Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第4夜

馬糞



 今回は、解説も謎解きもない。疑問の提起だけで終わる。

 馬車が交通の主体だった頃は、どこでも見かけるものの代名詞だったのだ、馬糞は。で、事もあろうに人様の名字にくっつけてしまった人がいる。いわく、「佐藤・高橋、馬の…」いや、やっぱり書けない。

 詳しい背景は専門家に譲るが、確かに、秋田には「佐藤」という人は多い。迂闊に町中で「佐藤さん」とは呼べない。会社に電話を掛けたとき、あるいは受けたとき、相手の名前を「佐藤さん」とだけ覚えていたのでは役にたたないことも多い。
 こういう、仲間の多い名字の人で、自分が呼ばれたときに違和感を感じたことのある人はいないだろうか。「確かに、自分の名字なんだけどなぁ」と。
 それはきっとアクセントだ。

佐藤 とうさん とうさん *1
高橋 はしさん かはしさん 
大中 なかさん おなかさん 東京で知り合った九州の人だったが、俺の名字は前者だ、といい張っていた
生田 くたさん くたさん 確か東京出身だが、親は九州。本人は前者のアクセント
千野 のさん のさん 言語学の千野栄一教授の講義で聞いたことがある
「藤田」あたりもそうだろう。
 そうかと思えば、「佐々木」「斎藤」などのように、恐らく全国で同じアクセントを使うだろうな、という名字も多い。字数の違いでもなさそうだし。

 他に不思議な名字というと、「かわださん」。
 俺が知っている「かわださん」は、「河田」も「川田」も、「わださん」であった。しかし、よく似た形の「山田さん」も「沢田さん」も、「やまださん」「さわださん」さんしか聞いたことがない (「かわださん」はいそうな気がするが)。*4

 人の名前を呼びかけに使うと、自然に上昇口調になってしまうこともあるし、その辺の特殊事情も絡んでくるのかもしれない。
 それにしても、どうして地域差や個人差 *2 が出てくるのか、不思議だと思いませんか? それとも、単に俺の回りでそうだ、っていうだけの現象なんだろうか。*3




注1:
 蛇足だが、秋田弁では、「佐藤さん」を「さとうさん」と呼んだときの発音は「佐渡さん」に近い。(
)

注2:
 若い人に聞くと、例の「上がりっぱなし」アクセントに統一して答えてくれそうである。(
)

注3:
 俺の知っている人の名字を多数挙げたが、思い出しやすかっただけで他意は無い。(
)

注4:
 
@nifty の<全国ふるさと交流フォーラム>で聞いた話だが、鹿児島では、「中嶋」は「ナカシマ」、「山崎」は「ヤマサキ」、「富士山」が「フジザン」だそうな。「山崎」の例は、作者が都城出身の「釣バカ日誌」にも描かれているとか。(970105 加筆)()



音声サンプル(.WAV)

さ↑とうさん(15KB)


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