Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第18夜

へーへー



 かれこれ 20 年ほどにもなると思うけれども、NHK の朝のテレビ小説で「雲のじゅうたん」というのがあった。これは、日本発の女性飛行士であった方の生涯を描いたものである。実際には秋田出身ではないらしい。
 結構な人気番組で、後で、民放で再放送されていたような記憶がある。NHK の作品を民放で放送するのは初めてだか、かなり珍しいケースだという話があったと思う。もっと最近になると、「未来少年コナン」とかのアニメの例があるが、ひょっとしたら「雲のじゅうたん」が最初だったのかもしれない。
 浅茅陽子扮する主人公が東京に出たおり、秋田弁で「へば」を連発するので、「へばちゃん」というニックネームがつけられる、というエピソードがある。

へば」は、「じゃぁ」とか「それでは」という意味である。この辺の単語とほとんど等価で、単純に置き換え可能だ。話の途中でも使うし、友達と別れるときに「へばね」「へばな」という風にも使う。
せば」とも言う。
 ここでふと疑問に思うのが、「へば」と「せば」、どっちが正しいのか、ということである。
「正しい」には何となく権威主義的な匂いがするので、「どっちが先なのか」と言い換えようか。
 秋田衆であれば、
かへるかせる(食べさせる)
へながせなが(背中)
へづねせづね(せつない、辛い)
へんへせんせ(先生)
 という例が即座に浮かぶであろう。
 既にこれだけで答えは出ている。
 明らかに「せ」が先だ。

へばせば」についてはどうか。
 これもゆっくり考えれば分かる。
そうせば」という言い方をする事もある。これは「そうすれば」が変化したものであろう。と、考えれば「せば」が先で、後に「へば」になったのだ、と考えても問題はない。

 つまり、秋田弁においては、」が「」に変化する事がある、ということである。研究してる人はともかく、この事に気づいている人はそんなに多くあるまい。
 だからって「平成」を「へいへい」とは言わない。訛るには、時代が新しすぎるのである。
 この辺は、東京弁で「ひたす」を「したす」と言ったりするのとは事情が違う。この場合、日本人には英語の R の発音が難しいように、「ひ」の音がそもそもないのだと考えた方がいい。秋田弁には「」も「」もある。
 また、」の音が「」になることはない

 同様の現象が大阪弁・京都弁でも見られる。「あきまへん」と「あきません」等がそうだ。
 ネイティブではないので、詳しい事は分からないが、ひょっとしたら「へ」と「せ」、あるいはサ行とハ行には、何らかの共通点があるのかもしれない

 で、どちらが「正しい」感じがするかというと、「」の方が「正しい」感じがする。これは、標準語に近い方が「正し」く感じられるからではないか。
 多分、正調秋田弁と言ったら「」の方であろうが。



音声サンプル(.WAV)

へば(9KB)
かへる(11KB)
へなが(9KB)
へづね(17KB)
へんへ(13KB)


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