Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第38夜

自立語・活用なし(前)



 副詞というのは「主に用言を修飾し、主語になることはない」。*
 接続詞というのは「前後を続け、その関係をいろいろに示すもの。主語・述語にもならず、他を修飾することもない」。
 間投詞というのは「感動・呼びかけや話の受け答えを表す。主語にもなれないし、他を修飾することもない」。感動詞とも言う。
 いきなり文法用語が出てきて頭が痛くなった人もいるかもしれない。早い話が、
彼は突然あっ!』と叫んだ。そして
 という文の、青い字の言葉のような働きをする単語を言う。
 この辺の単語がまた、エラく面白い話題を提供してくれるのである。

なもなも」。
 別にお経を唱えているわけではない。新種の生命体の名前でもない。
 以前、「何でも」と「なんても」の関係について話したが、その仲間で、「なも」が「何も」に相当する。
「何も何も」では分からないかもしれないの例文を示そう。
なんと、この前だば迷惑かげでしまって
なもなも
 そう。「何も迷惑だなんて思ってませんよ」「何てことはありませんよ」ということである。

 こんな使い方もある。
今の社会構造でだば何ともさいね
なもなも
 この場合は、前の文に対する反対の意思を表明している。
 どちらの例でも、「なもだ」と言うことも可能だ。「なも」だけでもよい。

なに、歩って来たなが。車で来るあんでねがった
なもや。車、パンクしてや
 これも、相手の言ったことを否定する内容。
 この 3 例を合わせて考えると、「なも」は「何も」というよりは「いや (否)」とイコールであると考えたほうがいい。
 念のために標準語訳してみる。
「どうもこの間はご迷惑をおかけして」「いやいや」
「今の社会構造ではどうしようもないね」「いやいや」
「おや、歩いてきたの? 車で来るんじゃなかったっけ?」「いや、車がパンクしちゃって」
 こんな具合だ。

 勿論、「なもさねがった (何もしなかった)」という形で「何も」と同等の使い方もある。別の見方をすれば、名詞と間投詞の2つの単語に分化したと考えることができるかもしれない。国語辞典風に書けば、
なも [1] <名詞> 何も。「わざわざ買い物さ行ったども、なも買わねがった (わざわざ買い物に行ったが、何も買わなかった)」 [2] <間投詞> 否定の意味を示す。いや。「秋田って遠いんですよねぇ」「なも、今だば新幹線ですぐだ (いや、今は新幹線ですぐだ)」
 という感じか。

なも」の応用例で「なもかもね」というのがある。
 語形自体は「なにもかも」だと思われる。
 で、それが「ね」、つまり「ない」とはどういうことだろう。
 単純に「何もない」ということではない。「すべてが灰燼に帰した」とかそんな大げさなことでもない。
なに、この童だば、遊びに行きてくなもかもねあんだ
(なぁに、この子は、遊びに行きたくてどうしようもないんだよ)
 と使う。
「どうしようもない」「〜がしたくて我慢できない」という意味である。
 普段から使っている立場では、「なにもかもがない」から「我慢できない」への変化はわりと自然だが、ネイティブじゃない人からみたらどうなのだろう。ちょっと飛躍が感じられるかもしれない。

 あ、「なも」だけで随分と使ってしまった。
 自立語シリーズは次回へと続く。


注:
『講談社学術文庫 国語辞典 (初版)』(
)


音声サンプル(.WAV)

なんとこの前だば迷惑かげでしまって(26KB)
なもなも(12KB)
なに、歩って来たなが。車で来るあんでねがった(25KB)
なもや。車、パンクしてや(29KB)
なに、この童だば、遊びに行きてくなもかもねあんだ(37KB)


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