Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜
第61夜
NHK 全国県民意識調査より(5)
今年は「あなたはこの土地の言葉を残していきたいと思いますか」という質問が追加さ
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れている。
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この中で、「はい」の率が有意に高い県を順番に上げる。
沖縄 | 85.3 |
青森 | 72.5 |
岩手 | 72.5 |
京都 | 71.8 |
宮崎 | 71.5 |
山形 | 71.3 |
長崎 | 71.3 |
秋田 | 70.8 |
高知 | 70.0 |
熊本 | 69.1 |
島根 | 68.2 |
大阪 | 67.4 |
福島 | 66.2 |
福岡 | 65.5 |
北海道 | 65.3 |
鹿児島 | 65.0 |
徳島 | 63.5 |
佐賀 | 63.1 |
広島 | 62.8 |
大分 | 62.7 |
石川 | 62.5 |
宮城 | 62.3 |
長野 | 61.8 |
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逆に低い方を上げると、
千葉 | 38.3 |
埼玉 | 38.8 |
神奈川 | 44.1 |
茨城 | 44.5 |
奈良 | 48.3 |
栃木 | 49.3 |
滋賀 | 49.5 |
和歌山 | 49.5 |
岐阜 | 49.9 |
岡山 | 51.5 |
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となる。ほぼ、「好き」という解答と一致していると考えていいだろう(*1)。
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食い違いを見せるところというと、
好きだが、残したいとは思わない | 新潟 |
残したいが、特に好きではない | 石川、佐賀、大分、広島 |
好きではないが、残したくないわけではない | 愛知 |
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乱暴なことを言ってしまうと、今までの集計で、強い個性を出してこなかったグループ
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である。「残したいが嫌いだ」とか「好きだが残したくない」というのがあれば、また何か
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見えてくるのかもしれないが。ただ、新潟は「方言が好き」が低下しているし、石川・愛
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知・広島・大分は逆に上昇している。経過は気になるところである。
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低い方に群馬を除く関東5県が揃っている。前回の4グループと考え合わせると、茨城・
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栃木の方言嫌いは確定と言っていいだろう。
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神奈川・奈良とも、支持率の急上昇に「残したい」という思いがついてきていないようだ。
相関、という観点で言うと、「地方訛りが出るのは恥ずかしいことだと思いますか」と
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「この土地の言葉が好きですか」「この土地の言葉を残していきたいと思いますか」には、
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ほとんど相関関係がない。やはり、好き・嫌いと恥ずかしいかどうか、というのとは別の
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もののようだ。
このほかに、前回のグループ分けを追跡調査しておく。
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「その土地も方言も嫌い。でも方言は恥ずかしいとも恥ずかしくないとも思わない」の
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愛知・千葉・埼玉3県は、愛知が「方言が好き」で 8%、「その土地が好き」を 7% も上
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げたのに対して、千葉・埼玉が「方言が好き」で 1%、「その土地が好き」で 5% も下げ
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ている(*2)ので、グループ解消の可能性がある(*3)。
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「その土地は好きだが、方言は嫌いで恥ずかしい」の和歌山・香川は、「方言が好き」
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がアップ、「方言は恥ずかしい」がダウン、「その土地が好き」がダウン、で共同歩調を
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取っている。方言に対する好感度がアップしているので、他のグループに合流しているか
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もしれない。
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強烈な個性の割に得点にばらつきがあったために目立たなかった京都・大阪は、全ての
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点でパワーアップしており、大活躍である。イメージに実体が追いついてきた感じか。
話をまとめてみよう。
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まずは、都会としての東京の地盤沈下である。これは、東京に生活すると決めた人・東
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京を故郷と決めた人が増えたことの結果である。逆に、都会周辺部への人口流入が増えた
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ために、例えば、千葉・埼玉・神奈川といった地域の「(従来の意味での)都会化」が見
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られる、と本では述べている。
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次が、田舎者連合解体の危機である。九州地方が方言コンプレックスから脱却しつつあ
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るように見える。
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秋田・青森・岩手の北奥羽同盟は固い結束を保っている(特に秋田と青森(*4))が、福
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島・山形に、弱いながらもコンプレックス解消の傾向が見られる。宮城は、逆にコンプレ
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ックスを強めつつあるようだが、政令指定都市を抱えてか、ちょっと独自歩調の雰囲気が
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ある。
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全体としては、「方言が好き」という意見は増えつつある。減っているのは、東京と、
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宮城・新潟・千葉といった都市化進行中の地域、その周辺である。ある意味では 30 年前
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の東京をなぞっているとも言える。
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なんとなく、東北地方が今後の動向の鍵を握っているような気がするのだが。
大変に有意義なデータである。もうちょっと腰を据えて精密な分析ができればなぁ、と思う。
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欲を言えば、10 年前のデータも欲しいところである。20 年後の第三回を待つ、という手
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もあるのだが。
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一つだけ言わせてもらえば、巻末に収録されている結果の一覧表で、中部地方の県の
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並びが 78 年版と 97 年版とで違う。大変に迷惑である。まぁ、昔のが変な順番だったのだ
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から、しょうがないとは言えるが。
*1:相関係数は 0.915。関連が強い程、1(あるいは -1)に近づくので、かなり強い関連
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を持っていると言える。
*2:実は、「済んでいる土地が好きですか」という質問で、「嫌い」という方向に流れてい
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る都道府県は非常に多い。青森、岩手、宮城、秋田、山形、茨城、栃木、三重、滋賀、
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和歌山、岡山、山口、香川、愛媛、高知、佐賀、熊本、鹿児島がグループを変わって
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いる。
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「好き」に流れているのは、東京、神奈川、新潟、石川、山梨、岐阜、愛知、京都、
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大阪、広島、福岡である。
*3:面倒なので、住んでいる土地に対する好悪の反応とのクロス集計はしていない。
*4:余談だが、秋田と青森は、総理府とか経企庁が行う、暮らしやすさとか文化度とか
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いう類の調査で最下位争いをすることが多い。
《参考》
「NHK 全国県民意識調査より(1)」へ
「NHK 全国県民意識調査より(2)」へ
「NHK 全国県民意識調査より(3)」へ
「NHK 全国県民意識調査より(4)」へ
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