽和脂肪酸
ラウリン酸 :ヤシ、ココナツ
ミリスチン酸: 同上
パルミチン酸:牛肉、バター、ラード
ステアリン酸:牛肉、バター、羊肉
基本的には常温で「固体」 血清TC、TGを増加させる。血小板凝集能を高める。動脈硬化のリスクを高める。
<n6/n3比>
欧米では4〜10または5〜10を推奨しています。しかし、世界では栄養摂取に大きな格差があり、この数値は個々の国に当てはめるの不可能です。
日本では、長年ほぼ約4.2に保たれ、大きな問題はありませんでした。従って、n6/n3比は4:1程度が適当とされています。
関連記事 n-6/n-3比と血栓性疾患もご覧ください。
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スナック菓子やインスタントラーメンなどでは安価で日持ちのするパーム油が多用されています。その内訳は、飽和:50%、n9:39%、n6:10% n3:0%という割合になっています。
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リノール酸は悪玉?!
リノール酸が体によいと言われたのは、約40年前で、冠動脈疾患にはリノール酸が善玉であると信じられてきました。それは、リノール酸は生体で合成できない必須脂肪酸であるためで、現在では、リノール酸は摂りすぎの傾向にあります。
<リノール酸のデメリット>
酸化しやすい
体内で炎症反応やアレルギー反応につながる。
癌の発生や転移を促す。
悪玉だけでなく善玉コレステロールも減らす。
血小板凝集を促進し、血栓を作る。
二重結合が1つあるのが1価で、2つ以上が多価です。
飽和(S)、モノ(1価)不飽和(M)、多価不飽和(P)の比率についてP/Sが有力とされてきました。
日本人は通常、動物:植物:魚介=4:5:1で摂取しています。
厚生労働省は、過剰摂取しがちな不飽和脂肪酸を抑えるべきという意味で
S:M:P=3:4:3(1:1.5:1の記載もあり)が良いとされています。
医学・薬学用語解説(ら)
ライター(Reiter)症候群〜イムノブラダーの副作用 はこちらです。
PUFA
poly unsaturated fatty acid
多価不飽和脂肪酸 関連記事 n-6/n-3比と血栓性疾患
PUFAはその炭素鎖中の二重結合が2個以上含まれるものを言います。
二重結合はメチル末端から数えた3または6個目から1つのメチレン基(−CH2−)をはさんで並んでいます。この場合のメチル末端からの二重結合の位置の違いでn3系とn6系に分類されます。
n3系とn6系のPUFAは植物性プランクトンや植物細胞では生合成されますが、動物体内では生合成されません。n3系とn6系のPUFAは動物の成長や正常な生理機能の維持には不可欠で、必須脂肪酸と呼ばれています。
n3系とn6系のPUFAはほとんどの代謝段階でお互いに競合します。
摂取するn6系PUFAを減らし、相対的にn3系PUFAを増やすことにより、リン脂質中のアラキドン酸がEPAやDHAにより置き変わり、作られるエイコサイノドの量と活性が低下します。
エイコサイノドは炎症反応だけでなく、さまざまな細胞機能の発現に深く関わっています。
このことは近年増加の一途をたどっているアレルギー性疾患、癌、心血管疾患の一因であると考えられています。
基礎研究での組織脂質中の脂肪酸パターンとエイコサノイド産生の解析結果からは、αリノレン酸エイコサノイド産生抑制活性は、EPAやDHAの約5分の1程度と推定されています。しかしリノール酸の摂取が多いとn3系脂肪酸の効力が著しく減弱されることはどのn3系PUFAに関しても共通しています。すなわちn6系PUFAの摂取を出来るだけ減らすことが、n3系PUFAによるエイコサノイド産生抑制効果をより発揮させる鍵となります。
日本での摂取脂肪酸の リノール酸/αリノレン酸比をみると、1995年から1985年にかけて上昇し、最近では4程度とされています。ただし、若年齢層ではこの値が更に高くなっています。
現在の我々の体内では、エイコサイノドの産生過剰状態にあるといいことができます。したがって摂取脂肪酸のn6/n3比を下げることが急務と考えられています。
出典:治療 2003.11
心疾患予防と降圧剤
2001年10月15日号 324
{参考文献}ファルマシア 2001.9 名古屋市立大学薬学部教授 奥山治美
血圧降下剤は心疾患予防に必要か?
現在日本では、高血圧症の基準を欧米より低く設定して薬物治療を行っている場合が多いのですが、降圧薬の長期服用が心疾患発症率を抑えているかどうかは明確ではありません。
米国での大規模な介入試験(MRFIT)の結果では、降圧薬は明確な予防効果を示していず、国内の長期観察でも、虚血性心疾患を発症した人の9割が降圧治療を受けていて、降圧薬の心疾患の予防効果は観察されていません。
血圧の上昇が主に末梢血流低下に対する体の適応機構なら、降圧薬は逆に末梢血流を低下させ、虚血を促進する恐れがあります。多くの臨床家は、“降圧薬での治療を始めると同時にQOLが著しく低下する”ことを観察しています。
よく使われているCa拮抗剤、ニフェジピンは長期服用で用量依存的に死亡率を上げるとの報告があります。持続型のCa拮抗剤にはこのような問題はないとされていますが、目的とする動脈硬化部に作用しにくく正常部に働く結果、盗血現象が起こるのではないかと懸念されています。
ACE阻害剤(カプトプリル)は4年間の観察で19%の危険率低下を示しましたが、左室収縮不全患者に限定されています。また精巣にもACE(アンジオテンシン変換酵素)が存在し、予期されない副作用が発現する可能性があります。
β遮断剤の長期服用が増えつつある成人呼吸窮迫症候群(ARDS)や肺炎・気管支炎と関わりを持っている可能性もあります。
長期的に心疾患予防効果を示す降圧薬の開発・選択が重要で、なによりも末梢血流を改善することが重要です。
生活習慣病には多くの遺伝因子が関わっており、遺伝子多型に基づくテイラーメイド医療が期待されていますが、生活習慣病の発症率の増加は環境因子の変化によるものです。
環境因子の中で生活習慣病と関わる重要な因子は、リノール酸(n-6)の取りすぎによるリノール酸カスケード(リノール酸→アラキドン酸→脂質性炎症メディエーター)の亢進と、それを競合的に抑えるαリノレイン酸(n-3)系の相対的不足です。(n-6/n-3比と血栓性疾患参照)
炎症制御を目指した薬食の開発、脂質栄養が現在の生活習慣病医療で重要な意味を持っています。
<高血圧はコレステロール沈着を促進しない。>
一般的に高血圧と心疾患死亡率との間に正(それほど明確ではないが)の相関があり、高血圧が動脈壁へのコレステロール沈着を促進すると理解されています。
現在の医療の三段論法は、1)血圧と心疾患の間に正の相関がある。2)だから高血圧は心疾患の危険因子である。3)血圧は下げた方が良い。ということになっています。
この三段論法には次のような問題点があります。加齢とともに動脈硬化が進むと末梢への栄養補給を確保するため、体は血圧を上げてやる必要があります(フィードバック制御)。つまり多くの場合に高血圧は動脈が進展した結果であると考えられます。
血圧上昇と心疾患発症がともに動脈硬化の結果であるなら、当然両者の間に正の相関が見られることになりますが、高血圧→動脈硬化→心疾患の因果関係を証明していることにはなりません。
動脈硬化の進展→心疾患+高血圧
というだけのことです。
高血圧ラットによる実験では、高血圧はコレステロールの動脈壁への沈着を促進しない事が証明されています。
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無理な血圧効果療法は脳梗塞リスクを高めている。
高血圧に対する分類、診断基準、降圧目標は次々と下げられており、特に高齢者に対して厳しい治療目標が設定されています。
最近日本で行われた大規模介入試験JATOSでは、興味深い結果が得られています。
Ca拮抗剤を用いて、収縮期血圧を140mmgHg未満に下げる群(A)と140〜159mmHgにコントロールする群(B)で比較したところ、脳梗塞の発症率で、140mmgHgに下げた方が発症率が高く(A群:36人/2,212人、B群30人/2.203人)、140〜159mmHg群で脳梗塞死亡例は無かったのに、140mmHg未満群では死亡が2例発生しました。総死亡例はA群33人、B群24人でした。
その他の研究からも、高血圧ではなく降圧治療がリスクとなる可能性が示唆されており、これは低すぎる降圧目標が原因と考えられます。入浴時に血圧が低下して脳梗塞を誘発することはよく知られた事実です。
また、家庭血圧は外来血圧や健康診断時血圧より20〜50mmHgも低い人が多く見受けられます。
次々と下げられた基準と外来血圧や検診時血圧をもとに降圧剤が処方された場合のは、家庭血圧、特に入浴時の血圧の下げすぎになる可能性があります。
出典:薬事 2007.8
NSAIDsのその他の作用
シリーズ:アスピリン(7)
1.抗腫瘍作用
アスピリンを長期間服用していると大腸癌の発症率が40〜50%低いことが、疫学的調査により明らかにされています。
臨床研究でもNSAIDsが良性腫瘍であるポリープの発生を抑制し、大腸癌への進行を抑制することが明らかにされています。
大腸癌と正常大腸粘膜でCOX1の発現量に差は認められませんでしたが、COX2の発現は50%の腺腫および80〜85%に大腸癌で亢進していました。これらのことからCOX2が大腸腫瘍の発生に重要な役割を果たしていることはほぼ間違いないと思われています。
2.抗痴呆作用
疫学的調査や小規模の臨床試験の成績から、NSAIDsがアルツハイマー病の進行を抑制することが期待されています。
アルツハイマー病患者の脳ではCOX2の発現増加が認められており、NSAIDsによる抗痴呆作用にCOX2阻害が関与すると推察されています。
アルツハイマー病の成立過程の一部には神経細胞、特にミクログリアの活性化に関連した炎症が関与することが知られていて、NSAIDsのアルツハイマー発症に対する抑制機序の1つとして、このミクログリア活性化の抑制が考えられています。しかしまだ不明な点が多く、今後の検討が期待されています。
最近の分子生物学的な研究により、NSAIDsにはNF-κB(nuclear
factor -κB)活性化に対する阻害作用やPPARγアゴニストとしての作用等COX阻害以外の作用機序があることも明らかにされてきました。
NSAIDsの抗腫瘍作用や抗痴呆作用の機序についてはCOX阻害のみでは説明できない部分も多いことから、このようなCOX阻害以外の作用機序が関与している可能性が十分に考えられます。これらについては今後の基礎及び臨床での研究の成果が待たれます。
{参考文献}日本病院薬剤師会雑誌 2001.9
2001年11月1日
325
コレステロール値の高い人ほど長生き?
現在の常識では、“コレステロール値が高い人ほど、短命”とされていますが、これは30歳代男性に対してのみあてはまることで、40代、50代となるにしたがってこの常識はあいまいとなり、56〜65歳では全く通用しません。
女性では、全年齢にわたって相関はありません。先ほどの常識は、おそらく家族性高コレステロール血症のような遺伝因子を持った人のみにあてはまることだったのです。そしてこの場合でも、高コレステロール血症が寿命短縮の原因となっているのか、単なる指標(LDL取り込み障害の結果)なのかは明らかではありません。
生活習慣病の危険因子として、高いコレステロール値、血圧、血糖値などが重要であるとされ、これらを切れ味良く抑える多くの薬が開発されてきました。しかし、これらの指標と疾患の因果関係は明確でなく、多くの薬は対症療法的です。服用によって疾患が完治し、健康寿命を延ばすことが証明された薬は極めて限られています。
一方、コレステロールと動物性脂肪を危険因子とし高リノール酸油を防御因子とする脂質栄養指導は完全に間違っていました。“リノール酸の摂りすぎとαリノレン酸系の相対的欠乏”が、虚血性心疾患脳卒中、欧米型癌、アレルギー過敏症の主要な危険因子であることが、臨床的にも証明されています。
米国の大規模な介入試験(MRFIT)では、従来の栄養指導は心疾患予防に効果がないばかりか、むしろ危険であると示唆されています。リノール酸(P)を増やし、飽和脂肪酸(S)を減らす(P/S比を上げるという従来の栄養指導の危険性が15年にわたり長期の臨床試験で明確に証明されました。
これに対し、αリノレン酸(n-3)系とオレイン酸を増やし、リノール酸(n-6)系を減らすこと(n-6/n-3比)は、心疾患2次予防に非常に有効で、危険率を70%抑えるとされています。この効果は、コレステロール合成阻害剤(スタチン系)薬剤の効果(30%抑制)よりも、はるかに大きいものです。
最近の内外の研究でも、コレステロール値が高い人ほど感染症や癌死亡率が低く(*下記に追記あり)、また心疾患発症率と総死亡率が低く長生きという結果が出ています。更に心疾患に対して善玉とされているHDLコレステロールや悪玉とされているLDLコレステロールと心疾患との相関は見られませんでした。
わが国で先駆的に開発されたHMG−CoA還元酵素阻害剤(スタチン類)長期の服用で有意に心疾患の発症を抑えることが証明されています。しかしスタチン類の効果は必ずしもコレステロール値を下げた結果ではないかもしれないのです。
この薬の作用としてコレステロール合成のプレニル中間体のレベルが下がり、それに伴って血管拡張性のNO産生が上がって、また細胞増殖性のras蛋白の活性化が抑えられ、動脈硬化・心疾患が抑えられた可能性が指摘されています。
このプレニル中間体は他にも多くの生理機能を持っていますので、スタチンによってはこのレベルが下がると横紋筋融解症、出生数減少、血小板減少、脳梗塞などの副作用が起こる可能性があります。一方でras蛋白の活性低下などを介して発癌抑制作用も持っています。スタチン類の心疾患に対する有効性は証明されましたが、この結果から“高コレステロール血症が動脈硬化・心疾患の主因になっている”とは言えません。
{参考文献}ファルマシア 2001.9
名古屋市立大学薬学部教授 奥山治美
*コレステロール低下により癌が増えるものではなく、むしろ癌が発生した結果、血清総コレステロールが下がると考えられます。
* 高コレステロール血症患者を対象に実施した大規模試験では、血清総コレステロール値を大幅に下げることによりなんらかの合併症が併発したとの報告はありません。
出典:メーカー資料(山之内、ファイザー)
NSAIDs:nonsteroidal
antiinflammatory drugs
非ステロイド性抗炎症剤、いわゆる解熱・鎮痛・消炎剤のことで、いずれの呼び方も長ったらしいので、この薬剤ニュースでは、かなり以前からNSAIDs(エヌセイド)と表記しています。
NSAIDsは大きく分けて、酸性のものと塩基性のものがあり、ほとんど酸性のものばかりです、塩基性で有名なものにソランタールがありますが、その薬理作用は、COX阻害ではなく、ブラジキニンやリボキシゲナーゼの抑制であるとされています。抗炎症作用は、酸性のものに比べて弱く、抗リウマチ作用もありません。
酸性のNSAIDsには、エノール酸類、カルボン酸類があり、カルボン酸類は、さらにアリール酢酸系、プロピオン酸系、フェニル酢酸系、アントラニル酢酸系、サリチル酸系に細分類されています。
インドメタシンに代表されるアリール酢酸系は、抗炎症作用・鎮痛作用が強力ですが、胃腸障害等の副作用も強く、徐放剤、坐剤、プロドラッグなどとして用いられています。
プロピオン酸系(ロキソニン錠、スルガム錠、ナイキサン、ミナルフェン錠等)は、インドメタシンとアスピリンの中間的な作用で、副作用もやや少ないということで比較的よく使われています。
NSAIDsの相互作用として注意しなくてはいけないのは、ニューキノロン剤です。抗菌剤とNSAIDsは同時に使われることが多いのですが、併用すると痙攣を誘発する危険性を常に頭に置いておく必要があります。
非常に大まかな言い方をすれば、NSAIDsは製剤的に工夫されていますが、アスピリンと比べて薬理学的に優れているとは、筆者には思えません。それどころか、NSAIDsはアスピリンが持っている、最も身近な苦痛である頭痛、生理痛、そして血小板凝集抑制作用(血栓予防作用)を持っていません。
アスピリンは、NSAIDsに比べ非常に安価で、臨床的に有用な薬です。痛みは、人類にとって一番身近な苦痛です。飲めばたちまち、苦痛が消え去る、楽になる薬、そんな薬を人類は求めています。アスピリンは、薬の原点とも言える薬です。