Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第205夜

ふるさと日本のことば (8) −香川、熊本、栃木−



香川県−見まい (9/3)−

 番組を見ながら語彙をメモしていったのだが、すごい量になった。これは、俺にとって四国が異国であることを意味する。
 くどいようだが、土佐弁はドラマなどでしょっちゅう聞いてきた。香川といわれてもピンとこないのである。

 琴平町での、行商のおばさんを取り上げたシーンで、「つかな」が「くださいな」であるのにはちょっと驚いた。この二語の関わりが全く想像つかなかったからである。
 後のコーナーで「つか」が単独使用されることもあることがわかる。であれば「遣わし賜え」あたりであろう。
 「がいな」が「丈夫、荒っぽい」で、「がいに」が「全く」。ま、なんとなく共通点はあるような気がするが。

 似てるけど違う方言としては「いよいよ」あたりか。どうやら単なる強調で、段階的に盛り上がってくるというニュアンスはない模様である。

 老人の言葉には、異様に丁寧な表現が残っていることがある。
 「おしまいでござんしょ」という、農作業の帰りなどににかける言葉があるらしい。これに対して、「おいこいなさいませ」というのもあるそうだ。こっちは「憩い」だろう。
 近所に人にかける言葉としては丁寧過ぎるのではないか、と敬語体系の貧弱なところで生まれた人間は思ったりする。

 今回は、おそらく制作者側としては軽い問題として流したつもりの話の中に重要なポイントが隠れていた。
 まず、語尾。
 観音寺では、男は「のう」、女は「なぁ」という語尾を使うらしい。だが、敬語になると男でも「なぁ」なのだそうだ。これ、きっと重要な問題だと思うんだけどなぁ。
 つぎは、プロポーズ。
 職業が作家で音楽は天職とわけのわからんことを言っている芦原氏が自作の香川語によるラブソングを披露。
 これを受けて柴田氏が言うには、学生へのアンケートでは、プロポーズは標準語でされたい、という結果が出ているのだそうな。これも重要だろう。

 個人的には、「まんでがん (全部)」の「がん」が、「分」に相当する語である、と言うのに関心を持った。つまり、「百円分の○○」というとき「百円がん」と言うらしい。
 秋田弁の「あで」に相当するようだ。

 『青春デンデケデケデケ』は本も映画も未見だが、香川語満載らしいので、今度探してみよう。そろそろ文庫になっているだろう。
 その前に『恐るべきさぬきうどん』だな。

作家 芦原 すなお
香川大学 柴田 昭二
香川放送局 大山 武人

熊本県−見てはいよ (9/10)−

 ちょっとダイエーの工藤に似てないこともない若い先生、出だしから「男らしい豪快さ、女性らしいしなやかさ」と性差別すれすれの発言。

 「ありがとう」も割とバリエーションの多い語だと思うが、「ちょうじょう」って「重畳」か?

 敬語を頑固に使いつづけているのが特徴なんだそうである。
 誰かが「来た」ことを示すの表現は、相手によってこんな感じに変わるらしい。
敬意 
− おいでなはった
 − おいでたいらっしゃった
 − きてござった (城下町言葉)
 校長 きなさった
 先生 きなはった
 先輩 こらした
 同格 こなった
逢いたくない人 こらいた(男)、こらった
 秋田衆として言わせて貰うなら、よくもまぁ、という感じ。おかしいな、同じ城下町のはずなのに。
 よく言われることだが、城下町には複雑な敬語体系が残っている。
 ところで、ある都道府県の方言を語る場合、精密さが求められなければ、県庁所在地で代表させることが多い。が、県庁所在地が城下町であることもまた多い。となると、「敬語体系が発達している」と言える方言は結構な量になると思われるのだが、どうか。

 天草に、外国語が元になった表現がある。
 操船時の掛け声で、「前進」が「ごーへい」、「後進」が「ごすたーん」。それぞれ、“go ahead”、“go astern”というわけである。岩手にもあった。
 それより、「じゃがいも」の「異人唐芋 (いじんがらいも)」である。どうでも、外国の地名がつくのだなぁ。
 更に、それより。「野菜」のことを「やーしゃ」と発音していた様に思う。誰も触れていないが、俺の聞き違いか?
 歴史を感じさせるのは、子供が転んだときのおまじない (「痛いの痛いの飛んでけー」というあれ) の「あめんです」。「アーメン、ゼウス」であるという。さすが、キリシタンの土地。

 そう言えば、天草湯島の生徒達、元気か?

 老人達の会話が紹介されていた。最近の若者達はスイカに塩をつけないのだそうだが、本当か?

 後半は新方言。新方言とは言いつつ、陣内氏が使っていた、ということだから 20 年くらいは経っているであろう。
 高校生漫才師をレポーター代わりに使っていたが、本当に高校生? 老けてない?
 復活方言というのも面白かった。「武者んよか」というのは「武者」という字でわかる通り、古い言葉である。これを今の若者が「かっこいい」という意味で使っているのだそうだ。
 埼玉の「かったるい」と同じパターンではないかと思うのだが。

 ちょっと頼りなげな先生だったが、最後の「自然に息づくからこそ方言。無理に守ったりするものではない」という言葉に我が意を得たりの思い。
スポーツキャスター 陣内 貴美子
神戸松蔭女子学院大学 村上 敬一
熊本放送局 伊藤 源太

栃木県−見てくんなんしょ (9/24)−

 立松氏の作品は、『遠雷』も含め何作品か読んだ。『光匂い満ちてよ』という作品には学生運動が取り上げられているのだが、そこを読んでいるころは、ちょっと言動が荒かった。そういう点では、割と影響を受けやすい質なのである。

 栃木県は、北西から南東に線を引く形で2つにわかれる。宇都宮市は境界に近いが北部にあたる。
 北側ははっきりと東北方言の地域、南側が北関東方言の地域である。北部は福島県に接しており、無アクセントの地域である。
 それより、森下氏が「けんぽく」と言っていたことに注目したい。秋田以外にも「けんぽく」があったか。

 小山市はカンピョウの産地なんだそうな。子供みたい、と言われることもあるが、俺はカンピョウは好きだ。特にのり巻き。
 で、そこの農家の会話が紹介されていたが、子供が、夏休みはカンピョウ剥きの仕事のためにある、と思っていた、というエピソード。いいねぇ、農村だねぇ。それだけ大忙しだ、ってことなんだろうが。
 カンピョウを剥く作業は、一遍やってみたい。

 南北に線が引ける中、足利だけが別の特徴を持っている。ここは東京式アクセントなのである。
 森下氏によれば、栃木はもともと東京式アクセントの地域であった。そこに、無アクセントが範囲を広げてきて、今は足利に残っているだけになった、ということだ。
 言語は最終的には無アクセントに向かうらしい。やはり、アクセントはあんまり意味弁別に寄与しない、ということである。

 面白い俚言としては「しんなりがんじょう」。「見かけによらず丈夫な人」を指す。そういうお婆さんは多いよな。
「でたらめ」を示すらしい「ごじゃっぺ」だが、熊本の「おてもやん」に出てくる「ぐじゃっぺ」とは別の語か?
ちく」が「嘘」ということらしいが、これは「チクる (告げ口する)」とは無関係か?
あったらもん」が「大事なもの」ということだが、これなんぞは、秋田衆と話をしたら妙なことになるだろうな。これは「あんなもん」であって、軽侮、場合によっては嫌悪のニュアンスがある。
 これは「あたら若い命を」の「あたら」か?

 気づかない方言も取り上げられていた。「こわい」は有名だが、「後ろ」を「うら」、「水につけておく」を「ひやす」などなど。
 修繕することを「はそん」とは恐れ入る。修理のためには、一旦、分解しなくてはならないことが多いからだそうだが。

 ラップに乗せた栃木弁が紹介されていた。
 内容がちょっと笑い話風で、くすぐりとオチが揃っていたからかもしれないが、俺には門付けというか、万歳 (漫才ではなく) に聞こえた。
 やってみたらビートに乗っちゃって、グルービーだった、とか言っていたが、ま、秋田音頭は日本最古のラップだ、という意見もあることだし反論はしない。

作家 立松 和平
作新学院大学 森下 喜一
宇都宮放送局 村上 真吾




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