Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第19夜

グッドバイ



秋田弁の挨拶の言葉ってどんなのがあるんですか?」と聞かれる事は多い。
 とっつきやすい話題だからであろう。ま、単なる話のネタでも、方言に関心を持ったふりをしてるだけでもましか、と思って「夜は『おばんです』って言ったりします」なんて答えるわけである。
 で、それを覚えておいて、旅行にきたときにでもちょっとその辺の人に対して使ってみたり、自分の地元で秋田出身の人に言ってみて、「おや?」などと思わせるわけだ。これはこれで、まぁ、いいコミュニケーションと言えるだろう。
 しかし、得意になって使っていると妙な事になる。
 例えば、あなたの彼女が秋田美人であったとしよう。別の秋田出身の人に「おばんです」という表現を教えてもらったので、使ってみた。
 最初は「あらぁ、どこで覚えたの?」ということでデートを盛り上げる話題になるであろうが、得意になって日常的に使っていると、そのうちに彼女は不機嫌になる。多分。
 なぜかというと、「おばんです」は「こんばんは」に相当する表現だからだ。いつもいつも「こんばんわ」と言いあう恋人同士もあるまい。「いつまでも他人行儀な奴」と思われても文句は言えない。
 そもそも挨拶というのは、あまり親しくないもの同士がやるもの、という側面があることに留意して欲しい。

 方言から離れるが、朝の「おはよう」は特殊である。
 昼の「こんにちは」や夜の「こんばんは」は、一定の距離がある相手にしか使わない。普通は、自分の親兄弟に向かって「こんばんは」などとは言わないだろう。
 それに対して「おはよう」は「〜ございます」をとったりつけたりすれば、ほぼオールマイティに使う事ができる。
 この辺、寝起きは特別なのか、その日に初めて会う時刻が関係するのだろうか、などと考えたりしているのだが。

 面白いのは「さようなら」である。
 親しい間柄では「せば」とか「まず」とか言うことがある。「せば」については以前述べたが、「へば」とも言い、「じゃ」に相当する単語である。東京でも「じゃあね」と言うことがある。
 他には、北海道の「したっけ*1、佐賀〜長崎の「そいぎ」などがある。
さようなら」は「左様なら」である。「そういうことなら」が元の意味だ。
そいぎ」は「その儀」で、これも「そういうこと」。
せば」が「そうすれば」、「したっけ」が「そうしたら」。
そんじゃね」「さらば/されば」等など。
 どうやら日本全国で、別れの言葉として「じゃ、そういうことで」と言っているようだ。
 表現方法こそ各地で違うが、実は同じ事を言っているのである。

 他の言語では、
英語 See you again*2
ドイツ語 Auf wiedersehen
フランス語 Au revoir
中国語 再見
 などがある。この例で見ると「また会いましょう」が多い。
 この辺にも見方の違いが現れていて面白い。
 鹿児島では「またっごあんそ」「またおあげもんそ」と言うらしい。これなどは「また会いましょう」である。


 この辺、深く深く探っていくと国民性とかが分かりそうが気がするのだが、残念ながらこれ以上の材料がない。


注1:
 秋田以外の方言の話は、全て
@nifty の<全国ふるさと交流フォーラム>、「全国云いたい方言集」会議室で得た情報である。()

注2:
"Good-by" は、"God (may) be with you" が元である。(
)



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