Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第38夜

やだやだ暑苦しい



 暑い
 いつぞやも言ったが、東北だって夏には暑くなる。
「夏日」「真夏日」「熱帯夜」…なんでもある。勿論、関東以西よりは少ないが、あることはある。
 寒けりゃ寒いで「冬日」「真冬日」*1 っていうのもある。流石に「冷帯夜」というのは聞いたことがない。
 この、冬寒くて夏暑い、大変に人間的な気候のおかげで、新陳代謝が活発になり、肌がきめ細かくなって「秋田美人」と称されるようになった *2 という俗説まであるくらいだ。
 と延々並べ立てても暑い
 今日は、鬱陶しい話をする。

「面倒くさい」という意味の「大儀だ」については以前にも触れた。これは、会社に行くとか何かの会に出席するとか、割と規模の大きい動作に使う。暑くて暑くて、冷蔵庫まで行って麦茶を取り出すのもイヤ、っていう程度の動作には使いにくい。

「億劫」に相当する「おもやみ」という表現がある。これはもう純粋に気持ちの上の問題で、「億劫」なのに加えて、「憂鬱」という含みも持つ。町内会の大掃除とか、同窓会で昔よく怒られた先生と顔を合わせなければならないとか、義理で出席する結婚式とか、そういった様な場合の精神状態を言う。
「思い病む」かと思ったら、国語辞典 *3 に寄れば、それは「恋慕うあまり病気になる」ことだそうで、意味が全く違う。念のために古語辞典 *4 で調べてみたら、「悩んで病気になる」とあり、こちらの方がいくらか近い。そうは言っても、面倒だという意味が全く無いのだが。
 これは「おもやみだ」とも「おもやみで」とも言う。

 嫌悪感とか不快感を表明する言葉に「うだで」というのがある。
「気持ち悪い」「鬱陶しい」「わずらわしい」「面倒くさい」などなど、大変に意味範囲が広い。人に寄るのではないか、という感じがするくらいである。
 ホラー映画とか魚の内蔵、会社の社長と専務と 3 人だけで出かけるとき、みんな「うだで」という精神状態になる。
 で、古語辞典。*4
 引いてみるものである。語源不明の単語かと思ったら、ちゃんとあった。曰く、
(1) ますますひどく。いよいよはなはだしく。
(2) 常ならぬさま。異常に。
(3) 不快なさま。うとましく。
 同語源の「うたた」という単語があって、これは「」と書く。「うたて」は副詞だが、「うたてげ」形容動詞、「うたてし」形容詞、と仲間も多い。
 若い人が使う東京方言で「うざったい」というのがある。これと意味は多少、重なるように思う。どちらかと言えば「鬱陶しい」の方に重きがあって、「気持ち悪い」という意味はないようだが。

 語源不明と言えば、これ。
んた」。
朝だ。早ぐ起ぎれ
んた
「嫌だ」という意味である。
 最初の字が最初の字だから、調べようにも単語がない。

 おっと、大事な単語を忘れていた。
暑い」は「のぎ」である。
ぬくい」の変化したものではないかと言われている。
 基本的には「暑い」であって「熱い」ではないのだが、地域によっては「熱い」という意味にも使うこともあるようだ。

 なんとのぎでゃのぎでゃ


*1:
 知ってる人も多いと思うが、
夏日 最高気温が摂氏 25 度以上の日 
真夏日 最高気温が摂氏 30 度以上の日 
熱帯夜 最低気温が摂氏 25 度以上の夜 
冬日 最低気温が氷点下の日 
真冬日 最高気温が氷点下の日 
(
)

*2:
 これに、日本一日照時間の短い県、ということで、紫外線量が少ない、というのが加わる。(
)

*3:
『大辞林』(1989) 三省堂(
)

*4:
『角川新版古語辞典』(1989) 角川書店(
)


音声サンプル(.WAV)

おもやみだ(14KB)
うだで(11KB)
朝だ。早ぐ起ぎれ(15KB)
んた(9KB)
なんとのぎでゃのぎでゃ(20KB)


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