Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第200夜

ふるさと秋田のことば



 アパート住まいである。テレビのアンテナは共同だ。
 それが、9 月頭の台風くずれのおかげでおかしくなったらしく、NHK 教育がほとんど映らなくなった。実家に代わりの録画を頼んだのだが、また見られないでいる。この間、香川と熊本の分があるのだが、それは後ほど。
 今日は秋田だし、是非、と思っていたが、なんとか映ったので目を凝らしながら見た。
 この際、CATV に加入しようか、などと思ったりもする。

 「ふるさと日本のことば」秋田編は、ついに 9/17 放送。
 ゲストに誰が来るのか楽しみにしていたが、確かに浅利氏でベストであろう。まさか明石 康氏ってわけにもいくまい。

 今回の文章は補足に重点を置こう。
 浅利氏の父親は秋田市の「内町」出身だそうである。この「うちまち」というのは、秋田市中心部、久保田城 (現在の千秋公園) の周囲の町で、今は中通とか千秋○○町と呼ばれる地域だが、元は武士の居住区。因みに、「外町」は商業地域で、竿灯の中心地。
 母親のほうは刈和野 (かりわの)。これは、秋田市から南西に行った辺り、西仙北町にある。

 五城目町の朝市の風景。
 買い物に連れてこられた子供を指して、「おどなしして」。
 これは「大人しくて」ということなのだが、連用形に連なる「く」が「し」であるのが、秋田弁の特徴。形容詞については取り上げたが。

 秋田弁の特徴 1. 独特の発音
 口の開き方が小さい、四つ仮名を区別しない、撥音・促音・長音が短い。
 まぁ、どれも東北弁全体の特徴と言っていい。
 3 番目は、「シラビーム方言」の特徴である。
 非常に大雑把な言い方になってしまうが、日本語の音の特徴は「ん」「ー」「っ」を一つの独立した音と考えることである。であるから、かのゴダイゴのヒット曲“Monkey Magic”を日本語風に区切って言うと「も・ん・き・い・ま・じ・っ・く」で 8 音節(正しくは「モーラ」という単位)となるが、英語本来の数え方では「モン/キー/マ/ジック」と 4 音節である (メロディも音符 4 つである)。英語では「ん」「ー」「っ」は独立した音ではないのである。
 で、そういう体系をもった方言が日本にもある。それが「シラビーム方言」と呼ばれるもので、東北と九州に見られる。
 例えば「新聞」なんてのは、「し・ん・ぶ・ん」ではなく、「」なのである。
 誰が聞いてもわかる、というほど顕著な現象でもないのだが、注意して聞いていれば、それほど難しくも無い。「新聞とってくれ」が「支部とてけれ」に聞こえることがある。
 そう言えば、に、「佐藤さん」が「佐渡さん」に聞こえる、と書いた。これが一番わかりやすいかもしれない。

 話が方言から離れるが、日本人が作った曲に英語の歌詞がのっていることは多い。が、メロディへの乗せ方で、その人が英語に慣れているかどうかはバレてしまう。
 例えば、「銀河鉄道 999」に“Galaxy Express 999”という言葉を宛てた歌がある。一昨年にアルフィーが発表した方は“Galaxy”を「ギャ・ラ・ク・シー」と4つに割っているが、これは本来「ギャ・ラ・クシー」と 3 音節の語である。
 ゴダイゴ版はきっちり 3 音。
 最近の歌は、サビ全体が英語なのに、音の割り振りが英語の音韻規則を無視している、というのが多い。

 国井アナウンサーが、秋田弁の発音をして「曖昧をはっきり」と表現していたが、これは「グリッドのずれ」を指したものだ。
 秋田弁の「」は比較的わかりやすいが、「」はややウムラウトっぽい傾向がある。つまり、標準的な発音からすると「曖昧」なわけである、
 が、これは、秋田弁では正統の発音。秋田から見れば、標準語の発音のほうが曖昧なのである。
 単に世界を区切るグリッドが違うだけのことだ。

やざね」が「悲しい」、「はまる」が「買う」だとは知らなかった。

 指小辞の「っこ」に関する街頭インタビューで、「最初の頃は『お茶でも飲みましょうか』だが、仲良くなると『お茶っこでも飲むが』になる」と答えた主婦がいた。
 これは、標準語という敬語体系があることを指している。前にも書いたような気がするが、全国的な傾向である。浅利氏が、「標準語を使える若い人だからでしょう。昔は最初っから『お茶っこ』だったよ」と言っていたが、そういうことである。
 なお、このインタビューの中で、若い女性二人が弁当 (コンビニの袋のようだが) を広げているシーンがあるが、これ、秋田駅前である。石の、ベンチなんだかオブジェなんだかわからんものがあるのだが、そこに座っている。
 駅前の、バスやらタクシーやらトラックやらが行き交ってる場所で弁当食うなよな。

 秋田弁の特徴 2. 東北弁のデパート
 東北各地では消滅してしまった色んな現象が秋田には残っている。
 藩の構成から言うと、鹿角市付近は南部藩、岩城町付近は亀田藩、本荘市付近は本荘藩である。現在の秋田県、全てが秋田藩だったわけではない。南西部となると仙台藩との関係も深い。その結果としてのバリエーションであろうと思っていたのだが。
 変化に取り残されている、ってことであれば、あんまり喜んでもいられないような気がする。

 秋田弁の特徴 3. 叱る言葉が多い
 ほんとか?
 言われてみれば少ないとも思わないが、他の地域に比べて有意に多いのか?
 ホームページ解説によれば、誉める言葉が少ない、とのこと。それは確かにそうかもしれん。
 紹介されていたのは大館の人だったが、大館だから、ということはないか。ここは、鉱山の町であり、木材の出荷基地でもあり、言葉が荒っぽい傾向があるといわれている。

くされたまぐら(何にでも首を突っ込むくせに役に立たないヤツ)」が出てきた。浅利氏大喜び。
 俺にも経験があるのだが、こういうケースでつい手を叩いて喜んでしまうのはなぜだろう。特に、忘れかけていたような、今風の言葉で言うなら「レア」な表現が出てきたときなどはそうだ。
 方言オンリーの現象ではなく、単なる与太話でもあることだが、この現象についてはちょっと探ってみたいと思っている。

 さて、総評。
 期待大で見ていたのだが、期待が勝ちすぎたからか、淡々と進んでいったように見えた。なんかポイントが無かった。ほとんどが知ってる現象だったせいだろうか。
 気になったのは、話の内容が年寄りに偏っていたこと。若者の秋田弁がほとんど出てこなかった。まぁ、そういう回は多いのだが。
 浅利氏だが、ちょっとしゃべりすぎ、という気がしないことも無いが、方言の魅力を伝えるという点では、一番いいゲストじゃなかったかと思う。まさに、秋田のかぁさん (この場合、母という意味は無い) という感じであった。

 東北は残すところ、山形と福島のみ。
 次の注目回は、東京だな、やっぱり。
 江戸ことばだけで片付けられたりしてな。
女優 浅利 香津代
秋田大学 佐藤 稔
秋田放送局 阿部 悌




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