Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第160夜

遠くて近きは隣県の仲 (後)




えせみ (福島)
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 「養子を迎えた後の子」である。
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 複雑な単語もあったものだと思う。
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 しかし、家を継ぐことが第一であった時代にあってみれば、こういう子供をきちんと定
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義するのは必要なことであったに違いない。
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 他に「未婚の第一子」という単語もある。青森の「エーナ」である。第一子が家を継ぐ
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わけだが、更にその次の代の嗣子をなすためには彼が嫁を取らなければならない。長
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男が結婚しているかどうかは重要な問題なのである。
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 この分野の語彙が充実しているのが、この本の特徴である。
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 「ヨノスト (青森)」は「親類以外の人」という意味だそうだが、これは「世の人」であろう
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か。あるいは、部外者ということで「余の人」か。


おーはばこぐ (青森)
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 「威張る」
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 「大幅」だろうなぁ、きっと。「現実よりも大きく見せる」と考えれば納得がいく。面白い
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表現である (当たってればな)。


くまのすす (秋田)
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 熊のことである。
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 に「しし」が「獣の肉」であって、「猪」が「亥のしし」であることを紹介したが、この
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くまのすす」も同系であろう。


けやぐおなご (秋田)
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 この本には、情婦だの愛人だのの呼び方がたくさん出てくる。これもその一つ。
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 「契約女子」であろう。


ごんぼふで (仙台)
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 「先の減った筆」。
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 毛がすり減って穂先が固くなってしまったのを「ごぼう」に例えたのだと思う。楽しい
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単語である。


たねる (仙台)
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 「尋ねる」のことらしい。大阪では「たんねる」という形になることがあるが、似たよ
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うな変化である。


どやぐ (青森)
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 友人。
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 これは「同役」らしい。立場が対等であることをもって、「友人」の証としたのであろう。
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 一方、秋田では「けやぐ」と言うのだが、「契約」のことだ、という説がある。つまり、信
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頼関係の上に成り立っていることに着目した表現だと言える。


ばくかげる (青森)
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 「試してみる」
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 秋田の県南の一部に「ばぐ こぐ」という表現がある。秋田市近辺では「ばす こぐ」と
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いうのだが、「うそをつく」という意味である。
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 この二つの「ばぐ」は同じものではないか、と思うのだが。つまり、真実でないこと、
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うそんこ」のことを「ばく」と言ったのではないか。


ばっこい (仙台)
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 「少ない」。
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 秋田の県南部では「びゃっこ」「ばっこ」と言う。
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 ただし、「ばっこい」という形から想像するに、これは形容詞である。
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 秋田のは「ちょっと多い」が「びゃっこ よげだ (余計だ)」となることからわかるよう
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に、副詞もしくは形容動詞である。


ぶりこつなぎ (秋田)
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 言うまでもない、「ぶりこ」はハタハタのタマゴである。そういう風にものが繋がった
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状態。標準語では「数珠つなぎ」と言う。


まるぐ (仙台)
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 「束ねる」。
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 山形に行ったとき、「全体を、一括して」という意味の「まるっと」という表現を聞い
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たが、ここに連なっているものと思われる。


まんち、まんず (秋田)
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 これはどちらも「まず」である。意味は多様で「第一に」「そもそも」などなど幅広い。
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 この本では「まんち」が「ともかく」、「まんず」に「まず」をあてているが、同じ単語で
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ある。地域によって「ち」だったり「ず」だったりする、というだけのことだ。


るすん (山形)
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 「南瓜」
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 「ルソン」だろうな。
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 このバリエーションについても、に取り上げた。


わっぷ (仙台)
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 「わりあて」。
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 「割賦」と見るのは考えすぎか。
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 これも、何度かとりあげた「わっぱが」の系列の単語であろう。


 表記をそのまま信用するなら、この本には宮城の言葉が載っていない。あるのは「仙
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台」だけである。
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 もっと言えば、青森も山形もそれぞれ一括りで、津軽と南部、最上・庄内・置賜・村山
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を区別していない。
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 そこが残念だが、上にも書いたように人間関係を表す俚言が多く収められているので、
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この辺は大いに参考になる。



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第161夜「遠くて近きは学と楽の間」

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