Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第59夜

NHK 全国県民意識調査より(3)




 久しぶりに感想のメールをもらった。
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 その中で、この全国県民意識調査の調査概要を教えて欲しい、という意見があった。既
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に予告の通り、昨年調査分の本(*1)は手元にあるので、これの分析と併せてご紹介しよう
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と思う。
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 俺の本来の性格だと、「書名は紹介したんだから自分で調べろ!」と言うところなのだが、
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NHK 出版の Web ペ−ジに載ってないところを見ると、78 年の調査分はもう絶版になって
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いるようだ(そりゃそうだろう)。古本屋をまわるか、図書館に頼るしかあるまい。図書館で
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も、分館とか小さいところだと無いような気がするので、大雑把に触れることにする。
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 なお、今回は、難しい用語が乱舞するので覚悟して欲しい。


 まず、調査概要。
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 各都道府県で 12 人×75 地点=900 人、の合計 42,300 人。調査時点で 16 歳以上の人
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に対する個人面接法で行われている。解答の有効率は 70.0% である。期間は 10 日。
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 前回は、各都道府県で 15 人×60 地点=900 人、の合計 42,300 人。調査時点で 16 歳
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以上の人に対する個人面接法は、同じ。解答の有効率は 76.6%。期間は約3ヶ月。
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 数が少ない、と思われるかもしれないが、統計学的には十分なんだそうである。
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 被調査者(インフォーマントと言う)をどうやって抽出したかは書かれていない。前回は二
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段階無作為抽出(*2)だったそうだから、今回も同じだろう。
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 したがって、性別や年齢層などはばらついていると考えられる。本来の目的が方言調査
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ではないから、ネイティブかどうか、生え抜きかどうかは考慮されていない(*3)
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 こんなところでいいでしょうか。詳細は、面倒でも原典に当たってください。


 では、早速。
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 「この土地の言葉が好きですか」という質問に対する「はい」の比率が高い順に並べて
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みる。
                                                                                                                                             
78 年97 年
沖縄 74.9 沖縄 83.0
宮崎 72.2 北海道 74.8
新潟 71.6 岩手 74.6
熊本 71.5 秋田 73.6
北海道 70.6 宮崎 73.6
秋田 70.5 山形 73.0
山口 70.1 福島 72.9
東京 69.4 長崎 72.5
福島 68.9 京都 71.4
長野 68.4 熊本 70.1
岩手 68.1 大阪 69.9
鹿児島 68.1 青森 69.0
宮城 67.8 徳島 69.0
京都 67.2 新潟 68.2
山形 67.0 島根 68.2
島根 66.2 長野 67.5
長崎 65.5 鹿児島 67.5
徳島 65.2 福岡 67.3
愛媛 64.5 宮城 66.6
佐賀 63.2 高知 66.3
青森 63.0 山口 64.4
福岡 62.8 石川 64.3
大阪 61.1 広島 63.6
三重 60.3 愛媛 63.6
群馬 60.1 大分 63.5
山梨 60.0 東京 63.4
静岡 58.9 佐賀 63.4
高知 58.6 兵庫 61.8
石川 56.4 静岡 60.9
鳥取 56.4 三重 59.3
大分 56.0 香川 59.2
兵庫 54.7 群馬 59.0
富山 54.5 鳥取 58.1
広島 54.1 富山 57.9
香川 53.5 山梨 57.2
茨城 53.0 神奈川 56.6
滋賀 52.9 和歌山 55.0
栃木 52.5 福井 54.7
岐阜 52.5 岐阜 53.3
岡山 47.6 奈良 52.6
福井 47.2 愛知 52.4
和歌山 46.0 栃木 51.5
埼玉 45.0 滋賀 51.4
愛知 43.9 岡山 50.2
神奈川 42.4 茨城 45.6
千葉 42.0 埼玉 43.6
奈良 32.7 千葉 41.0
は「はい」の率が有意に高い都道府県、は有意に低い都道府県
 この質問で「はい」が 5% 以上下がった都県は3つあり、
茨城 -7.4
東京 -6.0
山口 -5.7
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 となる。茨城は 35 位から 45 位に順位を落とした。東京も山口も、以前は「『はい』
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の率が高い」(*4)グループに入っていたのだが、そこから脱落している。
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 逆に大きく支持を増やした府県は、
奈良 19.9
神奈川 14.2
広島 9.5
和歌山 9.0
大阪 8.8
愛知 8.5
沖縄 8.1
石川 7.9
高知 7.7
大分 7.5
福井 7.5
兵庫 7.1
長崎 7.0
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 である。奈良と神奈川の大幅アップが目を引く。ただし、この中でも奈良・和歌山・愛
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知・福井・神奈川の4県は、今でも「『はい』の率が低い」グループに入っている。
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 支持率大幅アップにもかかわらず「『はい』の率が低い」とはどういうことか
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 まぁ、統計だから(*5)、と言ってしまえばそれまでだが、ここに今回の特徴がある。
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 その問題はそのままに、グループ内の異動を見ると
「好き」(*6)から脱落 東京、山口、愛媛、佐賀
「嫌い」に転落 山梨
「嫌い」から離脱 富山、兵庫、広島、香川
「好き」に加盟 大阪、高知
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 兵庫・広島・大阪といった東京以外の都市が、「嫌い」から離脱もしくは「好き」に加
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盟している。
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 一方、「『好き』から脱落」「『嫌い』に転落」のグループの変化を見てみると、
 78 年 97 年 増減
東京 69.4 63.4 -6.0
山口 70.1 64.4 -5.7
山梨 60.0 57.2 -2.8
愛媛 64.5 63.6 -0.9
佐賀 63.2 63.4 +0.2
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 意外に変化は小さい。佐賀に至っては、わずかとは言え、支持率が上がっているのに、
.
「好き」から脱落
している。
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 これは、全体のカーブが平均化していることを示す(*7)
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 東京が熱狂的な支持を受け、他地域が嫌われる、という状態ではなくなり、それぞれの
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地域に対する支持が増加したため、東京を頂点とする山がなだらかになったのである。言
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ってみれば、全体の違いがはっきりしなくなってきたため、わずかな差がグループ分けに
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大きく影響する、ということである。
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 本の中では、東京を始めとする大都市の人口移動が沈静化して、腰を落ち着けて暮らそ
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うという人が増え、その土地への帰属感を強く感じ初めているのではないか、としている。
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つまり「はるかかなたにある憧れの大都会」ではなくなったのである。


 続く。今回は前哨戦みたいなもんか。



*1:『現代の県民気質−全国県民意識調査−(NHK 放送文化研究所編・NHK 出版)』

*2:例えば、ある市を調査対象にしようと思った場合、まず、町内会を無作為抽出する。
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 更に、その町内の住民を無作為抽出する。これを「二段階無作為抽出法」と言う。

*3:この本には、比率は記載されているが、分類されているわけではないので、例えば、
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 生え抜きだけの人の傾向を調べる、ということはできない。万単位の値段の「データブッ
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 ク」には載ってるかもしれない。

*4:前回も述べたが、ここでも念を押す。ここで「有意に高い」というのは、「『はい』の率
.
 が、他の都道府県に比べて高い」と 99%(場合によっては 95%)以上の信頼度で断言で
.
 きる、という意味である。詳しくは統計学の本を読んで欲しい。

*5:小中学校の成績評定における相対評価を考えてもらえばわかる。
.
  生徒の成績が 100 点から 0 点までまんべんなく散らばっている場合でも、90 点以
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 上にひしめいている場合でも、同じように5つのグループに分類する必要がある。
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  ある生徒の点数が 0 点から 90 点に大幅アップしても、全員が同じようにアップして
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 いれば評価は「1」のままである。

*6:くどいようだが、「好き」というのは「『方言が好きか』という質問に『はい』と答えた率
.
 が、他の都道府県に比べて有意に高い」という意味で、「嫌い」というのは「『方言が好
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 きか』という質問に『はい』と答えた率が、他の都道府県に比べて有意に低い」という
.
 意味である。
.
  「嫌い」という選択肢があるとか、「嫌いですか」と質問したりしたわけではない。

*7:よく偏差値の時に出てくる正規曲線を思い出して欲しい。真ん中が盛り上がって、両
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 端が低い山である。卵を割って皿に入れたような、両端がなだらかな奴だ。


《参考》
「NHK 全国県民意識調査より(1)」
「NHK 全国県民意識調査より(2)」
「NHK 全国県民意識調査より(4)」
「NHK 全国県民意識調査より(5)」




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第60夜「NHK 全国県民意識調査より(4)」

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