Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜
第152夜
もの言えば腹がひっこむ秋の風
津軽では、子供向けの昔話は「むがーし、あったんだど」で始まる。
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これを「今、ねんだど」と落とすのは伊奈かっぺいである。冬に来秋するらしいので
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楽しみにしている。
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今日は、「話す」ということについて。
まず、「話す」というのは秋田弁の語彙ではない。当然のことだが、これは秋田衆が
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「話す」という単語を使わない、という意味ではない。くだけた場面の、秋田弁を使った
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会話では出てきにくい、ということである。
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ほとんどの場合に、「しゃべる」を使う。
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標準語の場合、改まった場面や真面目な会話は「話す」、力を抜いた場面や無駄話
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は「しゃべる」という使い分けができていると思う。「何か悩みがあるのね。私にしゃべっ
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て」とか「あいつはいつも下らねぇ冗談ばっかり話している」はちょっと不自然さが残る
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であろう。
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秋田では、どのケースでも「しゃべる」が使えるので、前者のようなシチューションでは
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「何でもいいがら おらさ しゃべってけれ」と言えるし、会社で「出がげるんだば出がげるっ
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て 上司さ しゃべってがねば駄目だ」という風に怒られたりもする。
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勿論、文体の高い場面で「話す」に切り替えるのは標準語と同じで、最初に述べた通
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りである。
この「しゃべる」には別の用法がある。
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「〜と呼ばれる」「〜という名前である」という意味も持っているのである。
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「太郎ってしゃべる」というのは、「(あの人は) 太郎という名前だ」という意味である。「彼
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自身が言うには」「人呼んで」などを補っても構わないが、この場合、別の主語があるこ
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とは全く想定されていないというのが重要である。英語の“They say”に対比してみるの
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も面白いかもしれない。
もっと秋田弁らしい単語は「へる」である。
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が、残念ながら使用例を耳にしたことが無い。
とは言え、「おしゃべり (な人)」は「しゃべっちょ」であり、「冗談・ふざけた話」
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は「馬鹿しゃべ」である。
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大阪でも「しゃべり」というのは「おしゃべり (な人)」を指していたと思う。「しゃ
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べる」の方が由緒正しい、古い日本語なのではないかと思ったりする。
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なお、「しゃべくる」は秋田弁の語彙ではない。
津軽に話を戻すが、「する」が「言う」に相当する役割を果たしていることがある。
「聞でみだっきゃ 『○○○』ってしてらのっさ」
(聞いてみたら、『○○○』って言うんだよ)
という風に使う。
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この辺、「当局では『○○○』としています」とうような表現と対応が取れているので、
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関連を疑ってみるのもいいかもしれない。
「話」を使った表現で面白いのが「まず話っこや」というもの。
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これは、「まぁ、言ってみただけだよ」「そういう話もあるってことで」というような
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意味の表現である。「ただのお話だよ」とでも言おうか。
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たぶん、指小辞である「っこ」がついているのがミソなのだと思う。
昔話で思い出したが、「わっぱが」。俺にとっては「わっぱが仕事」という単語でしか
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お目にかからない語である。
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以前、「昔っこ」のおしまいに「これで わっぱが」とつける人がいた、という報告があった。
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また、「わっぱが」に「分担」という訳を当てている本もあった。
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この三つが結びつかなかったのだが、「わっぱが仕事」を「自分の担当分だけをこなせ
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ば終わり、という重要度の低い仕事」と解釈し、「昔っこ」についても「あたしの/このお話
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はこれでおしまい」と考えれば、一応は説明がつく。とりあえず、報告しておく。
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