Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第42夜

ゲーム



 固有名詞は難しい。に姓のアクセントの話をしたが、そこまで注意深くなくとも、読めない地名や名前なんてのはいくらでもある。
 近ごろは、誰かは知らんがいずれにしろ一方的な都合で地名がどんどんと味気ないものに変わってきてはいるものの、それですら、外部の人間には読めないものである。
 ざっと、秋田市内の難読地名を並べてみると:
新藤田(しんとうた)、金足(かなあし)、上北手、下北手(かみきたて、しもきたて)、旭南、旭北(きょくなん、きょくほく)、御所野(ごしょの)、御野場(おのば)、下浜(しもはま)、茨島(ばらじま)、広面(ひろおもて)、八橋(やばせ
 この辺か。後、そのまま読めばいいんだが、躊躇してしまうのだと:
仁井田(にいだ)、仁別(にべつ)、目長崎、川尻、手形、豊岩(とよいわ)、保戸野(ほどの)、向浜(むかいはま
 こんな感じ。
 県都秋田市はこんなもんだが、県内を広く見渡すと:
「醍醐(だいご−平鹿町)」「笑内(おかしない−阿仁町)」「毛馬内(けまない−田沢湖町)」「生保内(おぼない−田沢湖町)」「払体(ほったい−羽後町)」「西馬音内(にしもない−羽後町)」「強首(こわくび−西仙北町)」「百宅(ももやけ−鳥海町)」「打当(うっとう−阿仁町)」「鹿渡(かど−琴丘町)」*1
 他に、読み方が確認できなかったのでは、「海士剥(西目町*3」「伏影(阿仁町)」。なかなかにイマジネーションを刺激してくれる字面ではないか。*2
 アクセントが標準語とは違う、なんてのをあげると切りがないのでやめておく。


 で、ゲーム。
 ゲームっつーよりは駄洒落合戦なのだが。
 地名を、秋田弁で解釈して英訳する、という遊びがあるらしい。
 地元の新聞にとりあげられていたのだが:
「追分(おいわけ)」を「おい、わげ(俺は若い)」と聞きなして、“I'm young
「大館(おおだて)」を「おぉ、うだで既出)」と聞きなして、“Oh what a bad feeling
 これが結構、楽しい。なにせ、秋田ネイティブにしか理解できないハイブロウな遊びである。
 地図を見ながらひねり出してみた。
男鹿(おがToo muchおが既出)」
小坂町(こさか) Up to here?” こさが?(ここに?)」
上北手(かみきたて) I have my hair cut” 髪、切ったで
浅舞(あさまい−平鹿町) Morning is Good” 朝ま既出いい
.
 ま、かなり怪しい英語も混じっているが勘弁してもらおう。

 やってみるとわかるが、かなり難しい。
 そもそも、秋田弁で解釈できないとネタにならない。
 例えば「井川町(いかわまち)」なんてのは「以下は」「烏賊は」などに解釈できるが、残念ながら秋田弁の俚言が含まれていない。「羽立(はだち−男鹿市)」は “Twenty years old”とダイレクトに行くのだが、これは単なる訛りで面白みに欠ける。
 「男鹿」が “Too much”なんてのは、実は「が」の発音が鼻濁音かそうでないかの違いがあるのでかなり苦しい。

 音だけを純粋に追求すれば、英語ネイティブの “It's Me”あたりは「泉」に聞こえやしないだろうか。

 秋田県内に限定するとじきネタ切れだから、東京に拡張すると、「四ッ谷」が“They are four”なんてのになったりする。「四つやー」って言うからこうなるわけだが、関西でも通用するだろう。尤も、イントネーションは全く違う。

 暇があったら、みなさんも地図とにらめっこしてやってみてくださいな。面白いのがあったら、ここで紹介させていただきます。




注1:
 この「〜ない」シリーズは、アイヌ語源ではないかと思う。(
)

注2:
 こういうのに限って当て字、というのもよくある話だが。(
)

注3:
 あとでわかったのだが、これは「あまはぎ」と読む。(
)




音声サンプル.WAV

御所野(9KB)
御野場(10KB)
仁別(9KB)
手形(9KB)
向浜(9KB)
男鹿(11KB)
おが(9KB)
四つやー(13KB)




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