かれこれ 20 年ほどにもなると思うけれども、NHK の朝のテレビ小説で「雲のじゅうたん」というのがあった。これは、日本発の女性飛行士であった方の生涯を描いたものである。実際には秋田出身ではないらしい。
結構な人気番組で、後で、
民放で再放送されていたような記憶がある。NHK の作品を民放で放送するのは初めてだか、かなり珍しいケースだという話があったと思う。もっと最近になると、「未来少年コナン」とかのアニメの例があるが、ひょっとしたら「雲のじゅうたん」が最初だったのかもしれない。
浅茅陽子扮する主人公が東京に出たおり、秋田弁で「
へば」を連発するので、「
へばちゃん」というニックネームがつけられる、というエピソードがある。
「
へば」は、「じゃぁ」とか「それでは」という意味である。この辺の単語とほとんど等価で、単純に置き換え可能だ。話の途中でも使うし、友達と別れるときに「
へばね」「
へばな」という風にも使う。
「
せば」とも言う。
ここでふと疑問に思うのが、「
へば」と「
せば」、どっちが正しいのか、ということである。
「正しい」には何となく権威主義的な匂いがするので、「どっちが先なのか」と言い換えようか。
秋田衆であれば、
かへる−かせる(食べさせる)
へなが−せなが(背中)
へづね−せづね(せつない、辛い)
へんへ−せんせ(先生)
という例が即座に浮かぶであろう。
既にこれだけで答えは出ている。
明らかに
「せ」が先だ。
「
へば−
せば」についてはどうか。
これもゆっくり考えれば分かる。
「
そうせば」という言い方をする事もある。これは「そうすれば」が変化したものであろう。と、考えれば「せば」が先で、後に「
へば」になったのだ、と考えても問題はない。
つまり、秋田弁においては、
「せ」が「へ」に変化する事がある、ということである。研究してる人はともかく、この事に気づいている人はそんなに多くあるまい。
だからって
「平成」を「へいへい」とは言わない。訛るには、時代が新しすぎるのである。
この辺は、東京弁で「ひたす」を「
したす」と言ったりするのとは事情が違う。この場合、日本人には英語の R の発音が難しいように、「ひ」の音がそもそもないのだと考えた方がいい。秋田弁には「
へ」も「
せ」もある。
また、
「へ」の音が「せ」になることはない。
同様の現象が
大阪弁・京都弁でも見られる。「
あきまへん」と「
あきません」等がそうだ。
ネイティブではないので、詳しい事は分からないが、ひょっとしたら
「へ」と「せ」、あるいはサ行とハ行には、何らかの共通点があるのかもしれない。
で、どちらが「正しい」感じがするかというと、「
せ」の方が「正しい」感じがする。これは、
標準語に近い方が「正し」く感じられるからではないか。
多分、
正調秋田弁と言ったら「
へ」の方であろうが。