Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第513夜

HOT MENU



 2002 年の“Style”から続いている、STARDUST☆REVUEのコンサートにかこつけた文章。例によってネタばらしもありうるので、これからこの“HOT MENU”ツアーに参加する方はご注意いただきたい。

 と言っても、今回もローカルネタはあんまりない。
 と言うのも、このツアー、てんこもりだからである。
 デビュー 25 周年記念のベストアルバム“HOT MENU”は 2 枚組 25 曲。黙って CD をかけても 2 時間強あるんだが、それをそのままやってしまおう、というのがこのツアーの企画。MC はあるしライブ特有のノリ、長めのリフレインなどもあったりするわけで、さすがの根本要も MC を抑えざるを得なかったようである。それでも 3 時間半あったが。
 方言ネタは一つだけあった。
 今回の企画では、アンケート用紙の下の方に、リクエスト欄がある。これは、“HOT MENU”ツアーの次のステージでやってほしい曲、つまり、次の場所の観客にプレゼントしたい曲をリクエストするものなのだが、山形でのアンケート結果を発表した後、根本要が「これを聞いて長まってください」と言った (と思う)。
 多分、「リラックスしてください」というようなつもりだったんだろう。
「使い方、間違ってませんか」と言って笑いを取っていたが、残念ながら、間違っている。
長まる」は確かに、休息をとる、というような意味もあるが、やはり体勢の含みが強い。寝るとか、立ってた人が座るとか、そういうことがないと使いにくい。たとえば、試験直前などで緊張している人に「長まれ」は言えない。

長まってください」じゃなかったらどうしよう…。

 山陰には「たばこする」という表現がある。これは「休憩する」という意味。別に、休憩だからって喫煙しなければならない、ということはない。標準語にだって「一服する」がある。実は秋田でも言う。
「安心する」で調べると「ほっこり」が山ほど出てくるが、これは本来「疲れた」という意味である、というのはにも取り上げた。「温泉宿でほっこりする」は、聞く人によっては奇妙な表現ということになる。
 そもそも、方言を耳にすると安心する、とかそんなページばっかりが引っかかって困る。「リラックス」も同様。

 徳島では「くつろぐ」が「ほっとする」。心配事が解消したときなどに言う。

『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』によれば「だっくりする」という表現がある由。安心してリラックスした状態を言うらしい。これが一部では「がっくりする」という形になるそうな。外の人が聞いたら誤解するだろうな。
やめほろう」は面白い。「病払う」で、病気から立ち直って元気になる、心配事がなくなる、というようなことらしい。
 どちらも耳にしたことはないが。

 年をとると外聞を気にしなくなる、ということかもしれないが、最近は曲にあわせてのアクションをとることがある。ジャンプまでする。
 両手を左右に振り続ける、という振りがあるのだが、それをやってて、肩がつらいなぁ、と思った。逆にこれを毎日やったら肩こりの解消になるのかもしれない。
「肩が張る」を「へぎはる」という地域があるのだが、これを『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』で調べてびっくり。「けんびき」だった。秋田にまで浸透していたのかぁ。というか、全国で使われる言葉だ。歌舞伎にも出てくるし、辞書にも載ってるらしいし。

 なお、辞書というのは、『日葡辞書』という、1600 年頃にポルトガル人宣教師が作成した辞書である。
 方言や、昔の日本語について調べていくと、外国人が作った辞書が参考になることが多い。
 音韻の点では、たとえば現在の我々は、ハ行はハヒフヘホであるという認識で、古典を開いてもハヒフヘホで書いてあるし、そのつもりで読んでいるが、ヨーロッパの人はそれを耳で聞いたとおりにアルファベットで記述するので、それが実は「ハ行」ではなく「ファ行」だった、ということがわかるわけである。
 実用性が主体なので、京都と関東では言葉が違う、というようなことも書かれている。

 コンサートと言うのは、必ずしもファンばかりではない、ということも実感した。
 俺の後ろに並んでいた人たちは、スタレビのことなど全く知らないらしい。ずっと昨日のテレビの話ばかりしていた*1。チケットをもらったとか押し付けられたとかいうことなのかもしれない。尤も、ファンと言うのはそういうことをきっかけにして生まれるものなので、とやかく言うつもりはない。
 で、どうやら俺よりも年長だったらしいのだが、やはり自然な秋田弁で話をしていた。まぁ、スタレビのファンのボリューム ゾーンは 30〜40 代だろうし、そうなるのも当然だろう。
 それは前から思っていることなのだが、今回は座席についてからも前後左右 (端の席だから右は通路だったが) がそういう言葉遣いだったのでちょっと目立った。

 根本要曰く、スタレビに出会うというのは、プールに落としたコンタクトを拾うようなものだ。
 今回のツアー、守備よくコンタクトを見つけることができた人、どれくらいいたのだろう。





*1
 一人が、「結婚しない男」の最終回の話をしたら、もう一方が「その時間、何見てたっけな。あぁ、普通の、ニュース見てた」と答えた。
 この「普通」はなかなか興味深い。(
)





2002 “Style”についてはこちら
2003 “Heaven”についてはこちら
2005 “AQUA”についてはこちら
2008 “31”についてはこちら
2009 “ALWAYS”についてはこちら




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