Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第207夜

ふるさと日本のことば (9) −神奈川、秋田(補)、三重−



神奈川県−見てけーろ (10/22)−

 冒頭からぶちかましてくれる。
だべ」を使って怒られた子供がいる!
 なぜいかんのか説明してくれ、親御さんよ。
 千年の昔から、「べぇべぇ」言葉は由緒正しい坂東の言葉なのに。
 国井氏も、阿木氏には「だんべ」は似合わない、などと余計なことを言う。本人が、よく使っていた、と言っているにもかかわらず。

 本牧の漁師さん。
だんべ」「ひゃっけー」には驚かないが、「いぬい」には驚いた。これは「北西」のこと。「乾」「戌亥」である。

 逆さ言葉も凄いと思うが。
 「ちっちゃかー」というのは「大きい」という意味である、とのこと。
 「大きい」は「小さくない」と言うことができる。これはこのあたりでは「ちっちゃくはねー」である。これが「ちっちゃかねー」になるのはいいとして、こともあろうに語末の「ねー」が脱落するのである。これはニュアンスどころではなく、きっちり否定の意味を担っている。それが落ちるのだから、混乱が生じるのは当たり前。
 ということを言いたいらしいのだが、素材が悪く、段取りもなってないので、しばらくの間、何を言いたいのかわからなかった。
 ところで、本牧って「埠頭」という単語しか浮かんでこないのだが、正しくはどのあたりを言うのだろう。広いの?

 次に、外国語から入ってきた単語、というのが出てくる。ここのところ多い。港町だから海外との交流が盛んだったんですねぇ、と説明してくれる。
 が、これは地域方言だろうか。港で働く人だけの言葉ではないのか。この番組でも、既に岩手熊本の回に紹介されている。
 Internet のサーチエンジンで「ごすたん(後進:“go astern”)」を調べてみた。
 港がある場所に点在している。どちらかと言えば、専門用語であろう。

 「せーう」という単語が紹介されている。「言う」という意味。秋田では「へる」と言う。「へ」と「せ」が近い関係にあることはに述べた。
 最後に「おやげねぇ (かわいそう)」が紹介されているが、これは宮城の回に出てきたな。
 坂東から陸奥が近いことがわかる。

 鎌倉ではかつて、この土地に特有の語尾である「ね・さ・よ」を追放しようという運動が展開されたんだそうである。これを言ってしまったら「ネサヨ人形」というのを作り、たまると焼いたらしい (がよくわからんな、どういうことなんだか)。ずばり「ネサヨ人形」という教育映画が作られた、というから恐れ入る。
 東北や沖縄の「方言札」ほど陰湿ではないが、方言を使ったら罰を与える、というやり口は一緒。
 特筆するべきは、この運動が展開されたのが昭和 30 年代だ、ということである。東北の方言札は、戦前から昭和 20 年代がピークで、そのころには既に下火なのだ。遅れてるなぁ、鎌倉。

作詞家 阿木 耀子
静岡大学 日野 資純
横浜放送局 星野 雅江


秋田県 (追加)

 さる人から、「ふるさと秋田のことば」の文章は、他のに比べて甘いのじゃないか、という指摘があった。地元だからどうこう、というつもりはないので、弁解しておく。

 まず、秋田の回の感想は、他県のように 3 回分をまとめるのではなく、独立させようと前から思っていた。感想だけでは足りないので、補足の分がそれなりの量になる。それで分散したということは言えないか。

 話は変わるが「批判」ということばの意味がわかってない人が多い。言葉で飯を食ってる人の中にも「非難」と混同している人が少なくない。
 詳しくは辞書を引いて欲しい。「批判的精神」というのが単なる揚げ足取りではないことがわかる。
 が、わかってない人の方が多いから、無用の反論を避けるため、上の文章なんて「感想」とか書いてあるわけである。

 話を戻す。
 この番組も 30 回を越えたところだが、傾向がわかったのである。ぶっちゃけた話、学術的に切り込んじゃいかんのだ、ということだ。
 別の回の感想について貰ったメールでわかったのだが、俺が面白いと思って取り上げた現象の中に「あれはゲスト個人の癖で、広く使われているわけではない」というのがあるらしい。
 学者はそんなことはするまいが、ゲストによっては、サービス過剰ということもあるわけだ。本人も嘘つこうと思って言っているわけではないのだろうが。
 時間に制約があるからかもしれないが、説明が不完全だったり、前後が切られてたりして、結果的に嘘になってしまっていることもあるようだ。
 そんなわけで、必ずしも正確な方言像を伝えていない。秋田の回に限ったことでもないが、一々取り上げていると小言爺ぃのようになってしまう。
 ということで、最近は抑え気味である。
 よく読めば、結構なこと書いてると思うんだけどねぇ。

 にも書いたが、ホームページにある文字化データはかなりマズいと思う。これは強調しておこう。
 字幕の間違いが多いのもマズい。特に、濁点を落とす傾向がある。これはなぜだろうな。


三重県−見てなー (11/5)−

 聞くところによると、三重は東海なのか近畿なのか難しいところなのだそうだ。
 小学校では近畿と習ったような気がするが、テレビなんかは名古屋圏らしい。全国規模の企業なんかだと、名古屋支店が管轄してたりすることもあるのだそうだ。
 ところが、言葉の上では名古屋圏とは言いにくいらしい。「木曾三川」という言葉は初めて聞いたが、揖斐川・長良川・木曾川に遮られて、昔は交通が盛んではなかったとのこと。

 さて、「おーとっちょ」という表現が紹介される。「驚いた」ということらしいのだが、ゲストの鳥羽一郎氏は「おとっちょー」である、と言う。
 上にも書いたが文字化のミスじゃないんだろうか。
 勿論、鳥羽氏が間違っている可能性もあるし、実は「おーとっちょー」が正しく、その時々、あるいは地域によって微妙に異なる、ということだったりするのかもしれないのだが。

 「へーはち」がゴキブリのことである、というのはおとっちょー。忌み言葉だったりするのだろうか。

 「伊勢の『な』言葉」ということで、語尾にやたらと「」がつく、ということが紹介される。2.5 秒に 1 回とかいう数字も出てくる。
 それはそれとして、「終戦後やってっさー」「言うたんさ」と、「」も頻繁に出てきていたような気がするのだが。これは関係ない? とりたてて特徴だ、というほどのことでもないのだろうか。

 「あま」という単語は枕草子にも出てくるのだが、番組中のフリップで「白水郎」と書いてあるのが目に留まった。確かに、海女は白い服を着ていることが多い。でも、「郎」って男のことだよな。
『角川新版古語辞典 (1989)』を引くと「海人」「海士」「蜑」と書くことがわかる。そういえば、秋田の西目町には「海士剥」と書いて「あまはぎ」と読ませる場所がある。辞典には「和名」「阿万」「泉郎」という表記があることも書いてある。
 漁師のことを指すこともあるようだが、潜るのはあくまでも女性らしいから、この辺で混乱が生じているのかもしれない。
 で、驚いたのは、海女さんは畑仕事もする、ということである。半農半漁の町とは言え、そのパワーには敬服する。これで鉄砲をマスターすれば陸海空制覇である。
 だもんだから女性は大変なんだが、年に三回だけ、漁をしなくていい日があるのだそうな。それが「日待 (ひまち)」。
 今日はエラく番組の段取りが悪い。説明がズタズタになっている。
 なぜ、漁を休むのが「日待」という名前なんだ?
 先の古語辞典によれば、前の晩から集まって日の出を待つ祭りがあり、それが「日待」なんだそうだが。

「上地」「北寺」「白峰」と珍しい名字が続いたのも印象にある。

 最後、「あばばい」が登場する。
 鳥羽氏が東京でうっかり使ってしまい、回りに「フランス語ですか?」とか言われて恥をかいた、とかいう話なんだが、そりゃ「フランス語ですか?」と言った方の人格を疑うべきであって、なんら恥ずかしいことではないと思うのだけどねぇ。
 チャラチャラのアイドルならともかく、海洋演歌 (何それ) の鳥羽氏だからこそ、俺の故郷ではこういうんだ、と胸を張って欲しかった。

歌手 鳥羽 一郎
方言収集家 江畑 哲夫
津放送局 杉澤 僚





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