Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第21夜

風邪は百病の長



 久しぶりに寝込んでしまいたくなるような風邪を引いた。ここしばらく、春先にダウンする、ということが続いていたのだが、一昨年・去年と平気だったのでそのリズムから脱却できたのかと思っていたのに。尤も、この 2 年間というもの、春先は忙しくて休んでいられる状態じゃなかった、という事情もある。気の張り方で違うものなのかもしれない。
 有給休暇が残り少ないので休まないでやりすごしたけれども、こういう方法を取ると完治するのが遅い。

 体温計がいかれているので計ってないけれども、どうやらもあったようだ。寒気がしたし、だるくて動作の一つ一つが緩慢である。
 こういう状態を「へづね」と言う。「切ない」に相当する。「へ」と「せ」が交換可能な場合がある、という話は以前にもした。
 標準語で「切ない」というと、精神的な意味の方に重きがかかっているようだが、「へづね」はどちらかと言えば肉体的に辛い、という意味の方が強い。勿論、失恋したときにも使えるのだが。

 もっと症状が悪化すると関節とか筋肉とかが痛み始め、緩慢どころか動くのが大変、という状態になる。
 これが「よいでね」と呼ばれる状態である。「容易でない」の訛りであろう。
 ただ、実態としては「容易でない」なんてものではなく、かなりキツい状態を指す。
よいでね」を強調すると「よいんでね」となる。
 この症状は、体力に余裕があれば、葛根湯でも飲んで寝てしまえばなんとかなる。今回もそれで乗り切った。

 同じように「大変」を指すことばとして「ただでね」がある。文字どおり「只でない」のだ。「通常の話でない、単純でない」という感じだろうか。
よいでね」との違いは…難しい
 敢えて言えば、「容易でない」と「大変だ」の違いだろうか。それじゃあんまりだ、という気もしないことはないが。
 前述のように「体調が悪い」という場合は「ただでね」は使いにくい。
 ある大きなプロジェクトがあって、実現のために解決しなければならない問題が山ほどある場合、「よいでね」よりは「ただでね」の方がしっくり来る。
ただでね」の方が、ややアクティブな側面を持つ、とでも言おうか。「よいでね」は、「容易でないので、それは出来ればしたくない。避けて通りたい」というような含みがあるように思う。
 また、「よいでね」には「頼りない」というニュアンスもある。子供の食事風景を見て、「箸もづなもよいでねいんた(箸を持つのがやっとで危なっかしい)」と形容したりする。*

 鼻風邪くらいなら持病と言ってもいいくらいしょっちゅうだが、「休もうかな」と思うような病気はあまりしない方だ。しかし、なったらなったで、治癒に時間がかかるのが一人もんの辛いところ。普段の栄養状態がなってないから、ぶっ倒れてから栄養ドリンクなどを飲んでも焼け石に水なのである。
 情けないったらありゃしない。



注:「よいでね」と「ただでね」の違いについては、稿を改める予定。()


音声サンプル(.WAV)

へづね(14KB)
よいでね(12KB)
よいんでね(17KB)
ただでね(17KB)
箸もづなもよいでねいんた(26KB)



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shuno@sam.hi-ho.ne.jp