Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第112夜

わっかりましたー




 ちょっとに、素性のわからない単語の一覧を上げたが、今回は、その解決編も兼ね
.
て、続編をやってみようとおもう。


きゃね
.
 「頼りがいがない」の「甲斐ない」の転訛ではないか、という指摘多数。
.
 「主に体格について言及する場面で使用されるのではないか」という意見があったが、
.
俺自身は「いつまでも子供だなお前は」というコンテキストで言われたことがあるので、ど
.
うだろうか、と思う。尤も、体格から精神面への転用ということも十分に考えられる。
.
 ここ数年その傾向が強いのだが、俺の体格の水平方向について言えば、お世辞にも
.
きゃね」とは言えない。


てぼっけ
.
 「手呆け」か「手惚け」という指摘多数。
.
 その通りかと思います。なんで思いつかなかったんだろう。
.
 野口英世が、子供の頃にやけどして手が使えない時期があり、そのため「てんぼう」と
.
呼ばれていた、という例の話。福島の方言だと思っていたが、ひょっとして単に「例の『手』
.
の坊主」という意味の「手ん坊」なんだろうか。


どんぶぐ
.
 「改めて考えるとわからない。『どん』が『ぶく』って感じ」という意見 (?) があったが、俺
.
も同感。そういう環境で育っているから、これが当たり前なのである。ネイティブの感覚
.
の危うさがここにある。
.
 なお、昨年、俺のところに遊びに来た仙台市(旧泉市)出身の男性も「どんぶく」と言
.
っていた。ひょっとしたら北日本共通語かもしれない。


わっぱが仕事
.
 昔話で、「これでおしまい」の意味で「これでわっぱが」と終わるものがあった、という
.
指摘あり。始めたと思ったらすぐに「わっぱが」になる仕事を指すのではないか、との
.
こと。
.
 やはり「わっぱが」自体は意味不明である。(注)
.
 俗語で、「わっぱ」は手錠なりハンドルなり車輪なり丸いものを指すようだが、これと
.
の関りはどうだろう。


んた
.
 「やんた」という人もいることから、その「や」が脱落したのではないか、という指摘
.
あり。おそらくこれであろうと思う。
.
 ただし、「やんだ」という人がいるのに「んだ」という人はいない。「そうだ」という意
.
味の「んだ」と衝突するために嫌われたのだろうか。
.
 ところで「んか」という人もいるのだが、これはどう説明したらいいんだろうか。


 さて、進展があったところで、わからない単語を続けてみよう。


 これは、俺にとっては使用語彙でも理解語彙でもないのだが、「むどさがね」。
.
 上の意見をくれた方から教えてもらった単語である。県南で使うらしい。意味は「気
.
の毒だ」。
.
 調べたら「むどづらだ」という表現があるらしい。「無道」から来ているのであろう、と
.
のこと。「無道/面」なんだろうか。
.
 まぁ「むど」は「無道」でいいとして、じゃ後半の「さがね」って何?
.
 これですぐに思い出すのが、「口さがない」という形容詞。これについて複数の辞書
.
にあたってみたが、「さが」の部分についての説明がない。
.
 結局、わからないんであった。


びり
.
 これは国語辞典にも載っている。競争したときに一番最後の奴のことだ。
.
 秋田では「げっぱ」「げり」「げら」「げっちゃ」と言う。
.
 「げっぱ」…もわからんのだが、「びり」もわからん。
.
 と思って調べたら古語にあった。「人の尻」だそうな。そこから艶っぽい方に派生して
.
いるようでもある。いずれ「尻」から「最下位」への応用には無理がない。
.
 どこの方言でも汚い音なのだが、なぜだろう。


よんだ
.
 これは 1 例しか聞いたことがない。横手の人が言っていた。
.
 「よんだもの あれば すぐ 言ってけれな
.
 前後から推察して、どうやら「必要だ」という意味であろう、と思われた。果たしてそ
.
のとおりだったのだが。例文は「必要なものがあったらすぐに言ってくださいね」である。
.
 まさか「要だ」ではあるまい。


 この「わからない」の件、もう 1 話続く。



注:『東北弁川柳』という本では、「わっぱが」に「分担」という訳(?) があてられていた。
.
 分担すれば簡単にはなるだろうから、わからないことはないが、昔話の件が通らな
.
 くなる。(990328 加筆)



"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第113夜「ずいずいっと」

shuno@sam.hi-ho.ne.jp