本の紹介 日本語の歴史

  目 次

1. 本との出会い
2. 概 要
3. 執筆の意図
4. 本の目次
5. あとがき
6. 著者紹介
7. 読後感


山口仲美著

岩波新書
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1. 本との出会い
 私の所属しているV Age Clubの「新書を読む会」で、2006年7月にこの本が採り上げられました。この本は、漢字が日本語の書き言葉として採り入れられた後、どのように工夫されてきたかを時代を追って述べています。この数年間、白川さんの漢字の本(例えば「漢字百話」)に始まり、漢字導入の経緯を記した二冊の本「古代日本の文字世界」「古代日本 文字の来た道」、漢字が日本語の文字として採り入れられ、どのような影響を日本文化に及ぼしたかを述べた「漢文の素養」に続き、総まとめになると思いました。書き言葉だけでなく、話し言葉も採り上げています。

2. 概 要
 現代の日本語はどのょうにして出来上がってきたのだろうか。やまとことばと漢字との出会い、日本語文の誕生、係り結びはなぜ消えたか、江戸言葉の登場、言文一致体を生み出すための苦闘…。「話し言葉」と「書き言葉」のせめぎあいからとらえた日本語の歴史。誰にでも納得のいくように、めりはりの利いた語り口で、今、説き明かされる。

3. 執筆の意図
日本語の歴史を知るということは、 日本語の将来を考え、 日本語によってつむぎ出された文化そのものを大事にし、後世に伝えていく精神を培っていくのに役立ちます。…でも日本語の歴史を知りたいと思っても、実は一般向けに分かりやすく興味が持てるように書かれた本が、残念ながら、今のところ出ていません。一般の人に興味を持ってもらえる形で、日本語の歴史を語りたい。これがこの本を執筆した意図です。

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4. 本の目次
 日本語がなくなったら………………………………………………………1
  あなたの問題/織物をつむぐ糸/日本語がなくなったら/何を
  めざして/話し言葉と書き言葉のせめぎあい
T 漢字にめぐりあう−奈良時代……………………………………………9
  話し言葉の時代/「清麻呂」は「穢麻呂」に/本名を知られて
  はならない/困った問題/日本人は「借りる」ことを選んだ/
  「借りた」ために起こった苦労/漢字に日本語の読みを与え
  る/万葉仮名の誕生/一字一音が基本/訓読みの万葉仮名/戯
  書の万葉仮名/動物揃え/日本にも文字があった?/日本固有
  の文字はなかった/現在の発音は/奈良時代の発音は/「恋」
  と「声」の「こ」の音は別もの!/現在には無い発音/どんな
  言葉が使われていたのか
U 文章をこころみる−平安時代……………………………………………43
  日本最古の文章は/天皇は自分に敬語を/漢式和文という名前
  で/日本語の文章を書さ始めたのは、いつ?/男性たちは漢式
  和文で日記をつけた/最もステイタスの高い文章とは/奇妙な
  翻訳/漢文を和語で訓読する/ヲコト点という面白い発明/カ
  タカナの発生/漢字カタカナ交じり文の誕生/『今昔物語集』
  は読める/事件を活写する/助詞・助動詞を小さく書く/万葉
  仮名文から草仮名文へ/ひらがなの思想/女は、ひらがなを使
  う/男も、ひらがなを使う/ひらがな文には漢字も入る/ひら
  がな文は話し言葉で書ける/『源氏物語』は和歌的散文/ひら
  がな文は、なぜ代表にならなかったのか
V うつりゆく古代語−鎌倉・室町時代……………………………………87
  「係り結び」に注目/強調するといわれても/念を押して強調
  する/指し示して強調する/取り立てて強調する/疑問や反語
  を表したい時/現代に痕跡はあるか/明けてぞけさは別れ行
  く/「なむ−連体形」は衰える/なぜ衰退したのか/「なむ−
  連体形」の消滅/慣用的な表現「とぞ申しける」/「こそ候へ」
  と固定化してくる/「こそ−已然形」が生き残る/疑問と反語
  は、どうなったか/終止形が連体形と同じ形に/文の構造を明
  示する/論理関係を明示する/武士たちの言葉

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W 近代語のいぶき−江戸時代……………………………………………127
  話し言葉は会話文に/地の文は書さ言葉で/「じ」「ぢ」と
  「ず」「づ」の発音が現在と同じに/清音は、どうなっていた
  か/母には二度会ったけれど/謎が解けた/「大工調べ」に江
  戸語の面影/「アイ」が「エー」に/「エー」になる、その他
  のパターン/町人階級の言葉/上方では町人階級でも使わな
  い/上方語と江戸語の対立/なぜ「かんのん」なのか/「アナ
  タ」「オマエ」も江戸時代から/「オメー」「キサマ」も尊敬
  語/「ワタシ」「ワシ」も江戸時代から/「オレ」は女性も使っ
  た/武士は自分を何と呼ぶか/敬語表現も現在の源流/丁寧表
  現も現在に連なる/「である」「だ」も現れた/女性は「お」
  と 「もじ」を愛用する/ありんす言葉
V 言文一致をもとめる−明治時代以後…………………………………167
  話し言葉を統一せねば/東京語を標準語に/漢字御廃止の議/
  幕末の文章は、すべて文語文/なぜ話し言葉と書き言葉は離れ
  るのか/公用文を漢字カナ交じり文で書く/漢文直訳調が勢い
  づく/福沢諭吉の思想/「ござる」体の登場と言文一致の挫
  折/なぜ言文一致は難しいのか/西洋文明の吸収は、どう行な
  われたか/翻訳も漢文直訳調で/「かなのくわい」と「羅馬字
  会」が設立された/円朝の語り口が言文一致体の手本に/二葉
  亭四迷の試み/翻訳も言文一致体で/山田美妙と嵯峨の屋おむ
  ろの言文一致体/言文一致体は再び暗礁に/普通文の台頭/尾
  崎紅葉の「である」体/「である」体は、なぜ受けたか/言文
  一致会の設立/最後になった公用文/個性の出せる言文一致体
  日本語をいつくしむ……………………………………………………209
  過去からの贈り物/豊かさと煩雑さの狭間で/どう折り合いを
  つけるのか/語彙が多すぎる?/カタカナ語をどうするか/日
  本語の論理性を生かすには
あとがき 221
参考文献 223

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5. あとがき
 2005年5月25日、岩波新書の早坂ノゾミさんから、お手紙をいただきました。日本語の歴史について、分かりやすく面白い本を書いてくださいという依頼の手紙でした。実は、この日は私の誕生日だったのです。私は、不思議な縁を感じてお引き受けしました。
 けれども、その後、予想以上に難航してしまいました。毎年大学で講義しているにもかかわらず、一般の方に満足していただけるような形にするのが難しい。というのは、日本語の歴史に関する細かい事実は、数限りなく明らかにされており、どれをとりあげるのかの取捨選択に迷うほどです。その一方で、現象はわかっているのに、何故そういうことが起こつたのかが解明されていない場合が多すぎるのです。細かい現象をいくら列挙しても、それを貫く法則的なものや、引き起こした原因が分からなければ、面白くもなんともありません。
 私は焦りの極地に達してしまいました。その時、ふと肩の力が抜けて、覚悟が出来ました。とにもかくにも、きちんと事実を踏まえて、話し言葉と書さ言葉のせめぎあいという観点から、日本語の歴史を書こう。みなさんが面白いと思ってくださるかどうかは、別のことだ。覚悟とともに筆が進み始めました。
 全体の枚数は限られています。述べたい現象は山ほどあります。一口に日本語と言っても、発音の側面、文字の側面、文法の側面、語彙の側面、文章の側面などがあって、それぞれが変化の軌跡を描いているのです。でも、それらをすべて述べることは出来ません。また、述べたとしても、メリハリの乏しいものになってしまいます。
 そこで、各時代の特色を出せるような山を作りました。奈良時代は文字を中心に、平安時代は文章を中心に、鎌倉・室町時代は文法を中心に、江戸時代は音韻と語彙を中心に、明治以降は、話し言葉と書き言葉という問題を中心に、という具合です。そして、でさる限り現象の起こった原因にまで思いを及ぼして書いてみました。
 執筆に取り掛かってから5ケ月はあっという間に過ぎ去りました。寝ても覚めても、日本語の歴史を考えていた時期です。こうして日本語の歴史をみつめているうちに、日本語を愛する気持ちがふつふつと心の底から湧さ上がっては、私を満たしました。
 日本語には、遠い昔の日本人からの代々の熱い血と切なる思いが流れている。私も、彼らの残してくれた日本語の遺産の恩恵に浴して生さているのだと。その熱い思いを皆さんにもお伝えできたらと思っています。
  2006年1月30日     山口仲美

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4. 著者紹介 山口仲美(やまぐちなかみ)
   1943年静岡県生まれ
   お茶の水女子大学卒業、東京大学大学院修士課程修了、文学博士
現在−埼玉大学教授
専攻−日本語学(日本語史、擬声語研究)
著書−『平安文学の文体の研究』(明治書院)
     『ちんちん千鳥の鳴く声は』(大修館書店)
     『犬は「びよ」と鳴いていた』(光文社新書)
     『暮らしのことば 擬音・擬態語辞典』(講談社)ほか多数.

5. 読後感
 この本の中心は「V 言文一致をもとめる−明治時代以後」だと思います。1868年9月8日に元号が明治に改められ、江戸が東京になります。全国共通の話し言葉を決め、普及させて行くのと同時に、書き言葉を話し言葉と一致させようと、苦労を重ねる様子がよくわかります。作家の山田美妙や嵯峨の屋おむろ、尾崎紅葉などが努力して行きます。
 もう一つは発音の変化で、「お」と「を」、「い」と「ゐ」、「え」と「ゑ」など、それぞれに対応する発音があったことを初めて知りました。

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[Last updated 7/31/2006]