Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第20夜

なにがなにしてなんとやら



何彼」と書いて「なにか」と読む。
「何」は「わからないもの」を指す代名詞で、「彼」は漠然とモノを指す代名詞なんだそうだ。
 で、「何彼」は「いろいろの事物・事態をひっくるめて指し示す。あれやこれや。何やかや」ということだ。『大辞林』*に寄れば。
 辞書で調べて初めて知ったのだが、「何かと言えば」というフレーズは、実は「何彼といえば」と書くのが正しいのだった。「何かにつけ」も同様。
「何彼」自体はちょっと難しい単語の部類に入ると思うが、「何やかや」あたりは普通に使われる表現ではないか。「なんかかんか」「なんとかかんとか」「なんだかんだ」まで砕けてくれば知らない人はいないだろう。
 秋田弁では「なんだがかんだが」というのがある。
 では逆に、「なんだがかんだが」に相当する表現はどれだろう。

 用例を考えてみよう。
代りの部品ないかなぁ
うーん、俺の工具箱でも漁れば、なんかかんかあると思うんだけど…
 このケースでは「なんだがかんだが」は使えない。「なんかかんか」ではない。
お疲れ様。今日は荷物が多いから大変だったでしょう
まぁね。暇そうなのがいたから手伝ってもらって、なんとかかんとか終わったよ
 このケースでも「なんだがかんだが」には置き換えられない。しかし、
○○さんから言づてあったんでしょ!?
あぁ? そう言えば、なんとかかんとかっつってたなぁ
ちゃんと聞いといてよね
 ならば、
○○さんがら言づであったんだべ!?
あぁ? そうせば、なんだがかんだがって言ったったなぁ
ちゃんと聞いどいでけねば
 これは OK。置き換え可能だ。
 どうやら、「なんだがかんだが」は人の台詞の代用として機能するようだ。

 では、「なんだかんだ」はどうか。
全くウチのカカァときたら、なんだかんだとうるさくてかなわねぇや
 なぜか江戸弁になってしまったが、ここには「なんだがかんだが」は使えない。

 話を整理しよう。
なんかかんか」は、「モノ」を指す表現である。
なんとかかんとか」は、何かの手段と、人の台詞の代用である。
なんだかんだ」は、人の台詞の代用ではあるが、内容は問わない。「ウチのカカァ…」の例文でも分かるように、焦点になっているのは「何かを言う」という事実であり、「何を言ったか」は重要な問題ではない。「なんとかかんとか」は、忘れてしまっているとはいえ、焦点は言った内容にある。
 別の言い方をすれば、「なんだかんだ」と表現した場合、聞かれない限りその内容を思い出す必要はないが、「なんとかかんとか」の場合は、原則的には内容を思い出すことが要求される。
 一方、「なんだがかんだが」は、「なんとかかんとか」と似ているが、人の台詞の代用としてしか機能しない。

 ちょっと回り道をしたが、「なんだがかんだが」と同じ働きを持つ表現は存在しないことが分かった。 「なんだがかんだが」の代りに「なんとかかんとか」を使うことはできるが、「なんとかかんとか」を無条件に「なんだがかんだが」に置き換えることはできない。
 また、「な―か―」の形で、「なんかかんか」「なんだかんだ」に相当する表現は秋田弁には無い。

 そっくりだけど違う、という話は「丸い卵も切りよで四角」「似て否なるもの」でも取り上げた。「『ふきのとう』のことを『バッケ』と言います」いうような明らかな違いよりも、こっちの方が面白いと思う。



注:『大辞林』初版(三省堂、1988 年)()


音声サンプル(.WAV)

言づであったんだべ!?(25KB)
そうせば、なんだがかんだがって言ったったなぁ(31KB)
ちゃんと聞いどいでけねば(45KB)



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第21夜「風邪は百病の長」へ

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