「
あい」。
返事の間投詞ではない。サルの種類でもない。
「あい! 何、そんたどごでいたずらしてだ!」
(あ! 何、そんなとこでいたずらしているんだ!)
まぁ、驚いたときに発する言葉である。「
わい」「
わいは」とも言う。「
*あいは」とは言わない。発音としては、短く、強い。驚いているんだから当たり前だが。
この例文では子供を叱っているような感じだが、「こら」とは違う。咎める意味はない。
「あい、よぐそんたごどするな」
(うわぁ、よくそんなことするねぇ)
前の例とは発音が全く違う。「
あい~」という風に長く伸ばすこともある。のばすのは「い」の方で、「あ」はあまり伸ばさない。伸ばすこともあるが、「い」の方が長い。
低いほうで発音する。この場合は「
わい」「
わいは」とは交換できない。
こっちは、例文でも分かる通り、嫌悪感を覚える場合、呆れている場合などに使う。
いずれにしろ、「
あい」は不快感を表明するときに使う言葉である。意味によって発音が変わる、ということだ。というより、意味に発音が引きずられる、というべきか。
ついでに発音の話をすれば、「い」は標準語の「い」と「え」の中間くらいの音である。
「
あい」に「さ」がつくと意味が大きく変わる。
「何と、大変だ仕事だな」
(なんとまぁ、大変な仕事だなぁ)
「あいさ」
これは「そうなんですよ(わかってくれましたか)」ということだ。そんな言葉があるのかどうか知らないが、同意に対する同意とでも言おうか。いいとこ時代劇くらいで、あんまり現代では使われないと思うが、「おうよ」「おうさ」あたりが近いのではないだろうか。
「
あいや」「
あや」とも言うが、ややこしいのは「
あい」だけ、というケースもある、ということだ。
であるから、どういうつもりで相手が「
あい」と言っているのかは、文脈とか表情とかで判断してもらうほかはない。
「
あえさ」という名前の酒があるのだが、これは「
あいさ」と同じ単語。ニュアンスはご理解いただけるものと思う。意味を広げて「あたぼうよ」まで持っていけばもっとわかりやすいかもしれない。
「
したがら」も似たような意味を持っている。
これについては
前に触れたこともある。
「あの男、そんた奴だど思わねがったな」
(あの男がそんな奴だとは思わなかったなぁ)
「したがら」
となる。話の内容としては、楽しいことではない場合がほとんどであろう。
「がら」は理由を示す「~(だ)から」の訛ったものだと思う。では「した」って何だ。何を「した」って言うのだろう。不明だ。
もうひとつ、出どころの不明な感動詞。
「
さい」
知らない人はどんなに考えても分からないと思う。
これ、「しまった!」という意味である。
「さい! 切符、家さ忘いだ!」
という風に使う。
もうちょっと穏やかで、「あらあら」程度の場合、「
さいさい」とも言う。
これまでにも、変化の過程や出自の分からない単語は沢山あった。
しかし、この分野には特にそういう単語が多い。「
したがら」「
さい」については既に言った通りだし、「
なも」だって何故「いや」という意味になったのか分からない。「あい」に至っては正体不明と言っていい。
ただ、間投詞自体は、「あっ!」や "Oh!" を考えてもらえば分かる通り、形には意味がないと思ったほうがよい。「
あい」「
さい」はその系列にある単語のような気がする。「
あい」は「はい」の系列かもしれない。
「所で」が、単独で使えば話題の転換、「何度やったところで無駄だ」のように、前後に述部をくっつければ条件の提示、というように、接続詞の周辺には複雑な事情がからまっている。同じようなことが「
したがら」に言えるのではあるまいか。