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口腔乾燥症とその治療

1989年11月15日号 No.55   関連記事 ドライマウス

   口腔乾燥症とは、種々の原因による唾液の分泌低下のため、口腔内が乾燥状態になることをさします。
 糖尿病や各種薬剤になどによっても口腔乾燥症は起こり、また全身性疾患を伴う疾患としてはシェーングレン症候群が知られています。慢性の口腔乾燥症による食生活上の障害は、患者にとって大きな負担であり、Quality of life(生活の質)の向上の観点からも、これに対する対応が望まれています。

{参考文献} 医薬ジャーナル 1989.11

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<治療>

1)生活指導:現状では確実に唾液分泌を促進させ、なおかつ長期使用可能な薬剤はありません。その上で種々の生活指導が必要となります。

*歯垢、歯石の除去、虫歯の治療、充填物や不適合義歯、歯の補修など歯科的な養生の重要性を知らせます。

*重症のシェーングレン症候群では舌下錠が吸収されにくくなるので注意を要します。


2)処方内容の再検討

*唾液分泌の低下を招くとされる薬剤は多く、また、処方される薬剤の種類が増すほど、口腔乾燥症を訴える比率も増えるとの報告があります。特に老人では症状ごとに通院先を変えることがあるので、服薬内容には十分注意する必要があります。

3)薬剤

*人工唾液〜サリベート
*含嗽剤〜アズノール等の非刺激性のもの、マイコスタチン(カンジダ症の場合)
*その他〜パロチン、セファランチン散、漢方薬等


<口腔乾燥症を起こす可能性のある薬剤>


利尿剤:マニトール、フルイトラン、ラシックス等

抗コリン剤(鎮痙剤):アトロピン、ブスコパン等

制吐剤:塩酸メクリジン、トリエチルペラジン等

抗ヒスタミン剤:ポララミン等

鎮咳去痰剤:塩酸クロルプレナリン等

抗パーキンソン剤:アーテン、アキネトン等

向精神薬:抗うつ剤、MOA阻害剤、トランキライザー各種

筋弛緩剤:塩酸トルペリゾン、クロルメザノン等


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口腔内慢性感染症

2001年7月1日号 317

 口腔領域の細菌感染症は、慢性経過をとり、自覚症状や疼痛を伴わないものが多く、それらの病巣が、原病巣となり、二次的に以下のような様々な疾患を引き起こします。

 老人性肺炎、関節炎、細菌性心内膜炎、糖尿病、循環障害、肥満、皮膚炎、骨粗鬆症、糸球体腎炎、妊娠トラブル

{参考文献}日本薬剤師会雑誌 1999.5

 老人の直接的な死因として一番の多いのは、口腔内に潜んでいる細菌による肺炎です。また、口腔内に住み着いているレンサ球菌が、循環障害や心疾患の引き金になっていることが明らかにされています。

 さらに、歯周病菌といわれる嫌気性のグラム陰性菌群は、内毒素などの病原性因子で全身の健康を蝕んでいることも報告されています。

 歯が有る場合、ヒトの口腔内には300種類を越える細菌が数千億個も住み着いています。歯の表面に住み着く細菌はデンタルプラークといわれ、歯垢(しこう)と訳されています。その1mg中には億を越える細菌が算定されていて、菌塊となっています。また、唾液中には咽頭や舌背に住み着く細菌が混入していて、1ml中の数は億に達します。

 口腔内慢性感染症を取り除くことによって、全身性の二次疾患の治癒が見られた事実は、その原因が口腔内の原病巣にあったことを裏付けています。虫歯が進行して歯根端部の病変や歯周炎などが病原巣となって、皮膚炎や膿疱症を起こす口腔内慢性感染病巣の細菌の出す毒性成分や抗原が腎糸球体基底膜上に沈着すると、抗原抗体複合物が形成され免疫病理学的反応が活発になり、糸球体腎炎の引き金になります。

 口腔内細菌の抗原が関節腔に沈着すると抗原抗体複合物形成され免疫病理学的反応が形成され、補体が活性化され、炎症性サイトカインが放出されて関節炎を起こします。
歯周病原菌といわれるものは全て、内毒素あるいは内毒素類似のものを産生します。それらは容易に血流中に入り込むことによって発熱作用を発揮するほか、血糖値の上昇などを起こします。事実、歯周病を治療し口腔清掃を徹底すると、原因不明の発熱が見られなくなるという報告もありますし、歯周病を治療したら糖尿病患者の血糖値が下がったという知見もあります。

 現在、我が国では寝たきり老人(ある意味では寝かされきり老人ともいえる場合もあるが)200万人にも達します。その半分が骨粗鬆症です。骨粗鬆症の90%は女性で、閉経後に見られ、ホルモンのアンバランス、ビタミンやCaの不足、さらには運動不足などが主因です。歯周病があり、歯周病原菌の内毒素が入り込めば、骨粗鬆症のの増悪因子となると考えられています。

 妊娠すると、出血し易い妊娠性歯肉炎が見られることが多く、嫌気性菌であるPrevottella intermediaというグラム陰性菌が歯肉溝に激増することが原因です。P.intermediaは、自分の発育に女性ホルモンであるエストラジオール、エストロゲン、プロゲステロンを要求します。

 妊娠し胎盤からこれらのホルモンが血流に入り、歯肉溝液として滲出すると、どんどん増殖を開始します。本菌は、内毒素なども産生して歯肉に炎症を起こし、歯肉からの出血を促します。すると、血液成分を好む他の嫌気性のグラム陰性菌群が増え、それらのグラム陰性菌群は全て内毒素を産生します。この内毒素が歯肉内縁上皮を貫通して血流中に入り込んで早産や未熟児出産などの妊娠トラブルの原因となってしまいます。

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 口腔内洗浄の主体はあくまでもブラッシングと考えるべきで、含嗽・洗口剤は基本的には,ブラッシングによる機械的清掃の補助として用いられます。

 口腔清掃をきちんとすると口腔内の細菌数を減少します。歯磨きなどの物理的口腔清掃が出来ていない場合には、抗菌剤を有効に使うことが必要となります。

 歯周病の化学療法は、外科的歯科処置を確実にするためのものと考えることが出来ます。

 関連記事 ドライマウスもご覧ください。


ヒューマンエラー2 (2001年7月1日号)

知識ベースレベルでのミス

                 スキルベース→ ルールベース→ 知識ベース

    クリック→ ヒューマンエラーの起こる原因(2)


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Periodontal Medicine

〜〜歯周病が全身疾患に及ぼす影響〜〜

2006年11月1日号 No.440

 歯周病が全身疾患のリスクファクターになる可能性が示唆されています。歯周病と全身疾患の相互関係を構築する研究学問をペリオドンタルメディシンと呼び近年、大きな注目を浴びています。

 歯周病が全身疾患に影響を及ぼすメカニズムとして考えられるのは、歯周組織内へ歯周病関連細菌、細菌が産生する酵素、あるいはサイトカイン、炎症性メディエーターが流入し、血流を介して全身の臓器に運ばれ、様々な悪影響をもたらすことです。

1.歯周病と心臓血管疾患

 歯周病との関係が深いとされる心臓血管疾患には、細菌性心内膜炎や冠状動脈疾患があります。細菌性心内膜炎に対する影響は、歯周病関連細菌が血中に移行し、心内膜や弁膜に付着するというものです。

 冠動脈については血管の内腔の狭窄や血栓を引き起こすアテローム性動脈硬化症背景にあります。アテローム性動脈硬化症は、炎症性疾患とも考えられており、血管の内腔を被覆している血管内皮細胞の障害とそれに続く血管壁の脂肪沈着、線維性結合組織の増生、内膜の肥厚などを来たして血管内腔の狭窄や閉塞をきたします。

 このアテローム性動脈硬化症に関与する感染性病原性微生物には、歯周病関連細菌も含まれています。また、歯周病関連細菌や細菌の内毒素(LPS)は、血液を介して動脈硬化部到達し、局所でサイトカインや炎症性メディエーターをさらに産生させ、血管内皮細胞や活性化マクロファージを刺激し、アテローム病変を悪化させます。

 その他の機序として、歯周病局所のサイトカインや炎症性メディエーターが血流を介して肝細胞を刺激し、そこで産生される
CRP、SAA:serum amyloid Aなどによる間接作用が考えられています。炎症局所に移行したCRPにより、補体の活性化、好中球の遊走、貪食細胞の活性化が起こり、二次的損傷を誘導するというものです。

 SAAは脂質代謝産物との相互作用により、アテロームへの脂質沈着を促進します。

2.歯周病と糖尿病

 歯周病を放置することによって、血糖値や
HbA1ccに悪影響を出ている可能性が報告されています。さらに2型糖尿病患者の歯周炎を治療することで、HbA1cが改善するとの報告もあります。

 そのメカニズムとしては、
TNF−αの関与が考えられており、歯周局所のマクロファージなどにより産生されたTNFαが、血中に移行し、各細胞のTNF受容体を介して作用する結果、インスリンの取り込みを制御するGULT4の活性化が抑制されます。つまりTNF−αによりインスリン抵抗性が増大し、細胞が糖を取り込めず、高血糖状態に陥り、糖尿病を悪化させる可能性があります。

3.歯周病と呼吸器感染症

 高齢者では、嚥下反射や舌運動機能、咳反射が低下しており、口腔内の細菌が唾液とともに肺に侵入する機会が多いと考えられます。また、生体防御機能が低下している場合、肺に到達した細菌が容易に増殖し、肺炎の誘引となります。

 誤嚥性の肺炎の原因となる細菌は、口腔常在菌、特に歯周病関連細菌が深く関与していると考えられています。

 また、慢性閉塞性肺炎でも肺の分泌液中に、高い割合で口腔内細菌が検出されています。


   {参考文献}日本薬剤師会雑誌 2006.10      このページの上のほうにも類似の記事がいくつかあります。(スクロールUPしてご覧ください)




<NST関連用語解説>    PEM:protein energy malnutritionはこちらです。


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オーラル・バイオフィルムと全身疾患

歯周病が全身疾患に及ぼす影響(2)

2007年8月15日号 No.458


 歯周病が骨粗鬆症をはじめ、糖尿病とも相互関連を持つ疾患であることは以前から知られていますが(薬剤ニュース2006年11月1日号 No.440参照)、それらの疾患にとどまらず、心臓血管疾患など重要な全身疾患とも関連することが分かり、その疾患のメカニズムも解明されてきています。

 歯周病は、細菌の炎症と歯槽骨の吸収を臨床的特徴とする口腔細菌による慢性感染症で、有病者率は35歳以上で80%を超えています。この非常に高い罹患率やその予防・治療の困難さは、起炎細菌がバイオフィルム構造を示すことが大きな要因と考えられます。

 このバイオフィルム感染症である歯周病は心臓血管系疾患、骨粗鬆症、低体重児出産などの全身疾患や全身状態と関連することが明らかにされ始めました。

 バイオフィルムとは、多糖系の混合物グリコカリックスによって自らの身を覆い守ることにより生体内での生存を図っている細菌のコロニーのことです。

 オーラルバイオフィルムは、メタボリック症候群、骨粗鬆症、誤嚥性肺炎、糖尿病、感染性心内膜炎といった全身疾患のリスクファクターとしても注目されています。

 オーラルバイオフィルムの中には500種類の細菌が共生し、拮抗しながら生息しているといわれています。その形成と成長には体細胞間の情報伝達機構が関与していることが分かってきています。

 バイオフィルムが産生するインターロイキン(IL-1,Il-6)TFN-α(腫瘍壊死性因子)などの炎症性サイトカインが生体の免疫応答を誘導することで、全身への影響を及ぼすことになります。

<歯周病と血管病変>

 血管病変からの嫌気性グラム陰性杆菌など歯周病菌は、バージャー病で80〜90%、大動脈瘤、閉塞性動脈疾患では70〜80%の頻度で検出されています。

 バージャー病は手足の血管が詰まる難病で、口腔内、咽頭の常在菌であるクラミジア肺炎菌や口腔内から侵入するサイトメガロウイルス、それにH・ピロリ菌などが患部から検出されています。

 バージャー病は以前より喫煙との強い因果関係が証明されてきており、また喫煙による歯周病の悪化も指摘されていました。

<歯周組織破壊による早産>

 歯周組織破壊が進んでいる妊婦では、切迫早産で6.9倍、早産では3.7倍の危険率(鹿児島大大学院医歯学総合研究所での例)

<歯周病改善と血糖値>

 糖尿病患者を歯周病治療と非治療に分けて3ヶ月集中治療を行ったところ、治療群では高感度CRP、HbA1cともに改善(共立女子大家政学科での例)

 HbA1cが8.5以下なら、歯周病治療に効果

   {参考文献} 医薬ジャーナル 2007.7

関連記事もご覧ください。

2006年11月1日号2001年7月1日号バイオフィルム感染症
 

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<医薬トピックス>


    QO:クオラムセンシング quorum sensing:QS QSシグナル はこちらです。


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口腔疾患と全身の関わり

2010年10月15日号 No.531


 歯周病、う蝕、そしてう蝕から併発する根尖性歯周炎では、その原因菌が生体外と考えられる歯の表面、歯周ポケット内あるいは歯の内部(歯髄腔)に存在することから、生体の免疫系の働きによる排除機構を十分に受けていません。

 そのため、多くの細菌感染症と異なり、これらの歯科疾患が重症化し歯が脱落することを除いて、感染源を人為的に除去しない限り自然治癒することはありません。 歯周病は、細菌の集合体であるプラークが原因となり発症するため、歯周病原因菌に対する生体防御機能を減弱させるような全身心疾患を持つ患者では、歯周病の発症や進行リスクが高くなると考えられます。

 現在のところ、歯周病の発症や進行に影響を与える全身疾患としては、糖尿病、白血病、先天性免疫不全症候群(AIDS)、骨粗鬆症などが代表例として挙げられます。
 そして、生体防御機構に影響を与える肥満、喫煙、ストレス、妊娠などの全身的要因も歯周病発症のリスク要因になると考えられています。
 また、全身疾患に伴って口腔内に症状が出現することがあります。これらの口腔症状は、全身疾患の部分病変が口腔内に現れたものですが、これらを初発症状として歯科医を訪れ、全身的な原疾患が発見されることもあります。 外胚葉異形成症、鎖骨頭蓋異形成症、ダウン症などの遺伝性疾患、乳幼児期の代謝障害や栄養障害などでは、歯の萌出胃常や形成不全などが見られることがあります。これらの罹患者では、う蝕の罹患率が著しく高まります。
 また、唾液の分泌が減少する口腔乾燥症やシェーグレン症候群などでも、う蝕原細胞が産生する酸に対する唾液の緩衝作用が十分に働かないため、う蝕が多発しやすくなっています。


1.細菌性心内膜炎

 歯科でのなんらかの処置で、口腔内の細菌が血液中に侵入して、一時的な菌血症が生じることがあります。通常ではすぐに菌は消失して問題となることはありませんが、先天性心疾患や人工弁置換術を受けた人では細菌性心内膜炎を起こすリスクが高くなり、免疫低下が認められるような人では敗血症を併発することもあります。

<対策>〜ハイリスク群に対し、菌血症が生じる可能性のある歯周ポケット測定、歯石除去、抜糸などの際には、細菌性心内膜炎に対する標準的予防法として、成人ではアモキシシリン2g単回経口(小児は50mg/kg)が、「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドラン」で推奨されています。また、う蝕原細菌は細菌性心内膜炎の主要な原因として知られていることから、口腔衛生状態を良好に保ち、う蝕予防に努めることは細菌性心内膜炎の予防にもつながると考えられます。

 そして歯周病などにより口腔内に炎症が存在する場合には、口腔細菌が口腔内から血液中に侵入しやすくなることから、歯周病の発症を抑制することも細菌性心内膜炎の予防には重要です。

2.誤嚥性肺炎

 口腔細菌が誤嚥性肺炎の病巣から検出され、肺炎の誘因として消化疾患が注目されています。

3.心臓血管疾患

 歯周病変で産生される炎症性サイトカインや口腔細菌が、血管へ移行し、動脈の粥状硬化(アテローム性動脈硬化症)を引き起こすのではないかと考えられています。

4.糖尿病

 歯周病に離間した歯周組織で産生されるTNF-αが肝臓での糖代謝に影響を与え、インスリン抵抗性を亢進させることが、歯周病が糖尿病に影響を与えるメカニズムの1つと考えられています。

5.早産、低体重児出産
 歯周組織の炎症に伴って産生されたプロスタグランジンE2が血行性に胎盤や子宮に移行して、子宮の収縮を誘発し、早産や低体重時出産を引き起こすのではないかと推測されています。

6.その他全身疾患

 歯科疾患の原因菌やその菌体成分が体内に侵入すると、それが抗原となり抗体が産生されます。

 そして抗原抗体反応が起こり形成された抗原-抗体複合体が原因となり、糸球体腎炎や関節炎が発症することがあるといわれています。さらに皮膚科領域の掌蹠膿疱症においても、歯科疾患がその原病巣となり得る可能性が示唆されています。


   {参考文献}ファルマシア 2010.10  このページの上のほうに類似の記事がいくつかあります。スクロールUPしてご覧ください。


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ビスフォスフォネート系骨粗鬆症系骨粗鬆症治療薬と顎骨壊死

BRONJ:bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw

2010年12月1日号 No.534

 ビスフォスフォネート(以下BP)は、生体のカルシウム/リン代謝を調節する生理活性物質ピロリン酸と類似の化学構造をもつ薬剤で、骨に選択的に沈着します。

 骨に沈着したBPは、骨のハイドロキシアパタイトと強固に結合し、破骨細胞に特異的に取り込まれ、アポトーシスの誘導により骨吸収を抑制します。

 2003年以降、長期間にわたってBPを服用している癌患者、あるいは骨粗鬆症患者が、抜歯などの侵襲的歯科治療を受けた後に、ときに顎骨壊死(以下BRONJ)を発症するとの報告が見られるようになりました。

 顎骨壊死(ONJ)発症メカニズム、特にBPの関与に関しては不明で、また当初はBRONJに対する適切な予防法や対応策が確立されていなかったために、治療が非常に困難でした。

 近年、多くの症例の集積や経験の積み重ねにより、BRONJのリスク因子、病態などが次第に明らかになり始め、予防策や対応策も徐々に打ち立てられだされています。

* BRONJの発症メカニズム

1.破骨細胞の抑制
2.骨細胞の抑制
3.口腔内細菌感染の増加◎
4.血管新生の抑制、血管閉塞、血流低下
5.上皮細胞の増殖、有窓の阻害
6.骨の硬化
7.免疫機能の低下
8.pHの変化

 特に3の口腔内細菌感染は、壊死が顎骨のみに発症することと関連が深いと考えられています。

<BRONJの治療>

注意期 経口または静注によるBPを服用しているが骨の露出/壊死を認めない。
    〜処置不要、患者の教育

ステージ1:骨の露出/壊死を認め、膿の排出がある
 〜抗生物質を含む含嗽剤による口内洗浄、4ヶ月に1度のフォローアップ、患者教育とBP継続・中止の検討

ステージ2:発赤と痛みを伴う骨の露出/壊死、膿の排出がある、または無い。
 〜広域スペクトラム抗生物質内服による対症療法、含嗽による口内洗浄、疼痛のコントロール

ステージ3:ステージ2に、病的骨折、外歯瘻、または下顎骨下縁におよぶ骨溶解を伴う。
 〜軟組織への刺激除去の為の簡単な外科処置、含嗽剤による口内洗浄、抗生物質と疼痛コントロール
  感染と痛みへの抜本的対応の為の外科的処置/顎骨離断

* BRONJのリスクファクター

1.ビスフォスフォネート製剤

 顎骨壊死発症と関連が強いのは窒素含有のゾメタ注、フォサマック、アクトネル、アレディアです。

 注射用製剤は、経口製剤に比較して、顎骨壊死の発生頻度が高くなっています。(注射剤は2〜3%、経口剤は0.001%以下)
 服用量、使用回数、試用期間(注射剤1年前後、経口剤は3年前後)が長いほど発生頻度は増加します。

2.全身的ファクター

 癌患者では、抗癌剤やステロイドなどの影響もあり、発症の頻度は高まります。また糖尿病もBRONJの発生率を高めます。一方、喘息、高脂血症、高血圧、静脈血栓症などは明らかなリスクファクターとはされていません。

3.局所的ファクター

 抜歯、歯科インプラントの埋入、根尖外科手術侵襲を伴う歯周外科処置などの侵襲的歯科処置により、BRONJの発生率が7倍以上になるとされています。歯周病や歯周膿瘍などの炎症疾患もリスクファクターとなります。
 また下顎は上顎に比べてBRONJの発生頻度が約2倍高く、特に歯肉が薄い部分(下顎隆起、顎舌骨筋線の隆起、口蓋隆起)に好発します。

4.先天的ファクター

 MMP-2(マトリックスメタロプロテアーゼ-2)遺伝子 あるいは多発性骨髄腫患者でチトクロームP450CYP2C8遺伝子の変異や多型性がリスクファクターとして推測されています。

5.その他

 シクロホスファミド、エリスロポエチン、サリドマイドなどの薬物、喫煙は発生頻度を高めるだけでなく、予後も悪くします。また口腔衛生の不良もリスクファクターとして挙げられています。

{参考文献}日本薬剤師会雑誌 2010.11


<<用語辞典>>

炭酸ガスナルコーシス

慢性閉塞性肺疾患患者に見られる症状で、血中に炭酸ガスが増えたために起こる痲酔(されたような状態)

脳内Pco2が100mmHg近くから意識障害が起こり、200mmHgを越えると完全な痲酔状態となります。

CO2と水が反応して発生する水素イオンが脳機能を障害するのがその機序です。

呼吸不全により、動脈血のpHの低下と炭酸ガスの蓄積が起こり(呼吸性アシドーシス)、うっ血乳頭、頭痛、意識障害などの精神症状や循環障害を起こすものは炭酸ガス中毒です。さらに高度の呼吸性アシドーシス、意識障害及び自発呼吸の減弱を起こしたものを炭酸ガスナルコーシスといい、動脈血炭酸ガス分圧が正常(40mmHg)の3倍になると昏睡状態になります。

ナルコーシス
narcosis

麻酔薬の作用[影響]、(麻酔薬などによる)昏(こん)睡[知覚麻痺(まひ),失神,睡眠]状態.


せん妄
(譫妄)

 意識障害の1種で、軽度から中等度の意識混濁と興奮や錯覚、比較的活発な幻覚妄想の出現があり、それによる不安などの情動変化や奇異な言動があり、その期間の記憶はないか不完全


幻覚

 実際にないものが、あるかのように知覚されること。

錯乱

 意識障害に伴って、思考障害があり、特に思考過程の統一および関連が失われること。

 患者は、精神的に統一を欠き、思考がまとまらない。注意集中が困難で見当識(時間、地理的空間、周囲の状況などの把握)が障害され、困惑を示し、話の筋や行動などもまとまらないなどの状態


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副作用としてのせん妄


2010年11月15日号 No.533

 せん妄は意識障害の一種で、意識の量的変化である意識混濁に加えて、意識の質的変化である意識変容(不安、興奮、錯覚、幻覚など)が出現する状態です。

 急激に発症し(通常、数時間から数日)、症状は1日のうちで変動する傾向があります。せん妄は薬剤の副作用としてだけでなく、中枢神経疾患や代謝性疾患などの身体疾患、アルコールなどによっても引き起こされます。

{参考文献}日薬医薬品情報 Vol.13 No.7(2010.7)

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 一般にせん妄自体は可逆的、機能的なもので原因が取り除かれれば後遺症なしに消失しますが、適切な処置が行われない場合は遷延化して非可逆的な経過をとり、認知症に移行したり、全身状態の悪化につながったりすることがあります。

 せん妄の主な症状は、注意集中困難、不穏、記銘力障害、時間や場所の見当識の障害、錯覚、幻視を中心とした幻覚、妄想などで、幻覚や妄想に支配された行動をすることもあります。

 症状は特に夜間や周囲からの刺激や環境の手がかりが欠如した状況下で出現することが数多く見受けられます。せん妄は程度が軽い場合でも、その期間の記憶は無いか不完全なものです。

 せん妄の診断では、特に高齢者で認知症の鑑別が重要です。せん妄はしばしば認知症と重なって起こることもあります。

 また、せん妄は睡眠覚醒周期の障害と関連し日中の眠気または夜間の興奮、入眠困難などが現れることがあるため、このような場合には不眠症との鑑別が必要になります。

 さらにせん妄は、精神運動活動性が増加し興奮や過活動を示す一方、精神運動活動性が低下し不活発で傾眠的な状態を示すこともあり、このような活動性の低い状態は見落とされることがあるため、注意が必要です。

* ジェニナック錠(メシル酸ガレノキサシン水和物)によるせん妄

 ジェニナック錠はキノロン系経口抗菌薬で、呼吸器感染症や耳鼻咽喉科領域感染症の治療に広く用いられています。

 キノロン系抗菌薬は頻度や程度に差はあるものの、頭痛、めまい、痙攣、幻覚等の精神症状といった中枢神経系副作用があることが報告されています。

 本剤による幻覚、せん妄等の精神症状の発症機序は不明とされていますが、高齢者が多く、痙攣の発症機序と同様に腎機能の低下や過剰投与などを背景とした血中濃度や中枢内濃度の異常な上昇による急性中毒である可能性が考えられています。

 本剤の使用する際は、年齢、体重、腎機能などに応じて用量を調節する必要があります。

 特に高齢者、精神障害の既往や腎機能障害のある患者などは細心の注意が必要です。

 服用後の観察により、精神症状を見落とさないことが大切です。そのためには発症や経過について患者の家族や介護者からの情報が有用です。

 せん妄の回復は、ゆっくりとしており、服用を中止して数日で回復することもありますが、数週間から数ヶ月かかることもあり、高齢になるほど遅くなる傾向があります。

<せん妄と認知症の主な特徴>

       |  せん妄                       |    認知症                          
発症   |急激に発症                     | 緩徐に発症                             
経過   |症状は1日のうちで変動する             | 症状は比較的安定している                
可逆性   |可逆的な可能性がある            |  ほとんど非可逆的                      
意識障害  |あり(注意力が高度に侵される)      | なし                                    
記憶障害 |あり                   | あり(記憶力が高度に侵される)            
見当識障害|あり                   |   あり                                    
代表的な |注意集中困難、不穏、記銘力障害            | 記銘力障害、追想障害、時間・場所・
 症状  |時間・場所の見当識障害、錯覚           | 人物の見当識障害、妄想(特に物を盗まれ  
     |幻覚(特に幻視)、妄想、           | たなどの被害的なテーマを含む)など  
     |幻覚や妄想に支配された行動など            |                                              
原因   |脳血管障害、腎・肝疾患、                  |
      |電解質異常、薬剤、アルコールなど     | アルツハイマー病、脳血管障害など                                                                                                         
対応   |直ちに医学的評価と治療を要する。     | 医学的評価と治療を要するが緊急ではない        


遅発性パラフレニー

 遅発性パラフレニーは妄想を主徴とし、初老期、老年期に見られ、女性単身者に多い。
妄想の中心は被害関係妄想で、妄想対象は家族や近隣住民などに限定され、妄想内容も盗害、侵入、騒音など具体的で世俗的です。
基本的に認知機能障害はなく、人格も保たれています。抗精神病薬による治療が有効です。


         |遅発性パラフレニー    | 認知症                                     
発症年齢  |60歳以降          | 老年期
初発状態  | 妄想                   | 記銘力障害                               
幻覚の内容 | 幻聴を伴うことがある   | 幻視が多い                                
妄想の内容 | 被害関係妄想が中心     | 物盗られ妄想が中心
         | 対象・内容は限定的かつ | 記銘力障害、見当識障害に起因することが多い
       | 具体的であることが多い |                                             
認知機能障害| ないかあっても軽度     | あり(進行性)                               
人格水準  | 保たれる               | 低下
治療    | 抗精神病薬             | 幻覚、妄想が強固である場合は少量の抗精神病薬、
          |                        | 副作用が出現しやすい                            

             出典:薬局 2010.12


振戦
tremor

 身体のある部分(手、足、腕、脚、頭など)が、平衡の取れた位置を中心として、不随意、律動的に動揺すること。最も典型定期な例は、パーキンソン症候群でみられる手の振戦で、手は手首で律動的に屈伸します。

 

 

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