Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第47夜

NHK 全国県民意識調査より(1)



 1978 年に、NHK が全国県民意識調査というのを行った。今年、第 2 回調査のことが報道されたので知ってる人もいるかと思う。
 この中に、2 つだけだが方言に関する項目があるので、これをネタにちょっと全国的なことを考えてみたいと思う。
 20 年も前のことで社会情勢などは随分と違うのだが、手元にそれしかないのでしょうがない。新しい調査の本も出てはいるのだが、なにせ万単位の値段なので、とても個人が購入できるような代物ではない。前回の分は \1,000 だったのだが。*1

 問題の質問項目というのは、「この土地の言葉が好きですか」と「標準語が話せなかったり、地方訛りが出るのは恥ずかしいことだと思いますか」である。
 まず、単純に「この土地の言葉が好きですか」の結果を見てみる。ちょっと多いが、「好きだ」と答えた人の割合が高い県を順に上げると、*2
 沖縄:74.9%  宮崎:72.2%  新潟:71.6%  熊本:71.5%  北海道:70.6%
 秋田:70.5%  山口:70.1%  東京:69.4%  福島:68.9%  長野:68.4%
 岩手:68.1%  鹿児島:68.1%  宮城:67.8%  京都:67.2%  山形:67.0%
 島根:66.2%  長崎:65.5%  徳島:65.2%  愛媛:64.5%  佐賀:63.2%
 青森:63.0%  福岡:62.8%
.
 東北 6 県は全て九州も大分を除いて全て入っている。
 少ない方はというと、
 奈良:32.7%  千葉:42.0%  神奈川:42.4%  愛知:43.9%  埼玉:45.0%
 和歌山:46.0%  福井:47.2%  岡山:47.6%  栃木:52.5%  岐阜:52.5%
 滋賀:52.9%  茨城:53.0%  香川:53.5%  広島:54.1%  富山:54.5%
 兵庫:54.7%
.
 東北と九州を除く地域にまんべんなく、という感じである。この辺は、まぁそんなもんか、というところであろう。
 一方、「標準語が話せなかったり、地方訛りが出るのは恥ずかしいことだと思いますか」はというと、多い順では、
 沖縄:25.9%  福島:25.1%  鹿児島:25.1%  和歌山:23.3%  秋田:23.2%
 富山:23.2%  山形:22.6%  青森:22.2%  島根:21.1%  栃木:20.9%
 宮崎:20.2%  高知:19.9%  茨城:19.8%  鳥取:19.8%  徳島:19.8%
 福井:19.5%  香川:19.5%  岩手:19.2%  佐賀:19.2%  山梨:18.9%
 熊本:18.6%  新潟:17.8%
.
 少ない方は、
 神奈川: 8.4%  東京: 8.5%  京都: 9.1%  北海道:10.5%  兵庫:11.5%
 大阪:12.1%
.
 「そう思う」の方に東北と九州の大半が入っているのは前の質問と同じである。ここでは、むしろ「そう思わない」の方に注意を向けたい。
 ここに上がっている 6 都道府県は、全て大都市である。宮城が、東北連合から抜けて「そう思う」のグループに入ってないことも考え合わせれば、「地方訛りが出ることは、特別恥ずかしいことではない」と思っているのは、自分の方言がほぼそのままの形で全国的に通用する人たちだ、ということである。だから恥ずかしい思いをしなくてもいいのであって、「好きなんだから恥ずかしがることはない」というわけではないらしい

 この仮説を検証するべく、この 2 つの質問をクロスオーバーさせてみる。つまり、2つの質問、それぞれに「はい」と答えたか「いいえ」と答えたかで 4 つのグループに分けてみようということである。早速、その結果を示す。
 A.方言が好きではない−方言が出るのは恥ずかしい
茨城、栃木、富山、福井、和歌山、香川
 B.方言が好きではない−方言が出るのは恥ずかしくない
神奈川、兵庫
 C.方言が好き−方言が出るのは恥ずかしい
青森、岩手、秋田、山形、福島、島根、徳島、新潟、佐賀、宮崎、熊本、鹿児島、沖縄
 D.方言が好き−方言が出るのは恥ずかしくない
北海道、東京、京都
 A 群は、嫌いで恥ずかしいの劣等感型とでも言えようか。ある意味では素直な反応だと言える。
 B 群は、嫌いだが恥ずかしくはない、という複雑な感情を持っている。これは、大都市ではあるが、もっと大きな都市が近くにあり、自分たちの言葉はほぼ全国的に通用するのだが、やはりいまひとつ、という意識の現れではないか。
 C 群が、好きだが恥ずかしい、という、いわゆる「方言コンプレックス」組である。やはり、「方言が好き」のグループから京都や福岡のような大都市を擁する府県が脱落している。
 D 群は、好きだし恥ずかしくもない、という自信満々のグループだ。予想通りの道府県が揃ったと言える。

 で、2つの質問に戻ってみると、「方言が好き」と答えたのは大都市か田舎 (失礼) の都道府県で、「好きではない」と答えたのは大都市の周辺にある県である。
 「方言が恥ずかしい」というのは田舎の県、「恥ずかしくない」というのは大都市を擁する都道府県である。
 方言に対する感情は、自分の方言が全国で通用するかどうか、回りの大都市の方言との関係にも大きく左右されるようだ。



*1:
 この文章をアップした直後に、NHK 出版から「現代の県民気質−全国県民意識調査−」が出版されている。これは \2,000 (本体)。入手済みなので、これを使った分析もいずれ試みてみたい。(971102 加筆)(
)

*2:
 この「高低」は、ちゃんとした統計手法によって、95% の信頼度で有意に高い・有意に低いと判定したものである。単に上から (下から) 引っ張り出したわけではない。(
)

《参考》
「NHK 全国県民意識調査より(2)」
「NHK 全国県民意識調査より(3)」
「NHK 全国県民意識調査より(4)」
「NHK 全国県民意識調査より(5)」


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