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サリドマイドが抗癌剤として復活?!

1999年10月15日号 278

 

 米国立癌研究所は、かつて催奇形薬として知られた催眠薬サリドマイドによる新たな 結腸・直腸癌治療の臨床試験を開始すると発表しました。

 かつてのサリドマイド事件での四肢欠損の奇形児の誕生は、恐らくは新生血管の発生をブロックするというこのサリドマイドの薬理作用によるものと考えられていますが、この働きを便益性の方へ逆利用使用と言うものです。

 サリドマイドは、その性格上、1日1回、就寝前に与薬されます。用量は1日当たり100mgから患者が受入可能であれば300mgにまで増量されます。因みにサリドマイドには催奇形以外にも、末梢神経の障害から手足のうずきや痛みをもたらす副作用があります。

 そして臨床試験での催奇形の防止として、患者は男女ともそれぞれ避妊対策が施されることになっています。

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 新しく始まるサリドマイドの臨床試験では、進行性結腸・直腸癌患者の術後再発と予後の調査に加えて、サリドマイドが体内でどのような働きをしているのかということについて、各患者の血中でのVEGF(vascular endothelial growth factor;血管内皮増殖因子やbFGF(basic fibroblast growth factor;塩基性線維芽細胞成長因子)など血管新生促進に関与する蛋白や、腫瘍マーカーであるCEA(carcinoembryonic antigen;癌胎児性抗原)などの状態についても調査されます。

 サリドマイドの奇形性のメカニズムについては胎児の奇形はフリーラジカルが介在する酸化によって生じるDNAの損傷によりもたらされるとの動物実験の結果が報告されています。

 悪魔の正体を突き止めることで、その悪魔性を逆利用するというところにこそ、今回の最大の注目点と評価点があります。

 その他、サリドマイドは難病治療のオーファンドラッグとしても注目されています。

 サリドマイドには、免疫抑制作用が認められ、関節リウマチ、光線性皮膚症、アフタ性潰瘍、ベーチェット症候群、円盤状狼瘡紅斑等の難治性皮膚疾患に対する臨床成績が発表されています。

  また、臓器移植後の主な死亡原因となるGVHDへの応用がなされ、有効であることが報告されています。

<<現在進行中のサリドマイド研究例>>

1)ハンセン病:とくに腫瘍の壊死因子 アルファー(TNF−α)インヒビター が注目されている。

2)結核

3)エイズ患者で、結核を伴う者と伴わない者について、るいそう(wasting)の改善、解熱、夜間の発汗の改善に対する効果が期待されている。

4)アフタ性潰瘍のエイズ患者では、サリドマイドはきわめて効果的に潰瘍を除去。

5)リウマチ様の関節炎:単一クローンの抗体でTNF−αを抑制。

{参考文献}  医薬ジャーナル 1999.9 大阪府薬雑誌 1996、12   

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bFGF

basic fibrolast growth factor
ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子

 bFGFは、1974年ウシ脳下垂体から線維芽細胞の増殖を著しく促進する蛋白質として発見されました。

 bFGFは、線維芽細胞の増殖を促進するだけでなく、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞や上皮細胞など創傷治癒に関わる種々の細胞に対し遊走や増殖を促進することが明らかにされています。


繊維芽細胞
fibrolast

 皮膚の機能を保つ上で最も重要な細胞。
正常組織ではめだった機能を有しませんが、損傷があると損傷部に遊走し、コラーゲンなどの細胞外マトリックスの産生を始める結合組織の固有細胞であり、細胞外マトリックスを更新します。

 細胞と細胞外マトリックスの相互作用、傷の収縮など創傷治癒過程の中で重要な働きを果たしています。

 繊維芽細胞の機能は、他の細胞から放出されるbFGF(上記)などのいくつかの因子によって調節を受けています。


サリドマイド

 サリドマイドは、1960年代初頭、多くの妊産婦が睡眠剤として服用したところ、四肢短縮症という多くの奇形児を出産した薬害事件を引き起こしました。

 当時は、安全性に関する十分な情報が提供されていなかったためですが、今回は、抗癌剤として承認されました。

 日本では、1958年大日本製薬から「イソミン」の商品名で発売され、その後14商品が販売されました。

1959年以降、アザラシ症の報告が急増

1962年に販売中止


2000年追記

 グルタミン酸の誘導体であるサリドマイドは、1957年以降、鎮静剤としてヨーロッパはじめ世界各国で販売されたが、重症のヒト催奇形性と関連があったため4年後に中止されました。しかし、その後本剤は、いくつかの異なる適応症に対して有効性が示されており、1998年6月FDA(アメリカ食品医薬品局)は、ハンセン病治療薬として承認しました。

 ハンセン病は、皮膚や末梢神経を主な病変の場とする慢性の感染症です。感染、発病から病状の進展には、らい菌への個体の免疫応答が深く関わっています。

 慢性の経過中に急激に皮膚や末梢神経、眼などに炎症反応を生じることがあり、「らい反応」と呼ばれる。これには、(1)境界反応(リバーサル反応、I型反応)、(2)らい性結節性紅斑(ENL 、II型反応)の二型がありますが、サリドマイドは(2)に著効を示します。

 ENLは痛みを伴う皮膚小結節、発熱、倦怠感、るいそう、脈管炎、及び末梢神経炎を特徴とする反応性症候群で、らい腫らい患者の10〜50%に発現します。サリドマイドによる治療で、その症候は迅速に軽減します。化学療法剤の優れた効果とサリドマイドは、ハンセン病の治療経過を一変させました。

 後遺症を防ぎつつ比較的短期間に治すことが可能になり、再発も激減し、1970年代にハンセン病は確実に治せる病気となりました。

 ENLの治療に対する推奨量は、100-300mg1日1回投与で、反応が静まれば徐々に減量することができます。

 ENLへの効果からサリドマイドには抗炎症作用があると推測され、作用機序の解明が進められました。主な作用として挙げられているのは、(1)腫瘍壊死因子α(TNF-α)の抑制、(2)抗原刺激へのリンパ球増殖反応の抑制、(3)ヘルパーT細胞分化の調節、(4)移植免疫の拒否反応抑制、(5)血管新生抑制、(6)抗腫瘍薬の作用増強、(7)HIV-1転写の抑制などです。


 さらに研究が進むと、免疫や薬理の新たな可能性が追加されていくと予想されます。ハンセン病以外に使用された疾患は数多くあります。

 アフタ性潰瘍、ベーチェット病、GVHD、エリテマトーデス、壊疽性膿皮症及び他の炎症性皮膚疾患、難治性リウマチ性関節炎、神経膠腫、シェーグレン症候群、炎症性腸疾患などが挙げられ、さらに抗血管新生作用があるので多発性骨髄腫等の各種癌、黄斑変性の治療も考えられています。

 ハンセン病に限るとの条件で承認されたサリドマイドですが、その抗炎症作用に注目が集ったことから、他の難治性疾患に試用されるようになり、効果と末梢神経障害などの副作用が報告され始めました。

 こうした情勢に、それまでWHOや国際らい学会の要請で製造を続けてきた米国製薬会社は供給を停止しました。その後は、ブラジル(Celgene社)で作られたサリドマイドを各国が輸入する形となっている。日本でも厚生省の承認のもとにハンセン病療養所が輸入して、厳しい管理下に使用されてきています。FDAのサリドマイド使用承認に際しては、STEPSと言うプログラムが設けられています。

 使用を希望する医師はこのプログラムに登録し、薬理作用、副作用、過去の被害等について学ばなければなりません。患者への説明と十分な情報提供が義務付けられ、処方後は使用状況の監視を受けます。患者にも妊娠検査の義務付け(治療開始24時間以内に検査を受け、妊娠していないことを文書で証明)や避妊指導(信頼度の高い避妊法を二種類実施しなければならない。)が行われます。この方式は、リスクを伴う薬剤の使用モデルになると注目されています。

〜〜2007年追加記事〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ドラッグ・ラグ

 ドラッグ・ラグとは、世界では標準的に使用されている医薬品が、日本では承認されていない状況のことです。

 日本製薬工業協会医薬産業政策研究所が調査したところ、開発から承認までの期間が米国では500日のところ日本では1400日と3倍近い差が生じていることが分かりました。

 ドラッグ・ラグの問題が浮上したきっかけは、実は「混合診療」問題においてです。国内未承認薬は未保険であるため患者自己負担の大幅アップにつながり、ひいては日本の医療を支えてきた皆保険制度が根本から揺らいでくるという危機感からでした。

 このように開発から承認までのプロセスや承認審査に問題はあることから、厚労省医薬食品局では、'05年1月に「未承認使用問題検討会議」を発足しました。課題として、1)承認審査の方針や基準の明確化、2)市販後安全対策への取り組み、3)治験相談・承認審査体制の充実、4)医薬品の安全かつ迅速な提供に関する事項があります。

 従来、新薬の開発には、製薬企業の戦略と絡んで国内データを重視していましたが、多くの産業で行われた規制緩和の波などの影響もあり、厚労省はより早期に新薬を承認する手段として、国際共同治験の導入を開始しました。

 この治験に積極的に参加することにより、世界的に有効かつ安全な医薬品が、国内でもスピード承認され、また特定療養費制度も適用されるため、対象患者にとっては経済的かつ精神的にも大きな福音になると思われます。

 多発性骨髄腫でのサリドマイドや中皮症でのアリムタ注などがこの治験で承認され、近日発売される予定です。

 現在日本では承認されていない薬剤が多く、承認を待っておられる患者さんが大勢おられます。

 
   出典:OHPニュース 2007.4
 


ツキを呼ぶ財布

EBMに向けて(3)

 新聞の折り込み広告で「“ツキを呼ぶ”財布私はこれで、万馬券を当てました。」とか「“幸福のペンダント”これを買ってから良いことばかり!」とかいうのが時々入っています。

 これを科学的に解析すると、万馬券の場合では、買った人がどの程度いて、そのうちどれくらいに「万馬券」があたったのか調べる必要があります。

 本当に財布を買ったからあたったのか、たまたまではないのか。〜他の要因による影響の可能性

 万馬券にあたったのが本当に幸福と言えるのだろうか、かえって金遣いが荒くなって不幸になるかもしれない。結果の評価に用いられたのは正当な転帰であったか?

 一過性で良くなったとか、商売繁盛したからといってもそれがどのくらい続いているかが重要〜追跡の不十分さ

 この広告自体が、これを売る人たちが作っているわけだから、嘘を書いている可能性がある。〜虚偽の報告の可能性

 これをEBMに当てはめてみますと「薬を飲んだら良くなった」というのは、 もしかすると、薬を飲まなくても良くなったかもしれない。薬を飲まなかった方がもっと早く良くなったかもしれません。

 時間的前後関係があれば因果関係があるものとすると、何もしなくても回復する疾患であれば何をやっても効果があると判断されてしまいます。これを避けるには、何もしない結果と比較する必要があります。

<曖昧な評価による事後解釈>

 治療の有効性の評価基準が曖昧である場合、解釈する者の意図によっていくらでも評価が変えられる危険性があります。

 経過の中で病状の変化は、しばしば見られます。治療の評価基準が曖昧であると、様々な症状、症候、検査値、バイタルサインなどの変化のうち、改善方向のものだけが強調されると有効な様に、逆に悪化方向のものだけが強調されると無効で有害であるように思える危険性があります。

{参考文献} 論文の読み方 薬事 1999.7


{添付文書改定のお知らせ}

輸血に際しての注意

◎ 血液製剤全般

 血液製剤は、献血による貴重な血液を原料として製剤化されたものです。問診、感染症関連の検査等の安全対策を講じていますが、血液を原料としていることに由来する感染症の伝播等の危険性を完全に排除することはできないことから、疾病の治療上の必要性を十分に検討の上、「血液製剤の使用指針」等を参考に、必要最小限の使用にとどめるようお願いします。

 輸血は、放射線照射ガイドライン、血液製剤の使用指針、輸血療法の実施に関する指針及び血液製剤保管管理マニュアルに基づき、適切に行うこと。

大量輸血:短時間に大量輸血した場合、まれにクエン酸による血中カルシウム濃度の低下による症状(手指のしびれ、嘔気など)、アシドーシス、凝固因子や血小板の減少・希釈に伴う出血傾向、高カリウム血症による徐脈、不整脈、心不全、微小凝集塊による肺毛細管の閉塞に伴う肺機能不全等の障害等があらわれることがある。輸血開始後は適宜患者の血清pH及び電解質等を測定するとともに、これらの症状があらわれた場合には輸血を中止し、適切な処置を行うこと(微小凝集塊による副作用防止のためには、必要に応じて微小凝集塊除去用フィルターを使用すること)。

長期輸血:長期間にわたり頻回輸血した場合、まれに体内に鉄の沈着症を来たし、鉄過剰症があらわれることがあるので、患者の経過観察を行い、症状があらわれた場合には適切な処置を行うこと。」

 なお、白血球除去フィルター使用時に低血圧発作等が起こることがあるので、十分注意すること

 輸血単位の増加による感染症の伝播や同種免疫反応の危険性が増大するのを防止するため、実際に凝固異常を認める場合を除き、本剤と新鮮凍結血漿とを併用して、全血の代替とすべきではない。

 輸血に際しての注意

 事務的な過誤による血液型不適合輸血を防ぐために、本剤の受け渡し時、輸血準備時及び輸血実施時にそれぞれ、患者名、血液型、血液製剤製造番号、有効期限、交差適合試験の検査結果などについて、交差適合試験票の記載事項と輸血用血液バッグの本体及び添付伝票とを照合し、該当患者に適合しているものであることを複数の人で確認すること。


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輸血による鉄過剰症

  〜〜鉄はバランスが命〜〜

2008年7月15日号 No.479

 高頻度の赤血球輸血などによる体内の過剰な鉄の蓄積は、さまざまな臓器障害を引き起こし、治療せずに放置すると致死的になりうるものの、いまだ医療者間での認知度は高くありません。

 恒常性が保たれている人体では、体内の鉄分は一定量に維持されていますが、
MAP(赤血球輸血)などにより過剰な鉄が体内に蓄積されると臓器障害が引き起こされます。鉄過剰症は、高頻度の赤血球輸血により生じる副作用ともいえます。

 現在、輸血による鉄過剰症は世界で10万人、日本で5〜6千人と推計されています。

 鉄過剰症を引き起こす代表的な血液疾患には、再生不良性貧血や高齢者に多く見られる骨髄異形成症候群(
MDS)、日本ではまれな地中海性貧血(サラセミア)や鎌状赤血球症などがあります。これらの疾患では、赤血球の減少・機能異常により貧血が起こり、白血球の減少・機能異常により感染に伴う発熱、血小板の減少・機能異常により出血傾向が認められ、症状緩和を目的とした高頻度の赤血球輸血が必要とされます。

 通常、食事からの鉄吸収は平均1〜2mg/日、小腸・皮膚細胞の剥離や月経、その他の失血による鉄の損失も平均1〜2mg/日で、標準的な赤血球輸血(2回/月、計4単位)での鉄負荷量は400mg/月となり、健康人の鉄排泄量の200〜400日分の過剰な鉄が体内に蓄積される可能性があります。

 鉄過剰により臓器障害は、肝臓・心臓・膵内分泌機能障害の頻度が高く、1)皮膚の色素沈着、2)膵β細胞の壊死、腫瘍化、3)肝線維化・肝炎・肝硬変・肝癌、4)不整脈、心不全、5)感染症などが挙げられます。これらは放置しておくと致死的になりうるとの指摘もあります。

 <治療>

 鉄過剰症の治療には、鉄キレート剤による過剰な鉄の排泄を行います。
 これまで鉄キレート剤として、デスフェラール注が用いられてきましたが、半減期が20〜30分と短く、1日8時間以上の連続持続皮下注を要することから、出血・感染症のリスクが懸念されていました。近年、半減期が8〜16時間と比較的長い経口剤が開発され、本症での効果が期待されています。

   {参考文献} メディカル・トリビューン 2008.6.28


2008年7月15日号 No.479

    禁煙:あの手この手   ACE阻害剤で禁煙    氷で禁煙
 

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輸血関連急性肺障害

2002年3月15日号 No.333

 

TRALI:Transfusion-Related Acute Lung Injury

 輸血後数時間以内に非心原性の急激な肺水腫による呼吸困難を呈することで特徴づけられる重篤な副作用

     {参考文献} 日本赤十字社中央血液センター 輸血情報 0201−68

 米国での輸血関連死亡症例報告の中で3番目に多い死亡原因であることから、FDAは2001年8月本件に関するドクターレターを全米に発しました。

 輸血開始後に急激な呼吸障害が現れた場合には直ちに輸血を中止し、胸部X線撮影等の検査を行うとともに呼吸管理等の適切な処置を行って下さい。

 本症は、発症時に適切な処置が行われないと死亡につながる危険性のある重篤な非溶血性輸血副作用ですが、心原性肺水腫、過量輸液・輸血、肺炎、誤嚥、敗血症、
ARDS(急性呼吸切迫症候群)等と診断される可能性があり、十分な注意が必要です。

<病態>

 輸血開始後数時間以内(1〜6時間以内、多くは2時間以内)に激しい呼吸困難を呈します。胸部X線像に両側性肺水腫に伴う所見が認められ、低酸素血症(動脈血酸素分圧30〜50mmHg程度)を示します。多くの症例で湿性ラ音が聴取され、呼吸困難に伴う頻脈、発熱、重篤な場合は血圧低下も起こすと言われています。

 
ARDSと病態は似ていますが、呼吸管理等の適切な処置により、約80%の患者では症状が発現してから48〜96時間以内に臨床症状の改善がみられます。

 循環負荷等の心臓に由来する場合とは異なり、胸部X線像に心陰影拡大はみられません。中心静脈圧(CVP)は正常で、肺動脈楔入圧(PAWP)も正常か低値を示します。

<原因>

 抗白血球抗体(抗HLA抗体、抗顆粒球抗体)と白血球との抗原抗体反応により補体が活性化され、好中球が肺の毛細血管に損傷を与えることで本症が発症すると推測されていますが、詳細な機序は解明されていません。多くの場合は輸血用血液に抗白血球抗体が検出されますが、患者血液中に検出される場合もあります。

<治療>

 輸血開始後に急激な呼吸障害が現れた場合には、直ちに輸血を中止(ラインは確保)して呼吸管理を行います。
ほぼ全例で酸素吸入が必要となります。約70%の症例でPEEP(positive end-expiatory pressure)による人工呼吸装置の使用が必要となります。

*薬物療法

 副腎皮質ステロイド剤:血管透過性亢進の改善をおもな目的とします。
 昇圧剤       :重篤で低血圧を起こしている場合。

 利尿剤は効果がないだけでなく、有害であるとの報告もあります。(本症では循環血液量が過剰状態に無いため。)

<発症頻度>

 輸血バッグ数の0.01〜0.04%
 死亡率:発症例の6〜10%

 本症が疑われる症例が発生した場合には直ちに赤十字血液センターまで連絡して下さい。また、原因究明のために、使用された製剤バッグ、患者さんの検体(輸血前・輸血後)、さらに臨床検査関連情報等の提供をお願いします。

      日本赤十字社中央血液センター 医薬情報部 03-5733-8226


水溶性薬剤と脂溶性薬剤

添付文書の読み方(3)   はこちらです。

 

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