![]() | ![]() 朝日新聞 2004/12/14 記事 緑黄色野菜や果物は、がんや循環器病の予防によいと分かっています。では、その中のどんな成分がいいのでしょうか。最近、みかんや柿に大量に含まれる色素成分・カロテノイドの一つ、βクリプトキンサンチンが注目されています。どこまで分かっているか調べてみました。(内山 幸男) みかんを調べてみました。 がん防げるか 黄色の素 ミカン好きは血中のβクリプトキンサンチン濃度が高いという。 私は静岡生まれで、大のミカン好き、まずは11月中旬、京都府立医大の西野輔翼教授を訪ね、ミカン好き度をチェックしてもらった。 結果は血液1ml中0.68mg。ミカンシーズン前としては「かなり好き」の部類という。よしよし。 そもそもβクリプトキンサンチンとは何か。「ミカン(柿)が黄色くなると医者が青くなる、などと昔から言うが、あの黄色の成分です」と、果樹研究所カンキツ部(静岡市)の矢野昌充上席研究員が教えてくれた。 βクリプトキンサンチンはカロチノイドという色素成分の一つ。ニンジンに多いβカロテン。トマトに多いリコペン、ほうれん草に多いルテインなどと同じ仲間だ。 他のカロテノイドよりはるかに長く体内に存在するのが特徴。「普通はせいぜい1日なのに、2ヶ月以上も影響が続く」と、同柑橘部の杉浦実主任研究官はいう。 日本人の血液や母乳中のβクリプトキンサンチンの量は外国人の数倍〜10倍も多い。特にミカン産地ではカロテノイドの中でβクリプトキンサンチンが一番多い。「これが体にいいならば、日本人には極めて有利」。矢野さんならずとも研究に力が入る。 肝心の健康効果では、京都府立医大の西野さんは大腸がん予防に期待を寄せる。 @遺伝子実験ではがんを抑制する遺伝子の発現を促す効果。Aネズミを使った実験では大腸がんの発ガンを抑制する効果、を認めたという。 西野さんは、大腸ポリープが見つかった人達に、3ミリグラムのβクリプトキンサンチンを含んだミカンジュース(普通のミカン2,3個分)を毎日飲んでもらい、発がんが減るかどうかを調べる臨床試験を来年から始める。 静岡県立大の山口正義教授は骨粗鬆症予防をねらう。 「骨の組織培養系を使って食品中の骨形成を促すものを探してきた。これまではビタミンK2が最も作用が強かったが、βクリプトキンサンチンははるかに強力だった」。βカロチン、ルテイン、リコペンに作用はなかった。 ネズミの実験では骨量が増えた。人では、骨形成に必要なタンパク質の増加が確認できた。山口さんは、骨粗鬆症予防効果のある機能物質として、米国、カナダなどに特許を出願したという。 杉浦さんによると、今年始め、生活習慣によってかかる糖尿病を予防する効果があるという論文を、フィンランドの疫学研究チームが発表しているし、米国からはリウマチの予防効果がありそうだという研究も出ている。 しかし、私たちにはβカロテンの苦い経験がある。 野菜や果物をきちんと食べると、循環器病になる危険性が減り、おそらくがんにかかる危険性も下がる−専門家達は、こうした効果の主役となっている成分はβカロテンだと考えた。 そこで、フィンランドで、βカロテンを余分に与える大規模な臨床試験をしたところ、期待に反し、喫煙者のがんが増えてしまった。米国の試験でも確認され、試験は中止に追い込まれた。 「喫煙者がサプリメント(栄養補助食品)で大量摂取することは、勧めません」と国立ガンセンターの津金昌一郎予防研究部長はいう。 βクリプトキンサンチンへの期待は膨らむ。だが、大量に取りさえすれば、副作用もなくあれもこれも予防できると考えるのは虫がよすぎる。 「幸い、食べ物から取る分には決して過剰にならない」と杉浦さん。「健康にいいぞ」と思って、おいしく食べるのが一番いいようだ。 ******************* 色素成分の正体は・・・ βクリプトキンサンチンは、純度の高い研究用なら1ミリグラム約1万円、金の数千倍もする。「それが研究が遅れた一因」と山口・静岡県立大教授はいう。一方、ミカン100グラム当たり1〜2.9ミリグラム含まれている。にわかにお得な感じがしませんか。 ミカン以外に多く含む食べ物は、パパイア(0.7〜3)、柿(0.5〜1.2)、ビワ(0.3〜1.2)、赤ピーマン(0.2〜1.2)など、不思議なことに、オレンジ、グレープフルーツ、夏みかんには全く含まれていない。 消費減ってもトップ維持 76年に350万トンを越えていたミカン生産量は、02年には113万トンにまで減った。それでも、1人あたりの購入量は6.3キログラムで、果物の中で1位を保っている。ちなみに2位はバナナで5.2キロ。 |