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薬剤熱

昭和63年9月1日号 No.29

 

 薬剤熱とは、薬剤与薬により引き起こされた発熱のことで、各種薬剤の開発が進み、医療がますます高次化するにつれて、臨床の現場で薬剤熱に対する認識はより重要なものとなってきています。

 薬剤熱の迅速な診断は容易でなく、しばしば適切な処置が遅れることがあり、発熱の鑑別に際しては常に薬剤熱を考慮し、可能性が考えられたら、直ちに休薬を試みることが早期診断に必要です。

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<薬剤熱の発症機序>

1 アレルギー

 薬剤を抗原とした免疫機序の関与により発熱する。日常診療の中で最も問題となることが多く、しばしば発熱の原因として見過ごされ誤診されることも多い。

2 薬理作用に起因し、治療の結果の結果として発熱するもの。

 例えば、抗腫瘍剤を使用し、腫瘍組織壊死によって生ずる発熱。あるいはHerxheimer反応(抗生物質により死んだ菌体による発熱)などがその例です。

3 薬剤による体温調節機構の変化に起因するもの。

 アトロピンの発汗低下作用、カテコールアミンの血管収縮作用などの熱放射障害、あるいは甲状腺ホルモンによる基礎代謝の増加など。これらは通常、与薬量がきわめて大量である場合にのみ問題になる。

4 患者側の特殊な条件(素因)に基づくもの。

 例えばG6PD欠損症でのプリマキン与薬時の発熱、麻酔薬による悪性高熱症等

5 薬剤与薬時の合併症によるもの。

 例えば、静注による静脈炎などで、薬の本来の作用とは無関係なもの。

<薬剤熱の原因薬剤として頻度の高いもの>

化学療法剤:ペニシリン、セフェム、サルファ剤、INH、PAS、アムホテリシンB

循環器薬:αメチルドーパ、キニジン、プロカインアミド、ニフェジピン、ヒドララジン

中枢神経系薬:ジフェニルヒダントイン、カルバマゼピン、リゼルグ酸

抗腫瘍剤:ブレオマイシン、アザチオプリン

その他:NSAIDs、ヨード剤、アロプリノール、抗甲状腺薬

  {参考文献}医薬ジャーナル 1988.8


<医学用語辞典>

Febril neutropenia
発熱性好中球減少症

 急性白血病などの造血器疾患や固形癌などに対する強力な化学療法、広汎な放射線照射などによる骨髄抑制に起因する「好中球減少時の発熱」は、多くが感染性です。しかし、今までは感染巣が不明なことから、不明熱あるいは敗血症疑いなどとされ、感染症の研究対象外でした。

 Febril neutropeniaは、1990年に提唱された細菌培養性の不明熱、あるいは敗血症疑いなどの病態を感染症とみなす疾患概念で、2004年には国内でも「発熱性好中球減少症」という疾患名で認知されました。

 Febril neutropeniaの定義は好中球数<1,000/μLで、<500/μLに減少すると予想される場合に37.5〜38.0℃以上の発熱を認め、腫脹、薬剤、膠原病などの明らかな発熱原因が否定できるものとされています。

 感染症は起因菌を検出し、適した抗菌薬の使用が原則ですが、発熱等の症状から感染症が疑われても起因菌の不明の場合が多い、その場合は適切と思われる抗菌薬を選択しempiric therapyがなされます。

 Febril neutropeniaに対して適切とされる抗菌薬はセフェピムおよびそれと同世代のセフェム系、カルバペネム系薬です。
併用療法にはアミノグリコシド系やグリコペプチド系薬も使用されます。初期治療が併用療法の場合には、次に抗真菌剤も考慮します。

 患者の基礎疾患や状態にもよりますが、カテーテル挿入の増加に伴いコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌の分離度が高く、腸管・尿路系を介したグラム陰性桿菌の感染も少なくありません。特に緑膿菌が起炎菌の場合には、短時間の死亡率が高く、empiric therapyが重要とされています。

 最近、国内でもFebril neutropeniaの適応症を持つアムフォテリシンBのリボソーム製剤やイトラコナゾールの注射剤が承認されました。

   出典:日本病院薬剤師会雑誌 2006.1


2001年3月15日号 No.333

水溶性薬剤と脂溶性薬剤    添付文書の読み方(3)

 薬は、尿中未変化体排泄率によって、腎排泄型、肝排泄型に分けられ、分配係数によって水溶性薬物と脂溶性薬物に分けられます。

 肝排泄型薬物と腎排泄型薬物はその性格が大きく異なります。明確な規定はありませんが、尿中未変化体排泄率が目安となり、約60%以上未変化で尿中に排泄される場合を腎排泄型、40%以下の場合を肝排泄型としています。

<尿中未変化体排泄率fu>

 代謝などで変化することなく、元の薬のまま尿中に排泄される薬の役割を“尿中未変化体排泄率fu”といい、服用した薬の100%が未変化で排泄された場合を1.0とします。

 経口剤の場合は吸収率が、問題となり吸収率50%で吸収された薬がほとんど未変化で排泄される場合の尿中未変化体排泄率fuは、0.5ですが飲んだ薬の全てが
未変化で腎から排泄されますので、腎排泄型です。

 また、代謝物に活性がある場合には、未変化体と活性代謝物を併せて、薬効や副作用の大きさ、持続時間等を検討する必要があります。


 <項目>        <肝排泄型>   <腎排泄型>

肝疾患時の与薬量      減量         不変
腎疾患時の与薬量      不変         減少
酵素誘導・阻害       影響が多い     少ない

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油水分配係数P

Log P

 その薬が、水に溶けやすいか、油に溶けやすいかの指標。正確にいうと、n−オクタノール(油)/水分配係数

 分配係数が1より大きければ脂溶性薬物で1より小さければ水溶性薬物と分類することが出来ます。

 分配係数の対数(Log P)をとると水溶性薬物は-(マイナス)になり、脂溶性薬物は+(プラス)でその脂溶性が高いほど大きい値になります。水溶性薬物はほとんど腎排泄型で、脂溶性薬物は肝排泄型です。

 インデラル錠の分配係数は20.2で、テノーミン錠は0.02です。つまりインデラル錠は、水に溶ける20倍もの量がオクタノールに溶ける脂溶性薬物で、テノーミン錠は水に溶ける量の1/50しかオクタノールに溶けない水溶性薬物

 脂溶性薬物は、吸収はよいが、
初回通過効果を受けやすく、かつ組織に移行しやすいなどの特徴があります。

 水溶性薬物は、吸収は悪いが初回通過効果を受けにくく、
血液・脳関門を通過しないなどの特徴があります。

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<まとめ>

* 脂溶性薬物は肝臓で代謝され、腎臓から主に未変化で尿中に排泄されます。

* 腎排泄型薬物を腎機能低下している人に使用すると血中濃度が高くなり、効果が強く出たり、副作用が発現する場合があります。

* 高齢者では腎機能低下が低下していることが多いので腎排泄型は注意する必要があります。

* 肝排泄型薬物は腎機能が低下している人の血中濃度を上げることはありませんが、逆に肝機能に障害がある人では注意が必要です。

* 肝臓で代謝されて排泄される肝排泄型の薬は代謝酵素阻害が起きやすいので注意が必要です。

           {参考文献}添付文書の読み方 協和発酵  菅野 彊 編集


 <用語辞典>

クロスオーバー法

 同一患者に異なった薬剤を時期をずらして服用させ、薬剤の優劣をみる方法。

 

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